やはりSAOでも俺の青春ラブコメはまちがっている。   作:惣名阿万

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スマブラ楽しいですね。
収録曲もめちゃくちゃ多くて作業用BGMに最適です。

15話です。よろしくお願いします。


第十五話:そして雪ノ下雪乃は宣言する

 《ALS》の壊滅から三日が経った。

 

 連日、ユキノやリンドといった攻略組を代表するプレイヤーは、アルゴら《FBI》の協力のもと《ALS》の生き残りに話を聞きに行っている。今回の事態における背景の洗い出しとボスについての情報を集めるためだ。キリトやアスナもユキノに協力しているらしい。

 

 また、エギルや《風林火山》のクライン、その他ユキノに友好的な連中は、低下した攻略組の戦力を補うために色々と動き回っている。準攻略組と呼ばれるプレイヤー層に声を掛けたり、中層プレイヤーのレベリングに協力したりって感じだ。

 

 一方で足並みの揃わない集団も出てきている。キバオウの糾弾に触発された反ユキノ派の連中だ。効率至上主義の犠牲者が出たからか、その先導役であるユキノの退陣を声高に主張し始めている。

 じゃあ代わりのリーダーは誰にするのかという点ではまとまってないようだが、少なくともユキノのリーダー辞任を求める声は大きい。待遇改善ではなくリーダーの交代で意思統一されてるあたり作為的な気もするけどな。

 

 ともあれ、地道に情報を集めつつ戦力の補強に努めるしかない現体制派に対し、反体制派は直近の出来事を追い風に非難と責任の追及を行うだけだ。

 

 正直、風向きはよくない。

 今はまだ事情を知る攻略組だけで収まってるからいいものの、これで中層、下層の一般プレイヤーまで扇動されたら抑えられなくなる。攻略組といえど、他のプレイヤーの協力なくしては成り立たない。

 ユキノはリーダーを辞めるつもりはないようだが、風当たりは今後益々強くなるだろう。

 

 翻って俺は割と余裕のある日々を過ごしていた。

 理由は単純。ひとに嫌われ過ぎてできることがないからだ。《マイナー》の名は伊達じゃないってことだな。

 

 まあ、かといって何もしていないわけじゃない。俺みたいな対人仕事向いてない人間でもできて、ボッチという影の薄いやつに向いていることはいくらでもある。偵察とか情報収集とかいろいろな。

 

 先日の《ALS》壊滅事件――アレには裏で糸を引いてる奴がいる。

 

 根拠はない。より正確に言えば証言や物的証拠はない。

 だが状況証拠ならある。

 

 二大ギルドと呼ばれた《ALS》にしてはあまりに杜撰な計画、無謀さ、被害の大きさがそれだ。本当の命が掛かったSAOにおいて本来これはありえない。

 絶対に負けるとわかってて戦いを挑むバカはいない。もしそんなバカがいたとして、45人も集まるはずがない。命がけとなれば尚更だ。

 

 なら《ALS》は勝算のある戦いに挑んだ、あるいは勝算があると思い込んでボスへ挑んだと考えるのが妥当だろう。

 となれば、それは何かしらの情報だ。

 

 元々ユキノのやり方に不満を持っていたキバオウだ。攻略組の誰も知らない情報を渡されて、それがあれば攻略組を出し抜けると唆されたらどうする。

 

 十中八九、口車に乗るだろう。

 そしてボスへ挑み、負ける。責任を問われたキバオウが持論を叫んでユキノ政権にダメージを与え、攻略組は内部分裂に至る。と、そういう筋書きを書いた奴がいる。

 追い込まれた人間がどんな行動をとるか。俺が文化祭で相模の行動を推察したように、キバオウの行動を予測してこの現状を作り出した奴がいる。

 

 そいつは知っていたのだろう。

 

 適当な情報を握らせた《ALS》がボスへ挑めば、大きな被害が出ることは予想できる。

 被害の大きさに関わらず、独断専行でボスへ挑めば攻略組は黙っちゃいない。

 そうなればキバオウや《ALS》メンバーの誰かが会議室へ呼び出される。

 詰問され、どうしてボスへ挑んだのか理由を訊かれるのは当然だ。

 すると彼らは一様にこう答える。

 ユキノのせいだ、と。

 ユキノが決めた方針のせいで自分たちはLAボーナスが取れない。

 ユキノがリーダーを務める攻略組にいてはずっと変わらない。

 だから自分たちだけでボスへ挑んだのだ、と。

 

