やはりSAOでも俺の青春ラブコメはまちがっている。 作:惣名阿万
どうも自分は戦闘シーンが冗長になりがちなので、上手に描写できる人が羨ましい……。勉強せねば!
というわけで21話です。
よろしくお願いします。
2023年5月20日 午後2時――。
新生《ギルド連合》の旗の下、48人のプレイヤーが25層迷宮区の最奥に集まった。
ボス部屋へと続く扉はかつてないほどに重厚で禍々しい。表面には二体の巨人が武器をぶつけて争うレリーフが象られ、外縁をびっしりと見たことのない模様が覆っている。
突入前の最終チェックをするプレイヤーたちの顔にも緊張が表れていた。
選抜された戦力は以下の通りだ。
まずは《聖竜連合》から18人。
《DKB》を前身とした名実ともにアインクラッド最大のギルドで、リーダーのリンドを始め18人全員がハイレベルのプレイヤーで構成されている。バランスもよく装備も十分で、今回のボス攻略の主力となるのは間違いない。
《風林火山》はクライン含め6人。
全員が和風の装いに身を包んだ変わり種だが、実力は折り紙付きと言っていいだろう。人数こそ《聖竜連合》には敵わないが、一人一人のレベルや装備で言えば劣っていない。
新規参入の《血盟騎士団》からも6人が名を連ねている。
《風林火山》とは違った意味で目立つこのギルドは、全員が全員フルプレートに盾持ちと徹底した騎士装で統一されている。武器こそ剣や槍、斧や棍といった違いがあるが、白銀の鎧姿で揃えられた集団には言い知れぬ威圧感があった。
リーダーは《ヒースクリフ》という壮年の男で、ロングソードにカイトシールドという正統派騎士といった出で立ちのプレイヤーだ。レベルも相当に高く、なんで今まで攻略組にいなかったのかってレベル。
同じく新規参入の《天穹師団》からは中心メンバーが3人。他の連中はレベルが足りなくて連れてこれなかったんだとか。
《天穹師団》は戦闘班と支援班に分かれてるらしく、最前線で戦えるプレイヤーはリーダー以下8人だけだという。今回はボス戦ということで更に厳しい基準が設けられた結果、参加できたのは3人ということだそうだ。
まあ、全部受け売りだけどな。《パーシアス》って名前のイケメンが誇らしげに挨拶回りをしていたんで、たまたま耳に入ったんだよ。多分、あいつがリーダーなんだろうな。
とまあ、ここまでの33人に加えて、俺とユキノ、キリトにアスナ、《商工会》からエギルとその仲間3人、あとは《連合》に加盟してるギルドから1、2人ずつ参加して、合計48人のフルレイドってわけだ。
《ALS》の壊滅から10日。
よくもまあ、たった10日でこれだけ立て直したもんだと思う。
「みんな聞いてくれ」
張りつめた声が響く。
瞬間、扉の前に集結した47人が口を閉ざし、声の主へ視線を向けた。
25層ボス攻略戦のレイドリーダー――リンドが一同をぐるっと見渡す。若干緊張しているようで表情は硬いが、変に気負ってしまっている感じはない。
「まずは短い準備期間の中、今日この場に集まってくれたことに感謝する。知っている人も多いと思うが改めて、俺は今回のレイドリーダーを務めるリンドだ。よろしく頼む」
言って、リンドは再度視線を巡らせる。
野次もからかいもなければ、囃し立てる声も励ます声もない。
真剣に冷静に、リーダーの器量を推し測るように。今後続いていくボス戦において、リーダーとして選出するに足るかを見極めるように、この場の全員がリンドの言動を注視していた。
リンドは値踏みするかのような視線を受け止めると、小さく息を吐いて続けた。
「この扉の向こうにいるのは《ALS》を壊滅に追いやったボスだ。これまででもひときわ強力な敵に間違いない。苦戦は免れないと思う」
《ALS》の名前を出したところで何人かが顔を落とした。
半年近く同じ最前線にいたんだ。知り合いを亡くしたやつもいるだろう。トップギルドが為す術もなくやられた事実にショックを受けた者も多い。
「――けど俺たちは違う。可能な限りの情報を集め、戦力を整えて、この日に備えた。《攻略組》は《ギルド連合》に生まれ変わり、新たに頼もしい戦力を加えて、今日、俺たちはここにいる」
