やはりSAOでも俺の青春ラブコメはまちがっている。 作:惣名阿万
殺人的な仕事の忙しさで遅くなってしまいました。
19話です。よろしくお願いします。
「なあ、お前らさっきからなにかっこいいこと言っちゃってんの?」
しんみりとした、なんなら映画のお涙頂戴シーンにも似た空気が一瞬で霧散した。
エギルは冷たい視線を寄越してくるし、クラインはドン引きだし、リンドに至っては完全に睨んでいる。アスナもお怒りの表情で、キリトは呆れ顔。アルゴはなぜか大爆笑だ。
掴みは上々。あとはこの色々と台無しな雰囲気をどうにかすればいい。
そもそもの話、俺たちは意見を聞くためにこいつらを呼んだのだ。
「ユキノの決定に反発するけど、なにか言いたいことある?」と挑みに来たのだ。
すでに決まった話をどうにかしようとしてる時点で反対されるのはわかっていた。
それもリンドはともかく、エギルやクラインは見ての通りの大人。常識的な反応が返ってくるのは予想ができた。
最初から反対されるのはわかっていたのだ。
なら、その上で説得するための策を用意しておく必要があった。
キリトやアスナはピュアピュアだから言葉を尽くせば説得できると思ってたのかもしれない。逆に説き伏せられちゃってることからも二人の純粋さはよく窺える。
けれど、俺は違う。常に相手の言葉の裏を読んでしまうくらいには意地が悪いし、根拠もなしに他人を説得できると思えるほど人ができちゃいない。
協力すると決めた以上、二人にできない部分を補うのは俺の役目だろう。なにせSAOに来てからは天下に名前を轟かせる日陰者だ。陽の当たる彼らにはできないことでも、俺にはできる場合がある。まあ、できて当然のことができない場合も多いんだけど。
正面から挑むアスナのやり方は通用しなかった。
なら、取るべきは搦め手。感情ではなく、理性に訴えるやり方だ。
ユキノを引き留めることによって得られるメリットを提示し、それが継続するシステムを提案する。目に見える実益が出るとなれば説得力も増すはずだ。
《軍》とは対立するかもしれないが、それで起きる面倒や損失を越えるメリットがあれば協力を取り付けることもできるだろう。リスクとリターンを考える大人なら尚更だ。
だから俺は事務的に、淡々と、あくまで実益だけを提示すればいい。
「ご大層な決心固めてるみたいだが、いいのか? ユキノが《軍》に入っちまったら、攻略組はすぐになくなっちまうぞ?」
口元を意地の悪い笑みで歪ませる。意図せずとも勝手にそうなる。その表情のまま、一同をぐるりと見渡した。
ネガティブだった反応が困惑に変わった。キリトとアスナも眉を
「ったく、お前は……。まあいい。それで、どうして攻略組がなくなるってんだ?」
エギルが呆れたようにため息を吐いた。さっきまでの冷たい眼差しは消えている。
強面エギルからの威圧感が薄れたことに内心でほっとしつつ、答えた。
「単純な話だ。あいつを渡したら、《軍》の方が多数派になるんだよ」
そう言ったのを皮切りに全員が真剣な目を向けてくる。
「現時点なら、攻略組は《軍》よりも上だ。人数もレベルも装備も、おまけにリーダーの能力も劣る要素がない。だがユキノが《軍》に入ったと仮定すると、状況はだいぶ変わる」
「……少なくとも作戦面や指揮能力では攻略組と同等以上になる、か」
「ユキノさん以上に作戦を立てるのが上手い人なんて思いつかないものね」
「悔しいが、確かにユキノさんよりも上手く攻略組全体を指揮できるとは思えない」
俺が言ったことに対し、キリトとアスナ、そしてリンドが苦い表情を浮かべる。
けど、そんなのはまだ序の口だ。
「いや、その見通しは甘過ぎるな」
「……どういうこと?」
訝しむような眼差しを送ってくるアスナ。それ、おっかないからやめてもらえます?
