やはりSAOでも俺の青春ラブコメはまちがっている。   作:惣名阿万

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まだまだ寒い日が続きますね。
最近は寒さのせいか引きこもりがちで、休みが続くと二、三日外出しないなんてこともある始末。炬燵でミカンは正義ですよね。



なんて、どうでもいい話はさておき。
第9話です。少し長くて迷走気味ですが、よろしくお願いします。


第九話:それでも、比企谷八幡は――

 2023年11月24日。

 アインクラッド第47層フロアボス攻略戦は大詰めを迎えていた。

 

 

「触手攻撃が来る。B、D隊、前へ。C隊はこの隙に背後へ」

「了解。行くぞお前ら。走れぇ!」

「A隊はB隊と交代の用意を。我々E隊はその間、ボスの注意を引きつける」

「わかった。よろしく頼む」

 

 そのとき、巨大な食虫植物のようなボスが地面に無数の触手を突き立てた。

 ボスのHPは既に大半が失われており、ちょうど最後のゲージが赤く染まったタイミング。毎度恒例、死に際の悪あがきだ。

 

「団長! ボスのHPが回復し始めました!」

 

 騎士の一人が振り返り叫んだ。その声には逸るような色こそあれど焦りはない。それはそいつ一人だけに限らず、この場にいるほとんどが同じだった。

 理由は単純。ここにいる全員が、ボスのこの行動を知っていたから。

 

 『この階層の主は命の危機に陥ると、大地から生命力を吸収する』――47層で受けられるクエストにてもたらされる情報だ。数多く見つかったボス関連の情報の一つで、死に際の行動に唯一言及しているものだった。

 

 撃破目前の特殊な行動については毎層の定番で、だからこそ事前の会議で周知され、対策も十分に議論された。

 だから待っていたとばかりに逸る気持ちの方が強くなるのも仕方ないことだろう。気持ちが先行してミスをするほど経験の浅いやつもいないから問題ない。

 

 考案された対処法は三つ。短期決戦、妨害、持久戦だ。

 

「情報通りか。――作戦変更。E隊を除く全隊は各個全力攻撃。ボスの体力を削りきる」

「了解。全員行くぞ! ラストスパートだ!」

 

 今回のレイドリーダー――ヒースクリフは総攻撃による短期決戦を選んだらしい。

 確かに回復スピードはそれほどじゃないし、触手もほとんどが地面に立っているからボスの攻撃手段も少ない。本体に加えて触手にも攻撃できるとなれば倒しきることも可能だろう。

 

「各自散開して攻撃。本体へはハチくんとキリトくんが、残りは触手の排除を」

 

 走りながらユキノが簡単な指示を出す。大雑把だが、俺たちF隊は例によって余りものの集団なので、ある程度個人の裁量に任せた方が上手くいく。

 

 指示通り、集団を抜けてボス本体へ駆け寄る。キリトよりも敏捷値の高い俺が先行し、ソードスキルを発動。そこから《体術》を織り交ぜて四つのスキルを繋げた後、飛んできた棘を宙返りで回避する。

 ボスの反撃が空振りに終わると、空いたスペースへキリトが飛び込んだ。

 

 一瞬、キリトの視線が空中にいる俺を捉える。それから口元に小さく笑みを浮かべ、ペールブルーに輝く刀身を振り上げた。

 ライトエフェクトを引いて、キリトの剣がボスの身体を斜めに切り裂いた。片手剣の単発技《スラント》だ。衝撃と音が周囲に響き、ボスのHPが僅かに減少する。

 

 そんなキリトのらしくない(・・・・・)攻撃を見て、ふと考える。

 

 おかしい。どうしてキリトはあんな技を放ったのか。今ボスは大きな隙を晒していて、脅威になるような反撃はないというのに。

 大技好きなキリトのことだ。大きなダメージを稼ぐなら、もっと手数も多く威力も高い技を使ってもおかしくない。

 

