やはりSAOでも俺の青春ラブコメはまちがっている。   作:惣名阿万

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またまたやってきました三・連・休!
9,10,11月は祝日が多くてテンション上がりますね。
これを機にちょっとでも話を進めていきたいと思います。

というわけで12話です。
よろしくお願いします。


第十二話:言うまでもなく、彼女の逆鱗はそこにある

「どういうことだ。なんでこの人たちを攻撃しようとした」

 

 まっすぐ剣を突き付けてくるキリト。鋭い眼差しでこちらを睨んでくる。いや怖ぇよ。

 というかこいつ、なんでこんなタイミングで来ちゃいますかね。ジャストタイミングだよ。格好良すぎだろ。ほんと主人公力高いな。

 

 ハァ。それにしても面倒な状況になった。

 せっかくギリギリで外して颯爽と立ち去るつもりだったのに、キリトが弾いてくれちゃったお陰で帰るに帰れない。

 今さら「冗談でしたーテヘペロ」とか言える雰囲気じゃないし、キリトもけっこう怒ってるっぽいからタダでは帰れないだろう。そもそもどうしてキリトはこんなに怒ってるんですかねぇ。

 

「答えろ、ハチ!」

「……うるせぇな。どうだっていいだろ」

 

 キリトに事情を説明することは可能だ。だが黒猫団の前ではできない。

 ケイタやテツオ、ダッカーにササマル。こいつら四人にサチの感じた恐怖の一端を知らしめるのはもう十分だろう。最後こそキリトに弾かれはしたが、格上の相手に攻撃される怖さはわかったはずだ。

 

 けど今ここで理由を話してしまえば、サチは黒猫団に居場所を失うかもしれない。

 俺の行動が演技で、それがサチの相談に依るものなのだと知られたら、それは彼らの間に禍根を残してしまう。真偽はどうあれ、サチが俺をけしかけたと捉えることもできるからな。

 

 サチの願いは二つ。恐怖からの解放と黒猫団の存続だ。

 両方ともが果たされるには、今ここで理由を明かすわけにはいかない。

 

「どうあっても答える気はないんだな」

「しつけぇよ。いい加減にしろ」

「…………そうか」

 

 つい荒くなってしまった語気にキリトは小さく息を吐いた。だが固まっていたのも一瞬のことで、すぐに決然とした表情で顔を上げた。

 

「なら、デュエルで決めるしかないな」

「……は?」

 

 いきなりぶっとんだ結論へ至ったキリトに思わず素の反応を返してしまった。え、こいつほんと何言ってんの? 『もはや剣で語るしかあるまい』とかそういうアレか?

 

「ハチが勝ったら、俺は何も聞かない。けど俺が勝ったら、洗いざらい喋ってもらう」

「いや、何言ってんの、お前。誰がそんな旨みのない話に乗るかよ」

「もし断ったら俺の勝手な推測を吹き込むし、ユキノさんにも報告するぞ」

「おまっ……おい、それは反則だろ」

 

 なんだよそれ。いよいよもって逃げられないじゃねぇか。

 キリトはほんの少し笑みを浮かべ、デュエルの申請を送ってきた。

 

 なんなんだよ、まったく。逃げるのも負けるのもダメとか、白状させる気満々かよ。

 

 ため息が漏れそうになるのを呑み込んで《Yes》に触れる。続けて勝負形式の選択肢が現れ、迷うことなく《初撃決着モード》を選択。ウィンドウが消えると同時に、俺とキリトの間にデュエル開始までのカウントが浮かび上がった。

 

 

 

 SAOでのデュエルには三つの勝負形式が存在する。

 

 一つは《全損決着モード》。文字通りHPがゼロになるまで続く形式だ。

 《全損決着モード》はゲーム的にはわかりやすいが、これが使われることはまずない。デスゲームと化したSAOじゃあ本気の殺し合いになってしまうからだ。《降参》すれば死にはしないが、そうするくらいなら初めから選ばないしな。

 

 二つ目は《半減決着モード》。こちらもその名の通り、どちらかのHPが半分になるまで戦闘が続く形式だ。

 SAOが始まった当初、デュエルといえばこのモードが採用されることが多かった。だが『HPが半分ギリギリの状態から強攻撃をクリティカルヒットさせる』という方法でPK(殺人)に利用されるとわかってからは使われなくなっている。

 

 というわけで、今現在最も利用される形式が三つめの《初撃決着モード》だ。

 これは前述の《半減決着モード》のルールに加え、先に強攻撃をヒットさせたプレイヤーが勝利となるモードだ。故に単純な戦闘力よりも技や戦術を読み合う勝負になってくる。

 