「ユキノが《軍》に入れば、必然的に《軍》の戦力は上がる。アイツは戦闘能力も作戦立案能力も指揮統率力も優秀だからな。当然、ユキノを放出した攻略組の戦力はそれだけ落ちるだろう。と、ここまでは直接的な影響だ」
「直接的……。ということは、間接的な影響もあるってことか」
キリトの呟きに頷いて答える。
「能力があってカリスマ性があって、おまけに見た目はSAOでも指折りだ。《FBI》の新聞にもスクショ付きで何度も取り上げられてる。ファンがいるのは間違いないだろう。《軍》が中層以下にプロモーションを掛けるとき、ユキノの参入は大きな宣伝材料になる」
そう言ってすぐに反応を見せたのはアルゴだ。両手を頭の後ろに組んで背もたれに寄りかかり「なるほどナー」と長い息を吐く。
「確かにユッキーの記事は何度も出したナー。売れ行きも明らかに良かったはずだゾ」
「私も、ユキノさんに憧れてるっていう人、何人も知ってるわ」
あなたも憧れちゃってますしね。「お姉さま!」とか言い出しそうだしね。
「
「……ユキノが《軍》に行くことで人が集まり、結果攻略組の存続にも関わる、か。ありえないことじゃないな」
エギルは腕を組み、顎に手を当てて呟いた。
一同がうーんと黙り込む。と、しばらくしてクラインが身を乗り出してきた。
「なあ、一個訊きたいんだけどよ。もしハチが今言った通りだとして、じゃあユキノさんさえ引き留められりゃあ、全部解決すんのか?」
「クラインさんと同意見だ。というより、俺はユキノさんが残るだけじゃ駄目だと思う。それじゃあ今までとなにも変わらない。寧ろ《軍》との関係が悪化する分、もっと悪い状況になるんじゃないか?」
ご名答。リンドの言う通り、ただユキノが残るだけじゃ意味がない。
攻略組を今のまま、《軍》の動きを静観したままユキノを引き留めても、状況は悪くなる一方だ。攻略組の体質は変わらないまま、《軍》は中層以下のプレイヤーを取り込んで勢力を増すだろう。そもそも今説得したところでユキノが応じるわけがない。
「だから、攻略組の体制を変えるんだ」
そう言うと、キリトが少し身を乗り出してきた。
「体制を変えるって、どんなふうに?」
「まず、《攻略組》っていう漠然とした枠組みを確固とした組織にする」
瞬間、六人の目が揃って見開かれた。
まるでありえないものでも見たように。失礼だな、おい。
「組織? それはまた、とてもハチのする発想とは思えないんだが……」
「ほんとに失礼だな。確かにボッチの俺が組織とか何言ってんだって話だが、ちゃんと理由があんだよ。言わせんな恥ずかしい」
失礼なキリトを始め、未だ半信半疑な様子の六人へ説明する。
これまで《攻略組》と呼ばれてきた集団は、SAO攻略の最前線で戦う数十人のプレイヤーを総称していただけだった。
そのほとんど全員が戦闘に特化したプレイヤーであり、フロアボス攻略戦に参加する候補者たちの呼称でしかなかったわけだ。
そういう経緯な所為か《攻略組》はプレイヤー間、ギルド間での交流が薄く、フィールドボスやフロアボスと戦う時ぐらいしか集まることすらなかった。無償での協力はもちろん、情報すらタダで提供することはない。
なんてったって自分たち以外はライバルで、限られた
そんな《攻略組》がボス戦ではどうにかまとまってこれたのは、ユキノの手腕に依るところが大きい。
あいつの指示に従っていれば、手柄はともかく安全かつ確実に戦えた。
その事実によってユキノは長いことリーダーを任されていたのだ。
だがそれは同時に、攻略に関するあらゆる不平不満を向けられることにも繋がっていた。
良くも悪くも、リーダーに被せられる責任が大きすぎたのだ。
「だから責任が分散するよう、役割ごとにトップを立てる。で、そのトップたちが集まって《攻略組》全体の方針を決める会議を開くんだ」
いうなれば役員会議みたいなものだ。
合議制にすることで責任の分散が図れるし、対外的にも公平さをアピールできる。
これまでのようなスピード感は損なわれるかもしれないが、一人当たりの負担はだいぶ軽減できるはずだ。
「責任の分散ね……。ハチくんらしい考え方だとは思うけど」
「それだけで本当に解決するのか?」
「しないだろうな」
首を振って即答した。
「会議形式にするだけじゃあ《攻略組》のトップの首が増えるだけだ。少数の大ギルドが力を持つだけで、今までと状況は変わらない」
訝しげだった一同の表情が引き締まる。
自分で自分の考えを否定したことで、より強く興味を引くことができたようだ。
少し身を乗り出して説明を続ける。
「SAOのシステム上、攻略で割を食わされるやつはどうしたってでる。それ自体はどうしようもない。問題なのは《攻略組》が見て見ぬフリをしてきたことだ」
LAボーナスの奪い合いがわかりやすい例だ。
ボスに止めを刺さなくちゃならないってシステム上、壁役のタンクプレイヤーはその恩恵に与れない。だから《ALS》のようにボス戦へタンク隊しか輩出できなかったギルドは、いつまでたってもLAボーナスを得る機会がなかったのだ。
そして《攻略組》はそんな《ALS》のようなギルドに何らかの報酬ないし補償をすることはなかった。
当然だ。同じ《攻略組》とはいえ、ライバルであり敵なんだからな。
「しょうがないと呑み込めるやつはいい。けど、どっちにしろ不満は溜まるだろ。《軍》はそんな不満を抱えた連中の集まりなんじゃないか」
そう言うと、アスナやキリト、それにリンドやクラインなんかは苦い顔で俯いた。四人ともアタッカーで、それぞれLAを取ったこともあるからだろう。
逆にこの中で唯一タンク寄りのステータスをしているエギルは腕を組んで目を閉じ、沈黙を守っている。どんな感情を抱いているかは表情からは読み取れない。
重苦しい沈黙が圧し掛かる。なんだ……この
自分で作っといてなんだが、この重たい空気どうにかならないかなぁ。助けてド〇えもん!
