仮面の下に隠したもの   作:ヤムチャしやがって

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第5話です!

今回は結構ノリと勢いで書いたので、合わないと感じる方も多いと思います。
何卒ご容赦を。



2人の距離

 地獄があった。人々の絶叫が、断末魔がこだまする地獄が。

 

「ノイズだぁあああ!」

 

「逃げろ、逃げろぉおおお!」

 

 現れるノイズ。逃げ惑う人々を煤へと変えながら、蹂躙を止めることなく進んでいく。

 追い追われ、捕まっては殺される。一人、また一人と命が散り失われていく。

 

「ママ、パパァ……」

 

 その魔の手は両親からはぐれ泣き惑う少女にすら、一欠片の慈悲もなく振るわれる。街に現れたノイズの一体、それが少女へ照準を合わせ突撃する。

 迫り来るノイズに、恐怖のあまりその場から動けない少女。挙げ句の果てにはその場にへたり込んでしまい、まさに絶体絶命の状況へ。

 飛びかかるノイズ。頭を抱え、目に涙を溜めながら最後の瞬間を待つ少女。

 

「はぁぁああああ!」

 

 突如、闇夜を裂き彼女たちの間へ割って入る白い影が。それはノイズを殴り飛ばしその体を煤へと還すと、頭を抱え泣きじゃくる少女へ歩み寄り、ぽん、と頭に手を置く。

 

「え……?」

 

「大丈夫、大丈夫だから」

 

 呆然と、現れたノイズとは違う異形を見上げる少女。異形はすぐに少女から手を離し、ノイズ達へと向かって走りだす。

 

 

 

 

 

 群がるノイズ。その集団の中心へ身を置く。すると現れた異物である私にノイズの意識は集中し、一斉に襲いかかってきた。

 

「ここからは、私が相手!」

 

 拳を振るい、蹴りを放ち、迫るノイズを撃退する。途中何度か体当たりをくらい怯むこともあったけれど、それでもなんとか全てのノイズを倒しきることができた。

 

 

 

 私、高嶺 陽日がこの力を手に入れて一月の時が流れました。その間ノイズの出現は衰えることなく、むしろより一層その猛威を振るい続けました。

 無論、2課の人達も対応し、風鳴さんもシンフォギアを用いてノイズに対処してきました。ただ戦える人一人に対し現れるノイズの数は多く、手が回らないこともしばしば。

 だから、私が戦場に立つという答えを出すのにそう時間はかかりませんでした。未熟者で半人前以下な私ですが、それでも誰かを守ることはできる……いえ、守らなければならない。それがこの力を受け継いだ私の使命。私が為さなければならないことだから。

 

 しかしノイズと戦う以上、2課の人達との接触は免れません。現にこの一月の間に数度、私は風鳴さんならびに2課の人達と戦場で鉢合わせしました。

 私にはまだ、2課の皆さんへこの姿を明かす覚悟ができていません。なので出会ったらできるだけ早くその場を離れるようにしています。

 身勝手な理由ですが、この得体の知れない力を知られるのは怖いから……。

 

 でもこの一月の間、ノイズと戦い続けることで私に変化が訪れました。それは少し、ほんの少しですが戦えるようになってきたことです。

 まだまだ風鳴さんのように戦うには程遠いですが、それでも一歩、守れる自分へ近づけた気がします。

 

 

 

 出現したノイズを倒しきったところで2課へと帰るわけですが、ここで私の新しいお友達を紹介したいと思います。

 

「来て、ゴウラム」

 

 呟くと、彼方より飛来する一つの影。それを一言で表すのならば巨大なクワガタ。ベルトにある宝石と同じであろうものがはめ込まれたそのクワガタは、私の元まで飛んでくると視線を合わせるように低く滞空する。

 

「いつもいつもごめんね」

 

 私がそう言うと、ゴウラムは数度ハサミを動かし背中を向ける。乗れ、そう言っているようなゴウラムに甘えその背中に乗る。

 そして浮上、私を乗せてゴウラムは2課へ向けて飛行を開始しました。

 

 

 

 

 

 

 

