やはりSAOでも俺の青春ラブコメはまちがっている。   作:惣名阿万

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お待たせしました。第8話です。久々の戦闘シーンです。
それにしても、このところ書いても書いても話が進まないような……。


第八話:たまにゲームの神様は余計なことをする

 青白く照らされた室内。金属同士のぶつかる音。怒号に似た声が響き、直後には大きな衝撃音が轟く。地鳴りのようなその衝撃が聞こえたときにはもう動き出していて、もう何度目かわからない攻撃を僅かな鎧の隙間めがけて打ち込んだ。

 

 少し遅れて二、三、四撃と続き、視界上方に見えるHPゲージが雀の涙ほど減少する。思わず舌打ちを漏らしてから距離を取ると、首無し騎士がこちらへ剣を向けてきていた。ヒヤリと冷たいものが背中を撫でる。

 

 だがタンクの一人が《威嚇(ハウル)》を放つと、ボスの視線はあっさりそちらへ向かった。作戦通りな上に何度も同じことを繰り返してるんだから、いい加減慣れそうなもんなんだけどなぁ。やっぱ怖ぇよ。ほんと怖い。

 

 《デュラハン・ザ・ブラックナイト》はそのまま幅広の長剣を大上段に構える。右手一本で振りかぶったその剣は本来なら片手で振り回せるような代物じゃない。使ってくるスキルも《片手剣》じゃなく《両手剣》のものだってんだからやっぱずるいよなぁ。

 

「《アバランシュ》だ!」

「ブロック、ツー!」

「よし来た」「任せろ!」

 

 すかさずキリトとユキノの声が飛び、タンク二人がボスのソードスキルをガードした。二人のHPが僅かに減るが、体勢は崩されない。

 一方、ソードスキルを撃った直後のボスは硬直を強いられる。

 

「カウンター、一本!」

 

 生まれたほんの数秒の隙にアタッカー四人の攻撃が集中した。色とりどりのライトエフェクトがボスに吸い込まれる。俺の放った《ツインスラスト》も左側面からボスの脇へ突き刺さり、派手なダメージ光が弾けた。

 

「オラオラこっちだ!」

 

 キリトへ向かいかけたボスの注意を今度はエギルが引き付ける。彼らのお陰で俺みたいな紙装甲のアタッカーが比較的楽に攻撃できるんだから、ほんとタンク様々だな。

 

 ボスは次いで剣を腰だめに構えた。即座にキリトが叫ぶ。

 

「次、《サイクロン》来るぞ!」

前衛(フォワ―ド)は回避、後衛(リザーブ)突進技(チャージアタック)用意」

 

 おっと、全周攻撃か。退避退避っと。

 それにしてもキリトのやつ、構え見ただけでどんなソードスキルが飛んでくるかわかるなんてどんだけやり込んでんだよ。

 

「――今!」

 

 ボスの攻撃がほとんど空振りに終わった直後、ユキノの号令に合わせて後ろで構えてたタンク四人の突進技が炸裂する。

 リーダーがエギルなせいか誰も彼もが重たい両手武器を振るっていて、アタッカーの俺たち以上のダメージだ。

 

 とはいえSTR(筋力)寄りのプレイヤー四人で一斉攻撃しても尚、ボスのHPゲージは僅かしか減少しない。重騎士にしても固すぎだろ。五分攻撃してゲージ一本の二割しか削れないとかどうなってんだよ。

 

 戦闘開始からおよそ2時間半。ローテーションもすでに4巡目に突入している。

 ボスのHPも最後の一段。もうほんの少しで赤色になるだろう。俺たちの番では無理でも次の第4隊、或いは5巡目の第1隊辺りで倒せると思う。

 

 残念だが、このぶんだとLAボーナスを狙うチャンスはなさそうだな。

 

「今度も《アバランシュ》だ!」

「ブロック、ツー!」

「おらぁ!」「来いやぁ!」

 

 唸りと共に振り下ろされた重たい一撃をさっきとは別の二人がガード。その隙に脇から俺やキリト、アスナにユキノが飛び込み、一撃入れてすぐに離脱する。けれどやはり、ゲージはほとんど減りゃしない。

 

「だー、くそっ。ほんっと固ぇなこいつ」

 

 堪らずぼやくと、同じように跳び退ったアスナが一喝してきた。

 