 いくらあいつのSTR(筋力値)が高いとはいえ、あんな初歩的なスキルで与えられるダメージはたかが知れている。《体術》と《投剣》を繋げて手数を稼ぐ俺ならともかく、一撃の大きなキリトがそうする理由はない。

 

 加えてさっきのキリトのあの視線。意味深なあの眼差しの意味はいったい……。

 

 と、そこまで考えてようやく思い至った。

 

「そういうことかよ、くそっ。これだからセンスの塊は」

 

 土の地面に着地し、左手で握り拳を作るキリトを見た瞬間に確信した。

 

 なるほど。そりゃそうだ。俺にできてキリトにできないはずがない。

 敏捷値極振りな俺の槍や、俺には視認もできないユキノの一閃すら防ぐことのできるあいつが、タイミングさえ掴めば誰にでもできる(・・・・・・・・・・・・・・・・・)技術をモノにできないはずがない。

 

 キリトの拳が輝きを纏って突き出される。

 《体術》スキルの基本技《閃打》。威力も低く射程も短い代わりに隙が小さく、ほぼどんな体勢からでも発動できるのが売りのスキルだ。俺もよく使う。

 

 キリトの拳がボスの身体を捉え、HPが極僅かに減少する。それでも一発の軽い俺が打つよりもはるかに大きなダメージだ。しかも、それで終わりではない。

 左手を打ち込んだキリトは当然左半身が前に出た体勢で、それはつまり右手の剣は自由に構えられるという意味でもある。

 

「はあっ!」

 

 続く雄叫びと共に、三撃目が放たれた。垂直四連撃技《バーチカル・スクエア》は無防備なボスのHPを一撃ごとにごっそり削っていく。赤く染まったHPバーが残り一割ほどにまで落ち込んだ。

 

 キリトの猛攻に加え、実に42人の総攻撃を受けるボスのHPは回復を含めても尚減る一方で、触手や棘による悪あがきを繰り出しても歯止めはかからない。

 各所で攻勢をかけるプレイヤーたちはこのまま押し切れると確信して我先にと攻撃を激しくさせている。

 

 このままあと十秒もすればボスは倒されるだろう。毎度恒例のラストアタックボーナスは今この瞬間も激しく攻撃している誰かのモノになるに違いない。

 

 ――なんて、みすみすくれてやるわけにはいかないんだよ。

 

 急いでメニューウィンドウを開き、あらかじめ登録してあったショートカットコマンドを発動。右手の槍が瞬時に溶けて消え、代わりに別の槍が姿を現した。

 これは《クイックチェンジ》といって、武器の持ち替えを瞬時に行える補助スキルだ。

 

 新たに出現した槍を強く握る。穂先はシンプルだが鋭利で、柄は軽く短めないわゆる『投擲槍(ピルム)』。ただ一度きりの目的のために用意したそれを、俺は弓を引くように構えた。

 

 一拍遅れてシステムが挙動を感知し、槍が深紅の光に包まれる。短い装填時間が終わり、いつでも投擲できる体勢が整う。だが、まだだ。もう少し、あと少し待って……今だ!

 

 キリトの連撃、そして他の連中の攻撃も合わせて虫の息となったボスに向け、俺の出せる最大威力のソードスキル、《デスペレイト・ジャベリン》を撃ち放った。

 長い硬直と武器の損失を代償とするこのスキルは、その分最低限のSTRしか持たない非力な俺でも大きなダメージを稼げる一発逆転技だ。撃破目前のボスのHPを確実に削りきるには、もうこれしか方法がない。

 

 極短い飛翔の後、槍はボスの胴体に突き刺さった。ひときわ大きな悲鳴を上げて、ボスが身体を硬直させる。同時に針くらいまで細くなっていた赤い線(HP)が消え、空になった五本のバーがまとめて消失した。

 

 やがてボスは青白い光の塊となり、大きな破砕音とともにバラバラに飛び散った。

 攻略の完了を示す《Congratulations》が浮かび上がり、がらんどうとなった部屋に歓声が満ちる。

 

