やはりSAOでも俺の青春ラブコメはまちがっている。 作:惣名阿万
みなさんGWは楽しまれていますか?
GW前半は別のことに手を出していまして、こうして少々遅くなってしまいました。申し訳ありません。詳細はあとがきにて。
というわけで、第3話です。
よろしくおねがいします。
世の中は罠に満ちている。
黒板消し落としのようにベタなものもあれば、テレビ番組で見るような手間と時間と金の掛かった大掛かりなものまで、罠やトラップと言われて思いつくものは多い。
あるいは偽のラブレターや嘘告白なんかで精神的ダメージを与えるものもある。
そんなもの引っかかるわけないと思っていたが、実際にやられたら舞い上がって騙されるのは必定。同じクラスだった中島は絶対に許さないリストのトップ。
罠を張るのは子どもだけじゃない。大人だって罠を張る。
よくある話じゃあ政治家が政敵を陥れるために仕掛けるらしいが、実際は政治家だけじゃなくそこらの会社でも上役の政争はままあるって話だ。むしろ子どもがやるより徹底的で陰湿で悪質なぶん余計に質が悪い。
世に言うブラック企業も罠の一つと考えていいだろう。
耳障りのいいことだけ聞かせて、実際の状況はひた隠し。雇用後は反抗する気力もなくなるほど徹底的に働かせ、追い込み、壊れたらあっさりと切り捨てる。これを罠と呼ばずしてなんと呼ぶのか。ブラックだな。
噂じゃ公務員すら真っ黒らしい。国や地方自治体が直轄してる組織が黒いとか、もう日本に黒くないとこなんてないんじゃなかろうか。坂本さん、もっかい洗濯してくれないかなぁ。
というわけで、やっぱり一番ホワイトなのは専業主婦である。最近じゃなりたがる人も少ないらしいし、人手の足りない仕事に就こうとするのは褒められこそすれ、貶められていいはずがない。なれる!HW。
俺の就職希望はともかく、世の中には罠がたくさんあるし、なんなら一生罠に気を付けて生きなくちゃならない。人生という高難度クエストに比べれば、RPGのトラップとか大したことないのかもしれない。
とはいえ、こればっかりは例外だ。
SAOの中でも最悪のトラップの一つ――この《アラーム・トラップ》は。
「サチ!」
「みんな!」
キリトとケイタが飛び込んだ部屋へわずかに遅れて突入する。
直後、目の前に広がった光景に息を呑んだ。
見渡す限りの敵、敵、敵。
その数は十や二十じゃ下らず、百平米は優にある空間を埋め尽くさんばかりだ。
顔ぶれこそ低級のゴーレムや《ゴブリン・ドワーフ》といった大したことのないmobばかりだが、なんせその数が異常だった。
おまけに室内にはけたたましいアラーム音が鳴り続いていて、音の発生源をどうにかしないとモンスターは半永久的に湧き続けるのだ。
部屋の奥からはキリトやケイタのものとは違う声が聞こえてくる。
黒猫団の連中と決まったわけではないが、誰かが奮戦しているのは間違いないだろう。
この数を相手に逃げていないのを見るに、ここは
先に斬りこんだキリトとケイタはすでに半狂乱になって敵を攻撃している。手近なゴブリンやゴーレムが次々に斬り倒され、ポリゴンの欠片となって消えていく。
だが祭りの人混みよろしくひしめき合うmobの集団は、一向に減る気配がなかった。
このままじゃ埒が明かない。
向こうで戦ってる連中がどれだけもつかわからないし、あんまり時間を掛けたら俺たち自身も危ないのだ。
《アラーム・トラップ》の厄介なところは、アラームが鳴っている間中敵が出現し続けることだ。いくら一体一体が弱かろうと数の暴力には勝てない。
だからまずやるべきことはアラームを止めること。それには《罠解除》を使うか、音の発生源を壊せばいい。
今はモンスターの群れの中にあって見えないが、大体部屋の真ん中あたりにあるだろう音源を止めるか壊すかすれば、後は残ったmobを蹴散らすだけでいい。
なら、必要なのは跳躍力と突破力だ。
「エギル、正面をこじ開けろ。その後は《ウォークライ》からの防御だ」
「任せろぉ!」
返事を背中に聞きつつ、駆け出した。
入り口付近で暴れまわるキリトとケイタを押し退け、エギルの攻撃する間隙を作る。
直後、エギルが両手斧ソードスキル《エクスプロード・カタパルト》で正面に並んだゴブリンやゴーレムをまとめて吹き飛ばした。生まれた隙間の向こうに宝箱が見える。