「文句言わない。もうちょっとでしょ」

「そうは言うけどな、こうも同じ攻防ばっかじゃ飽きてくる――っての!」

「せやっ! ――そうならないために散々休んでたんでしょ。シャキッとする!」

「はいはい。わかりましたよ――っと!」

 

 言葉を投げ合いながらも間断なくボスへ槍を突き込んでいく。こんなことができるのも、ボスの攻撃が単調で且つタンク役が奮闘してくれてるからだ。お陰でこっちがもらうダメージも最低限に抑えられてるんだから、あんまり贅沢は言えないな。

 

 なんてことを考えている間に、ボスは次の攻撃態勢を取った。

 切っ先を正面に向けた剣を本来顔がある場所のすぐ横で水平に持ち、デカい盾で身体を隠すように半身に構える。なんかやたら大技っぽい構えだ。

 

 これにもすぐさまキリトが反応した。

 

「《イラプション》だ! 着地時に隙ができる!」

「ブロック、スリー! 前衛は全力攻撃(フルアタック)用意!」

 

 一際大きな声で叫び、ユキノも強気な指示を出す。

 ボスの剣が向いた先でエギルを中心とした三人が防御姿勢を取った。周りではキリト、アスナ、ユキノの三人が各々大技の構えに入っている。

 俺も四連撃技《ヴェント・フォース》を繰り出すべく槍を後ろ手に持つ。

 

 ――ん? 待てよ。

 《イラプション》って確か、斬り下ろしから斬り上げの二段攻撃だったよな。んで、着地の時に隙ができるってことは……。

 

 ふと思いついた策を実行すべく、手首を捻って角度を変えておく。

 

『オオオオォォ!』

 

 その瞬間、ボスが雄叫びと共に飛び出し、ガード姿勢の三人へ剣を振り下ろした。凄まじいまでの衝撃と音が頬を震わせ、思わず目を細める。

 ボスの攻撃はそこで終わらず、首無し騎士は振り下ろした剣を担ぐように振り上げた。堪らずガードの三人がよろめき、二歩、三歩と後退する。重い鎧を纏った騎士はソードスキルの勢いのまま宙に浮かび上がった。

 

 思った通りだ。これならいける。

 

「今――」

「おらっ!」

 

 ユキノの合図を待たずに飛び出し、自由落下する甲冑の足元を狙う。

 

 選んだのは高威力な《ヴェント・フォース》ではなく、高速突進技《ソニックチャージ》。

 出も動きも速い《ソニックチャージ》によって弾丸のように突っ込んだ俺の槍は、上手いことデュラハンの着地前の膝を捉えた。

 

 さて、ここで問題。

 空中にいる人間の足を思いっきり押したらどうなる?

 

 答えはCMの後、なんて言うまでもない。

 

「《転倒(タンブル)》! ナイスだ、ハチ!」

「全力攻撃二本! 後衛も一本!」

「おっしゃあ!」「でかした!」「らぁ、喰らえ!」

 

 着地に失敗して転がったボスへ2パーティー十人の集中攻撃が炸裂する。

 このボス戦始まって以来のタコ殴りだ。これがリアルなら暴れられてこうも上手くはいかないだろうが、SAOじゃ《転倒》はれっきとした状態異常。どう足掻いても十秒ほどは動けない。

 

「さすがに応えたろ」

 

 ようやく起き上がろうと動き出したボスから距離を取る。と、同じように距離を取ったパーティーメンバーが揃って呆れたような声を漏らした。

 

「ハチくんってホント抜け目ないというか性格が悪いというか」

「やっぱそう思うよなぁ。いや、良い手なのは間違いないんだけどさ」

「こういうやり口は妙に手馴れてるのよね。素直に称賛し辛いのだけれど」

 

 いや全部聞こえてるから。なにその微妙な評価。超ファインプレーでしょ。

 頑張っても正当に評価されないのは世の常。これが葉山のようなイケメンなら何でも高評価に繋がるのに、俺みたいなボッチはたまに活躍しても寧ろ苦笑いされるだけだ。やっぱ仕事なんてするもんじゃねぇなと思いましたまる。

 

 ともあれ、さっきの猛攻でボスのHPゲージは一気に減って赤くなった。残り2割を割り込んだってことだ。これならもう次の第4隊で終わるだろう。

 

「上手くダメージも稼げたことだし、そろそろ交代するか?」

 

 騎士様も盾をガンガン床に叩きつけて激おこなようだし。

 

「そうだな。LA取れないのは残念だけど」

 