 

 

 俺とキリトの間に浮かぶカウントが30をきった。けれどキリトは剣を俺に向けたまま動かず、ソードスキルの構えに入ることもない。

 

 プレイヤー同士が戦うデュエルは、モンスターとの戦闘と大きく勝手が違う。

 単純な攻撃など通用しない。ソードスキルの乱発なんてのはもってのほか。布石に布石を重ねて、いかに相手を出し抜くかが勝負の分かれ目となる。

 

 というのも、互いの知識量に差がない限り、直前の構えで何のソードスキルを撃ってくるかがわかるからだ。動きを読まれるソードスキルはそれだけ対処されやすく、牽制時や確実にヒットさせられるときを除いては使えないってわけ。

 

 キリトはカウントが残り15秒となっても動かなかった。ジッと視線を俺の目に固定し、緊張している様子もない。ほんと、いざデュエルしようとなると厄介な相手だ。

 

 ふつうに戦えば、俺はキリトにまるで敵わないだろう。今まで何度か夕食を賭けてデュエルしたこともあるが、通算勝率は二割程度しかない。

 

 今もあいつが何を狙ってるかはまるでわからない。俺の動きに合わせてカウンターを入れてくるのか、あるいは直前で構えてソードスキルを撃ってくるのか。どっちにしろ戦闘センスは向こうの方が断然上だし、反射神経なんて攻略組でもトップクラスだ。

 

 まともにやっても勝ち目はない。とはいえ――。

 

 

 

 今回ばかりは、負けるわけにいかない。

 

 

 

 右手に持った槍を後ろに、空の左手を前に。半身になって腰を落とし脚に力を溜める。

 カウントが5秒を切った。キリトも俺の動きを見て、同じように半身に構える。

 残り3秒。2、1……。

 

 ゼロになる直前、俺は駆け出して穂先を前に向けた。キリトの目が少しだけ見開かれる。

 寸前までの《ソニックチャージ》の構えをキャンセルし、ダッシュしながら《スラスト》を待機状態に持っていく。

 初期技ということもあって《スラスト》は最も出が早い技の一つ。加えて敏捷力に特化した俺のスピードは一角のものだ。慣れてないやつなら一瞬の出来事だろう。

 

 だがキリトは落ち着いていた。驚いたような顔をしながらもヒラリと身体を滑らせ、槍の射線上から逃れる。即座に振り上げられた剣がすり抜け様に振り下ろされる。

 

 と、ここまでは読めていた。

 

「――っ!」

 

 今度こそキリトは息を漏らした。鳩尾に入った拳でキリトの攻撃動作を遮り、追撃の回し蹴りを見舞う。

 けれどキリトの反応速度は想定以上だった。不意打ちの裏拳こそ入ったものの、回し蹴りは左手で防がれてしまう。蹴りによる衝撃もバックステップをすることで殺されてしまい有効打には至らない。

 

 さすがだな。じゃあ次だ。

 

 回し蹴りの勢いが止まらないうちに脚を曲げて力を溜める。そして勢いそのままに跳躍し、後方宙返りしてナイフを二本たて続けに投げつけた。

 しかし、これも難なく防がれてしまう。おいおい、飛んでくる刃物を剣で叩き落すとか人間技じゃないだろ。

 

 まあでもキリトならやりかねないなぁと思ってはいた。

 だから――俺の勝ちだ。

 

「なっ……」

 

 キリトが驚愕の表情を浮かべて振り返る。そのときにはもう槍がキリトの背中に突き立っていて、一瞬の後にデュエルの終了とウィナー表示が頭上に現れた。

 キリトのHPはまだ7割以上残っているが、『先に強行撃をヒットさせる』って勝利条件は十分に満たしたからな。

 

 悔しげに歯噛みするキリトから槍を引き抜き、こいつにだけ聞こえる声で呟く。

 

「反則チックな攻め方して悪かったな」

「…………負けは負けだ。それより、後で詳しく教えてくれよ」

「勘弁してくれ。さっきのは切り札なんだよ」

 

 お互いにしか聞こえない程度に囁き合い、一歩二歩と下がってから槍を肩に担ぐ。振り返ったキリトは未だ悔しさを滲ませつつも、どこかスッキリとした顔をしていた。

 

 ハァ。ともかくこれで公開処刑は免れた。いや、暴露大会かな。公開告白かもしれない。この場合の告白は女子相手へのそれじゃなくどっちかと言えば懺悔的な意味で。なんにせよ気まずくなるのは目に見えてるし、なんならいるだけですでに気まずい。

 