「アレか!」
再度ダッシュして、起き上がりつつある敵集団の目の前で《軽業》スキルを発動。スイングされたゴブリンのつるはしを避け、生じた空間の上を飛び越えていく。
着地したところを狙ってきたゴーレムは槍の一振りで黙らせ、けたたましい音を出す宝箱の前へたどり着いた。
ここから《罠解除》スキルのない俺が取れる手立ては一つ。
槍を振りかぶって、穂先を宝箱へ叩きつけ――。
「っ! くそ、めちゃくちゃ硬ぇ!」
なんだよコレ。こんなもんキリトみたいな馬鹿力でもなきゃ壊せねぇだろ。
悪態を吐いてる内にまたゴーレムが襲ってきたので一度《ヘリカル・トワイス》でスペースを確保する。一応ソードスキルに巻き込んでみたが、やはり宝箱は壊れなかった。
どうする。このまま地道に殴っていれば壊せるかもしれないが、いつまでも囲まれてる中にいたら俺の方がヤバイ。なんといっても紙装甲だし。ゴブリンだろうがゴーレムだろうが、2、3発殴られたら終わりだ。
《体術》スキルの《水月》でゴブリンを蹴り飛ばし、《軽業》のバク転で硬直をキャンセル。着地と同時に槍を薙ぎ払い敵を遠ざける。
極力ソードスキルは使わず、槍での攻撃と隙の少ない《体術》でとにかく攻撃を受けないように立ち回る。
くそっ、これじゃあジリ貧だ。どうにかしてアラームを止めないことには敵は減らないし、敵が減らなきゃユキノたちもむやみに突入できない。
そう思いつつmobへの攻撃の合間に宝箱を殴りつけるも、なかなか壊れる気配はない。
かといってそちらばかりに集中するわけにもいかず、迫りくるmobを遠ざけるために宝箱を背に槍を振るった。
そうして戦っている内にふと、あることに気付いた。
周囲を敵に囲まれてる現状、攻撃はどうしても範囲技か薙ぎ払いばかりになる。敵も一方から来るわけじゃないのでその都度向きを変えて。
するとくるくる回りながら戦うことになるんだが、そのとき自然とはためく布が目に入った。
濃い灰色の、影のような布。
俺が着ている、最近もらったばかりのマントの生地だ。
こいつをくれたのはサチで、名前は《シーカーマント》で――。
「……あるじゃん、《罠解除》」
思い出すのは25層突破を祝うパーティーでのこと。
あのときサチがこのマントをくれたとき、こいつのプロパティには確かに《罠解除》の文字があった。
俺自身が《罠解除》スキルを持ってないために効果は最低限だが、このまま延々と効いてるのかわからない打撃を続けるよりはマシだろう。
迫るゴブリンを隙の少ない《スラスト》で押し返し、わずかな隙にうるさく騒ぐ宝箱へ向き直る。
槍を左手に持ち替え、右手の人差し指で宝箱に触れる。するとわずかなタップ音と共にウィンドウが現れ、『罠解除』の選択肢が表示された。
迷わず押す。直後、アラームが急激に小さくなっていき、やがて嘘のように止まった。
静かになった室内に、困惑したようなゴブリンの呻きが漏れる。あれだけつるはしを振り回していた手も止まり、キョロキョロとあたりへ視線を配っている。
一瞬の静寂。
状況の変化に気付き、それを頭で理解した面々は――。
「総攻撃!」
ユキノの号令で出し惜しみのない攻撃を開始した。
俺も鳴かなくなった宝箱を背にゴブリンやゴーレムに攻撃を加える。
とはいえ、相変わらず囲まれてることには変わりないので回避を最優先に。
だが確実に数を減らせるよう、残りHPの少ない敵から順に狙って攻撃していった。
徐々に敵の数が減り始め、mobの間に隙間もでき始める。その結果、俺のいる部屋の中央部からも入り口付近の状況が見えるようになった。
敵の攻撃の波が緩くなったのを見計らい、派手な光芒が瞬く方へ視線を向ける。
そこでは思わずこちらが引いてしまうような光景が繰り広げられていた。
敵の無限湧きは止まり、あとは片っ端から倒していくだけ。
となれば、主役はより殲滅力のあるプレイヤー――キリトになる。
「うおおぉぉ!」
雄叫びを上げて、キリトが縦横無尽に暴れ回っていた。
五連撃技のソードスキルで三体のゴブリンを倒し、硬直が解けるや否や今度は四連撃技でゴーレム二体を消し飛ばす。些細なダメージは無視して突進技でゴブリン二体を串刺しにする姿は、完全に
