石滅相馬は勇者であり…   作:磯山ゲル

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久しぶりの投稿です。

すみません。
バレンタイン編書いてる途中でパソコンがプチューンしてデータがすべて飛んでしまいました。

YMD電気に修理に出して、時間がかかりましたが復活したので投稿しました。
呼んでくださっている皆々様ほんと申し訳ありませんでした。


楽しく読んでいただけると幸いです。ではどうぞ


特訓

————6月12日―—―

 

「来てあげたわよ。」

 

三好夏凜は勇者部部室に来ていた。

 

「…誰もいないの?」

 

夏凜はスマホで時間を確認した。

時刻は9時45分。集合時間は10時である。

 

「…早すぎたかしら?」

 

私はしばらく椅子に座って待つことにした。

そして10時になったが誰も来ない。

 

「だらしない…」

 

私はあの四人が遅れていると思って少し待つことにした。

2回しか来ていないけれど、誰もいない勇者部部室はとても静かで本当に勇者部部室なのかと思ってしまう。

 

そしてコツコツと廊下を歩く音がした。

 

「やっと来たのね…。」

 

時刻は10時20分。

 

「ん?部室は扉閉めて帰ったはずなんだけどな?」

 

聞こえてきたのは男の声。

 

「誰かいるのか?」

 

そう言ってきたのは異例の男の勇者である石滅相馬だった。

 

「あっ!あんた今日午前中で休むって言ってなかった!?」

 

私はいつも通りの口調でそう聞く。

足音が聞こえ始めてからロッカーに寄りかかっていた身を起こし椅子に座りなおしていた。

 

「三好か、ここには忘れ物を取りに来たんだ。」

 

「それに他の奴らはどうしたのよ!時間も守れないなんて勇者失格だわ!」

 

私は寂しさを紛らわすため、気取られないために矢継ぎ早に石滅にそう問いを投げる。

 

「ん?…ああ。三好、もらった今日の予定のプリントを確認してみろ。」

 

石滅は一度首を傾げて何かに納得したように私にそう言うと、私の横を通り過ぎ棚を漁り始めた。

 

「何よ…。プリント?」

 

私はポケットにしまっていたプリントを取り出し、見る。

そこには現地集合と書かれていた。

 

「しまった。私が間違えた…。」

 

これは完全に私に落ち度がある。そう思っていると探し物を終えた石滅が私のことを見ていた。

 

「何よ。」

 

「いやなに、自分に非があったことを認められるんだなと思ってな。」

 

「取り繕ってもしょうがないじゃない。」

 

「そうか…。世の中には自分の失敗を認められないやつも大勢いるのにすごいな三好は。」

 

「なっ!こ、このくらいトーゼンよ!」

 

そういったところで私の携帯に電話がかかってきた。

 

「わっ!この番号結城友奈!?ど、どうしようっ。わっ!え!っと…。」

 

つい焦って私は電話を切ってしまった。

微笑まし気に石滅がこちらを見ている。

 

 

 

 

——————

 

 

 

「…なによ。」

 

三好が恥ずかしそうに顔を赤くした。

 

「反応が可愛かったからついな。…で、この後はどうするんだ?もしかけ直しずらいなら俺が電話しようか?」

 

俺がそう言ったら三好の顔がさらに赤くなる。「なっ!」「えっ!」とか言いながら焦っていたがしばらくすると落ち着きを取り戻した。

 

「いいわよ…。別に部活なんてはなから行きたかったわけじゃないし。」

 

「そうか。で、この後お前はどうするんだ?」

 

「帰ってトレーニングするわ。神樹様に選ばれた勇者なんだから」

 

彼女はそう言った。

彼女はきっと頑張り屋なんだろう、そして根は優しい。今の判断は勇者として戦うためのものだろう。そこに三好夏凜の日常は含まれていない。張りつめていた彼女のようになり、いつか壊れてしまいそうな気はするが勇者部にいればきっとそうはならないだろう。

 

「なあ三好。」

 

「何?」

 

「特訓するなら俺としないか?」

 

そう思ったからこんな事を言ったのだろうと思う。

 

「アンタ用事があるって!」

 

「まあ、いいじゃないか。一人で特訓するよりも得るものはあると思うぞ?」

 

「いい加減ね。…まぁいいわ。」

 

そして俺は三好が特訓しているという砂浜に来ていた。

 

「三好はいつもここで剣の特訓をしてるのか?」

 