演説を続けるリンドがヒースクリフとパーシアスに目を向けた。ヒースクリフは表情を変えず、パーシアスは笑みを浮かべサムズアップして応える。
片や重装備のタンクに、もう一方は軽装の曲刀使い。雰囲気も戦闘スタイルも正反対な二人の反応に、けれどリンドは大きく頷いた。
「《ギルド連合》としての初陣だ。華々しくとは言わない。誰一人欠くことなく、勝って次の層に進もう。それがみんなの――アインクラッドに暮らすみんなの希望になる!」
声高に締めくくり、リンドが扉の方へ振り向く。
剣を抜き、重い扉を開いて、暗い部屋へと剣を突き付けた。
「行くぞ! 《ギルド連合》、攻撃開始!」
号令と共に石畳を蹴ったリンドを追って、47人のプレイヤーが一斉に駆け出した。
× × ×
戦いは壮絶なものとなった。
全長6メートルの見上げるような巨体が、両手に剣と斧を持って振り回してくるんだ。反撃で蹴られるだけでもそれなりのダメージを喰う上、ソードスキルの一撃は高耐久のタンクですらHPの2、3割を削られる。俺なんかがまともに喰らったら一撃で消し飛ばされるだろう。
動き自体はそう速くない。むしろ前回のデュラハンの方が速いくらいだ。
だがコイツの場合、厄介なのは頭が二つあること。
二つの頭がそれぞれ独立してるせいで、どちらかの死角に動いたとしても、もう一方の頭が追ってくる。互いに死角をカバーするように動いてくるわけだ。
しかも脳みそも二つなせいか、両手が別々にソードスキルを撃ってくるからたまったもんじゃない。
近付くだけならともかく、まともに攻撃を加えるのは至難の業だった。
加えて《鎧》の存在もある。
『あらゆる災厄を払う力』があるという《鎧》は硬いこと硬いこと。両手斧の重い攻撃ですらビクともしなかった。つまり《鎧》が覆っている胸から腰までは攻撃が通用しないってことだ。こんなんチートやチーターや!
とまあ、そんなかつてない強敵を相手に30分かけてようやく一本目のゲージを半分にした時点で単純な戦術は通用しないと判断された。
というわけで、第二案の発動が決定されたのである。
「ではユキノさん、手筈通りにお願いします」
「ええ。任せてちょうだい」
リンドとユキノの間で意思決定が終わると、ユキノをリーダーとしたF隊は事前に打ち合わせた通り動き出した。
F隊のメンバーは六人。
パーティーリーダーのユキノと俺、キリト、アスナの四人に加え、《ハシーシュ》と《マリア》という二人組の女性プレイヤーだ。
どういうわけかF隊は男二人で女四人という妙なパーティー構成だが、これは厳密にパーティーの戦闘スタイルで組み分けた結果であって他意はない。というかそもそも俺が決めたわけじゃない。決定権も当然のごとくない。
ともかく、俺たちF隊はユキノ、俺、ハシーシュの三人とキリト、アスナ、マリアの三人に分かれてボスの左右へと配置に付いた。
互いに位置取りを終えたことを確認して、武器を構える。
それを見てとったリンドが前衛でボスに攻撃を加える部隊へ声を上げた。
「A、D隊、スイッチ準備! フルアタック一本!」
打てば響くような雄叫びと共に《聖竜連合》と《風林火山》のA、D隊が続けざまに一撃を入れる。ボスのHPが目に見えて減り、当然のように繰り出される反撃をブロッカーのB、C隊が受け止めた。
その隙に入れ替わる。
後退するA、D隊をすり抜けて、F隊の6人が左右から挟撃を開始した。
「各自隊形を崩さずに攻撃、フルアタック一本!」
ユキノの下知で飛び出す。
高威力の突進技《フェイタルスラスト》を右ひざに突き刺し、後続二人と共にボスの攻撃範囲から逃れた。反対側でも同じようにキリトたちが攻撃して距離を取っている。
威力の高い技を受けて、ボスのターゲットが変わる。
短髪で無精ひげを生やした頭は俺たち三人へ向き、もう一方の髪もひげも長い頭はキリトら三人を見た。
留まることなく、次の行動に移る。
「行くわよ」
ユキノの合図で駆け出し、出せる限りの速度で石畳を走り抜ける。
正面からはキリトたちが同じようにダッシュしてきている。正面衝突すればそれなりのダメージを受けるだろう。
ぶつかる恐怖を堪え、速度を落とすことはしない。
