やはりSAOでも俺の青春ラブコメはまちがっている。 作:惣名阿万
13話です。今後も更新を続けていきますので、本年もどうぞよろしくお願いします。
このボス戦が始まる前から、ずっと気になっていたことがある。
キリトの剣を買おうとしたプレイヤーXの、その動機だ。
もちろん、強力な武器が欲しいという理由もあるだろう。だがそれだけならキリトの剣に固執する必要はない。レアな剣とはいえ
にもかかわらず、Xはキリトの剣を求めた。最終的に四万コルもの大金を提示しているあたり、キリトの剣でなければダメな理由があったはずだ。それはおそらくキリトの戦力を削ぐためで、キリトがボス戦で活躍できないように意図したのだろう。
ではキリトの戦力を削ぐことでXにどんな利益が生まれるのか。それだけがずっとわからなかった。だからXが誰なのか推測はできても、推定することはできなかったのだ。
けれどボスのHPが最後の一段に突入して、いざボスの前に立っている人物が誰か見えたとき、俺はXの正体を断定するに至った。
《ディアベル》――ボス攻略部隊のリーダーで、剣と盾を装備したプレイヤーだ。
リーダーシップがあり、我の強い攻略集団をまとめ上げた男。爽やかな口調で分け隔てなく話すその姿は、どことなく葉山に似ている。
この青髪の騎士はさながらRPGの勇者のようにボスの正面に立ち、自らの手でこの戦いに終止符を打たんと剣を構えていた。
そんなディアベルの姿を見て、そしてキバオウがキリトに投げかけた言葉を聞いて、ようやく俺はこの騎士の狙いを察することができた。
ディアベルの目的は、ボスの
そうとわかれば、このボス戦での指揮にも納得がいく。
まず、ディアベルは自身を含むC隊をアタッカー部隊の片翼に据えた。これによりディアベル自身いつでもボスに攻撃できる位置に立つことができ、間近で交代のタイミングを指示することができる。
さらにキリトのいる俺たちH隊を親衛隊の掃討に充て、ボスから遠ざけた。キリトがボスへ攻撃できないようにするためだろう。あるいはキバオウが俺たちに取り巻きを押し付けていったのも、事前に指示を受けていたからかもしれない。
おそらく、ディアベルとキバオウは最初の会議の前から通じていたんだろう。
キバオウが広場で元ベータテスターを糾弾したとき、ディアベルの対応はあまりに落ち着いていた。ともすれば攻略レイドの雰囲気を悪化させかねない発言にもかかわらず、だ。
事前にああなることを知ってなければ、あそこまで静観してはいられないだろう。喧嘩腰なキバオウをフォローしてもいたし、何よりあいつのセリフは用意してきたかのように尤もらしかった。
あるいはこの発言自体が見返りだったのかもしれない。ディアベルの代理として剣の買い取り交渉を行う代わりに、キバオウは公の場で持論を叫ぶ機会を得た。どうやってキバオウの信頼を得たか正確にはわからないが、ある程度予想することはできる。
キバオウがキリトに何やら喚いていたとき、キバオウは『キリトがLA狙いの元ベータテスターだと聞かされた』と言っていた。情報源はアルゴだと聞いたらしいが、アルゴのスタンスを考えるとこれは十中八九、嘘だ。とすればそいつは最初からキリトを知っている者、つまり元ベータテスターということになる。
元ベータテスターの情報は、元ベータテスターを敵視しているキバオウを釣るのに十分なものだったんだろう。だからそいつは知っていた情報を教えてキバオウの信頼を勝ち取り協力を取り付けた。情報源をアルゴと偽ったのは、馬鹿正直に話せばキバオウに敵視されるのは自分になるからだ。
だからそいつ――ディアベルは、ベータテストのときに見聞きしたキリトのプレイングをキバオウへ流し、今度はキリトにLAを取られないよう各種工作を行ったのだ。