 斯くして、たっぷり15秒のスキル後硬直が解け一息ついた俺の前に、今の戦闘のリザルトが表示された。獲得経験値、獲得コル、獲得アイテムとが一覧として現れた後、もう一つのリザルトウィンドウが出現する。

 

 【You got the Last Attack!!】という英文。それに続いて表示されたウィンドウには俺が掠め取ったラストアタックボーナスが表示された。

 アイテムの名前は《アームレット・オブ・ローレル》。効果は状態異常に対する耐性の強化と効果時間の軽減。かなり有用な効果だ。ふつうに嬉しい。

 

 と、LAボーナスを確認していた俺のもとへ数人のプレイヤーが近付いてきた。

 

「ハチくん、お疲れ様」

「お疲れ、ハチ」

 

 言いながらユキノとキリトが歩いてくる。戦果の確認と回復を終えたのだろう。どちらともが穏やかな笑みを浮かべていた。

 

「お疲れさん。今回もどうにかなったな」

 

 答えつつ、隠すようにウィンドウを消す。誤魔化すように薄ら笑いまで貼り付けて。

 自分以外に内容はわからないと知ってはいるものの、少しでも後ろめたさを繕おうということか。そんな無意識の行動すら気持ち悪い。

 

「……どうかした?」

 

 苦々しく思ったのが表情に出たのかもしれない。ユキノが目敏く気付いて訊ねてくる。

 とはいえ、訊かれたところで答えは決まっているのだが。

 

「なんでもない。というかキリト、お前あの連続技使えるの黙ってやがったな」

「あはは……。いや、ギリギリまで黙っておいて驚かせようと思ったんだけど、せっかく切り札切ったのにLA取り損ねたな」

「うるせぇよ。まったく、ひとの専売特許真似しやがって。しかもお前の方が一発一発が重い分滅茶苦茶ダメージ稼いでるじゃねぇか」

 

 恨めしげに睨んでやるも、キリトは「あれ、ヘイト管理が大変だよなー」なんてまるで応えてない。これだからセンスの塊は。

 諦めてため息を吐いていると、二人の後ろからケイタがやってきた。その向こうではエギルとアルゴが談笑している。

 

「たまに隠れて練習してたのはそのためだったんだな。心配して損した気分だ」

 

 ケイタは頭を抱えて大きく吐いた。その様子を見る限り、キリトは黒猫団の一員として、少なくともケイタとは打ち解けているようだ。

 

「型破りが服着て歩いてるようなもんだ。お前も苦労するな」

「まったくだよ」

 

 「そこまで無茶なことやってるつもりはないんだけどなぁ」と呟くキリトを見て、ケイタは苦笑いを浮かべる。ほんと、あいつの手綱を握るのは苦労するだろうに。合掌。

 

 斯く言うケイタも順調にレベルアップを重ね、最近ではボス戦にも参加できるようになってきた。今回もキリトと二人で参加し、同じパーティーで戦ったわけだ。

 

「まあでも、キリトのお陰で僕らも《連合》で活躍の機会をもらえてるわけだしね。キリトほどじゃないけど、僕も何かの役に立てていればいいかな」

「いや、俺たちのパーティーはどうしてもアタッカーに偏るからな。ガードのできる両手剣使いがいるのは助かる」

 

 言うと、ケイタは本当に嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

「そう言ってもらえると参加した甲斐があるよ。いずれは黒猫団みんなで来れたらいいんだけどね」

「レベル上げ、順調なんだってな。あんま無理すんなよ」

 

 そのうちキリトを含めた六人でパーティーを組んで参加なんてことも実現するかもしれない。そうなるとまたレイド枠争いが激しくなるな。当然、いい意味で。

 

 そんな、当たり障りのない、薄ら寒いまである会話をしていると――。

 

「…………」

 

 気付けばユキノがもの言いたげな眼差しを向けてきていた。

 責めるようでも訝しむようでもないのがまたわからない。ただじっと、何かを訴えかけるような目で見つめてくるのだ。

 

「……なんだよ」

「……いえ、なんでもないわ」

 

