やはりSAOでも俺の青春ラブコメはまちがっている。   作:惣名阿万

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少し遅くなってしまいました。すみません。
12話です。よろしくお願いします。


第十二話:それでも、青髪の騎士は選ばざるを得ない

 十二月四日の午前十時。

 あと三時間でこのSAOが始まって丁度四週間となるこの日この時間に、総勢四十七名の第一層フロアボス討伐部隊はトールバーナの町を出発した。

 

 午前九時三十分に一度あの中央広場へ集合し、ディアベルの演説を聞いた後、レイドメンバー全員で迷宮区に向かう。大人数で一気に移動するとなると余計なmobを引っ掛けそうなもんだが、まあそこは数の暴力で押し切れるだろうということになった。

 

 運の悪いことに、俺たちのパーティーはキバオウ率いるF隊のすぐ後ろを行くことになってしまい、キバオウやその取り巻きから盛大に嫌な顔をされることとなった。なにも仲良くやるつもりはないが、ここまで露骨な態度をされると気になるというか戸惑ってしまう。

 ま、苦笑いしてたのは俺とキリトだけで、女性陣三人は全く眼中にないようだったが。

 

 町を出て迷宮区へ向かう道中は、なんとも賑やかなもんだった。そこかしこで笑い声が上がっていて、敵が出ても余裕がなくなることはない。たまに出てくる獣型mobも迷宮区のコボルト兵に比べれば大したことはなく、先行する他のパーティーがあっという間に蹴散らしてしまう。なので俺たちには微々たる額の獲得コルが表示されるのみだ。

 いやー、楽できていいわー。やっぱ働かなくていいって素晴らしいな。

 

 こうなると必然的にお喋りが増えるわけだが、その中で一つ、キリトが気になることを言っていた。

 

「キバオウがお前の剣を買おうとした?」

 

 緊張感の欠片も見られないパンと、こっちが緊張するくらい剣呑な雰囲気のアスナに前後を挟まれたキリトは、けれど特に気にした様子もなく腕を組んで頷いた。

 

「ああ。わざわざ代理人まで立ててな。それも四万コル出すとかなんとか」

「よ、四万だとっ!?」

 

 おいおい、なんだそのバカみたいな金額は。俺の財布の中身より多いじゃねえか。

 

「驚くだろ? それだけのコルがあれば自力で同じくらいの剣が用意できるのにな」

「いや、そうかもしんねぇけど、お前のそれ、アニールブレードだろ? 強化値いくつ?」

「えっと、+6だけど……」

 

 ひえー、アニールブレードのぷらす6ときたか。そりゃお高いわけだ。

 

 SAOにおける武器の強化には金と素材が必要だ。それも武器ごとに必要な素材は違う上、確実に強化しようとすると数量を上乗せしなくちゃならない。

 ただでさえ面倒な強化作業を六回。それも強化値が増える度に必要な素材の数も金額も上がるから、キリトのように六回も強化しようとするとアホみたいに金と時間がかかる。

 

 しかもキリトの剣はクエスト限定品の《アニールブレード》だ。この剣自体に一万コルほどの価値があるのに加えて強化値が+6ともなりゃ相当な額になるのも頷ける。

 

「……とはいえ、四万は確かにびっくりだな」

「だろ? 四万コルもあればフルプレートに武器を新調してもお釣りがくる。なのに――」

 

 少し声を潜めたキリトがそっとキバオウを指差す。

 

「キバオウの装備は昨日から全く変わってないんだよ。これ、ちょっと変じゃないか?」

「なるほど、確かにそうだな」

 

 キリトの言う通り、キバオウの見た目は昨日の会議のときと変わっていない。迷宮に入ったら装備を変えるって可能性もないではないが、メインの装備以外をとっておく利点がない。あいつが見た目によらず倹約家で貯金してるって線もあるが、装備をケチって余計な危険を招いてちゃ本末転倒だ。

 

 だとすれば、キバオウが持ってるはずの四万コルはどこに消えたのか。

 

「…………自由に使えない……あいつの金じゃない、とか?」

 

 キリトが思い当ったようにそう言った。

 

「借金ってことか? 四万もほいほい貸すやつがいるとは思えないけどな」

「うーん、そうだよな……」

 

 再び考え出すキリト。だが答えは出なかったようで、「まあいいか」と一旦置いておくことにしたようだ。丁度そこで後ろのアスナに話しかけられ、キリトは彼女に並ぶように後ろへ。

 

 一方俺はというと、キバオウの四万コルの出所が気になっていた。

 