『ノイズの殲滅、完了しました』

 

「そうか、よくやってくれた翼」

 

 モニター越しに事後報告をする翼へ労いの言葉をかける弦十郎。シンフォギア装者として戦い始めて早一月、ノイズとの戦いに慣れてきたのか始めの頃よりも頼もしく思え、また同時に虚しさもこみ上げてくる。

 ノイズの出現率が上昇傾向にある今、彼女の力なくして対処することはできない。しかし人々の平和という重荷、それは彼女一人に背負わせるにはあまりにも重過ぎる。

 仕方のないことだとしても、幼い彼女を戦わせなければならない現実に弦十郎は拳を握り締める。しかし決して表情には出さず、弦十郎は翼へ一つ質問をする。

 

「それで、例の生物は現れたか?」

 

『私の場所からは姿は確認できませんでした。ですが緒川さんによれば、保護した少女が例の生物を見たそうです』

 

「そうか……やはり現れたか」

 

 腕組みし、考えるような仕草を取る。

 翼が戦い始めた頃と時を同じくして現れたノイズと戦う謎の生物。シンフォギアでしか太刀打ちできないはずのノイズをあろうことか拳で砕き、蹴りで蹴散らす姿を見た時は度肝を抜かれたものだ。

 彼の存在が何を思ってノイズと戦っているのかは不明だが、戦力が翼一人であるこちらからしてみれば頼もしい助っ人であることには間違いない。

 

「できることなら、一度話し合いたいんだがな……」

 

 弦十郎は彼の存在とコンタクトを取り、できることなら協力を仰ぎたいと考えていた。しかしノイズを倒しきるとすぐにその場からいなくなるので、協力を仰ぐことはおろかコンタクトを取ることすら出来ずにいる。

 

『しかし意思疎通が取れる相手なのでしょうか』

 

「助けられたと、保護した人の中にそう証言する者もいる。少なくとも、我々人間に対して好意的だと思っていいだろう」

 

 それは事実、保護した人たちから聞いたもの。ノイズに襲われかけた時、どこからか現れては撃退したと。

 きっと話し合うことはできるはず。そして協力を仰ぐことができれば、翼にかかる負担を減らすことも出来る。

 

「とにかくご苦労だった。戻ってゆっくり休むといい。後は俺たちでやっておく」

 

『はい、それでは』

 

 モニターの映像が途切れる。ここからは大人たちの出番だと、そう言わんばかりに袖を捲り上げる弦十郎。

 まだ焦る時ではない。接触できる機会は必ずやってくる、だから今は目の前の人を救うことに専念しようと、弦十郎は現場へ足を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モニターに映る白い装甲を見にまとった異形。ノイズを打ち砕くその姿は見間違えるはずもない、かつて私が幾度となく、時代を超えて対峙してきた存在。

 ギリリ、と歯が軋み血が出るほどの力が入る。

 

「どこまでもどこまでも、貴様は私の邪魔をするというのだな……っ!」

 

 彼の存在は先史文明、いやそれよりも前から存在し、人間を災厄から守り抜いたとされる古代の戦士。炎を、水を、風を、大地を、森羅万象を力とするこの世全てを超越した存在。

 かつての人間は尊崇(そんすう)し、そして畏怖の念を込め、その名を呼んできた。

 

 そう、彼の存在の名は──

 

 

「──クウガ……ッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「失礼しました」

 

 櫻井女史の行うメディカルチェックを終え、2課の廊下を一人歩く。私がシンフォギアをまとい戦場に立ってから早一月の時間が経過した。人々を守る防人(さきもり)として多くのノイズを倒し、また多くの人命を救ってきた。

 本来ならばもっと早く助けられる命があっただろうに、私が不甲斐ないばかりに司令も出動命令を出すことができず、これまで多くの命を見捨ててきた。だからこそ、これ以上は何も失うまいとこの一月ただひたすらにノイズと戦い続けた。

 それでも、過去に見捨ててきた人たちの無念を忘れることなどできなかった。いや、できるはずもなかった。なぜなら──

 

「きゃっ!」

 

「……!」

 