 ふと、キリトがちらちらっと左右へ視線を配った。その先にいるのはへたり込むサチとケイタたち黒猫団の面々だ。間近でデュエルを見たせいか呆然としている。

 彼らの注意が自分に向いていると確認したキリトは小さく笑みを浮かべ、言った。

 

「ハチが本気出すなんて、よっぽど話したくない理由があったんだな」

「え……?」

「お前、何言って……はぁ?」

 

 突然の言葉に、俺は切れ切れにしか声が出ない。

 

「探られて痛くない腹なら、面倒くさがりなハチが本気で戦うわけないしな。それだけ言いたくない理由があったんだろ?」

 

 訳知り顔でそう言うキリトの言葉にサチとケイタが目を丸くする。

 

「どういう、こと……?」

「言いたくない理由……?」

 

 おいキリト、お前もしかして気付いてやがったな。その上でこんな回りくどい真似までしたってのか。とんだお節介だぞまったく。

 

 考えてみれば第1層でやらかしたときもキリトは気付いてた節があったし、今回も俺のやり口は読まれてたのかもしれない。なんなら俺とケイタたちのやり取りも聞いてた可能性すらある。道理で駆けつけるタイミングが良いわけだ。狙ってやがったなこの野郎。

 

 このままここにいたらキリトにあることないこと吹聴されそうだ。さっさと退散した方がいいだろう。

 

「……んなもんねぇよ。勝手に決めつけて納得してんな」

 

 我ながら安い捨て台詞を残して背を向ける。「素直じゃないなぁ」なんて呟きも聞こえない。聞こえないったら聞こえない。

 

 最後にチラッとサチへ目を向ける。

 彼女は訳がわからないといった様子で広場にへたり込んでいた。

 

 サチの願いは果たされたのか。今すぐにはわからない。

 

 ケイタたちを脅し、彼女の心情の一端を聞かせたことで、今までのように怖さを押し殺して戦う必要はなくなっただろう。

 キリトが乱入してきたせいで中途半端にはなったが、俺というわかりやすい敵も用意した。これで他のメンバーとの関係が悪くなることもないはずだ。

 

 まあ、こんだけのことをやるために随分と怖がらせてしまったのは申し訳ないと思う。その辺りはケイタなりが宥めてくれるだろう。もしかしたらそれがきっかけで落としどころを見つけられるかもしれない。

 

 これから先、怖くて眠れないと震えることなく過ごせればいい。

 失くしたくないと願った繋がりをその手に掴んでいられればいい。

 

 今度こそ本当に背を向けて、広場を後にした。

 五分ほど歩き、適当な路地を曲がる。そこからまたしばらく歩いて狭い路地裏に入った。ここは建物の影になっていて灯りが届かない。遠目には人相などわからないはずだ。

 

 槍をストレージに仕舞い、ふーっと息を吐く。なんかやたらと疲れたな。

 と、そうやって俺が仕事帰りのサラリーマンのように肩を揉んでいると、俺が来たのとは反対側の影から一人の少女が姿を現した。

 

「あらハチくん、奇遇ね。こんなところで何をしてるのかしら」

「……もっと相手を凍てつかせるくらい冷たい声の方がそれっぽくなるぞ」

 

 いまいち氷属性になりきれないその少女は、呆れ顔を浮かべたアスナだった。

 

 

 

 

 

 

 × × ×

 

 

 

 

 

 

 所変わって、第23層の主街区にある《風々亭》の一席。

 アスナに捕まった俺は当初の約束通りここへ連行され、それからキリトの合流を待つ三十分の間、刺突属性の眼差しに晒された。

 夜もだいぶ更けてきたせいか他にプレイヤーはおらず、実質貸し切り状態の店内でチクチクと苛む視線に耐えなければならなかった。アップルタルトの甘味と紅茶の仄かな苦みが唯一の癒しだった。

 

 「待たせて悪い」と合流したキリトがアスナの隣席に着くと、待ってましたとばかりに彼女は笑みを浮かべた。

 

「それじゃあ、まずはあのデュエルについて聞こうかしら」

 

 当然のように聞いてくるってことは君もあの場を見てたんですかそうですか。俺のプライバシーってどうなってんだろうな。

 

「……他人のスキルを詮索するのはマナー違反なんじゃないのか?」

「けど、ハチはデュエルの後で『反則チックだった』って言ってたよな」

「ぐっ……」

 

 せめてもの抵抗にと一般論で躱そうとするも、自分の言葉を盾にされて沈められる。

 ならばと沈黙をもっても答えたら、今度はジトーッとした目で両側から睨まれた。

 

「……ハァ。わかった。教えりゃいいんだろ」

 

