第3話です!
特異災害対策機動部2課。その秘密施設の一室にて、2課指令 風鳴 弦十郎はコーヒーを飲みながらとある考え事をしていた。その内容は彼が保護という名目で引き取った少女 高嶺 陽日のことだ。
彼女がこの2課へやってきて早一週間が経過しようとしていた。この場の雰囲気にもようやく慣れたのか、来たときよりも若干笑顔が増えた気がする。皆と打ち解けていくのは弦十郎としても好ましいことなのだが、ただ一人、今も陽日を避けている人物がいる。
その人物とは弦十郎の姪っ子である風鳴 翼という少女であった。悩ましげに息を吐きコーヒーを煽る。どうしたものか、たまらずそんな呟きが漏れ出た。
翼という少女は本来、他人を避けたり無下に扱ったりするような性格をしていない。しかし現在の翼は、陽日が仲良くなろうと接した途端、表情に影を落とし立ち去ってしまう。
この一週間、その光景を何度目撃したことか。翼が去る度 陽日がしょんぼりとするので、彼女を保護した身としては一刻も早く二人の仲を近づけたい……のだが。
「やはり気にしているのか、翼」
翼が陽日を避ける理由。それは彼女に対する罪悪感からきているものだと弦十郎は考えた。
詳しいことは省略するが彼女、翼にはノイズに対抗できる力がある。だがまだ幼い翼を戦場に立たせるわけにもいかず、日々訓練だけを欠かさず行わせていた。
戦う力があるのに戦えない。救える人がいるのに、黙って見過ごさなければならない。それは幼い翼にとっては辛いものだった。
そんな翼の前に現れた陽日。ノイズによって父を失い天涯孤独となった少女。初めて彼女に話しかけられたとき、翼のつもりに積もった罪悪感が静かに爆発した。
顔を直視することも、返事を返すこともできず、ただ黙ってその場を去ることしかできない。そんな自らの対応に対してさらに罪悪感がつもるといった、まさに負のスパイラルの状態に陥っていた。
「気にするな、とは簡単には言えないか……」
力を持つものと持たぬもの。持たぬ自分に翼の気持ちは到底推し量れるものではない。下手な気休めは逆効果にすらなりうる。
「それに陽日くんのこともあるしな」
そう言い、机の上に置いてあるファイルから一枚の写真を取り出す。それは先日、陽日が撮ったMRI検査の結果でそこには未だ奇妙な白いモヤが写っている。
そしてその他にもう一つ
「この触手みたいなものはいったい……」
MRIの検査写真に写っていたのは、白いモヤから伸びる触手状の何か。しかもこの触手、了子の話では彼女の神経組織と一体化しつつあるというではないか。
未だに解析不可能な謎の異物。ノイズに対抗しうるもう一つの切り札、そう成り得るかもしれない何か。しかし対照的に、陽日の体に何かしら影響を与える可能性を秘めている爆弾。
謎の異物に視線を集中させつつ、現在新たな学び舎へと通う陽日を心配する弦十郎であった。
私立リディアン音楽院初等科。町の中央部に建てられたその学び舎に今、高嶺 陽日の姿はあった。
初等科の制服に身を包み一人廊下に立つ彼女の顔は緊張に染まっている。扉の向こう、そこから聞こえてくるのは一人の女性の声と、それに反応する幼い少女達の声。
「は〜い、それじゃあ新しいお友達を紹介しま〜す。入ってきていいわよ〜」
間延びした声が入室を促す。バクバクと早鐘を打つ心臓を必死で落ち着かせながら、震える手を扉の取っ手へ伸ばす。
スライド式の扉を開け、足早に先生の立つ教卓の隣へと向かう陽日。そんな彼女の軌跡を追うように、クラス全員の視線が動く。
「彼女が今日から皆と一緒に過ごすお友達で〜す。高嶺さん、自己紹介よろしくね?」
「は、はいっ」
やってきた瞬間に、無意識に背筋が伸びる。眼前には30に届くであろう生徒の視線が全て自身に注がれている。それだけで陽日の緊張は頂点にまで達した。
「た、高嶺 陽日です! と、突然の転入ですがよろしくお願いしみゃしゅ!」
やってしまった。最後の最後でセリフを噛んでしまう陽日。しかも「みゃしゅ」である、なんだ「みゃしゅ」って。
羞恥からその磁器のように白い肌が赤く染まる。ぷるぷると体が小刻みに震え、もはやこうして前に立っているのもやっとの状態だろう。
「あらあら〜、可愛らしい自己紹介ね〜」
フォローか、はたまたトドメを刺すためか。どちらにせよ、教師の一言で陽日の精神は完全に限界へと達した。
「はぅぅ……」
両手で顔を隠し俯く陽日。彼女のこの一連の行動に
──可愛い……!