「つまり、損失の補償をするってことカ?」
おお! ありがとう、アルえもん!
「ああ。それが第一の目的だな」
「ニャハハ。とてもハー坊の口から出た言葉とは思えないナ!」
うわーん。ひどいよ、アルえもん!
とはいえ全くもってアルゴの言う通りなのでぐうの音も出ない。
「第一の目的ってことは、第二、第三があるのか?」
アルゴの茶々で雰囲気が軽くなったからか、キリトも苦笑いだ。
頷いて答える。
「そこまで明確に考えてるわけじゃないけどな。損失の補償ってのも含めて、プレイヤーやギルドが互いにサポートし合う体制を作ってやれば不満も抑えられるだろ。なんなら生産ギルドとか商人ギルドを抱き込むのもありだと思ってる」
これまで《攻略組》のプレイヤーは装備の更新や修理、アイテムの購入なんかは、各々がバラバラの店で行っていた。知り合いのプレイヤーショップや職人に頼むやつもいれば、すべてをNPC商店で済ませる俺みたいなやつまで様々だったわけだ。
すべての層で画一的な値段、質になるNPCショップは別として、プレイヤーショップの場合は当然ながら店によって値段や質に差が出てくる。加えてお得意様と一見客でも差が出てくるのだから、どこの店の誰の仕事が良いかというのも重要な情報となるのだ。
しかし、そういった職人や商人の情報は出回りづらい。《攻略組》の人間が頼るほどともなれば尚更だ。他人よりも優位に立ちたいと考えるやつが多いからか、《攻略組》の人間は余計に隠したがる傾向がある。
ならばどうするか。
抱き込んで、情報共有してしまえばいい。
組織化した《攻略組》に加えて、《攻略組》の誰もが利用できるようにすればいい。
そこまで言ったところで一人が反応した。
「ほう。じゃあ一介の商人プレイヤーとして訊くが、それで俺たちにはどんな利益がある。《攻略組》は俺たちに何をしてくれるんだ?」
エギルは《攻略組》有数のプレイヤーであると同時に、中層へ顔の利く商人でもある。
《攻略組》に非戦闘系ギルドを加えようなんて言えば、最初に反応するのはエギルに違いないと思っていた。
だからこの問いも予想出来ていた。
「SAOでも一番金を持ってる層が客になるんだ、値段交渉で困ることはないだろ。となれば、素材を優先的に卸すとか、店舗の貸し出しなんかが妥当なとこじゃないか」
用意しておいた答えを返すと、エギルはニッと笑みを浮かべた。
「そうだな。商人たちはそれで十分だろう。あとは職人系のプレイヤーに対して、スキルを鍛えるまでの間、助成金を出すのもありだと俺は思う」
なんだ、あっさり納得した上に追加で提案してくるとか、思ったより食いつきが良いな。
「ああ、確かにありだ。けど真面目にやるやつばっかりじゃないだろ。その辺の線引きはどうするんだ?」
「その辺りは調査と面接だな。それで確実とは言いきれないが、成果報告を上げさせて継続するかどうかを見極めていけばいいだろう」
どうやらエギルは乗り気なようだ。この分なら職人と商人との交渉に関しては丸投げしていいかもしれない。
「だな。あとはスキルの強化がひと段落したときに何かしらの報酬でも出せば良い宣伝になるんじゃないか。仕事道具を提供したり、工房を買う金を立て替えたりとか。飴舐めさせとけば働くだろ」
「……なんというか、お前は本当に妙なところで頭が回るな」
「まぁな」
代わりに意地と性格が悪い。
エギルが呆れながら納得したところで、今度はアルゴから声が上がった。
「オイラとしては、《FBI》にも一枚噛ませてもらいたいナ」
その一言に、今度はアルゴ以外の全員が驚愕した。ハチマンも驚いた。
なんせ《FBI》は創設以来、決して他のギルドと関わることはなかったからだ。