 四万コルというのは大金だ。クエストと狩りを併用しても数日で稼げるような金額じゃない。早くて一週間、普通なら十日はかかるだろう。

 それだけの金を使ってまでキリトの剣を買わせたがるのは誰か。

 

 さらに言えば動機も気になるところだ。四万もあればキリトの言うように同程度の性能の剣を自力で用意することも可能だろう。にもかかわらず、わざわざキリトから買うという回りくどい真似をするのには、何か別の理由があるかもしれない。

 

 そうだな。こういうときは考え方を変えてみるか。

 

 順序を変えて考えてみよう。仮にプレイヤーXが資金を提供し、キバオウが首尾よくキリトの剣を買えたとする。

 するとどうだ。キバオウの戦力が上がるのはもちろんのこと、鍛え抜かれた剣を失ったキリトは昨日の今日で同レベルの剣を用意することなどできず、戦闘力は落ちる。この後のボス戦でも活躍の機会は減っていただろう。

 

 ではキリトが貢献するはずだった分の戦果は誰が手にするのか。

 一から十までというわけではないだろうが、当然ながら強力な剣を手にしたキバオウは活躍の機会を増やすだろう。武器が強ければそれだけ与えるダメージも大きくなるのだから。

 

 ……待てよ。キバオウが交渉に来たとはいえ、キバオウ本人が買った剣を使うとは限らないんじゃないか。大金を預けて交渉させるんだ。寧ろ金を出したXがキリトの剣を使うと考える方が自然だな。だとすれば、キバオウはただのお使い要員ってことになる。

 

 キバオウとXのどちらがキリトの剣を使うのかはわからんが、結果としてキリトの貢献度は下がり、キバオウないしXの貢献度は上がる。

 キリトの剣を買うことによって、ボス戦での貢献度を高めることができるのだ。

 

 ここでXとなりえるプレイヤーの条件を考えてみよう。

 

 第一にXは当然ながらここにいる四十七人の内の誰かだ。キリトの戦果を奪うのが目的なら、本人がこの場にいなくては意味がない。

 

 第二にXはキリトを活躍させまいとする者であること。つまりキリトの強さを知っていながら、キリトには活躍して欲しくない者だ。

 

 第三はキバオウとの繋がりだ。やつを代理人につけ、四万コルもの大金を預けられるとなれば、キバオウと親密でなければならない。面倒を頼めて、かつ金を盗まれないと思える人物じゃないとダメだからな。

 

 三つの条件に当てはまるプレイヤーは誰かと考える。そして――。

 

「…………もしかして」

 

 あいつかもしれないと思い至る。

 もし、俺の考えているやつが第二の条件を満たすのなら――。

 

「ハチくん……?」

 

 と、ユキノに呼びかけられて我に返る。

 気が付けば森の行軍も終わりに差し掛かり、木々の向こうに迷宮区の塔が見えていた。

 

「どうかした? いつになく目が腐っていたけれど」

「腐らないってパターンはないんですかそうですか。……なんでもねえよ」

 

 ユキノにそう答えて、前を往く集団を見る。

 そこにいるだろうプレイヤーXは、目論見が外れてどうするのか……。

 

 午前十一時。攻略レイドは揃って迷宮区の入り口に到着した。

 

 

 

 

 

 × × ×

 

 

 

 

 

 迷宮区の二十階までを一時間半で踏破した俺たちは、ついにボスの部屋の前まで来た。

 バカでかい両開きの扉を見て思わずため息が漏れる。どうにかここまでは無傷に近い状態で来られたが、この先で待ち構えてるボス相手に果たして勝つことができるのか。

 

 できれば一人の犠牲もなく勝利するのが望ましい。第一層から犠牲者を出してたんじゃ、その先のボス戦への士気に影響してくるからな。そういう意味じゃ、このボス戦はこの先の攻略を占う大一番ってことになる。

 

 ざっと周囲を取り巻くレイドメンバーを見渡してみる。どの顔にも一様に緊張が浮かんでいる。それもそうだ。この先にいるのはこれまで戦ってきたモンスターとは一線を画す強敵なはずなのだから。

 

 キリトは少し離れた場所で、アスナへ取り巻きコボルトの対処法をレクチャーしている。キリトの顔にも確かに緊張の色はあるが必要以上に気負っている様子はない。

 アスナの方も昨日一昨日と変わらず、淡々とキリトの説明に頷いている。表情こそ見えないが、声を聞く限り緊張すらほとんどしていないようだ。

 多分年下だろう二人だが、頼もしいもんだな。

 