今、クラス中の心が一つとなった。もうそこからは状況一変。静かだったクラスが轟々たる活気に満ち溢れる。
それらは主に陽日へ対する質問なのだが、いかんせん勢いが凄まじい。投げかけられる質問の数、そして迫力に戸惑いつつ、陽日の新たな学校での生活が始まるのであった。
時は過ぎ、正午。
クラスの面々が各々持参した弁当を鞄から出しながら、仲の良い友達と机で輪を作り昼食を食べ始める。そんな中、陽日は与えられた窓側の真ん中の席にて一人、鞄から弁当を取り出し机に置く。ちなみにこれは特異災害対策機動部の一員である、
蓋を開けると唐揚げに卵焼きなど、定番かつ子供に人気のある具材が並んでいた。わざわざ弁当を作ってくれたことに申し訳なさを感じつつ、しかししっかりと感謝をして具材へ箸を伸ばす。
「ねぇ、高嶺さん!」
「は、はいっ」
すると突然、背後から名前を呼ばれびくりと肩を跳ねさせる。ゆっくりと振り返ると、そこには暗い栗色の髪を短いツインテールでまとめた少女が笑顔を浮かべて立っていた。
何事だろう、やや不安げな視線を送る陽日の眼前へ、少女は弁当の包みを突き出すと
「お昼、一緒に食べよっ!」
浮かべていた笑顔をさらに深め、明るい声でそう言ってきた。
「あたし
「た、高嶺 陽日です。よろしくお願いします、弓美さん」
「もう、さん付けなんかしなくていいよ〜」
「あ、はい。それじゃあ……弓美、でいいですか?」
少女、弓美に抱いた印象は『快活』であった。よく笑い、よく喋る、一緒にいると自然、こちらも笑顔を浮かべている。自然体を引き出すのがうまい人物だ。
話しているうちに陽日も笑顔を浮かべ、気を良くした弓美がさらに話の勢いを加速させる。気づけば昼休みも残りわずかとなっており、弓美は名残惜しそうに話を切り上げる。
「ねぇねぇ、陽日ってアニメ見る?」
「アニメ? いや、そんなに見たことはないかな」
「だったらさ、今度ウチに遊びに来てよ! 面白いアニメ紹介してあげるから!」
そう言い陽日の手を取る弓美。断る理由も特にないので頷くと、「絶対に絶対だからね!」とブンブンと握った手を上下に振り嬉しさを表現する。
そして昼休み終了のチャイムが鳴り、弓美は自身の席へと戻っていく。同じクラスだというのに別れ際に手を振る彼女を見て、手を振り返しながら微笑みを浮かべる陽日。
初めての授業も終わり、各々が教室を後にし帰宅を始める。友達と帰るもの、習い事へ行くものなど様々で、陽日は鞄を手に取ると教室の入り口へと足を向ける。
多くの生徒が行き交う校門を通り過ぎバス停へと向かう。2課はリディアン学院高等科が建っている、海が臨める高台にある。なのでここまで来るのにバスを利用しているのだ。
バス停を目指し歩いている途中、ふと、陽日は何かを感じ取る。それは虫の知らせのような何かで、だが行かなければならない、いや行くべきだと告げている。
(なんだろう、嫌な予感がする。胸が、ざわざわする……)
バスならまた次のでいけばいい。そう考え、陽日は胸騒ぎのする方へと向けて走り出した。
「なんで、なんでよ⁉︎」
人気のない、いやなくなった街道を涙を流しながら走る弓美。
学校が終わり見たいアニメが始まるからと、急いで学校を出て家路に着いたのだが、いつもと違う雰囲気の帰り道に疑問を抱く。その直後、現れたのは特異災害──ノイズ。
そこでやっと、弓美は違和感の原因に気がついた。いつと違い人気がなかったのは、ノイズに襲われたからだと。
必死に逃げる弓美。後ろからはカエル型や人型のノイズの群れが追いかけてきている。
「ひっ……!」
追いつかれれば死ぬ。その事実だけが、弓美を限界以上に走らせる。
だがそれも長くは続かない。ノイズの中の一匹がからだをドリル状に変形、弓美めがけて特攻を仕掛けた。
幸いにもすぐ近くの地面に逸れ大事には至らなかったが、衝撃で吹き飛ばされた弓美は地面をバウンド。そしてそのままぐったりとしたまま動かなくなった。
そんな彼女を取り囲むようにノイズの群れが輪を描く。ジリジリと、恐怖を与えるかのようにゆっくりと近づいてくる。
(あたし、死んじゃうんだ……。ノイズに、殺されちゃうんだ……)
頭を強打し朦朧とする意識の中、走馬灯のように記憶が流れる。中でも一番鮮明に蘇るのが、つい昼休みにした陽日との約束。
(ごめん陽日……アニメ、一緒に見れないや……)
少しづつ遠ざかっていく意識。
(こんな時アニメだったら、ヒーローが来てくれるんだろうなぁ……)
叶わぬと知りながら、最後の最後に願ったのはヒーローの存在。画面の向こうにいて、憧れを抱いた『電光刑事バン』のような完全無欠のヒーローを。
「うわぁぁあああああ!」
突如、聞き覚えのある少女の声が聞こえてきた。同時に掠れゆく視界の端で煤が散る。
「弓美、しっかり!」
なぜ自分の名前を知っているのかという疑問は浮かんでこない。ただ一つ、弓美が思った事は
「きて、くれたんだ……ひー、ろー……」
その言葉を最後に意識が完全にブラックアウトする。
時は少し巻き戻る。
虫の知らせに従い、嫌な予感のする方へと向かって走る陽日。数分ほど走ったところでだろうか、街の雰囲気が変わるのを感じとる。
「人が、いない……」
人の影どころか気配すら感じさせない街の雰囲気。立ち止まりキョロキョロと辺りを見回していると
「きゃぁああああ!」
少し向こうから聞こえて来る少女の叫び声。聞き覚えのあるその声は
「弓美っ⁉︎」
おそらく、聞き間違いでなければ、今の声は弓美のもののはず。叫び声が聞こえてきた方へダッシュする陽日。
角を曲がり、陽日の目の前に現れたのはノイズの群れ。思わず、ビルの壁に姿を隠してしまう。そしてそっと、隠れてノイズ達の様子を伺い、その中心にいる人物に目を見開かせる。
(弓美!)