 キバオウの、《ALS》の置かれた状況を知っていれば、偽の攻略情報を渡して背中を押すだけで攻略組を内部分裂させられる。そう考えて、実行して、まんまと成功した。

 

 さぞご満悦のことだろう。誰が何の目的でこんなことをしたのかわからないが、ろくでもない奴なのは確定的に明らか。何人ものプレイヤーを死なせ、攻略を遅らせ、現体制を滅茶苦茶にするその発想に、嫌でも犯人像が浮かんでくる。

 

 長身痩躯の黒ポンチョ男――《PoH》。

 殺人ギルド《笑う棺桶(ラフィンコフィン)》のカリスマ。

 

 確証はない。けれどこの内側から引っ掻き回すようなやり口は奴の十八番だ。それこそ一桁層を攻略していたときは毎度のようにちょっかいを掛けられたからな。

 

 この状況を作り出したのが奴かはわからない。目的もわからない。

 だが奴やその仲間が絡んでいるとなれば、今後も何かしら厄介事を投げ込んでくる可能性はある。

 

 今、攻略組は事態を収めるので手一杯だ。

 いるかどうかもわからない黒幕に構っている暇はない。

 そこで、暇で時間を持て余した《マイナー》たる俺が調査を行っていた。

 

 《ALS》に情報を流した奴を探し、黒幕への手掛かりを探し、あわよくば一網打尽にする。そう考えて三日間行動していたのだが。

 

 

 

 黒幕どころか、手掛かりの一つさえ見つけることができなかった。

 

 

 

 

 

 

 × × ×

 

 

 

 

 

 

 日も傾き始めた午後五時。

 

 「緊急事態だ! 今すぐ来てくれ」とキリトに呼び出されてやってきた砦の会議室には、ユキノやキリト、アスナに加え、リンドやその他攻略組の中心人物が勢揃いしていた。

 全員が全員エスプレッソを一気飲みしたかのような苦い表情を浮かべ、長方形の卓の窓側に腰かけている。

 

 対して通路側に座っていたのはユキノのリーダー辞任を求めていた連中だ。こちらから全員の顔を見ることはできないが、振り返った数人の顔にはどれも勝ち誇ったような笑みが張り付いている。

 

 その中の一つ、廊下側の席の一つに座する男に目が留まる。

 

「お前……」

「やっと来よったんか。待ちくたびれたわ」

 

 トンガリ頭にだみ声の関西弁。眼だけは以前よりも鋭いが、間違いなくキバオウだ。

 マジか。こいつまでいるのは驚きだな。しかも席順的に中心人物っぽいし。

 

 ある意味、感心する。あれだけのことをしでかして、誰が聞いても理屈の通らない主張をして、散々に喚いた挙句追い出されておいて尚この場に出てくるだけの胆力には脱帽する。

 怖いもの知らずというかなんというか。もしかしてMなのかもしれない。Mなキバオウ。マキバオウだな。猪突猛進っぽいし。マキバオーは馬だけど。

 

 長い机を回り込んで、窓際の列の最下座に座る。

 それを待って、キバオウが仰々しく腕を組み口を開いた。

 

「ほな《マイナー》殿も来よったことやし、始めよか」

「……そうね」

 

 キバオウが切り出して、ユキノが同意する。

 何気ないやり取りだが、どちらが主導権を握っているのかは明白だった。

 

「まずはワイらの呼び掛けに応じて集まってもろたことに礼を言っとくわ。それと、こないだは騒いでもうてえらいすまんかった。今後は気を付けるさかい、堪忍してや」

 

 感謝と謝罪の言葉。だがキバオウが頭を下げることはない。言ってることも一見しおらしく聞こえるが、逆にそれ以上の追及を許さない強かなものだ。とてもキバオウの口から出たものとは思えない。

 

「……礼と謝罪は受け取った。それでキバオウさん、俺たちを集めた理由は何なんだ?」

 

 応じたリンドもやはり追及はできず、代わりに本題へ切り込む。少しでも嫌な雰囲気を払拭しようとしたのだろう。

 

 だがキバオウはリンドの言葉に、ニヤリと笑って答えた。

 

「そうせっつかんといてや、リンドはん。《DKB》のリーダーとして《ALS》がおらなった隙に思て焦っとるんはわかるけどな」

「なっ……俺は別にそんなこと」

「ええてええて。同じ大ギルドのリーダーやったワイにはわかる。自分とこのギルドを第一に考えるんは当然のことやからな」

 