キリトの戦力を奪い、それがダメでもボスから離すことでキリトの活躍を防ぎ、自身はリーダーという立場を使って絶好のポジションを確保し、確実にLAを獲りにいく。
それが元ベータテスターでありながらそれを隠し、すべてのプレイヤーの先頭に立って攻略を目指したディアベルの目的だった。
そうしてようやくディアベルの思惑にたどり着いたとき――。
すべては、手遅れだった。
新たに湧いて出た三体のコボルトを倒し、今度こそボスへと駆け出そうと振り向く。
ちょうど武器を持ち換えたボスに、ディアベルを中心としたC隊が対峙している。片手剣やメイスといった取り回し易い武器で揃えたアタッカー部隊だ。
彼らは長い交換モーションの間にボスを取り囲むように並んでいた。後は縦斬りを連発するらしいボスを、正面のやつは防御し、その他のやつがソードスキルを叩き込むことで倒せるはずだ。
攻略本の情報通り、曲刀カテゴリの《タルワール》を使っていたなら。
ボロ布の巻かれた柄、鈍色の磨き抜かれた刀身、薄暗い中でもギラリと光るその刃は一目で業物とわかる。ボスの持つその武器は僅かな反りが特徴の――。
《タルワール》ではなく、《太刀》だった。
無残に切り刻まれ吹き飛ばされたディアベルは、駆け出す前の俺たちの近くに落下した。慌てて駆け寄ったキリトがポーチを探って回復薬を取り出すも、ディアベルは受け取ることを拒み、一言何かをキリトへ告げるとガラスが割れるように砕け散った。
勇者となるはずだった騎士は、驚くほどあっけなく犠牲者の一人に加わってしまった。
ボス部屋にいた全員がその光景を目にし、驚愕と恐怖に息をのんだ。
あのディアベルが、ここまで完璧にレイドを指揮しボスを追い込んだリーダーが、何もできずあっという間に倒されてしまったのだ。同じパーティーメンバーや取り巻きはもちろん、ボスに対峙していた七つのパーティーのプレイヤーは軒並み竦んで固まってしまった。
だが当然、ボスは待ってくれない。攻撃の手が止まっているのをいいことに、周囲のプレイヤーへ無差別な攻撃を繰り出し始める。すぐにでも手を打たなくては更なる犠牲者が出るだろう。
選択肢は二つ。このまま戦うか、逃げるかだ。
正直、逃げるのがベターだとは思う。ボスの武器がタルワールじゃなく、刀のような未知の武器な時点でかなり分が悪い。さっきディアベルが受けた連撃もそう簡単に対処できるようなものには見えなかった。情報がない以上、対策の立てようがないのだ。
だがこのまま逃げたら状況がさらに悪化する可能性もある。一か月近くかかってようやく編成されたボス攻略レイドだ。リーダーを失った挙句に敗走したとなれば士気は大きく落ちるし、下手をすれば今後攻略レイドに人が集まらなくなるかもしれない。そうなれば攻略は事実上不可能となり、結果このSAOは本当に牢獄となってしまうだろう。
戦うか、逃げるか。どちらにもリスクがあり、リターンがある。
払うべきリスクと、それに対するリターンを考慮し、推測し、計算して……。
決めたのはより合理的な選択――戦闘続行だ。
「ハチ」
暴れるボスの方へ足を踏み出そうとしたタイミングで、ちょうどキリトが立ち上がった。その顔には強い決意みたいなものが浮かんでいる。ディアベルの最期の一言が何だったのかはわからないが、少なくともキリトを糾弾する類のもんじゃなかったらしい。
「ボスの攻撃、なんか対処法とか知ってるか?」
「ああ。あいつの攻撃は俺が弾くよ」
「……そ、そうか。んじゃ、ガードは任せる」
マジか。こいつボスの攻撃も弾けちゃうのか。元ベータテスターのキリトならボスの使う刀っぽい武器も見たことあるかもとは思ったが……。
「わたしも行く。パーティーメンバーだから」