 相変わらずLAボーナス狙いなキリトはため息まで吐いて残念がっている。これにはアスナも苦笑いを浮かべ、それからユキノの方へ目を向けた。

 ユキノは俺とアスナの視線を受けると小さく頷く。

 

「攻撃中止。前衛は後衛の後ろへ。防御態勢を維持しつつ、後退を開始。第4隊へ合図を送ります」

 

 はい、ということでお仕事終了。

 あとは第4隊の連中――キバオウたち《ALS》にお任せだ。

 

 そそくさと駆けてエギルの後ろへ回り、ちらっと入り口の方を見てみる。

 予想通り、キバオウ率いる第4隊は交代の合図を今か今かと待っているところだった。キバオウに至っては腕を組んで貧乏揺すりまでしてる始末。ありゃ相当焦ってるな。

 

 無理もない。さっきまであいつらがLA狙えるかどうかは微妙なラインだった。それが俺たちの猛攻で一気にボスのHPが削れてチャンスが巡ってきたのだ。ここしばらくLAを取れてなかった《ALS》にとっちゃ嬉しい誤算だろう。

 降って湧いたチャンス。是非ともモノにしたいはずだ。だが他のギルドの連中(特に《DKB》)がいる手前、レイドリーダーのユキノの指示を待たず先走るわけにもいかない。

 

キバオウの心情としちゃこんなとこだろうな。

 

「では第4隊を突入させます」

 

 ボス部屋中央辺りまで後退したところで、ユキノがそう言ってキバオウたちの方へ振り返り、スッと手を上げた。

 

「おっしゃあ! ワイらで決めたるで。全員気張りや!」

 

 待ってましたと言わんばかりにキバオウが叫び、後ろの面々も呼応して鬨の声を上げる。そしてズンズン歩き出して戦闘エリアへ――。

 

 

 

「………………ハッ?」

 

 

 

 入れなかった。

 

 キバオウ率いる第4隊は、色違いの石畳を越えられなかったのだ。

 

 まるで見えない壁があるかのように、彼らは立ち往生してしまった。

 額を打ったらしいキバオウに至ってはリアクション芸人もかくやと仰向けに転んでいた。

 

 けれど誰一人笑う者はいなかった。それどころか、ひっくり返ったキバオウを見ている者もほとんどいなかった。

 誰もが驚愕の表情を浮かべて見えない壁を押したり殴ったり斬りつけたりしている。

 

「おいおい、まさか……」

「まいったな。こんなギミック隠してたのか」

 

 苦笑いのキリトと顔を見合わせる。

 程度の違いはあれ、そこは同じゲーマー。そりゃ思い当たるもんの一つや二つあるわな。

 

 さっきボスが見せた癇癪(かんしゃく)のような行動とそのタイミング。

 現在進行形で何もない空間に体当たりをしてるキバオウら第4隊の面々。

 その辺を繋げて考えれば簡単に予想がつく。

 

「もしかして、さっきのあれ?」

「ったく、味な真似してくれるじゃねえか」

 

 アスナとエギルも察したみたいだな。

 他の連中もため息吐いたり呆れたり笑ったりと、どうやら状況を理解できたらしい。

 

 ついさっきまでは戦闘域と安全地帯の境界だったライン、色違いの石畳は、今や中と外を隔てる進入不可エリアになってしまった。となると、ボスを倒せるのは俺たちだけだ。

 

 当然、危険な状況だ。

 こうなった以上、あの首無し騎士が今まで通りの戦い方をしてくるかはわからないし、とんでもない奥の手を隠してる可能性は十分あるわけだしな。

 

 安全優先で逃げるって手もあるが、けどそれは最終手段だ。

 転移結晶を使えば脱出するのは簡単だが、その後であの進入不可エリアが解除される保証はないからな。最悪の場合、レイド全員が一度ボス部屋から出る羽目になる。

 そうなればもちろんボスのHPは全快し、ここまでの攻略は全て水の泡だ。時間も物資も労力も全部が無駄になる。

 

「そう。そういうこと……」

 

 ユキノがぽつりと呟く。それからフッと小さく息を吐き、顔を上げた。

 

「交代は不可能なものと判断します。第3隊は戦闘を続行。このままボスを倒します」

「わかった」「はい!」「おうっ!」

 

 力強く返事をして、キリト、アスナ、エギルとそのパーティーメンバーらが駆け出す。彼らは一様に笑みを浮かべていて、この予想外の続投にも闘志を燃やしているようだ。

 キリトに関してはLAボーナスを狙えて嬉しいってのもあるか。真っ先に走ってったし。

 