ノイズの中心に倒れこむ弓美。ピクリとも動かないところを見るに、おそらく気絶をしているのだろう。
(助けなきゃ!)
初めての友人と言える少女のピンチを救おうと、陽日はその場から駆け出そうと足に力をこめる。だが、意志とは裏腹に足はすくんで動かず、小刻みに震えていた。
陽日の中にあるノイズへ対する恐怖心。遺跡での一件が蘇り、彼女の体の自由を奪う。
(なんで、なんで……!)
友人のピンチなのに、そうわかっているのに動かない体。また見殺しにするのか、父を犠牲にした時のように自分だけ生き延びるのかと、そう自分を叱咤するも結果は変わらない。
震えを止めようとなんども足へ拳をぶつけるが、震えは一向に収まらない。そうしている間にも、ノイズは徐々に弓美へと近づいていく。
──……けて
不意に、聞こえて来る声。
──たす、けて
それが彼女の発する心の声だと、
──たすけて、ヒーローッ!
そう気付くのに時間はかからなかった。
「──っ!」
足が動く。まるで今までの硬直が嘘だったかのように。
ビルの影から飛び出し、ノイズ達を見据える陽日。すると弓美を囲む内の何匹かが存在に気付き、標的を陽日へと変更し向かってくる。
退きそうになる足を必死に抑え、迫り来るノイズを正面から睨み返す。
『人を、守って欲しい』
思い出すのは、自分を助けてくれた異形の言葉。
もし、もしも、あの言葉が本当なら。受け継いだ力が本物だというなら──
(私が、今度は私が──守るんだ!)
直後、腹部に何かが浮かび上がる感覚が。視線を下げると、そこには赤い宝石が埋め込まれたベルトが出現していた。
それはあの時、異形が身につけていたものと同じもの。意を決し、陽日その場から駆け出す。
「うわぁああああああ!」
不安を、恐怖を、降りかかる負のイメージを振り払うように叫ぶ。すると再度、ベルトの宝石が発光。宿主の体を戦うための姿へと作り変えていく。
陽日へと飛びかかるノイズ。拳を握りしめ、ただ一心に振り抜く。すると拳がノイズを捉えた直後、ノイズの体は呆気なく炭化し崩壊する。
振り抜いた自身の拳を見る陽日。その腕は白い装甲に包まれており、視線を下に移せば同様に胴体にも同色のアーマーが。
「変わった……」
変化した体に戸惑うも、陽日は慣れない殴打を繰り出しノイズを退ける。そしてそのまま弓美を囲むノイズの集団へと向かって走り、無理やり輪の中へと割って入った。
幸いなことに弓美は無事で、陽日は彼女を守るように立つ。
「弓美、しっかり!」
声をかけると、どうやらうっすらとだが意識はあるようで
「きて、くれたんだ……ひー、ろー……」
そう呟くと同時に、弓美は完全に意識を手放す。
どうやらたいした怪我はしていないらしい、そのことに安堵しつつ陽日はノイズ達へ視線を向ける。ゆっくりと拳を構える陽日。まだ僅かに拳が震えている。
けれど、今はそんなことを気にしている場合じゃない。この場をなんとかしなければ、弓美は間違いなく死んでしまう。
「そんなこと、させない……!」
拳に力をこめる。
戦うのは怖い。けど、今この場で助けられるのは自分だけ。だから、引くわけにはいかない。
彼女の意志に呼応するように、赤い双眸が一瞬 発光する。
少女は今、入口へと至った。
某少年探偵が訪れた場所には事件が起こるように、主人公と絡んだキャラはほぼ確実に事件に巻き込まれる。
ある意味お約束な展開な1話でしたがいかがだったでしょうか?
そして今回はグローイングフォームの登場回!
もしかしたらグローイングの出番が長くなるかも?なので、マイティや他フォームはもう少しお待ちを。
設定は自己解釈やらオリジナル設定やらがたまに出てきますので、質問がある方はお聞きください。
では、次のお話もお楽しみに!