スッと、未だフードに顔を隠したアスナがキリトの隣に立った。表情は窺えないが、この年下だろう少女もかなり肝の据わったやつらしい。頼もしいことで。
「Final battleだよ。ハッチ」
アスナの向こうにはパンが並んだ。革籠手の拳を握るその表情は、無邪気な笑み。ほんと、こいつはいつでもどこでも自然体だな。
「私も行くわ」
最後にユキノが俺の隣へ。鋭い眼差しは真っ直ぐボスの方へ向けられている。
「ユキノ……」
「あなたに何と言われようと、私も戦うわ。今度こそね」
……な、何のことデスカネー。ハチマン、ワカラナイナー。
おっかなく睨んでくるもんだから思わず目を逸らしちゃったじゃねえか。やっぱりアレだな。こいつの睨みには刺突属性の攻撃判定がついてるんだな。
「…………」
まったく、なんなんだろうな。
これまでいつだって一人で切り抜けてきたのに、最近じゃこうして周りに誰かがいるのが、誰かの力をあてにするのが当たり前になりつつある。
それは以前なら由比ヶ浜や戸塚や材木座らなんだろうし、最近じゃキリトやアルゴにパンも加わりつつある。おまけにユキノとはこの一か月ずっと行動を共にしてきた。
悪くない、とは思う。
そうだな。こういうのも悪くない。
友達だなんだとワイワイやってる青春エンジョイ勢とはやっぱり違うが、それでも、こうやって誰かがいるってのは悪いもんじゃないな。
「んじゃ、やりますか」
全員が全員、ボスへ視線を向けたまま頷く。
そうして誰からともなく一歩踏み出して――。
暴れまわるコボルト王へ向かって駆けていった。
× × ×
ボスへ向かって走り出した俺は極端に振った敏捷値にものを言わせて先行しつつ、後ろの四人へ聞こえるよう呼びかける。
「正面はキリト、左右にユキノとアスナ、後ろがパンだ。基本は距離を取りつつ、キリトが作った隙に一撃入れて離脱。これで行くぞ」
「ああ!」「了解!」「ええ」「I see」
各々の返答を耳に聞きながら、一足先にボスの前にいる集団へ近づく。
未だにディアベルの死から立ち直れず恐慌するそいつらは、まともに逃げることも応戦することもできずにやられるままとなっていた。一応何人かは離れようと動いているものの、特にボスの周りにいるC隊の面々が危険な状態だ。
とりあえず、手近なやつらを下がらせなきゃならない。前にいるC隊を下がらせようにも、こいつらがいたんじゃ邪魔だ。
ざっと周囲を見渡して、すぐ近くにキバオウを見つけた。ディアベルの消えた方を向いてへたり込んでいる。
ここが町中ならもちろん放っておくが、生憎今はそんな悠長なことを言っていられない。
「おい、いつまでもメソメソといじけてんじゃねえよ」
「……な……なんやと?」
安い挑発だとは思いつつも、キバオウはその安い挑発に乗ってくれた。
「散々威勢のいいこと言ってたくせに、たかだか一人やられたくらいでもうビビってんのか? そんなんじゃあ、追加で湧いて出る雑魚コボに殺されんぞ」
「こ、んの……ディアベルはんのことをたかだか一人やと!」
「キレてる場合かよ。ほら見ろ、やっぱセンチネル湧いたじゃねえか。いいのか? 放っといたらお前のパーティーメンバーも殺されちまうぞ」
「ぐっ……なら、ジブンはどないすんねん」
「ハッ! 決まってんじゃねえか――」
こんだけ煽ればひとまずは動けるだろ。ボスならともかく、センチネルならパーティーであたればそれほど危険じゃないしな。精々雑魚コボ狩っといてくれよ。
「ボスをぶっ飛ばしにいくんだよ」
言い残して、今度こそボスへ向かう。
すでに四人はボスを囲んでいて、ディアベルを除くC隊メンバーもキリトに一喝されてじりじりと後退を始めていた。
一方、ボスのコボルト王は新たな敵の出現に一旦暴れるのを止めていた。グルルと唸って正面に立つキリトを睨み、両手に握った刀を下段に構える。刀が薄赤い光に包まれ、一瞬静止した直後、猛烈な速さで斬り上げられた。