「そうだけど」

 

「ふむ…。足場の悪い砂浜で特訓とはなかなかいいじゃないか。校庭のような整えられた地面やコンクリートの上での特訓よりかは効率もいいしな。」

 

「よくわかってるじゃない!それで?一緒にトレーニングするって言ってたけど何をするのよ。」

 

三好が両手に木刀を持つ。

 

「まぁ、最初はそうだな…。三好がいつもやってるようにやってくれないか?俺はそれを見ていよう。」

 

「はぁ!?アンタが一緒に特訓するって言ったんじゃない!」

 

「まぁ落ち着けよ。その後にちゃんと相手してやるから。三好がどんな風に特訓してるのかが気になっただけだ。だから見せてくれ。」

 

俺は真剣な目で三好に頼む。三好が大赦で試験を突破し勇者になったことは聞いた。殆どの勇者はなるべくして神樹に選ばれていたためこういった勇者は珍しい。だから少し気になったのだ。

 

「まぁいいわ。」

 

三好は砂浜に立ち剣舞を始めた。流れるような太刀筋、二刀流でここまでできるのは三好の努力があってこそだろうと彼女の剣舞を見ながら思った。

ただ、何か雑念が入っているのか少しばかり粗が目立つ。

 

(今まで勇者部のような人種と会ったことがないからか?)

 

——————————————————

 

 

 

私は今いつものようにトレーニングをしている。

でも、いつもと違うことが二つあった。

 

(いつもみたいに振れてない!)

 

そのことに少しばかり苛立つ。

一つは勇者部のこと。

自分が間違えたのに今私はここにいること、電話をかけてくれたのに切ってしまった、そのことに後悔している。

一つは石滅相馬。

用事があるとか言って断っていたくせにここにいること。自分はただ見ているだけということ。

 

(私はあいつらとは違う!私は勇者なんだから普通じゃなくていいの!そんなこと考えなくても…)

 

「三好!」

 

座ってみていただけの石滅が私の目の前にいて両手で私の木刀をつかんでいた。

 

「お前今心此処にあらずだったぞ。何を考えていた?」

 

そう問いかけてきた。私は木刀を引き抜こうとするがピクリとも動かない。

 

「別に…何でもないわよ。放してくれる?」

 

私がそういうと彼は素直に木刀を手放した。そして肩にかけていたタオルを私に投げる。

 

「それで汗を拭け。雑念が入ってると特訓にも身が入らなくなるからな。少し休憩したら俺が相手をしてやる。雑念まみれの三好じゃ俺には勝てないだろうがな。」

 

「んな!私の方が強いに決まってるじゃない!さあ始めるわよ、得物取りなさい!」

 

「だから休憩してからと…」

 

「私はね、完成型勇者なの!あのぐらい準備運動よ!」

 

正直イライラしていた。私が勝てない?こんな奴に?そんなの許されるわけないじゃないと。

彼はしょうがないと呟き私の予備の木刀を右手に持って歩いてきた。

 

「三好の好きなタイミングで来ていいぞ。」

 

木刀を右手に持ったまま半身を下げ切っ先を私の喉に向けるように構えてそう言った。

 

(強い…)

 

私は別の勇者候補との対人戦闘の訓練もしてきた。だから彼が構えただけで勇者候補の誰よりも勝っていることを知ることができた。

…ただ、知ることができただけで体と頭は熱くなっていて冷静な判断などできていなかった。

 

私は手数で攻めていた。

けれども攻めきれていない。彼は木刀で私の剣を軽々とすべて受け流していた。

 

「はぁ…はぁ…」

 

「攻めが甘いぞ三好。熱くなることは悪いことではないがしっかりと視て立ち回れ。雑念を入れるな、今はただ敵である俺だけを見ろ。」

 

そう言って私に始める前と変わらない位置に切っ先を向ける。

 

「うっさい…わね。」

 

私は息を切らしながらそう答える。

 

「はぁ…」

 

彼がため息をついたと思ったらいつの間にか目の前にいて…

 

「一度頭を冷やせ馬鹿者。」

 

一振りで私の木刀二本とも弾き飛ばされた。

私の後方で砂浜に刺さる音がする。

 

「そんなんじゃ完成型勇者には程遠いぞ。さぁ木刀を拾って息を整え気持ちを切り替えてから来い。」

 

頭をこつんとたたかれる。

それで私は少しばかり焦っていたのだと知った。

 