ちらっと左側面を見ればボスが武器を振りかぶっていて、今にもあの重たい武器を振り下ろさんとしていた。
息を呑む。直後、グッと巨人の腕に力がこもった。
右腕の剣にオレンジの、左腕の斧にライムグリーンの光がそれぞれ灯った。
そのとき――。
『ゴオァ!?』『ウグォ……!?』
轟き声が
苦悶に呻くボスはそのままフラフラと後ずさりし、ゆっくりと背中側へ倒れていく。
地響きを立てて仰向けになったボスの頭上には、ご丁寧に二つの円が回っていた。
「《
リンドの掛け声を待つまでもなくレイドメンバーが殺到する。
これまでの鬱憤をはらすかのような総攻撃により見る見るうちにボスのHPは減少していき、巨人が起き上がるころにはゲージの一段目を削りきっていた。
やがてふらつきながら立ち上がった巨人は二つの頭で睨み合い、俺たちプレイヤーをそっちのけで言い争いを始めた。
言葉はまったくわからないが、何やら罵っては頭突きをして両者とも痛みに呻く姿は一昔前のコントを見ている気分だった。しかも頭突きの度にHPも減るというおまけつき。
緊張感に満ちているはずのボス部屋でシュールなコントを見せられ、広間は微妙な静寂に包まれていた。誰もが唖然とした顔で目の前の
思いがけずに生まれたこの隙に考える。
あのまま自滅してくれるわけもないだろうし、ここからどうしたもんか。
とりあえず、もう一度さっきの動きを試してみるのがいいかもしれない。見た感じ両方ともバカっぽいし、ダメならダメでまた考えればいいだろう。
そう思いつつボスを眺めていると、そっと隣に立ったユキノから声を掛けられた。
「あなたの持ってきた『情報』通りだったわね」
「……ほんと、びっくりするぐらいにな」
言って肩をすくめると、ユキノは小さく笑みを浮かべた。
遡ること、およそ36時間前――。
俺は25層のとある場所を訪れていた。
真夜中にもかかわらず迎え入れてくれたその人物は投じた質問に目を見張ると、穏やかに笑みを浮かべて頷き、ゆっくりと詳しい話を始めた。
まるで教師が生徒に教え聞かせるように。
まるで好々爺が孫へ語り聞かせるように。
そのじいさん――賢者は柔らかな口調で語った。
『ほっほっほ。お前さんの言い当てた通り、かの巨人の仲はすこぶる悪い。かつては目が合う度に争う犬猿の仲じゃった』
きっかけは《賢者の探し物》クエストでボス部屋の扉を見たときだ。
クエストをやった直後は気になった程度だったが、よくよく思い返してみればボス部屋の扉に妙な彫刻があった。
武器をぶつけ合う二体の巨人と、双頭巨人型ボスの《エオテン》。
加えてじいさんの『一つの体に押し込められた』という発言。
『ケンカするほど仲が良い』とは言うが、それにしたって限度があるだろう。
殴り合いならともかく、剣と斧で斬り合ってる奴らが仲良しと言えるだろうか。
だから俺はじいさんに訊いたのだ。
巨人の二つの頭は互いをどう思っているのか、と。
そう訊ねた俺に、じいさんは破顔して語りだした。
『巨人があのような姿となったのも、彼の者らの争いによって土地が荒らされぬよう神々が憂慮した結果なのじゃよ。ああなっては相手を傷つけることもできぬ。身体と共に痛みも分け合っておるゆえにのぉ』
さも愉快そうに哀れな巨人の境遇を笑うじいさん。
「さてはこのじいさんがカミサマ本人なんじゃね?」と疑うほどだった。
それはさておき、ようやくボス攻略のヒントが得られた俺は、そのままギルトシュタインへ取って返し、同じく徹夜を敢行していたレイドリーダーのリンドとアルゴへこの情報を伝えた。
説明を終える頃にはもう朝になっていて、その日はユキノとの決戦日でもあったために眠れず。ユキノを説得してからも《軍》へ話をつけに行ったり、新しく仕入れた情報を加えての作戦立案をしたり、ボス戦に向けての準備をしたりと、色々あってほとんど寝る時間はなかった。
いったい何十時間労働なんだ……。これじゃあブラック通り越してエスプレッソだ。とても眠気の覚めそうな職場だなと思いましたまる。
とまれこうまれ。
こうして巨人の仲の悪さにつけこんだ『オデコごっつんこ大作戦♪』はこのように相成ったのである。なんて頭の悪い作戦名だ。名付親がアルゴじゃ仕方ないね!