キリトの後ろで両手剣を振るうケイタも結構な迫力だが、目をギラつかせて暴れるキリトはもはや鬼の形相だった。今ならあいつ一人でフロアボスも倒せるんじゃないかってぐらいに。
主にキリトの活躍で敵は瞬く間に倒れていき、やがて最後の一体が消滅した。
十五分ほど前には敵mobで埋め尽くされていた部屋はがらんどうになり、立っているのは俺やユキノ、アルゴにエギル、キリトとケイタと、そして――。
「ハァ……ハァ……」
「俺……たち……」
「生き、てる……?」
装備はボロボロ。肩で息をしていて、表情には疲労の色が濃く出ている。
先頭の青年は盾に縋りつくようにしてどうにか立っている有様で、一番奥の少女はぺたりと座りこんでしまっていた。残る二人も満身創痍なのは同じ。
けど、生きていた。
テツオも、ダッカーも、ササマルも、そしてサチも、みんな生きていた。
「みんな……」
「……ケイタ? どうして……」
ケイタが進み出る。四人は彼を見ても呆然とするばかり。
たぶん、まだ理解が追いついてないんだろう。
死に物狂いで戦って戦って戦い続けて……。何時間ここで戦っていたのかはわからないが、生き延びるために必死で戦い、粘り続けたのだ。
「サチ!」
「キリ、ト……? ……キリト! 私……私……!」
キリトがサチに駆け寄る。サチはキリトを見上げ、だんだんと状況を飲み込むと、目に涙を浮かべてキリトの胸に飛び込んだ。
「大丈夫。もう大丈夫だ。みんな、ちゃんと生きてる」
胸に顔を埋めて泣くサチ。
キリトはサチの肩に手を乗せ、穏やかに微笑んだ。
うんうん。完全に蚊帳の外ですねわかります。
まあ、危うくギルドが壊滅するところだったのだ。野暮なことは言うもんじゃないだろう。
ちらっとユキノに目を向けると、彼女は微笑んで頷いた。
「んじゃ、先に帰るか」
ユキノに言って、アルゴとエギルにも了承をとる。
その際、エギルはやれやれと頭を掻いていただけだったが、アルゴはニヤニヤ笑いを浮かべながら「これはいいネタになるナ!」と恐ろしいことを呟いていた。キリト、お前あとでふんだくられるぞ……。
× × ×
一時間後。
一足先に《ロンバール》へ戻り、転移門広場近くの店で食事をしていた俺たちのところへ、黒猫団の六人がやってきた。
六人は揃ってテーブルの横に並び、全員が一斉に腰を折る。
「迷惑をかけてすまなかった。それと、助けてくれて本当にありがとう」
代表してそう言ったケイタに追従し、五人が謝罪と感謝を口にした。
うんうん。礼儀としてはまともだし、実際苦労したから礼を言われるのはいいんだが、きみたちもうちょっと場所を考えようね。ほら、他のお客さんだっているんだから。
「とりあえず、座ったらどうかしら」
ユキノが困ったような口調でそう言うと、六人は顔を見合わせてから店内をそっと窺い、やがて恥ずかしそうに隣のテーブルを寄せてきた。
全員が腰を下ろしたところで、もう一度ケイタが頭を下げる。
「改めてお礼を言わせて欲しい。あなたたちがいなかったら、みんなは助からなかった」
「俺とケイタだけじゃあのモンスターの群れは突破できなかったし、そもそもみんなを見つけることもできなかった。本当にありがとう」
次いでキリトが頭を下げ、すると自然に残り四人も頭を下げる形になった。
さっきほどじゃないが、これはこれで周りの視線が痛い……。
「無事だったならよかったじゃないか。あとは今後、同じようなことにならないよう気を付けるだけだ。そうだろ」
エギルが大人の対応で口火を切ると、それにユキノが続いた。
「そうね。あの大群の中を生き延びることができたのだから、自信を持っていいんじゃないかしら。これからはしっかりとした情報収集と適切な対応を心掛ければいいと思うわ。あとはそうね、どこかの誰かさんのように無茶をしないことかしら」
ハハハ。いったい誰のことですかね。
「オイラとしては、キー坊の美味しいネタを仕入れられたってことで満足しておくヨ。……あの場所の攻略情報が間に合ってなかったのは《FBI》の責任でもあるしナ」
「おいアルゴ、なんだよネタって。お前まさか……」
「いえ、そんな! 僕たちが先走ったのが悪いんです。寧ろ《FBI》の攻略本にはいつもお世話になってて……」
「そうかい? じゃあオレッちはどういたしましてと言っておくヨ♪」