 パンは相変わらずマイペースで、ユキノにべったり絡んでは嫌がられて拗ねている。こいつの緊張感の無さは天然なのか計算なのかわからんが、お陰でユキノの過度な緊張は解れたようだ。

 そしてそのユキノは真剣な表情で集中力を高めていたところにパンのちょっかいが入ってもみくちゃにされていた。意識し過ぎて逆効果になりかかってたのに気付いたんだろう。一応はパンを押し退けてはいるが、苦笑いなあたり中途半端な感は否めない。

 

 ――と、そこでふと自分が笑っていることに気が付いた。

 

 え、なんだこれ、なんで笑って……。

 確かにキリトとアスナはいいコンビになりそうだなーとか、パンとじゃれあうユキノが陽乃さんといるときのあいつに似てるなーとか、そんなことを考えはしたが、顔に出るほどじゃなかったはずだぞ。

 

「なにを悶えているの?」

 

 言われて見ると、ユキノや他三名がうわぁ、とでもいう表情で見てきていた。

 

「や、違うぞ。なんでもない」

「なんでもないのなら、そんなに気持ち悪くないはずよ、ニヤけ谷くん」

「ばっちり見てんじゃねえか……」

 

 恥ずかしいっ。ハチマン、もうお婿に行けないっ。

 

 ユキノが勝ち誇るような笑みを浮かべた丁度そのとき、大扉の前に立ったディアベルが剣を抜いた。彼はそのまま剣を掲げるように持ち、左手を扉の中心へ当てる。

 そして――。

 

「行くぞ!」

 

 短くそう言って、扉を思いきり押し開けた。

 内側へ向かって開く扉の間を、ディアベルと続くレイドメンバーが駆け入る。

 

「俺たちも行こうぜ」

「…………先に行くわ」

「ハッチ! レッツゴー!」

 

 キリト、アスナ、パンの三人が、三者三葉の言葉と共に駆け出す。

 一拍遅れてユキノが続きかけ、すぐに振り返った。

 

「何をしているの。あなたも行くのよ」

「へいへい」

 

 さて、んじゃ、お仕事といきますか。

 四十二人と三人、そしてユキノの後について、ボス部屋へと駆け出した。

 

 無駄に広いな、とボス部屋に入って最初に抱いた感想がそれだった。

 なんせ幅二十メートル、長さは百メートルほどありそうな長方形の空間だ。天井までも十メートルは優にあり、塔の中にこれだけの空間があるとは驚きだ。

 

 ボス部屋は当初薄暗かったが、しばらくすると壁の松明に灯が点き始めた。入口側から順に奥まで明るくなっていき、最後の松明が灯ったところでボスの姿が浮かび上がる。

 

 ずんぐりとした赤い巨体に犬に似た頭部。頭と腰は金属製の防具に覆われ、手にはこれまた大きな骨斧と円形の盾を持ち、腰の後ろに剣らしきものを差している。

 玉座に座っていたそいつは立ち上がり、こちらを一瞥すると高々と跳躍――十メートル近く距離を詰め、そこで牙の生えた口を開いた。

 

「グルルラアアァァ!」

 

 ボスが雄たけびを上げると同時に、ボスの頭上に四段のHPバーが表示される。そしてバーの上にはボスの名前――《イルファング・ザ・コボルトロード》が浮かび上がった。

 

「攻撃開始!」

 

 ディアベルの掛け声で、タンク部隊がボスへ向かって駆けていく。

 同時に、壁の天井付近にある穴から取り巻きの親衛隊《ルインコボルト・センチネル》が飛び降りてくる。全部で三体現れたコボルトはボスへ向かうタンク部隊に向かって駆けだした。

 

「ワイらが相手や!」

 

 気合とともにキバオウ率いるF隊が親衛隊の前に滑り込み、タンク部隊の進行をアシストする。続いてレイドリーダーのディアベルと残りの対ボス部隊が走り抜け、センチネルを無視してボスへと向かう。

 

 はみ出し者の俺たちH隊の仕事は、F隊と同じく取り巻きコボルトの殲滅だ。与えられた仕事はちゃんとやらないとな。

 

 先行するキリトらに続いて、コボルトの一体に向かった。

 

 

 

 

 

 × × ×

 

 

 

 

 

 戦闘開始から二十分。ボス攻略は不気味なほど順調に進んでいた。

 

 ディアベルはアタッカー部隊二つ、タンク部隊二つ、サポート部隊二つの計六パーティーを巧みに指揮して、ボスに着実にダメージを与えていった。ボスの攻撃を受けるタンク部隊もHPに余裕のあるうちに交代させ、ここまで誰もHPが黄色に染まったやつはいない。