発案と命名はともかく、効果は驚くほど高かった。
一回目は《気絶》と仲違いによる追加ダメージを稼げた。
二回目は《気絶》こそしなかったものの、ケンカダメージが倍増していた。
三回目に至っては短髪無精ひげの方が、長髪顎ひげの方を殴り倒してしまった。残りHPはきっちり半分まで減って最後の一段に食い込んだ。
残った方の頭も痛そうに呻いてたあたり、巨人的には苦渋の決断だったのかもしれない。
その後、頭が一つになった巨人は戦い方が豹変した。
静かになった方の頭が担当していたのだろう斧を捨て、大剣を手に駆け出したのだ。
どうやら左右の頭で半々ずつコントロールしていた身体が、脳みそが一つになったことで統一されて軽快になったようだった。
『オデコごっつんこ大作戦♪』の効果に高揚半分、戸惑い半分で構えていた攻略レイドは、巨人の豹変ぶりに驚愕して固まってしまった。
被害が出なかったのは《血盟騎士団》のお陰だ。
まっさきに進路へ立ち塞がった《血盟騎士団》のリーダーに続き、5人のメンバーも揃って盾を並べ、巨人の強烈な一撃を防いでみせた。
リンドの喝で気を取り直すことができたのは、その時間を稼いだ彼らの尽力の賜物だ。
その後はふたたびプレイヤー側に流れが傾いた。
全長6メートルの巨体で暴れる巨人。
けれど左手の斧は捨てていて、死角をカバーする片頭が沈黙したせいでソードスキルは連発できない。頼みの《鎧》も背中までは覆っていないと判れば最早こっちのものだ。
正面にタンクを集めて防ぎ、後ろへ回り込んだアタッカーで攻撃する。
単純で使い慣れていて、けど25層が始まってからは通用しづらかった戦法が、巨人には面白いほどにハマった。
じいさんの話からして脳筋っぽかったし、頭の一つ一つはバカなのかもしれない。
リンドの指揮の下、《ギルド連合》は一丸となってボスに挑みかかる。
やがて攻略開始から2時間が経過した頃――。
ついにボスのHPが赤く染まった。
あれだけあったHPもあと僅か。
もう少し。あと少し。
そう誰もが思った――そのとき。
『ヴォアアアア!』
ボスが猛烈な雄たけびを上げた。
こういう兆候を見せたときはほぼ必ず何らかの特殊な攻撃をしてくる。
「何か来る! 注意しろ!」
リンドが広間全体に呼び掛ける。その声で浮足立っていた連中もハッと身構え直した。
ボスは鼻から大きく息を吐いた後、バカでかい剣を逆さにして持ち上げた。
柄を両手で握り、剣先を下に向け、弓を引き絞るように両手を高く持ち上げる。
意図を悟って動き出したときにはもうギリギリだった。
「うおっ……と!」
とてつもない勢いで突き立てられた剣から衝撃波が広がる。辛うじて跳んで回避したそれは瞬く間に広間全体へ拡散し、48人のプレイヤーのほとんどを呑み込んだ。
視界左側に並ぶHPゲージが軒並み減少する。パーティーメンバーのHPゲージがそれぞれ3割ほど削られていた。直撃したわけでもないのに、威力高すぎだろ。
だが事態はそれだけにとどまらなかった。
ダメージを受けた4人のゲージ――その脇に稲妻のアイコンが表示されたのだ。
おいおい、《麻痺》とかでたらめすぎるだろ!