《FBI(Find and Broadcast of Information)》はその名称からもわかるとおり、情報の収集と拡散を目的としたギルドだ。リアルで言う出版社のようなこのギルドは、アインクラッドでは希少なマスコミ的ポジションを確立している。
唯一無二のギルドとして評判を得ている《FBI》は、一方で大きな発信力、影響力を持つが故に中立でなければならないとして、他のギルドと関わることを徹底的に避けてきたのだ。
そんな《FBI》の、それもリーダーの一人が、明らかに一勢力に肩入れしようとしている。驚き戸惑うのも仕方ないだろう。俺は悪くねぇ。俺は悪くねぇ。
「願ってもない話だが、いいのか?」
「いいんじゃないカ。持ち帰って聞いてみないと確実じゃないけどナー」
おいおい。トップがそんな適当でいいのかよ。
半眼で見るも、アルゴはどこ吹く風と動じない。
「……まあいいか。ありがたいことなのは間違いないしな」
《FBI》が味方に付く。
それはとんでもなく大きなことだ。
《FBI》がいれば情報収集に人手を割く必要がなくなり、戦力を攻略に集中させることができるようになる。そうなれば必然的に攻略のペースは上がるのは明らかだ。
それだけじゃない。
《FBI》には情報収集のプロが所属しているのはもちろん、事務処理、会計処理のプロも所属しているのだ。
もしアルゴが彼らを派遣してくれれば、貴重な事務員が得られることになる。これまでユキノを中心とした少数で賄っていた負担が一気に軽くなるだろう。
ふと、キリトが大きく息を吐く。
「なんだか随分と大きな話になってきたな」
「俺には何が何だかさっぱりだけどよ。とにかく、今までの《攻略組》とはガラッと変わるのは間違いなさそうだな」
クライン……。お前、アホだったんだな。
「相互扶助に商人と職人の援助、かぁ。なんだか組合みたいね」
「なるほど。組合か。言い得て妙だな」
アスナの呟きにエギルが頷いた。キリトも「ああ、そういうことか」と納得の表情を浮かべ、アルゴはふむふむと顎を撫でている。
「どういうことだ?」
すぐには思い至らないのか、リンドが問いかけた。クラインもわからないらしくエギルへ視線を向ける。
「MMOで《ギルド》といえばチームとか集団のことだが、本来《ギルド》ってのは組合を意味してる。ハチの言い出したこの組織こそ、本来の《ギルド》の形に近いんだよ」
エギルの説明に感心する二人。うん、そこまで考えてたわけじゃないけどね。なんか全員納得してるっぽいし、もうそれでいいか。
「――じゃあ、お前らはこの案に乗るってことでいいんだな? 言っとくが、これきり《軍》とは完全に対立することになるぞ」
改めて訊ねると、全員が真剣な眼差しを返してきた。
「もちろん。俺は賛成だ」
「私も賛成。ハチくんにしてはまともな案だと思うし」
「難しいことはわかんねぇけどよ。これならイケそうな気がするぜ!」
「商人としても旨い話だからな。俺も乗らせてもらう」
「オレっちも乗っかるゾー」
「俺も、これで《攻略組》が守れるなら」
六者六様の答えを聞いて、小さく息を吐く。
「助かる。で、具体的にどうしていくかだが……」
その後、話し合いは数時間続き、解散する頃には全員が疲労困憊となっていた。
俺も疲れた体を引き摺って宿へ帰り、すぐさまベッドに横になる。
睡魔に抵抗する気もなく、どうにか目覚ましだけをセットして意識を手放した。
理由をもらい、問題を設定し、手段を得た。
あとは実行するだけだ。
我ながら話が進まない……。
プロット段階だともっとサクサク進んだんだけどなぁ……。