これはさっき、ディアベルが打ち上げられたソードスキルだ。相手を空中に打ち上げ、回避できない状態になったところへ大技の三連撃を見舞うつもりだろう。キリトがこれを喰らえばディアベルの二の舞になってしまう。
惨劇の焼き直しかと思われた。
だが直後、さっきとは明らかに違う光景が目に飛び込んだ。
「せやっ!」
ボスと同じく下段に構えたキリトの剣が緑色に輝き、ほとんど同時に斬り上げられた。左右対称の位置から迫る刃はキリトとボスの間でぶつかり、両者は共に大きく仰け反る。
そこへ――。
「スイッチ!」
このときを待っていたとばかりにアスナの声が響き、目にも止まらぬソードスキルが炸裂する。続けてコボルト王を挟んだ反対側と背中側からも立て続けに強烈な一撃が決まった。確認するまでもなく、ユキノとパンのものだ。
三人は単発技を打ち込むとすぐに後退し、ボスから距離を取った。お陰でボスが立ち直ったときにはもう十分に距離がとれていた。
あのボスの最も危険な攻撃は、C隊がやられたあの回転斬りだ。断然有利な包囲状態を一発で崩されてしまう上に、倒れてしまえば追撃が来る。
あの技を使ってくる条件がわからない今、ともかく距離を取って隙を窺うしかない。距離を取っておけば回転斬りには対処できる。
問題があるとすればこの後だ。
「グルゥ……」
態勢を立て直したコボルト王は、視線をユキノへと向けた。攻撃した三人の中で一番威力があったのだろう。あいつ筋力値もそれなりに上げてるしな。
ユキノを視界に捉えたコボルト王は身体をユキノの方へ向けた。ボスの背中越しにユキノの緊張した表情が見える。
尤も、あいつが攻撃されることはない。なぜなら――。
「どこ見てんだよ!」
ボスの背中へ向かって斜め後ろから《チャージスラスト》を打ち込む。
腰の防具のすぐ上に命中した攻撃は運良くクリティカルだったようで、ボスは大きく唸り声を上げて振り向いた。
そうだ。大人しくこっちだけみてろ。
反撃の薙ぎ払いをバックステップで回避して、すぐに走り出す。ボスの視線が俺を追い、俺が止まると奴の視線も止まった。
「なるほど、そういうことか」
「そういうことだ。ガード頼むぞ、キリト」
「了解!」
直後、俺を狙ったボスのソードスキルが、
ボスの視線が今度はパンに向いたところで、俺の槍がコボルト王の腰を貫く。今度はクリティカルじゃなかったのでおまけにもう一度突き刺すと、またボスの目は俺を捉えた。
駆け出して移動し、再びその場所――キリトの後ろへ。
キリトが弾いて隙を作り、女子三人がHPを削り、俺が攻撃をキリトへ誘導する。これの繰り返し。
所謂、嵌め殺しってやつだ。
汚いやらセコイやら言うやつもいるだろうが、これは言うなれば殺し合いだからな。殺し合いにルールもマナーもないだろ。
どんなにSAOのボスがおっかないとはいえ、所詮はAIが載ってるだけのプログラムだ。策に嵌めて完封することはできるし、システムの決めたルールには逆らえない。SAOの戦闘に《ヘイト値》の概念があるからこうした戦法もとれるというわけだ。
そうやって同じ流れを七回繰り返したころには、もうボスのHPは赤く染まっていた。もう一度か二度叩けばボスも倒れるだろう。
キリトはあの斬り上げを捌くのに慣れたようだし、ユキノもアスナもパンも一撃入れる際によりダメージの通りそうなところを狙う余裕すらある。俺もここまで掠り傷すら受けてないし、このまま油断せず戦えば――。
と、そのとき、計算違いが起きた。
「グゥルルァァ!」
ボスのひときわ大きな唸り声に振り向くと、ちょうどアスナがコボルト王の腰に《リニア―》を打ち込んだところだった。だがそのエフェクトは通常よりもずっと激しいものだ。