《
威力や耐性にもよるが、数秒から下手をすれば数分もの間、ほとんど動くことができなくなるのだ。手先だけはゆっくりとなら動かせるから結晶を使えば《麻痺》を解除することもできるが、それにしたって十数秒はかかる。
剣を引き抜き、獲物を物色するボスを前にして、その時間は長すぎる。
ここで倒しきるしかない。
そう思ったときにはもう駆け出していた。
駆け寄るうちにボスの目が一つの方向で留まる。
その先にいるのは集団の最前で倒れるリンドだ。
みすみすリーダーを死なせるわけにはいかない。
リンドをあいつの――ディアベルの二の舞にさせてはならない。
「よそ見してんじゃねぇよ!」
全速力で接近してからの《ツインスラスト》を膝裏に叩き込んだ。足元へのダメージにさしもの巨人もたたらを踏む。
それでもボスのHPはほとんど減っていない。
俺の軽い一撃じゃあ手数が足りないのだ。
出し惜しみできる状況じゃない。
後ろの連中に見られてしまうが、今はこの場を切り抜けるのが最優先だ。
決断したらあとは行動するのみ。
槍を突き出した体勢から最小限の動きで《
ここまですでに7つのスキルを繋いだ。練習では成功率3割ってとこだったが、土壇場で上手くいってよかった。
とはいえ、この先の8つ目。
これは今まで一度も成功したことがない。
現にソードスキルの待機姿勢を取っているにもかかわらず、槍の光は明滅していて安定しない。いつもならこのまま光が消え、硬直しながら無様に落下するだけだ。
けれど今回は、今回だけは成功させなきゃならない。
軋む全身に神経を張り巡らせ、ブレる槍を無理やり抑え込み、巨人の額その一点だけに集中する。
体感時間の引き延ばされた一瞬が経過した後――。
明滅が収まり、深紅の光が槍を包んだ。
「……らぁ!」
内心で「ゲイ・ボルク!」と叫びながら槍を投げ放った。
《デスペレイト・ジャベリン》。
名前の通り、装備している槍を全力投球するソードスキルだ。
有効射程距離はおよそ30メートル。飛翔時間はゼロコンマ2秒。
威力は他の《槍》ソードスキルと一線を画す超強力なもので、両手剣の単発重攻撃に匹敵する。
投じた槍は過たずボスの頭部に直撃した。
それまでの連撃と合わせ、ボスの残りHPの約半分を削った。
悲鳴を上げるボスの前で、スキル後の硬直に縛られ無様に落下した俺は、周りのプレイヤーと同じように石畳の上に転がった。ついでにHPが1割ほど削れた。
この強力なソードスキルの欠点は2つ。
一つはスキル後の硬直の長さ。
きっかり15秒という、とんでもなく長い硬直を強いられる。
もちろん、こんなものをホイホイ使っていたら、硬直中にタコ殴りに遭って殺されるだろう。
乾坤一擲。文字通りのイチかバチかなスキルなのである。
そしてもう一つ、このソードスキルには重大な欠点がある。
「……強化値+7までいってたのになぁ」
投擲した槍は耐久値が全損し、お亡くなりになってしまうのだ。
お陰で22層から使い続けてたお気に入りを失ってしまった。鍛え直しとかホント勘弁して欲しい。ただでさえ職人クラスとの付き合いがなくて苦労してるってのに……。
とはいえ、後悔している場合じゃない。
一気に大ダメージを与えたせいで、ボスの目は完全に俺へ向けられていた。お陰でリンドへ向いていた視線は逸れ、鼻息荒くこちらへ歩いてくる。
スキル後硬直を強いられてる中であの大剣の一撃を喰らえば、紙装甲の俺なんてあっという間にお陀仏だろう。
腹の奥がキュッと締め付けられる感覚。
けれど恐怖はそれほどでもなかった。
「おおぉぉ!」
もう一人、動けるやつがいることはわかっていたから。
雄叫びと共に飛び込んだキリトの六連撃技《スター・Q・プロミネンス》が、ボスの無防備な背中で炸裂した。
筋力値の高いキリトだけに、一撃一撃がガリガリとボスのHPを削っていく。
断末魔の叫びを上げる巨人。
確実に減少していくHPはそのままゼロまで――。
届かなかった。
技を終え、キリトの身体が固まる。
ボスが新たな狼藉者へと向きを変え、剣を振りかぶった。
大剣の切っ先が頂点で止まり、やがて動き始める。
「キリトくん!」「キリト!」
誰かの悲鳴が上がる。
けれど無慈悲な巨人は止まらない。
驚愕の表情を浮かべるキリトが目を閉じ、その頭上に大剣が振り下ろされる。
その瞬間――。
「むん!」
白銀の影が割り込み、長大な盾で大剣を受け止めた。
一瞬の拮抗。滑る剣。割れる盾。
ポリゴンの舞う中、クリムゾンレッドに染まった剣がボスの胸元を一閃した。
静寂が広間を包む。
この場の全てのプレイヤーが固唾を飲んで見守る中、ほんのわずかに残っていたボスのHPは今度こそゼロになり、消えた。
強烈な光が弾ける。
思わず目を閉じ、ゆっくりと開く。
ボスを構成していた欠片が晴れたその場所には、一人の騎士が立っていた。
後に《聖騎士》と呼ばれるヒースクリフの、鮮烈なデビューの瞬間だった。
次回で2章は完結となる予定です。
……終わる予定です。メイビーネ!