 対照的にボスのHPバーはすでにその二段を消失させ、三段目も現在半分を下回ったところだ。問題の最後の一本を迎えるまでもう少しといったところか。

 

 取り巻き相手のF隊と俺たちH隊に至っては交代で休憩する余裕があるほどだった。

 なんせ同時に三体しか湧いてこないコボルトに二部隊を当てているのだ。キリトはアスナと二人でF隊パーティーよりも早く仕留めるペースだし、パンは一対一でコボルトを翻弄し、ユキノはそのパンが作った隙を突いて強烈な一撃を入れている。

 俺? 俺はほら、逃げ足だけが取り柄の敏捷性特化型だから。敵の間を駆け回りながらチクチク攻撃して、ターゲットを自分に集めるのが仕事なわけですよ。

 

 そんなこんなで、ボスのHPバーの三段目が半分を下回ったばかりのこのときにはもう取り巻きのセンチネルを全滅させ、俺たちは小休止がてら対ボス部隊を眺めていた。

 

 戦況は圧倒的に優勢だ。こちらには余裕があり、あちらは攻めあぐねている。

 この分なら、仮に攻略本の情報と違うことがあったとしてもそれほど危険はないだろう。ディアベルの指揮は冷静・確実で、レイドメンバーの士気は依然として高い。

 

 一つ気になることがあるとすれば、俺たち取り巻き相手の二部隊を放置している点だが、まあ無理して対ボス部隊に組み込んで流れを乱す必要もないか。

 

「……ま、けどこれじゃあ、LAは取れそうにないな」

 

 三週間ほど前に狼型のフィールドボスを倒したときのことを思い出す。

 あのときキリトの助けもあってボスを仕留めた俺は、LA――《ラストアタックボーナス》なるものを手に入れた。黒灰色のインナーで敏捷性にボーナスの付くレアアイテムだったそれには現在進行形でお世話になっている。

 

 アルゴから聞いた話によるとラストアタックボーナスというのは、フィールドボスやフロアボスなんかのボスモンスターに止めを刺すと必ず手に入るもので、総じてレアなアイテムや装備になるらしい。ボスモンスターの再出現がないSAOではかなり貴重なもので、ベータテストのときはラストアタックの取り合いになったのだとか。

 

 まあ今回は取り巻き相手のお仕事だし、ボスのレアアイテムは対ボス部隊の誰かが手に入れることになるんだろう。残念無念。

 

 なんてことを考えているときだった。

 

「――まさに狙うとったんやろが!」

 

 キバオウの噛みつくような声が聞こえてきた。

 

「なんだ……?」

 

 見てみると、キバオウがキリトを睨みつけていた。ただの喧嘩にしてはえらく剣呑な雰囲気で、ただの喧嘩だとしたらお前らTPOを弁えろよと言ってやりたい。

 

「わいは知っとんのや。ちゃーんと聞かされとんのやで……あんたが昔、汚い立ち回りでボスのLAを取りまくっとったことをな!」

「な…………」

 

 あん? なんだキバオウのやつ、汚い立ち回りだのなんだの、何のことだ?

 

 だが問われたキリトの方は何かしら思い当たることがあったのか愕然とした表情を浮かべ、わずかに視線を足元へ落した。拳をぎゅっと握り、再度顔を上げてキバオウを見据える。

 

「…………キバオウ。あんたにその話をした奴は、どうやってベータテスト時代の情報を入手したんだ」

「決まっとるやろ。えろう大金積んで、《鼠》からベータ時代のネタを買ったっちゅうとったわ。攻略部隊に紛れ込むハイエナを割り出すためにな」

 

 《鼠》……? アルゴがキリトの情報を売っただと? いやありえないだろ。

 

 確かにアルゴという情報屋は売れる情報は何でも売る主義だ。プライバシーを著しく侵害するような情報でない限り、パーソナルデータでさ取引に使われることもあるらしい。

 だがあいつはベータテスターの情報を売ることはない。少なくとも俺の知る限りでは、ベータ時代の情報は攻略に役立つもの以外は徹底して守秘してきた。初めてあいつに会ったときに知ったアルゴとキリトがベータ出身だという話も、その後で口外しないことを誓わされたぐらいだ。

 

 キバオウの言う《鼠》から情報を買ったという話は伝聞によるもののようだ。ならばそれをキバオウに言ったプレイヤー、キバオウにキリトが元ベータテスターだと教え、キリトがラストアタック狙いのハイエナだと吹き込んだプレイヤーは、アルゴから情報を買ったのではなく、元々それを知っていたのだと考えられる。