 問いかける声がきつくなってしまったのは余裕のない精神状態の表れだろうか。

 誰かに当たりたいわけでも、かといって慰撫してもらいたいわけでもないのだが、内心の焦りは知らず知らず言動に滲み出てしまう。

 

 俺の語調がきつかったせいか、ユキノはそれきり黙ってしまった。こちらとしても「何でもない」と言われたからにはそれ以上追及することはできない。

 だからこそ、気まずい。何が気まずいって、何か言いたげだったのはユキノなのに、こっちが訊いたら途端に悲痛な表情になるのが一番気まずい。

 

 キリトとケイタも、そして合流したエギルとアルゴもどうしたものか測りかねるようで、視線を俺たちの間で行ったり来たりさせながら、なんとも言い難い表情を浮かべている。

 

 わいわいと盛り上がる空間にあって場違いな気まずい空気は、けれど複数の闖入者によって破られた。

 

「少しいいだろうか」

 

 いかにも真面目な口調でやってきた人物へ目を向ける。

 そこには《連合》でも最有力なギルドのリーダーと、彼の仲間が立っていた。

 

「マナー違反なのはわかってる。けどそれを承知で訊かせてもらいたい。もしかしてだが、ハチ、君はまたLAを獲得したのか?」

 

 先頭にいたリンドが訊ねてくる。その後ろで《聖竜連合》のメンバーは一様に不満げな表情を貼り付けていた。

 

 リンドが自分で断った通り、この質問はマナー違反だ。というより、タブーに近い。

 

 以前、SAO攻略が始まったばかりの頃、当時の攻略集団の間ではLAボーナスの奪い合いでいざこざが絶えなかった。

 手に入れた人の物とする派と、攻略にあたるギルドで平等に分ける派で揉めに揉め、一時は殺し合いにすら発展しかけたのだ。

 

 それからしばらく主張は対立していたものの、最終的にはドロップした人の物とすることで決着がついた。

 某トンガリ頭は最後まで反対し続けていたが、多数決という民主主義の前に黙らざるをえなかった。

 

 以来、フロアボスやフィールドボスでの戦いで得られるLAボーナスについては、誰が獲得したかを探る真似は禁忌とされたわけだ。

 止めを刺したのが誰か明らかな場合でも本人に報酬を訊くことはせず、唯一獲得者が自分から打ち明けた場合のみ触れられる話題になる。そんな風潮が出来上がっていた。

 

 だというのにもかかわらず、リンドは俺に件の質問をしてきた。

 獲得してそうな候補者は他にもいたが、俺のところへ真っ先に来たからには何か思うところがあるのかもしれない。

 

 本来なら一蹴する質問。あるいは周囲がマナー違反を窘める場面だろう。けれど彼らの纏う雰囲気を察してか、後ろの五人はとりあえず静観の構えだった。

 ありがたい。変に話をややこしくして欲しくないしな。余計なやっかみを受けるのは俺だけで十分だ。

 

「だとしたら、どうする? まさか提供しろなんて言わないよな?」

 

 言うと、取り巻きの一人が「お前」と口を開きかけた。が、リンドはそいつを視線で黙らせると真面目な顔を崩さずに向き直る。

 

「もちろん、そんなつもりはない。けどもしそうなら、君はこれで3層連続でLAボーナスを獲得したことになる。加えて言えば42、44層はキリトだったが、43層は君だった」

 

 後ろから息を呑むような声が聞こえる。間違いなくキリトだろうが、別にあいつが気にすることもないだろう。むしろキリトのボス戦に対する貢献度なら妥当だとすら言える。

 

「……それで?」

 

 言外に「だからどうした」と告げると、さすがのリンドも眉をひそめた。

 

「俺たちは君が意図的にLAボーナスを狙ってるんじゃないかと疑ってる。例えばボスのHPが低くなってきたら攻撃の手を緩めて、確実にLAが取れるタイミングを狙ってるんじゃないかとね」

 

 ふむ、ほぼほぼ正解だな。違うのは「攻撃の手を緩めて」ってところぐらいか。タイミングを計ってるのは事実だし、そのために色々と手を回してるのも間違いない。

 

