やはりSAOでも俺の青春ラブコメはまちがっている。 作:惣名阿万
二日目。
朝の暖かな陽が差す路上で、俺は雪ノ下と待ち合わせをしていた。
時刻は午前八時五十分。待ち合わせ時間の十分前だ。
休日はダラダラと遅くまで寝ていることが多い俺も、集合場所まで徒歩三十秒ともなれば遅刻することはなかった。着替えや身支度を含めたところで精々二分ほどだ。寝癖を直す必要なんかもない。
それもそのはず、ここは現実ではない。
《ソードアート・オンライン》というゲームの中なのだ。
目覚ましは頭の中に直接鳴り響いてくるし、着替えもボタン操作でちょいちょい、洗顔や寝癖直しはそもそも必要がない。挙句の果てに手荷物など一切なしでいいというのだから、準備に手間取る理由がない。
というわけで、準備も万端に十分前集合をしていたわけだ。
にしても、今日は暖かくて実に爽やかな天気だ。思わず欠伸が漏れるくらいに。こんな日は日がな一日ゴロゴロしているに限るのだが……。
「随分と大きな欠伸ね。ゲームの中でもあなたの引きこもり根性は治らないのかしら」
「……開口一番罵倒とか、随分と調子良さそうだなおい」
集合時間の丁度五分前になって雪ノ下がヤレヤレと首を振りながら歩いてくる。
服装は俺と大して変わらない。ビギナーが初めから来ているシャツと、下はスカートではなくパンツスタイルだ。配色は俺がモスグリーンと灰色の上下なのに対して、雪ノ下は水色とベージュの配色だ。
こいつの場合素材が整っているせいか、こんな簡素な服装でさえスマートに見える。
俺? 俺はアレだ。顔はともかく眼が腐ってるから。
俺の返答にくすっと笑みを漏らした雪ノ下は、すぐに神妙な顔になった。
「今日は付き合わせてごめんなさい。攻略に参加すると決めたものの、そのために何が必要か私は知らないから。あなたに頼りきりになってしまうのだけれど、他に当てもないし……」
「構わねえよ。元々、この街をいきなり飛び出すつもりもなかったしな」
「そう。なら、遠慮なく付き合ってもらうわね」
「はいよ」
どちらからともなく歩き出し、はじまりの街の商業区へ向かう。
俺は歩きながら、雪ノ下に揃えるべきもの、あったら便利な物を伝えていった。
回復用のポーションに毒や麻痺に対して効果のあるポーションなどの必需品。あとは携帯式のランタンや火種になるアイテム、寝袋なんかもあれば便利だろう。
全部が全部初めから揃えなくてはならない物でもない上にどう考えても初期に配られた金じゃ足りないが、これらのアイテムはいずれ揃えておきたいところだ。
ひとまず、ポーションだけは充分に用意しておく。
NPCの運営する露店で各種ポーションを買い込んでアイテムストレージに押し込む。雪ノ下もここは大人しく俺に倣い、同数のポーションを購入していた。
アイテムの買い物を終え、今度は得物の話になる。
攻略に参加するってことは、当然戦うことになってくるわけだ。となれば必須になるのが武器。SAOにはそれこそ数多くの武器があるが、それらを使うには対応したスキルを鍛えなきゃならない。だからほとんどのプレイヤーは使う武器を一つに絞ることになる。
厳密にはスキルがなくても武器を扱うことはできるが、それだとソードスキルが発動しない。ソードスキルなしで戦うのはSAOの戦闘システム的に果てしなく効率が悪いので、装備できるスキルの数が限られてるSAOだと、どうしても扱う武器は絞らなきゃならない。
「何を基準に選ぶのがいいのかしら……。比企谷くんは何を?」
「俺か? 俺は槍だな。リーチが長い上に狭い場所でも取り回し易い。多対一もできなくはないしな。あとはまあ、個人的な趣味ってやつだ」
クラス的にもキャラ的にもランサーは優秀だからな。いつか真っ赤な禍々しいデザインの槍を作ろう。そのときは髪も青く染めてしまおうか。
「確かに、実際に使う状況を想定して決めるのは重要ね。歴史的に見ても、槍は優秀な武器であったわけだし」
相変わらずのユキペディアぶりだ。確かにリアルな戦争じゃリーチの差はそのまま有利不利に繋がるからな。銃が無い時代だと剣より槍、槍より弓が有利だったわけだし。
雪ノ下は道沿いの露店を眺めながら目ぼしい得物がないか考えている。が、どれもこれもしっくりこないらしい。
まあゲームとかほとんどやらない雪ノ下じゃあロングソードや曲刀なんかは馴染みがないだろうし、槍の利点を挙げた後じゃあ短剣やナックルには食指が動かないか。
「お前の場合、似たようなのに触れる機会はあったんじゃねえの? こう、習い事的なやつで」
そう訊くと、雪ノ下は腕を組んで考え始める。
「そうね。剣道やアーチェリーなら経験があるわ。けれどそれを考えると……」
剣道、つまり竹刀か。竹刀が触れるならロングソードもいけそうなもんだが、勝手が違うのかもしれない。だとすれば剣道家に最適なのは――。
「刀、か。上の階層に行けば使えるようになるかもしれんが、今のところはないな。弓に至っては遠距離攻撃自体ほとんどないからな。こっちは諦めるしかない」
「そう。仕方ないわね。それなら私も……」
と、何かを言いかけた雪ノ下がふと一軒の露店に目を留める。そのまま露店の軒先まで歩いていき、店主の前に並べられた商品の中の一つを指差した。