 だとすれば、そのプレイヤーは恐らく、元ベータテスターだ。

 

 そうか。これで全て繋がった。

 

 キバオウにキリトのことを教えたプレイヤー。

 そして迷宮区に入る前に思い至ったプレイヤーX。

 

 このボス戦に参加していて、キリトのことを知っていて、キバオウと繋がりのある者。

 その人物は――。

 

「ウグルゥオオオオオオ――――!」

 

 そのとき、コボルト王がひときわ大きな雄叫びを上げた。見ると奴のHPの三本目のバーが消滅し、最後の一本に突入していた。

 雄叫びを合図に、壁の穴から最後の親衛隊が這い出てくる。キバオウは下りてきたセンチネルを一瞥すると、身体を仲間のF隊へ向けながら憎々しげに吐き捨てていった。

 

「……雑魚コボ、ジブンらにくれたるわ。あんじょうLA取りや」

 

 あ、くそっ。あいつ俺たちに親衛隊押し付けていきやがった。

 

 キバオウを追いかけようにも奴を含めたF隊はすでに対ボス部隊の方へ合流しに走っているし、三体のセンチネルは揃ってこちらへ迫っている。

 

「ハチくん!」

「だーくそ、とりあえずこいつらを先に片付けるぞ!」

 

 ユキノにそう答え、キリトに視線を飛ばし、首肯が返ってくるのを見て駆け出す。

 キバオウを追おうにもこいつらを本隊へ近付けさせるわけにはいかない。ならとっとと片付けて俺たちもあっちに合流すればいい。

 

「悪ぃが遊んでる暇ねえんだよ!」

 

 誰より早くコボルトに接近した俺は、三体の間をすり抜けながら槍を突き入れていく。ソードスキルは使わず通常攻撃で。ただ奴らの狙いを俺に向けさせるためだからな。

 

 三体のコボルトの視線がこっちに向いた。すると当然、他の方向への注意が疎かになる。その隙だらけの喉元へユキノ、アスナの細剣が突き込まれ、最後の一体はがら空きの胴をキリトに打ち込まれて転倒する。

 あとは転んだコボルトをパンが、残り二体をそれぞれキリト・アスナ、俺・ユキノの二人ずつで攻め立て、ほんの二分足らずで三体のセンチネルは消滅した。

 

 ルインコボルト・センチネルを倒し、改めて対ボス部隊の方へ眼を向けると、ボスはすでに武器を別のものに取り換えていた。

 ボロ布の巻かれた柄、鈍色の磨き抜かれた刀身、薄暗い中でもギラリと光るその刃は一目で業物とわかる。ボスの持つその武器は僅かな反りが特徴の――。

 

「あ……ああ…………!」

 

 瞬間、キリトが悲鳴のような声を漏らした。

 

「だ……だめだ、下がれ! 全力で後ろに跳べ――――!」

 

 だがキリトの叫びが前衛のプレイヤーたちに届く前に、コボルト王は動き始めた。

 

 一瞬屈んだかと思った巨体が床を蹴り、垂直に跳び上がる。空中で身体を捻り、蓄積された力を着地と同時に開放した。深紅に染まった刀身から竜巻のような衝撃が放たれ、周囲にいた六人のプレイヤーを弾き飛ばした。

 

 あれは……知らない。現状知られてる曲刀スキルのどれにも当てはまらない。

 それどころか、あんな技は攻略本にすら全く載っていなかった。

 

 だがイルファングの攻撃はこれで終わりではなかった。

 

「追撃が……」

 

 回転斬りの硬直が解けるや否や、再びソードスキルを発動させた刃を地面すれすれから斬り上げ、正面に倒れた青髪の騎士を撥ね上げた。

 ディアベルは空中でどうにか態勢を立て直そうともがき、ソードスキルの発動モーションを取ろうと試みる。

 

 だが――。

 

「ウグルオッ!」

 

 再度刀身を赤く輝かせたコボルト王が、剣を掲げる騎士の正面から斬りかかった。目にも止まらぬ上、下の斬撃の後、一瞬遅れて突きが入る。

 その強烈な音と激しい光は、三連撃の全てがクリティカルヒットだったことの証だ。

 

 猛烈な攻撃により吹き飛ばされたディアベルは、離れた位置にいる俺たちの前に落下した。

 

 

 

 そして――。

 

 

 

 《ソードアート・オンライン》始まって以来初のレイドリーダー、ディアベルは、青白いポリゴンの欠片となって四散した。

 

 

 

 




次回更新は一週間以内で頑張ります。
年末年始時間が取れればいけるかも……?
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