 けどまあ、それをここで正直に言うほど真っ当な性格じゃない。

 

「答える意味ねぇだろ、それ。俺が「そんなつもりはなかった」って否定したからってお前の後ろにいる連中は納得するのか? 疑うのは勝手だが、証拠もなしに言い掛かりをつけんじゃねぇよ」

 

 それで我慢の限界が来たのか、リンドのすぐ後ろにいたやつが口を開いた。

 

「お前! リンドさんが穏便にって言うから黙って聞いてれば、このマイナー野郎!」

「やっぱり狙って取ってるんだろ! ちょっとレベルが高いからって調子に乗るなよ!」

「おい、やめろ。言い争いはなしだって言っただろ」

 

 一人が爆発すれば残りが続くのは当然で、そうなるともうリンドが止めようとしても退き下がりはしない。

 

 嫌われ者の《マイナー》相手だ。何を言ってもこうなるのは目に見えていた。

 仮にこの場をどうにか取り繕ったところで、次回も俺がLAを取れば彼らは噛みついてくるだろう。口でなんと言ったところで貼られたレッテルが剥がれることはないのだから。

 

 しかも今回に限って言えば、彼らの疑いは的中しているのだ。正直に言おうが取り繕うが、俺に対する疑いや敵意が晴れることはない。煙に巻いておくのが一番効率が良い。

 

 そうして小さく息を吐こうとした。そのとき――。

 

 ふと、脳裏に誰かの声が響いた気がした。

 

 

 

『Never hurt him, I said. Otherwise…』

 

 

 

 感情の抜け落ちたような囁き声。

 けれど口元には笑みが浮かんでいて、それは後に続くセリフと一切相容れない。

 

 アイツがどんなことを考えてあんなことを言ったのかはわからない。

 けど、このまま《聖竜連合》と睨み合っていたらどうなるか。それを想像して、気が付けば口を開いていた。

 

「……いや、確かに俺の言い方が悪かった。謝る。だがLAに関しては偶然だ。手を抜いたり狙ったりしたわけじゃなく、ヒースクリフの各個全力攻撃って言葉に従っただけだ」

 

 絵に描いたような嘘、口から出まかせだ。

 事情を知ればなんて醜い自己保身だと思うだろう。実際、こんなことを何食わぬ顔で言ってる自分が気持ち悪くて仕方ない。いっそ嘘だと断じて欲しかった。

 

 だが、リンドは頷いた。

 表情こそ真面目なままだが、周りの仲間へ有無を言わさずに頷いた。

 

「それが聞けて納得した。だから話はこれきりだ。こちらこそ疑って悪かった」

 

 そう言って、リンドは踵を返した。

 仲間を促して振り返り、そのまま歩き去っていく。

 

 後ろ姿を見送ってから振り返る。五人はそれぞれ複雑な表情を浮かべていて、なんでもないと肩を竦めて見せてようやく和らいだ。

 

「……ああ、この後48層主街区で例によって祝勝会をするが、お前らはどうする?」

 

 口火を切ってエギルがそう言うと、それに乗る形でめいめいが答える。

 

「いいな、それ。俺たちは参加するよ。いいよな、ケイタ」

「もちろん。黒猫団のみんなも連れてきていいですか?」

「構わんぞ。人数が多い方が盛り上がるからな」

「んじゃあ、オイラも参加しよっかナー。今日は定休日だし、うちの『社員』も連れてっていいカ?」

「おいおい、『社員』ってお前……。まあ俺は構わねぇが」

「決まりだナ! いやー、まともに食べてないのもいたから、助かるヨー」

「なんてブラックな会社なんだ……」

 

 ドン引きするエギルとにっこり笑いのアルゴ。

 二人のやり取りを笑って見ていたキリトは、それからこちらへ振り向いた。

 

「ハチとユキノさんはどうする?」

 

 なんでもない、本当に気軽な口調での誘い。それが今は少しだけ嬉しく感じられる。

 

「私は……」

 