 そう言われてリンドは苦しそうに黙り込んだ。リンド個人の考えはともかく、ギルドリーダーとしてはキバオウの言葉のように考えざるを得ないのだろう。

 

 けれど――なんだこれは。

 キバオウの雰囲気。リンドへの切り返し。そのどちらにも違和感がある。

 

 もし、同じことを陽乃さんが口にしたのなら、納得するどころか手加減してくれていると感じるまである。あの人容赦ねぇし。ちょー怖い。

 

 しかしキバオウはさほど弁の立つやつじゃない、と思っていた。頭で考えるよりも先に身体や口が動く、戸部のようなタイプといえばわかりやすい。狂化型戸部と言ってもいい。

 

 にもかかわらず、キバオウのこの態度は何だ。『男子三日会わざれば』とは言うが、それにしたってこれは変わりすぎだろ。

 

「ご高説は終わったかしら? ならそろそろ本題に入って欲しいのだけれど」

「……そうやな。無駄話しててもしゃーないわ」

 

 ユキノの皮肉を受けても、キバオウは余裕の態度を崩さない。それがまた違和感の一つとして積み重なっていく。

 

 キバオウは姿勢を改めて卓上に両肘をつくと、組んだ両手で口元を隠す。あ、ハチマンこれ知ってる。ゲンドウのポーズだ。

 

「単刀直入に言わしてもらうわ。ワイを含めた《ALS》と、ここにおる面子のギルド四つを合併する。でもって、ワイらはワイらのやり方で《SAO》を攻略したる」

 

 誰かが息を呑む声が聞こえた。

 キバオウは体勢を変えることなく続ける。

 

「今後、ワイらは《アインクラッド解放軍》っちゅう旗の下で、独自に攻略を進める。下層のプレイヤーにも募集はかけるし、《軍》に入った人間は責任もって食わしたる。ジブンらも、入りたいゆうもんはいつでも声かけぇや」

 

 そこまで言って、キバオウは顔を上げた。口元は笑みが隠し切れずに歪んでいる。

 

 事実上の対立宣言。おまけに勢力を伸ばそうという意図も明らかにしている。

 

 まずいな。正直これは痛恨の一手だ。

 放っておけばすぐにでも攻略組と対立するのは想像に難くない。しかもその場合、中下層の一般プレイヤーも敵に回る可能性がある。

 

 というのも、これまで攻略組は他のプレイヤーに対して明確な援助や支援を行ってこなかったからだ。最前線で稼いだリソースを自分たちで独占してきたツケとも言える。傍から見れば置き去りにしてきたようなものだろう。

 

 もちろん、大規模ギルドやその周囲は恩恵にあずかっているし、ギルド単位、個人単位で支援活動を行っていることもある。友人知人がいるやつは個人的な交流もしているだろう。

 だがそれは攻略組全体のイメージに繋がるわけじゃない。経験値やアイテムを掻っ攫いながら上へ登っていく集団の印象を変えるほどじゃないのだ。

 

 そこへ来てこの《軍》とやらの方針は中下層プレイヤーにとって魅力的に映るだろう。

 最近まで攻略組として活躍していたやつのギルドへ入れば知識や設備の恩恵にあずかれる。フロア攻略にも参加できるかもとなれば、少なからず参入者は現れるだろう。

 

 なにより厄介なのは、この申し出自体に反対できる要素がほとんどないことだ。

 誰もが平等に、という考えは精鋭揃いの攻略組でこそ相容れなかったが、他のプレイヤーを交えて独自の勢力を作るとなれば立派な理念と言える。

 堂々と「みんなで協力して《SAO》クリアを目指そう!」と言われてしまっては、あからさまに反対はできないからな。

 

「そう。つまり攻略組とは別の攻略集団を組織するということね」

「そや。ワイらはワイらで、アンタらはアンタらで別々に攻略を進める。んでもって、ボスについては早く倒したもん勝ちってことでどや」

 

 キバオウは強気なままそう言う。

 対して、ユキノは机の上に置いた自分の手を見ながら答える。

 

「……戦力の分散は避けるべきだわ。危険も増えるし、攻略のペースも落ちてしまう」

「そうは言うても、ワイらは攻略組に戻るつもりないしなぁ。それに、競争意識を持たせるっちゅう効果はあるやろ」

 