 考え事をしていたせいで廊下の角から出てきた人影に気づかず、互いにぶつかり合ってしまい、よろけた私はその場に尻餅をつく。

 

「いたた……すいません、大丈夫ですか?」

 

「いえ、こちらこそ考え事をしてい…て……」

 

 駆け寄ってきたその誰かに差し出された手、それを掴み顔を上げたところで、私の思考は凍りついたかのように静止した。

 肩まで届いた白金の髪、雪のように白く透き通った肌、そして闇夜のように澄んだ黒い瞳。人形か何かかと見間違うその少女は

 

「風鳴さん……?」

 

 言葉を途切らせた私へ不思議そうな表情を向ける彼女の名は高嶺 陽日。つい一月前にやってきたノイズ襲撃の被害者で、父親を亡くし天涯孤独となったところを弦十郎叔父様に保護された少女だ。

 

「あの、立てますか?」

 

「あ、ああ……すまない」

 

 手を借りて立ち上がる。本来ならばこちらも「大丈夫か」の一言ぐらいかけるべきなのだろうが、今の私にはそれすらも難しかった。

 心臓が鷲掴みにされたようにキュウキュウと痛む。罪悪感、というものなのだろうか。彼女の顔を見るたび胸に痛みが走る。

 

「その、ぶつかってすまなかった……」

 

 一刻も早くこの胸の痛みから解放されるため、短く謝辞を述べ彼女の横を通り過ぎる。

 本当に、我が事ながら情けない……真正面から向き合うことすらできないなんて。

 

 

 

 

 

 

「風鳴さん……」

 

 過ぎ去っていく翼の背中。その小さな背中に確かな悲しみを感じ取った陽日は、ただただ黙って見送ることしかできなかった。

 

(私、やっぱり風鳴さんから避けられてるよね……)

 

 翼から距離を取られている。広くない2課で度々顔をあわせるのだが、今のように一言二言の挨拶を交わすだけですぐにどこかへと行ってしまう。

 挨拶を返してくれるので嫌われている、ということはないのだが……それでもこうも避けられていると嫌でもその理由を知りたくなる。

 

「気になるなぁ……」

 

「何が気になるんだ?」

 

 ポツリと、誰にも言うでなく漏らした独り言。まさかそれに返事が帰って来ようとは思ってもおらず、陽日はびくりと体を跳ねさせる。

 急いで振り返るとそこには暗い色のワイシャツに身を包んだ屈強な男が。

 

「弦十郎さん」

 

「はっはっはっ、驚かせて申し訳ない! なにやら陽日くんが落ち込んでるように見えてな」

 

 どうしたんだ、そう聞いてくる弦十郎へ言うべきかどうか言い迷う陽日。そんな彼女の姿に弦十郎は、ふっ、と口元を柔らげ

 

「まぁそう無理にとは言わないさ。ただ一人じゃ無理だと思ったら迷わず頼ってくれ。ここにいる者は皆 君の味方だ、蔑ろにする奴なんて一人もいない」

 

 もちろん俺もだぞ、と最後に付け加える。去り際に陽日の頭を一度撫でると、どこかへ向けて歩みを進める。

 

「あ、あの!」

 

「うん?」

 

 弦十郎を引き止める陽日。なぜかはわからないが、ここで彼に聞かなければならないと自分の中の何かが告げる。

 それは相手が弦十郎だからなのかはわからない、ただ彼なら自分の思いを全て受け止めてくれると、そう感じた。迷いを打ち明けるのに理由はそれだけで十分だった。

 

「お話、聞いてもらえますか……?」

 

「ああ、もちろんだ」

 

 

 それから近くの部屋へと入り、椅子に座って話しを始めた二人。

 

「なるほど、翼が避ける理由か……」

 

 陽日から一連の話しを聞いた弦十郎は腕組みし考え込む。彼女から聞いた話、それは弦十郎自身も気にかけていたものだった。

 ぼかさず話すべきか否か、もし一歩間違えれば陽日と翼の距離が一層遠のくかもしれない。下しにくい決断に弦十郎が頭を悩ませていると、静かに陽日が口を開く。

 