 ユキノは呟いて、それからちらっと視線を寄越してきた。あなたはどうするのかと、その瞳が問うていた。

 

 キリトも、ケイタも、エギルもアルゴも、きっと色好い返事を期待していただろう。

 他人の行動や言動の裏を読む癖は続いていても、彼らの言葉に裏がないことくらいはさすがにわかっている。

 

 だというのに――。

 

「悪い。俺はパスだ。やることあるからな」

 

 今はそれが、どうしようもなく他人事のように感じられた。

 こうして話している自分を、冷めた目で見ている自分がいた。

 

 俺が断ったのを見て、ユキノは短く息を吐いた。

 

「……ごめんなさい。私も少し、片付けなくてはならない用事があるから」

 

 穏やかに言って、小さく笑みを浮かべる。

 

「そっか……。わかった。それじゃあ、またな」

 

 キリトは寂しげに呟き、けれどすぐに表情を改めて片手を挙げた。

 そうして気を遣わせている自分に苛立つのに、だからといって行動を改める気にはならなかった。

 

「じゃあな」

「ではまた」

 

 簡単にそれだけを言って、盛り上がりの続く広間を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぜ、あんな嘘をついたの?」

 

 ボス部屋を出て階段を上がり、48層の入り口から主街区へ向かう道すがら。

 ユキノは唐突にそんなことを言ってきた。

 

「……なんのことだ?」

「とぼけても無駄よ。あなた、普段は人とのコミュニケーションが苦手なくせに、嘘を吐くときや誤魔化すときだけはやたら饒舌になるんだもの」

 

 思っていたのと斜め上な答えが返って来て、思わず振り向いてしまった。

 

「どんだけ人のこと観察してんだよ。なにお前、ストーカーなの?」

「そうね。現状の私はあなたのストーカーと言われても否定できないかもしれないわ」

 

 おいちょっと待てなに言ってんだこいつ。

 思わずドン引いた俺を見て、ユキノはくすっと笑った。

 

「冗談よ」

「質の悪い冗談はやめてねほんと」

 

 はぁ。マジで焦った。

 いや、ユキノが本当に俺なんかを付け回すストーカーになるなんてことはないとわかってはいたが、言われて見れば26層からこっちはずっと同じパーティーを組んでて、なんならほとんどの層で同じ宿の同じ部屋に泊まっているわけであれやっぱりなんかおかしくねこれいやでも……。

 

 あまりの突飛な発言のせいで思考の渦に飲み込まれていると、間隙を突くようにまたしても不意打ちが飛んできた。

 

「あの人のことが心配?」

 

 息を呑む。そして、それがこいつの作戦だったのだと悟った。

 顔を上げると、そこには穏やかな笑みを浮かべたユキノがいた。

 柔らかな眼差し。まるで「しょうがない人ね」とでも言うような、出来の悪い生徒の生意気な発言に困った恩師のような、優しい笑みだった。

 

 危うく漏れ出そうになる言葉を飲み込んで、どうにか虚勢を絞り出す。

 

「……なんの話だ。あの人とか言われても誰のことかわかんねぇよ」

「ダウト。また饒舌になったわね」

 

 言い当てられ、堪らず閉口する。

 今なにかを言うと、余計なことまで口走ってしまいそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは俺の問題だ。俺が自分でどうにかしなくちゃいけない問題だ。

 

 誰かに言って、そいつを巻き込んでしまうわけにはいかない。だから他人を頼ることはできない。

 

 以前とは状況が違う。これは必ずしも《連合》に利する事じゃない。

 寧ろ状況を悪化させる可能性すらある。だからユキノやあいつらの力を借りるわけにはいかない。

 

 故に、一人で粛々と行動するのだ。

 たとえ嘘と欺瞞に塗れようと。何度無理を重ねようと。

 

 アイツをこちら側へ連れ戻す(・・・・)ために。

 比企谷八幡にできることは、なんだ。

 

 

 

 

 

 

 









以上、第9話でした。
本章も残すところあと2話。可及的速やかに仕上げていきたいと存じます。
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