 優位に立てているのが嬉しいのか、キバオウは余裕の表情で椅子に背をもたれる。

 両手を頭の後ろで組み、見下すようにこちら側を見渡して、ニヤリと笑う。

 

「まあどうしても言うんやったら、ワイらにも考えがあるわ」

 

 意地の悪い笑みはキバオウだけでなく、向こう側全ての顔に並んでいた。

 キバオウが勿体ぶるように元のゲンドウのポーズへ戻る。口元を隠し、少しの間ユキノをねめつけた後、獲物を前に舌を揺らす蛇のごとく宣った。

 

「ユキノはん、アンタが《アインクラッド解放軍》で参謀役として働いてくれるっちゅうんやったら、フロアボスに限って協力したるわ」

 

 一瞬の静寂。しかし、それはすぐに破られる。

 

「ふ、ふざけないで! そんな条件飲めるわけないじゃない!」

「ほんなら交渉決裂やな。ワイらはワイらで自由にやらしてもらうわ」

「っ……」

 

 噴火したアスナの怒声にもやはり怯まず、キバオウはさらりと流して立ち上がった。

 リーダーが立てばお供も立つのは当然。反体制派改め《アインクラッド解放軍》の面々は、端から会議室を出ていく。

 

 二人出て、四人出て、六人出て――。

 そして最後のキバオウが振り返ろうとしたところで、

 

「待って」

 

 ユキノが、その背中を呼び止めた。

 

 キバオウの足が止まり、半分背を向けたまま首だけを返す。

 表情こそ真顔な眼にユラユラとおぞましい色が揺れて見えた。

 

「その条件で構わないわ。私は今後《アインクラッド解放軍》の一員となり、フロアボスは攻略組と合同で攻略する。それでいいわね?」

「さすが、ユキノはんは話がわかる人や」

 

 言葉とは裏腹、嘲笑するような口調で言う。

 

「引き継ぎなんかもあるやろ。一週間後の正午に《はじまりの街》の中央広場で《軍》の結成式をやるさかい、それまで色々(・・)と準備しときぃや」

 

 最後にそう吐き捨てて、キバオウは会議室を出ていった。

 

 扉は開け放たれたまま、その向こうから聞こえる足音が段々と小さくなる。

 靴音が消え、重苦しい空気に耐えかねた誰かがため息を吐いたところで、ユキノの隣に座っていたアスナが顔を上げた。

 

「どうしてですか? あんな条件を飲む必要なんてなかったのに」

「もしかして《ALS》のことに責任を感じて?」

 

 アスナと、その向こうのキリトからも訊ねられて、ユキノは申し訳なさそうな表情を浮かべる。

 

「それもないわけではないけれど……」

 

 しかし、言ったときには二人から視線を逸らしている。

 

「客観的に、これが最善だと思うわ。攻略組と《アインクラッド解放軍》が競争意識を持って攻略に励めば今以上にペースはよくなるでしょうし、ボス戦では両者の力を集められる。この前のような暴走も抑えることができるし、効率よく進められるはずよ。……それに、私はどこでも構わないもの」

 

 ユキノはそう言い切ると、小さなため息を吐く。対話を打ち切るように下へ向けた顔には物悲しさと、悲壮な決意が滲んでいるようだった。

 

 効率よく、か。

 その言葉がやけに引っかかる。効率を求めるのは彼女だけではない。それを理由に行動する奴に心当たりがある。

 

 だからこそ、効率だけでいうなら他に方法があるのだ。

 

「それはそうかもしれねぇけど、そもそも無視するって手もある」

 

 端から気持ち声を張って言うと、俯いていたユキノが顔を上げた。

 

「それは、《アインクラッド解放軍》を放置するという意味?」

 

 俺に問いかけるユキノの眼光が鋭い。一層のボス戦以来向けられるあの瞳だ。

 

「ああ。そもそも連中は攻略組でも若干劣るやつらばかりだ。《ALS》の生き残りを加えてもそれほどの戦力にはならないし、攻略組が先にここのボスを倒しちまえば差はもっと広がる。最前線から離せれば《軍》に入るメリットは減るし、勢力拡大も抑えられるだろ」

 

 絶対の自信などない。それでも、考え得る手段の中でもっとも確率の高い、それでいて効率のいい手札を切っているつもりだ。

 