 このまま粘るよりも観念して話した方がこっちの精神衛生上よさそうだしな。

 ため息を吐くと、二人の目はすぐ好奇心に満ちたものに変わった。

 

「言っとくが、俺がやったのは別に新しいエクストラスキルとかじゃないぞ。既存スキルの《槍》《体術》《軽業》《投剣》《隠蔽》ともう一回《槍》を連続して使っただけだ」

「連続して……? どういうこと?」

「ヒントはこの前のデュラハン戦だ」

 

 そこまで言っても首を捻るアスナに対し、キリトの方は少し考えただけで合点がいったようだった。

 

「なるほど。確かにあのデュラハンも《両手剣》のソードスキルの後、硬直なしで盾を振っていたな。もしあの盾での攻撃が未発見のスキルに依るものなら……」

「スキル後の硬直を別のスキルでキャンセルできるってこと? もしそうなら……」

「戦い方の常識が変わる大発見だ。あとは条件がわかれば他の人にも教えられるな」

 

 嬉しそうに掛け合うキリトとアスナ。目の前にいても空気と同化できるなんて俺の《隠蔽(ステルスヒッキー)》は今日もしっかりと仕事をしている。

 

「あー、それについては多少わかってる」

 

 なんせ狙って繋げられるようになるまで滅茶苦茶練習したしな。まともに使えるようになる頃にはある程度法則みたいなもんがわかっていた。

 

 そもそもスキルからスキルへ繋げていくためには、前のスキルを使った後の体勢と、次に使用するスキルの待機姿勢が並立できなければならない。

 

 さっきのデュエルを例に挙げるなら、俺は《槍》スキルの《スラスト》に次いで《体術》スキルの《双影(ソウエイ)》を繋げた。

 アレは《スラスト》の『片手を前に突き出した状態』というスキルの終了動作と、《双影》の『半身になって片手を抱え込んだ状態』というスキルの待機姿勢が両立できるからこそ成り立つ連携なわけだ。

 

 同じように《双影》からは《月面宙返り(ムーンサルト)》に、《月面宙返り》からは《ダブルシュート》に無理なく繋げることができる。

 で、あとは投げナイフを弾いたキリトの視線が逸れた隙に《隠蔽》スキルで隠れて背後に回り、こっちを見失っている間に後ろから《ソニックチャージ》を当てただけ。

 

 タネがわかってしまえばなんてことはない。奇襲にしかならない一回きりの切り札だったわけだ。

 

 そして一見便利なこの連携には、他にもけっこう制約がある。

 

 第一に、同じカテゴリのスキルは連続で発動できない。《槍》から《槍》へ繋げたりとかはできないってことだ。ゲームバランス的なことを考えたら当然だな。

 

 第二に、無理矢理体勢を変えて繋げることはできない。槍を突き出した体勢からいきなりバク転したりとかはできないのだ。だから組み合わせはそれなりに限られてくる。人によって所持スキルは違うし、そこは個々人で研究が必要になるだろう。

 

 第三に、発動タイミングが超シビア。許容時間は体感コンマ2秒くらい。スキル発動後から技後硬直で縛られる一瞬の間に次のスキルの待機姿勢を完成させないと、ふつうに動けなくなるだけだ。練習中はこれでかなりダメージを受けることがあった。

 

 第四に、繋げれば繋げるほどタイミングはシビアになり、威力は下がっていくということ。これもまあゲーム的に考えたら当然のことだ。同じ威力のまま永遠に連携を続けられたら、それはもはや作業ゲーになってしまうからな。システムをデザインした茅場が作業ゲーを嫌っているんじゃないか。

 

「――と、わかってるだけでもこれだけある。あとは『個々のスキルのクールタイムがどれくらいか』とか、『スキル間の体勢変えはどこまで許容されるのか』とか、細かいとこはこれから詰めてくつもりだ」

 

 実体験も交えた説明を終えると、いつの間にかアスナは呆れた顔をしていた。

 

「コンマ2秒って、ハチくん、よくそんなの何度も成功させられたわね」

「この一週間、こっそり練習してたからな。お陰で5連続までなら成功率7割ってとこまで持っていけた」

「それでも7割か。模擬戦やデュエルならともかく、実戦じゃちょっとリスクが高いな」

 

 対してキリトは難しい顔で唸る。

 

 キリトの言う通り、成功率7割じゃボス戦やなんかの実戦では使えない。

 上手くいけば大きなダメージを与えたり、一方的に攻撃できるかもしれないが、その分ヘイトを溜めやすく、また失敗した場合のリスクもあるからだ。どのタイミングで途切れるかが仲間はおろか本人にもわからないようじゃリカバリーのしようもない。