(私、何してたんだろ…)

 

走って木刀を取りに行った。

 

(認めるわ。石滅相馬、あんたは強い。それに私も熱くなりすぎていたわね…、でも)

 

木刀を取り彼の前に立ち息を整える。

 

「私は完成型勇者!三好夏凜!あんたに一太刀も与えられないやわな勇者じゃないってところ、見せてやるわ!」

 

自分に活を入れるために宣言する。

 

「よし、いい咆哮だ。なら存分に見せてみろ。」

 

彼は口角を少しばかり上げた。

私は踏み込む。

 

「余計なお世話…よ!」

 

左右から挟み込むように木刀をふるう。

 

「んな!」

 

瞬間彼が消え私の視界が上を向こうとしていた。

私は体を大きく沿わせ、バク転を何度かして後方へと下がる。

そして正面を見る。

 

…が砂浜には誰もいない。

後ろを振り向こうとすると首にこつんと木刀が触れる。

 

「これで終わりにするとしようか。」

 

声がかかる。

彼は恐らく私の左右からの攻撃をしゃがんで避け、足払いで転ばそうとした。私がバク転で後方に下がった時にはもう後方に回っていたのだろう。

 

(完全に負けたわね。)

 

「そうね、残念だけどアンタには敵わないみたい。完敗だわ…。」

 

そう言って、私は振り向く。

 

「いやなに、中々に踏み込みもよかったし体制を立て直すのも早かった。それにまだ反撃の気配もあったから俺も攻撃に転じただけであってあのまま続いていたらわからなかったぞ。」

 

「それでも封じてられちゃったじゃない。」

 

「まぁ、俺にそう動かせたのだから誇っていいぞ三好。」

 

彼はそういいながら荷物の方へと歩いていく。

 

「夏凜…」

 

「ん?」

 

私の言葉に反応して彼が振り向く。

 

「私のこと名前で呼ぶことを許すわ!別に他意はないわよ!」

 

彼を指さし告げる。

 

「わかったよ夏凜、ほら」

 

彼はそういってタオルを投げてくる。

私はそれで汗を拭いた。

 

「それで…、その…」

 

「なんだ?言うだけならタダだし言ってみろ。」

 

私が何かを言いよどんでいることを気にしてそう言った。

 

「今後もこうして稽古をしてくれないかしら…?」

 

彼は一瞬、止まる。けれども答えはすぐに帰ってきた。

 

「良いぞ。ただし勇者部の活動優先でな。俺も夏凜も部員なわけだし。」

 

「それでいいわ。それと…」

 

「まだあるのか?」

 

「石滅のこと…師匠って呼んでもいいかしら!」

 

こんなことを頼むのは恥ずかしかったが思い切って頼むことにした。

これもすぐに答えが返ってくる。

 

「駄目だ。」

 

「え…、なんで…。」

 

「悪いがその呼び方は好きじゃない。まぁ、相馬呼びはいいから師匠呼びだけは勘弁してくれ。」

 

彼は少しばかり寂しそうに微笑んだ…気がした。

 

「…わかったわ。じゃあ相馬って呼ぶことにするわね。」

 

「そうしてくれると助かる。それよりも日が落ち始めてきたな。そろそろ帰るか。」

 

「そうね。…その、今日はありがとう。」

 

私がお礼を言うと彼は驚いていた。

 

「どうしたんだ急に。」

 

「私勇者になって少し焦ってたのかもしれない。勇者部の連中は頼りない連中ばっかから。でも相馬と特訓して少しあいつらのことも知ってみようって思えたの。」

 

「そうか。まぁ俺も新参だが、勇者部はいい連中ばかりだ。安心しろ。」

 

彼は荷物を持つ。私も荷物を持つ。

 

「それじゃあね…相馬。」

 

気恥ずかしいけれども、彼に向って手を振った。

 

また後でな(・・・・・)、夏凜。」

 

彼は歩きながら後ろにいる私に対して手を挙げて歩いて行った。

 

「また後で?」

 

彼の返しを疑問に思ったが、その言葉の意味はすぐに知ることとなった。

 




いかがでしたでしょうか?磯山ゲルです。

誕生会に届かなかった…。
バレンタイン編は凍結し、本編を進めることとしました。
かなりキャラ崩壊だったかもしれませんが許してください。

感想とか頂けると嬉しいです。

これからもどうぞよろしくお願いします。

それではアデュー!

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