「攻略組が万全でない今、ボスに挑むのは認められないわ。戦力不足だったとはいえ、《ALS》が多くの犠牲者を出すほどの敵だもの」

「なら、今の戦力でも勝てる方法を見つけたとしたら?」

 

 安全マージンは満たしているのだ。それで勝てないとなれば足りないのは情報で、情報が足りないのなら更に集めればいい。

 フロアの隅から隅まで。クエスト一つ残さず。なんなら偵察戦に行くのもいい。行動パターンからダメージの通りがいい箇所まで、ボス撃破に繋がる情報すべてを洗い出す。

 

 幸いここは仮想世界。不眠不休で働いたところで頭痛以外はごまかせる。数日の徹夜くらいなんてことない。実際何度かやってるしな。

 

 ユキノはため息を吐く、その一瞬だけ俺から視線を外した。

 そして、今度は俺を睨み据える。敵意にも似た感情の圧力を感じる。

 

「たとえ弱点や攻略法を見つけたとしても、戦力が整うまでは動かないわ。あなた一人の無茶だけで、攻略組が動くなんて思い上がりよ。それだけで、解決するとは私は思わない」

 

 痛いところを突かれた。

 

 ユキノが言うように、俺はそんなに影響力のある人間じゃない。なんならマイナスに振り切ってるまであるだろう。それは充分に自覚している。

 

 知名度はあれど人望や信頼は皆無、最低最悪の《マイナー》がいくら情報を持ってきたところで、それで攻略組が動くわけがない。

 

 アルゴに頼んで攻略本に載せてもらったところで結果は変わらないだろう。情報はただの情報でしかなく、リーダーがノーと言った答えを覆すような力はない。

 

 ユキノの言葉に何一つ反論ができなかった。

 会話が途切れてしまうと、静けさの中をかたかたと風が窓を鳴らした。吹きつける風のせいか会議室は冷え込んでいる。

 

「……あなたと私のやり方は違う」

 

 ぽつりとこぼれた言葉。ただそれにだけは同意ができた。

 

「そうだな……」

 

 本当に違う。王道とか邪道とかそんな手段の是非ではなく、おそらくは(こころざし)が違う。その隔たりが今の俺たちの距離だ。

 

 キリトやアスナ、リンドにエギルにクラインや他のギルドのやつなんかも、会議室に残っていた全員が黙って俺たちの話を聞いていた。

 

 時間が凝り固まっていくのを感じたとき、ユキノがちらと俺を見る。

 

「まだ、何か?」

「……いや、確認がしたかっただけだ」

 

 何を確認したかったのかはわからない。かつてユキノの――雪ノ下のやり方を否定した時とは状況が違いすぎている。なら、安易に否定はできない。最善だとは思わないが、次善くらいには納得ができてしまう。

 

「……そう」

 

 ユキノは返事ともため息ともつかない声を漏らすと、リンドに声を掛けて引き継ぎに関しての話をし始めた。

 

 俺は立ち上がって会議室を出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 石造りの床に靴音が響くのを聞きながら、ただ廊下を進む。

 

 ユキノに反論すべきポイントが見当たらない。

 彼女の言うことのほうが理に適っている。

 そもそも反対していいのかもわからない。

 

 その理由がないのだ。

 

 ユキノが《軍》で参謀役を務めるというなら、キバオウ以下ギルドメンバーの暴走を抑えることができるだろう。監督役としてこれ以上の人間はいない。

 

 また本人の戦闘能力の高さも当然のことながら、指揮能力の高さも疑いようがない。間違いなく《軍》は強大な勢力となるだろう。

 

 おまけに、ユキノの加入を条件にフロアボスでの共同戦線まで約束されているのだ。単純な攻略ペースは今よりも早くなるかもしれない。

 

 呆けたように歩き、街中のベンチに腰かけてから、空が赤く染まっていることに気づいた。

 

 灰色の天蓋に覆われたアインクラッドでは雲海へ沈む夕焼けが見える。

 周囲のプレイヤーやNPCの喧騒をどこか遠くに聞きながら、文字通り別世界の黄昏をぼーっと眺めて過ごす。

 

 やがて日が完全に雲の下へ消えようかという頃――。

 

 

 

「ハチさん……?」

 

 

 

 斜向かいで足を止め、消え入りそうな声で呟いたのは、サチだった。

 

 

 




そろそろまとまった休み欲しいなぁ……(無理)
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