「何をぼさっとしているのかしら。あなたも行くのよ」

「あーはいはい。わかりましたよ」

 

 はぁ。お仕事はもう終わりだと思ったのにな。

 

 ユキノと並んでボスの方へ走り、既に戦闘を再開していたキリトたちに並ぶ。丁度ボスへ一撃入れた後のようで、首無し騎士は右手の剣を振り上げようとしていた。

 

「こっちだぁ!」

 

 エギルが《威嚇》でボスの注意を引く。ボスの首の無い体がエギルを向き、幅広の剣がオレンジ色に輝いた。

 あの構えとソードスキルの色はここまで何度も目にした《アバランシュ》のものだ。

 

「ブロック、ツー!」

「よっしゃあ!」「来いやぁ!」

 

 エギルともう一人が防御態勢を取った。そこへボスの両手剣が叩き込まれる。

 

 派手なエフェクト。強烈な衝撃音。ガードに徹しているにもかかわらず抜けたダメージが二人のHPを1割ほど削る。筋力値の高いタンクがガードしてあれなんだ。俺なんかが喰らったらひとたまりもないな。

 

「カウンター、一本!」

 

 すかさず飛び込む。スキル発動後の硬直を狙ってキリトが、アスナが、ユキノが、そして俺が肉薄する。それぞれの武器を輝かせ、必殺の一撃を打ち込むべく――。

 

「ダメだ! 下がれ!」

 

 瞬間、どこからかそんな叫びが聞こえた。

 誰の声か考える間もなく身体が反応しようとする。だが右手の槍はもう黄色に光っていて、足は全力で地面を蹴っていた。

 

 すでに発動したソードスキルを無理に中断させる。

 SAOの戦闘でやっちゃいけない行動ワースト3に入る悪手だ。

 それをやらかしていた。

 

 ボスへ槍を突き入れる直前ガクッと勢いが止まった。攻撃自体は中断され、なのにスキル後の硬直だけを強いられた身体が致命的な隙を晒す。

 

 やばいと思ったときにはもう目の前にボスの攻撃が迫っていた。

 鈍色の一閃が腹部を直撃し、軽々と吹き飛ばされる。

 

「ガッ……!」

「っ……!」「ハチ!」「ハチくん!」「ハチィ!」

 

 弾き飛ばされ、床を転がり、見えない壁にぶつかって止まった。

 SAOに痛覚がなくて良かった。これがリアルと同じなら、痛みだけで死んでたんじゃないか。まあ痛みの代わりにあちこちがとんでもなく怠いんだが。

 

 顔を上げてボスの方を見てみる。幸い他の面子が抑えてくれたようで追撃はない。

 

「はぁ。さて、HPは……」

 

 げぇ、7割も喰らってるし。こりゃあポーションじゃ間に合わねぇな。

 

 力の抜けた体を無理やり起こし、とりあえず柱に背を預けて座る。腰のポーチからピンク色の結晶を取り出して握る。

 

「だーくそっ、とんだ出費だまったく――《ヒール》」

 

 回復結晶(ヒールクリスタル)は一瞬で砕け、緑色の光が体を包んだ。視界左上のHPバーが赤寸前の黄色から満タンまで一気に回復。ついでに全身の倦怠感がスーッと消える。

 

 まったく。一個3000コルの結晶使わせやがって。何日分の宿代だと思ってんだ。

 

 槍を拾って立ち上がり、ため息と一緒に駆け出して戦列に復帰する。

 

「ハチ、大丈夫か?」

「大丈夫じゃねぇよ。結晶使わされたんだぞ。領収書切ってもらわなきゃ割に合わねぇ」

 

 言いつつ、ボスの横薙ぎをバックステップで避ける。ソードスキルじゃない通常攻撃程度なら避けるのはそう難しくない。

 

「そんでキリト、あれ、どうする?」

 

 問題は今の攻撃に使われたモノだ。

 今ボスがスイングしたのも、さっき俺をぶっ飛ばしたのも、奴の右手の剣じゃない。

 

「まさか盾で攻撃してくるとは思わなかったしな。うーん……」

 

 さすがのキリトもすぐに対応策は出てこないらしい。

 

 正直な話、ただ盾を振り回してくるだけならやりようはある。いくらボスの攻撃とはいえ所詮は盾。防御力なんて紙同然の俺でさえまともに喰らっても耐えられるんだ。タンクなら言わずもがな、キリトやユキノでも防げるだろう。

