我慢   作:吉川 司雲

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能力は、適したことに使われるべきなのだろうか。何事にも手際と根気というのは大事なもので、彼にとって最も難しい事でもあった。


第二話

 受験は合格していた。隣にいた母は父にラインをしていたようで、おめでとうだって。と母を介して祝われた。校門を過ぎてすぐの木々には、桜のつぼみがあった。ドット絵のようで、視界は濁っていた。

 母は家に帰って夕飯の支度をしたいそうだった。私は学校に戻って、合格した旨を伝えた。私に勉強を教えてくれた彼は、そうか、よくやったな。と私を褒めてくれた。教室には報告しに来た数名が、狭い部屋をにぎわせていた。私、受かったよ。へえー、よかったね、おめでとう。ありがとう。美紀は、どうだった。私も受かったよ。おめでとう、おめでとう。称賛が飛び交い、私の足音はかき消される。唯一話せるクラスメイトの女の子だった美紀は、皆から好かれていた。私を見つけて驚いていた。あ、東野君。私の名前を呼ぶ声は、ちょっと低めの――。鼓膜を刺激する。おれも受かったよ。創芸。おめでとう。あ、うん、ありがとう。

 

 しばらくして、彼女とその友達は帰っていった。私も用はなかったので、帰った。

 

 テーブルに財布があったから、きっと買い物から帰ってきて間もない。ただいま。......おかえり、帰ってたの。母は冷蔵庫の扉から、覗くように私を見ていた。今ね。ちょっと昼寝する。あら、そう。

 私は自分の部屋に戻って、普段着に着替えると暫くスマホを眺めて、気が付くと父の声がリビングから僅かに聞こえた。

 乾いていたから飲み物が欲しく、リビングへ出た。父は私の顔を見て、ほめてくれた。笑顔でもなかったが、眉は吊り上がっていた。私が寝てから一時間もしない間に晃は帰ってきていたらしく、玄関には全員の靴があった。

 

 いただきます。ちょっとまて。父が止めた。私は早く目の前の手巻き寿司を食べたかったのだが、彼は――。乾杯。乾杯。母と父はビールが注がれたグラスを手にして打ち鳴らしあった。晃はお茶なら麦茶ばかりを飲む。私のグラスには緑茶が入っていた。四人前の刺身がなくなり、食卓に五本の缶が並ぶ頃には満腹だった。

 

 

 卒業式を経て、しばらく暇だった。毎度のように、私は秋葉原へ散歩した。

 こうも暇とは思わなかった。毎日スマホでゲームするほど飽きにくい性分でもなかったし、遊べるゲームはポケモンか艦これくらいなものだが、一日中ずっと同じことをするのは耐えがたかった。昼間に母は数時間のパートに出かけるし、晃は部活で春休みだろうと忙しいようだった。もちろん父は会社へ行くし、平日の昼間は静寂に保たれた。

 気の赴くままに――。思考させない快楽に委ねる。一週間は楽しい休みだったが、あとは溶けた氷のように入学式を待つだけだった。

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