 

「あの連携技を公表するのは保留にしましょう。公表するにしても、もっとちゃんと調べてからの方がいいと思うわ」

 

 アスナの判断に頷く。実際まだ公表する気はなかったし、問い詰められなければこいつらにも話すつもりはなかったくらいだ。

 

 キリトもこくりと頷いて、それから思い出したように付け加えた。

 

「なら、彼らにも口外しないようそれとなく言っておかないとな」

 

 瞬間、アスナの雰囲気が一変する。室内温度が2℃ほど下がったように感じられ、思わずカップの中の紅茶を流し込む。

 

 しばらくじっと押し黙ったアスナは、やがて小さな声で呟いた。

 

「私、ハチくんの考えてることわからない。どうしてあんなことをしたの?」 

 

 抑揚のない声だった。怒っているのか呆れているのかもわからず、感情を殺したような声音の問いに肩を竦めて見せる。

 

「あれが一番効率が良かったからな。実際見てきたキリトならわかるだろ?」

 

 話を振ると、キリトは喉に何かが(つか)えたような表情を浮かべた。

 

「確かにあの後ケイタたちはサチに謝ってたし、今後は生産職も兼ねた支援職にするって言ってた。結果だけ見たら万事解決って感じだったけど……」

「ほーん。ケイタにサチね……。随分慕われたみたいだな」

「あ、いや、そういうわけじゃない、と思う。攻略組のこととか色々聞かれてさ。答えてるうちに新しいフォーメーションとかレクチャーしてくれないかって言われてな」

 

 どうやらあのデュエルの後で色々と話したようだ。ケイタたちにしてみれば憧れの攻略組の一員で、俺なんかよりずっと付き合いやすいキリトの登場は渡りに船だったのだろう。ダッカーやササマルに詰め寄られるキリトの姿が目に浮かぶ。

 

「ちょっと複雑だよ。話してみた感じすごくいいギルドだと思った。サチのこととか、前衛をどうしようとかちゃんと考え直しててさ。けど……」

 

 キリトの方も彼らに頼られるのは嬉しいようで小さく笑みを浮かべる。

 だがその笑みもすぐに消え、どこか寂しげに眉を寄せた。

 

「中にはハチを恨んでるようなメンバーもいたんだ」

「そりゃそうだろ。あんなことされて恨まない方がおかしい」

 

 人探しの協力を頼んだ相手からいきなり槍で攻撃されたんだ。恨みつらみはもちろん、憎悪に敵意を持ってもなんらおかしくない。寧ろそうなるように動いたんだ。当然の結果と言ってもいい。

 

 けれどキリトはそうは思っていないようだった。

 軽く睨むような眼差しで問いかけてくる。

 

「ハチはそれでいいのか?」

「……もう関わることなんてないんだ。どう思われようが関係ねぇよ」

 

 

 

「私、ハチくんのそういうところよくないと思う」

 

 

 

 バッサリと斬って捨てるような物言いに思わず彼女の目を見る。

 透き通るような榛色の瞳は鋭く研ぎ澄まされ、炎のように揺れていた。

 

「なんでそうやって『みんな』の中から自分を外すの? なんで自分はどう思われても構わないなんて思えるの? なんでいつもいつも一人で……」

「アスナ……」

 

 キリトが彼女の名前を呟く。

 しかしアスナは応えることなくまっすぐに俺を睨み付け、やがて席を立った。

 

「ごちそうさま。タルト、美味しかったわ」

 

 それだけを言い残してアスナは店を出ていく。この場からすぐにでも立ち去りたいのか、いつもより早足だ。

 

 残されてしまったキリトはアスナの座っていた席をそっと見て、それから両肘をテーブルにつき、組んだ両手に額を当てた。真剣な顔で眉根を寄せて、一言一言を考えながら口にしていく。

 

「俺は……俺はハチのやり方もありだと思う。けど、見てるしかないこっちからしたら、やっぱキツイよ」

「…………」

「悪い。別に責めるつもりはないんだ。けど友達が悪く言われるのを聞くのはちょっとな」

 

 そうやって苦笑いするのはやめてほしかった。

 辛そうで、ひどく痛々しくて、見ていられない。

 そっと視線を外す。

 

「……友達、か」

「ああ。友達だ」

 

 断言したキリトを見やって、窓の外へ目を向けた。

 ぽつぽつと灯りの見える街は厚い雲に暗く淀んでいる。

 月はもう見えなかった。

 

 

 




次回更新は今週か、遅くても来週中に上げられたらと思います。
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