幸か不幸か、アスナの放った一撃がクリティカルヒットになったのだ。
三人の中で一番ダメージ量の多かったアスナにボスの視線が向き、それは俺が二連撃技を打ち込んでも奪うことができなかった。
コボルト王が刀を振り上げる。刀身が赤く染まり、距離を取ろうとバックステップするアスナを仄かに照らした。
「っ……!」
「アスナ!」
今にも振り下ろされそうな刃。キリトが叫びながらボスへソードスキルを放とうと構える。が、恐らく間に合わない。
「くそっ……! 間に合え!」
これは俺のミスだ。
クリティカルなぞそう出ないだろうと高を括っていたのもあるし、何よりアスナの技量を甘く見ていた。
アスナがクリティカルを出した瞬間、彼女の剣はボスの腰あたりに命中していた。最初に俺がクリティカルを出したときと同じ場所だ。
もちろん偶然という可能性もあるが、あれを狙って当てたんだとしたらアスナはとんでもない技量の持ち主だということになる。
そんな技量の持ち主なら、ソードスキルの発動時に自力で身体を動かして威力と速度をブーストしていてもおかしくない。となれば、俺の推定していたダメージ量より二、三割高くなっているだろう。その上でクリティカルヒットしたんだとすれば、それはもう俺の攻撃程度じゃ凌駕できず、結果ターゲットを俺に集めることもできない。
ここまでの戦闘でアスナの技量を量るのを怠っていたのが俺のミス。自分の失敗は自分で清算すべきだろう。
なら、俺のやることは一つ。
コボルト王の赤い刃が振り下ろされる。一メートル半程もある刀がアスナに迫り、フードの下で彼女がグッと口を引き結ぶのが見えた。
そこへ――飛び込む。
「ハチくん!」
アスナ諸共倒れ込んだ。背中に直撃したせいでHPがかなりの勢いで減少していく。ほとんどMAXだったHPバーがぐんぐん減っていき、半分を割っても減少は続く。
止まれ、止まれ…………止まった! どうにか二割ほど残った……!
「やれ! 狙うのは腰だ!」
倒れたまま顔だけを向けて叫ぶと、ユキノの剣がボスの腰を捉えた。
三度、クリティカルヒットを示す激しいエフェクト光が瞬く。しかも今度はバランスを崩したボスが倒れ、ジタバタと起き上がれずにもがき始めた。
状態異常の一種《転倒》――。
《麻痺》ほどではないが大きな隙ができる。チャンスだ。
「全員――
キリトの声で、キリトとユキノ、そしてパンの三人がそれまで使わずにいた連撃技を打ち込んでいく。お陰でボスが立ち上がる頃にはHPバーもほとんど空になっていた。
代わりに、起き上がったボスは唸りながら跳躍の姿勢をとった。C隊を総崩れにした、あの回転斬りだ。あれを喰らったら一転して絶体絶命になってしまう。
全員が同じことを考えたんだろう。
起き上がった俺も、硬直しているユキノとパンも、倒れた拍子にフードのとれたアスナも、揃って声を上げていた。
「「「「キリト(くん)!」」」」
「行っ……けえッ!」
他の二人よりわずかに早く硬直が解けたキリトが猛烈な勢いで斬りかかり、今まさに跳ぼうとしていたコボルト王の胸を深々と切り裂いた。
「グゥル……アアァァ……」
ついに悲鳴染みた声を上げたコボルト王は膝をついた。手の刀が鈍い金属音を立てて落ち、脱力したボスが前屈みになって止まる。そして――。
アインクラッド第一層フロアボス《イルファング・ザ・コボルトロード》は、その身を四散させ完全に消滅した。
第一層の攻略が完了した瞬間だった。
ボス部屋内は歓声に包まれ、生き残ったプレイヤーたちがそこかしこで健闘を讃えあう。
キリトとアスナ、パンと、それにユキノも、ホッとしたような笑みを浮かべていた。
だが――。
本当の意味でボス戦が終わったわけではないことを、この後、思い知ることとなった。
次回更新は一週間以内で頑張ります。