哀れキリト。アルゴのペースに飲まれて追及できなくなっている。
しばらくの間はこれをネタに働かされることだろう。なにせアスナにバレたらあいつ、背中から刺されそうだしな。
エギル、ユキノ、アルゴからの『御言葉』を受けた彼らは、ちらっとこちらへ視線を向けてきた。
キリトとサチを除く四人の顔には『気まずい』と楷書で書かれているように見える。
「その……」
ケイタがなにやら言いにくそうに口を開く。が、その後がなかなか続かない。
ふむふむ。なるほど。
これはアレですね。気の利いたセリフを言う場面ですね。
「俺に感謝とかする必要ないぞ。お前らを助けたのはキリトで、知恵を出したのはユキノで、それにエギルとアルゴが協力した。俺はこいつらが動きやすいようにしただけだ。だから迷惑とも思ってないし、感謝してもらう必要もない」
こう言っておけばこいつらの溜飲も下がるはずだ。
なんせこいつらにとって俺はギルドをバラバラにしかけたマイナー野郎だからな。今回は助けられたとはいえ、そうそう割り切ることもできないだろう。
さあ、これで話は終わり。さっさと飯食って帰って寝よう。
そう思ったのだが――。
「ハァ……」
隣のユキノがあからさまにため息を吐き、頭を抱えたのを見て思わず振り返る。
「あなたは本当にどうしようもないわね。謝罪くらい素直に受け取れないのかしら」
そんなしみじみと言われることですかねぇ……。
というか、迷惑じゃないって言ってるのに、謝罪されることなんか何もないだろ。
訳がわからずにいると、ユキノはケイタらに顔を向けて言う。
「あなたたちも、つまらない意地を張るのなら早々にお帰り願えるかしら」
意地? なんのことだ?
と、今度はサチがいつになくムッとした顔でケイタの肩を押した。
彼女の隣ではキリトが苦笑いを浮かべている。
「…………その」
やがて、ケイタが視線を泳がせながらも切り出した。
「今まで謝らずにいて、ごめん」
なんか謝られるようなことしたか? まるで心当たりがないんだが……。
そう思っている間に、向かいのテツオが続いた。
「誤解だっていうのはわかってたんだけど、なんだか謝りづらくて」
ササマルが後を引き継ぐ。
「それでも、今日生き残れたのはガードがしっかりできたからで……。それは結局、あのときのことがきっかけだったんだと思う」
そこまで言われて、ようやく何の話をしているのか見当がついた。
あのとき、なんて曖昧な表現なのに、いつのことを言ってるのかわかってしまった。
「今さら何言ってんだって話だけどさ。その、やっぱちゃんと謝んなくちゃって……」
ダッカーはそう言って唇を噛んだ。
言葉の続かない彼に代わって、ケイタが口を開く。
「俺たちギルドの問題なのに、ハチには随分と迷惑を掛けてしまった。本当に申し訳ないと思っているし、同時にすごく感謝もしてるんだ」
ちらっとサチへ視線を送ると、なんだかいい笑顔で頷かれてしまった。
キリトの方も似たようなもんで、こっちは世話が焼けるなーとでも言うように納得顔を浮かべている。なんだろう。ハチマン、イライラする。
……なんというか、つまるところすべて明らかにされてしまったということだろう。
サチもキリトも、ケイタら他のメンバーに話してしまったわけだ。
《タフト》で俺がケイタたちを攻撃した理由も、その目的も、彼らは既に知っていたのだ。
なんならさっきの発言的にユキノも知っていたまである。
ユキノとキリトとサチと。三人ともがこの機会を窺っていたのかもしれない。
椅子の背にもたれて天井を見上げる。思わず、ため息が漏れた。
なんだか無性に疲れた気がするし、肩の荷が降りたような気もする。
とはいえ、決して嫌な気分というわけでもなかった。
というわけで、3話でした。
次回更新は早ければGW中、遅くとも来週には仕上げられたらと思います。
《追伸》
前書きでも少しだけ触れましたが、GW前半に本作とは別の短編を執筆していました。
https://syosetu.org/novel/190090/
『ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド』を原作とした独自解釈モノとなっております。
お手すきの際にでもぜひ読んでいただけたら嬉しいです。