「私は風鳴さんのことをよく知らないから、風鳴さんが何を抱えているのかわかりません」

 

 ──でも、

 

「私と会う時の風鳴さん、泣いていたんです……」

 

「──っ!」

 

「あ、泣いてると言っても言葉通りの意味じゃなくて! その、なんというか心が泣いているというか……う、うまく表現できないけどそんな感じがして」

 

 必死で伝えようとしているのか、身振り手振りで表現する陽日。確かに言葉足らずではあるが、それでも弦十郎にははっきりと伝わっていた。そして彼女が口にした『心が泣いている』という言葉、それはまさに今の翼を表すものであった。

 

「ありがとう陽日くん。君の思いは十分に伝わった」

 

 ──君なら、話しても大丈夫だろう。君なら翼と正面から向き合ってくれる。

 

「次は俺の番だ。そしてどうか、翼を頼む」

 

 そして語る。翼が心の内に隠したものを。

 

 

 

 

 

 2課のある地下から出て、外のベンチに腰をかける翼。夕焼けで茜色に染まる空を呆然と眺めながら、はぁ、と溜息を吐く。

 その理由は先ほど出会った少女のことを思ってか。

 

「風鳴さん!」

 

「ひゃっ⁉︎」

 

 突如、背後からかけられた声に驚き、可愛らしい悲鳴をあげる。振り返るとそこにはここまで走ってきたのか、肩で息をしている陽日が立っていた。

 

「貴女、どうしてここに……」

 

「風鳴さん!」

 

 翼の問いに答えず、足早にその距離を縮める陽日。どこか迫力のある陽日に数歩後ずさるも、簡単にその距離はゼロとなる。

 そして陽日は徐に翼の両手を掴むと、自身の手で包み込んだ。

 

「え、え……⁉︎ 高嶺、貴女何を⁉︎」

 

「風鳴さん、私と友達になりましょう!」

 

「なっ、友達……?」

 

 突然の友達宣言に目を見開く翼。だがすぐに表情を曇らせ、弱々しく言う。

 

「私には、貴女の友人になる資格が……ない」

 

 悲痛な面持ちで告げる翼の姿を見て、陽日の瞳に悲しみの色が灯る。

 ここに来る前に聞いた弦十郎との会話の内容が頭の中で反芻する。

 

『翼は負い目を感じているんだ。助けられる力があるのに救えなかった命があることに』

 

 それはきっと、彼女が優しいから。だからこそ彼女は、背負いきれないものまで背負ってしまっているのだろう。

 

『君と距離をとるのも、君の父親を救えなかったからだろう』

 

 父親の死も彼女のせいだと思ったことなど一度たりともない。当たり前だ、ノイズは災害、なんの前触れもなく現れる彼らを止めろなんて、そんな芸当は神様でなければできないだろう。

 

『翼はきっと罪の意識から君と向き合うことができない。もし、もしもだ、君が翼のこれまでの言動を許してくれるのだとしたら──』

 

 そこから先は覚えていない。聞く前に部屋を飛び出したから。それに許すも許さないもない、彼女もまたノイズによって戦うことを強いられた被害者。彼女だけが重荷を背負うなんて、そんなの馬鹿げている。

 彼女一人が背負っていなかったのなら、こんなにも悲しそうな顔を浮かべなかったはずだ。こんなにも泣きそうな目をしなかったはずだ。

 

「私は、貴女の父を助けられなかった……。そんな私が友人になど」

 

「〜〜〜っ! この馬鹿!」

 

「なっ、ばっ⁉︎」

 

「私がいつ、父が死んだのは風鳴さんのせいだなんて言いましたか⁉︎ 言ってませんよね一言も!」

 

 目元がつり上がり、声も荒々しくなる陽日。そんな彼女の変わりように翼はただただ呆然とし、言われるがままの状態へ。

 

「父のことを忘れずにいてくれている、それは娘として嬉しいです。でも、父の死まで風鳴さんが背負う必要はないじゃないですか……」

 

「それは……」

 

「失ったものばかり数えて、背負わなくていいものを背負って、それじゃいつか潰れちゃいますよ」

 