 

 けど奴の場合はもうちょっと面倒だ。

 

「ブロック、ツー!」

「オウッ!」「任せろ!」

 

 最早見慣れた《アバランシュ》。轟音と共に振り下ろされた剣をタンク二人が受ける。HPは削られるが、倒されるまでにはならない。ここまでは一緒。だが――。

 

「……やっぱりか」

 

 今まで通りソードスキル後の隙を突こうとアスナが接近すると、硬直を強いられてるはずのボスが左手の盾を振り回した。これではアスナも回避を余儀なくされ、その間にボスは剣を構え直してしまう。

 

 この硬直時間を無視した動きこそ一番厄介なとこだ。ここまではボスがソードスキルを使った後の硬直時間を狙うことでリスクを避けて攻撃できていた。

 

 だがこの土壇場になってあの首無し騎士は硬直時間を無視したような動きをし始めた。ソードスキルを使った直後で動けないはずなのに、盾を使って近づくプレイヤーを迎撃しているんだ。何かタネがあるのか、はたまたボスだけの特権なのか。

 

「厄介ね」

「だな。やっぱ一筋縄じゃいかないか」

「スキルの後でも動けるとか反則よ」

「うーん、どうしたものやら……」

 

 反撃できないまま同じ攻防を三回繰り返したところでユキノが眉をひそめた。アスナはご立腹なようで頬を膨らませているし、キリトは腕を組んで考え始める。

 

「俺たちの方はまだ余裕があるからな。焦って特攻なんて真似はするなよ」

「しねーよ。するわけねーだろおっかねぇな」

 

 そんな俺たちの様子を見かねたのか、エギルがやってきてそれぞれに小瓶を投げて寄越した。黄緑色の液体が入ったそれは町売りの回復ポーション。これでも飲んで落ち着きなさいよってことらしい。

 

 特攻云々は冗談として、エギルの言う通り焦る必要はない。

 今のところガードの方は同じ要領で対処できているからな。ボスのソードスキルを防ぐのはもちろん、唐突に振り回される盾は厄介ではあるが、タンクのガードを揺るがすほどのもんじゃないらしい。

 

 だからあとは攻撃だけだ。

 何か、何かないか。あの盾を掻い潜って接近する方法。そもそも盾を振らせない方法。そして確実に攻撃を加える方法が、何か――。

 

「さっきの《転倒》、あれを再現できれば……」

 

 ふと、キリトが思いついたようにそう言った。

 

「確かにそれができたら一方的に攻撃できるけど、どうやって転ばせるの? 都合よく《イラプション》撃ってくるとは限らないわよ?」

「だよなぁ」

 

 アスナのもっともな疑問に、キリトが苦笑いを浮かべる。

 けど待てよ。それならもしかして。

 

「…………いや、案外いけるかもしれないぞ、それ」

 

 呟くと、全員が「説明しろ」と目で言ってくる。っていうか睨んでくる。いや怖ぇよ。

 

「要するにボスをこけさせたいんだろ? なら、そうなるように叩けばいい」

「それが難しいからどうしようかって言ってるんでしょ」

「別に難しくはねぇだろ。相手がデカくない人型のボスならな」

 

 口を尖らせるアスナにはそう返して、ユキノへ目を向ける。

 

「《カタナ》スキルにはアレがあるだろ。そいつでまずボスを浮かせる。一人で足りなきゃエギルも一緒にな」

「……わかったわ」

「俺も了解だ」

 

 ユキノからエギルへ視線を移し、そのままアスナへ。

 

「んで、ボスが浮いたところをアスナが叩いて転ばせる。これで《転倒》取れるだろ。多分」

 

 「多分って……」と呆れ顔を浮かべたアスナからキリトへ目を向ける。

 

「キリトは俺の後に突っ込んで、ユキノとエギルが攻撃する隙を作ってくれ」

「オーケー。それで、ハチはどうするんだ?」

 

 四人の視線が集まる。大した事するつもりはないんですけどね。ええ。

 

「俺? つっかえ棒役」

 

 そのとき四人が浮かべた微妙な表情を、俺は生涯忘れないだろう(嘘)。

 

 

 




というわけで8話でした。
ハァ、必要な文章だけで言いたいことが伝えられるようになりたい。
長々と文字を重ねてしまうのは悪い癖ですね……。

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