 勢いをなくし、だんだんと小さくなるトーン。それに比例するように、陽日の表情もまた悲しみに染まる。

 

「私、嫌ですよ。誰かのために戦っている風鳴さんが潰れるなんて。そんな結末、私は見たくありません」 

 

「だったら、どうしろっていうのよ……。私しか戦える人がいないのよ? なら、亡くなった人たちの無念を晴らせるのも、私一人しかいないじゃない……」

 

 それはたった一人、戦場で孤独に戦う少女が背負った十字架。おそらくそれを分かち合うことができるのは、同じ力を持った者だけ。

 故に少女は一人で背負った、救えなかった人々の無念を。力を持った唯一の人として。

 

 彼女が抱えるものの重さ、それは陽日には計り知れないものだろう。

 

「……風鳴さんの思いはわかりました。なんで私と距離をとろうとするのかも」

 

 きっとそれがある限り、二人の距離は離れ続ける。磁石のように近づく分だけ反発しあう、繋がることなく、永遠に。

 

「でも、私は──」

 

 それでも少女は、

 

 

「だとしても、私は風鳴さんと友達になりたいんです!」

 

 高嶺 陽日は止まらない、止まるわけにはいかない。もしここで近づくことをやめてしまったら、今度こそ風鳴 翼という少女は独りになってしまうから。

 変わらず友達になろうと言ってくる陽日へ、翼は呆れたように呟く。

 

「……ここまで聞いて、まだそれを言うのか」

 

「何度だって何度だって言いますよ! 風鳴さんが頷いてくれるその日まで!」

 

「……はぁ。だったら今の話、ほとんど無駄だったじゃない」

 

 正直に本心を話して馬鹿みたいだ、額に手を当て悩ましげな表情を浮かべる翼。

 

「無駄なんかじゃないですよ。おかげで翼さんの本音が聞けました」

 

 にこり、微笑みを向ける。

 

「それに翼さんの顔、さっきよりも明るくなってます」

 

「えっ?」

 

 思わず頬に手を当てる翼。だがそうしたところで自分の顔のことなどわかるはずもなく、ふにふにとほっぺを揉むだけという結果になる。

 そんな仕草が面白く、くすくす、と声に出して笑ってしまう。

 

「な、何もそこまで笑わなくてもいいじゃない……」

 

「あははっ、ごめんなさい! 可愛かったからつい……ふふっ!」

 

「……高嶺は酷い奴だ」

 

 ムッと頬を膨らませる翼。そんな姿も可愛らしいのだが、それを言うと怒りそうなのでグッとこらえる。

 そしてふと、視線を空に向ければ、そこには月と星々の煌めきが。

 

「もう日も沈んじゃいましたね。私は二課に戻りますけど、翼さんはどうしますか?」

 

「私は……もう少しだけここにいる」

 

「わかりました。それじゃあ先に行ってますね」

 

 そう告げると、陽日はこの場を後にする。リディアンの校舎の中へと姿を消した陽日の背中を見送ると、翼は空に浮かぶ三日月へと視線を移す。

 

「いつの間にか名前で呼ばれていたな」

 

 遠ざけていたはずの距離がいつの間にか縮められていた。それに向き合って話していたはずなのに、不思議と胸に痛みはない。

 それは陽日へ本音を口にしたからだろうか。理由はよくわからないが、たぶんそんな気がする。

 

「私もいつか……」

 

 そこで言葉を途切らせる翼。

 きっとその先は、二人の距離がゼロになったその日に。

 

「さて、私も戻るとするか」

 

 翼もまた、リディアンへと向けて歩みを進める。

 足取りは軽やかに、月明かりが照らす道をゆっくりと。

 

 

 




いかがだったでしょうか?
まだ防人として戦い始めたばかりの翼さん。
そんな彼女のまだ不安定な心を表現したくて書きました。
都合のいい解釈やら何やらを入れているので、こんな翼さんは許せないという方はすいません。

話をサクサク進めるために時間を飛ばすことがありますが、ご理解のほどをいただければと。

感想、アドバイス等お待ちしております!
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