「比企谷くん、これなんてどうかしら?」
雪ノ下が指差した先にあったのは一振りの剣。長さは片手用ロングソードよりもわずかに短いが、最大の特徴はその形状だろう。刀身は通常の片手直剣に比べて明らかに細く、鍔は握った手を守るように湾曲している。
「えっ、なにお前、フェンシングまでやったことあるわけ?」
「日本へ帰ってくる前に少しだけ、ね」
雪ノ下はそう言うと、店主へ話しかけてその剣――《アイアンレイピア》を購入した。
× × ×
ところ変わって現在地は街の外。北西の門を出てすぐの小高い丘の上だ。
買い物を終えた俺たちは、雪ノ下の戦闘訓練も兼ねてレベリングに来ていた。
「あれが外敵――mobと言うのだったかしら。アレを倒せばいいのね?」
雪ノ下は血気盛んな台詞と共にイノシシ型mobの《フレンジー・ボア》を見据える。腰にはついさっき購入したばかりの《アイアンレイピア》が提げられ、胸元を同じく新品の革製防具《レザーガード》が覆っている。
「そうだな。この辺にはあいつ一匹だけみたいだし、取り敢えず一人でやってみるか?」
「そうね。まずはやってみて至らないところを指摘してもらおうかしら」
言うと、雪ノ下はレイピアを抜き放った。それから一度振って感触を確かめた後、まだこちらを敵と認識していないイノシシへ近付いていく。
「じゃあ、始めるわ」
「おう」
雪ノ下がレイピアを中段に構える。剣先をイノシシに向け、向こうがまだ雪ノ下に背を向けているうちに背中へと狙いを定める。
「ふっ!」
恐ろしく速い一突きが繰り出され、イノシシのHPが少し削られる。瞬間、カーソルが赤に変わり、イノシシは鼻息荒く雪ノ下を睨みつけた。そのまま戦闘状態へ移行する。
っていうか、今のマジでソードスキル使ってないんだよな。速すぎて剣先見えなかったぞ。
いくら片手剣より軽い細剣とはいえ、通常攻撃がすでにソードスキル並とかどういうことだよ。さすがにダメージ量こそソードスキルには及ばないが、にしたってあんなの人間には防げねえだろ。
「せやっ!」
雪ノ下はフレンジー・ボアの突進を避けつつ、交差する瞬間に剣を突き入れる。初っ端から見事なカウンターを決める彼女の技量は見事と言わざるをえない。俺なんて小一時間練習してようやくできるようになったというのに。
その後も雪ノ下は隙を見つけてはレイピアを振るい、mobの攻撃は寸でのところでヒラリと避け、またその隙に一撃入れるという、本当に初心者なのか疑わしい攻防を披露した。
戦闘は十分ほど続き、ついに一度もダメージを受けることなくイノシシを倒してしまった。
こりゃアレだな。ソードスキル以外ほとんど教えることないわ。
「こんなところかしら。思っていたよりずっと時間がかかってしまったけれど」
剣を収めた雪ノ下がこちらへ戻ってくる。その表情は晴れやかではなく、寧ろ少し不満そうですらあった。
「お疲れさん。見事なもんだ。本当に初めてか?」
「この手のゲームでというのであればそうね。フェンシングや剣道でなら多少は試合形式の練習もしていたから、動きに迷うということもなかったし」
「はぁ、さいで……」
相変わらずの優秀さに思わずため息が漏れる。
いくら剣道やフェンシングで経験が有るといっても、最初からあれだけ動けるやつなんてのはほとんどいないだろう。それだけ雪ノ下の戦闘センスはずば抜けている。
まして相手は人間じゃなくイノシシだ。普通、山かなんかでイノシシが間近にいたらビビるもんだが、こいつはそんな様子もなく斬りかかっていった。突進にも必要以上の回避をせず、ギリギリで躱してカウンターを入れるなんてのは想像以上に難しいはずなんだが。
それだけのことを初めての戦闘でやってのけたのだ。俺なんかとは比べものにならないセンスを持っている。いずれはSAOでもトップクラスの戦力になるかもしれない。
「それで比企谷くん、今の戦闘を見て何か思うことはあったかしら」
「そうだな……」
雪ノ下の戦闘センスが抜群なのは一回見ただけでよくわかった。
問題があるとすれば、回避がギリギリなことだろうか。
「強いて言えばもう少し早く、余裕を持って避けてもいいと思うぞ」
「なぜ? 引きつけた方がカウンターも狙えるし、動揺を誘う効果もあると思うのだけど」
「相手が見たまんまの攻撃をしてくるとは限らないからな。例えば今のイノシシならただ突進してくるだけだったが、もっと上の階層に行ったらどんな攻撃がくるかわからん。突進しながら火を吐いてくるやつとかいてもおかしくない」
相手の攻撃パターンを見切った後ならギリギリまで引きつけるのはアリだ。それだけカウンターも狙いやすくなるし、次の行動に移りやすい。
けど最初からギリギリを狙いすぎると思わぬ攻撃が来たときに対処する余裕がない。不慮の事故は許されないのだ。慎重すぎるくらいで丁度いいだろう。
「敵の出方が判るまでは余裕過ぎるくらいでいいんだよ。命掛かってんだからな」
「……確かにそうね」
「あとは時間がかかるって方だが、こっちには明確な解決策がある」
タイミングよく次の一体が湧いて出たので、槍を手にイノシシへと向かう。
ほんの一日だけとはいえ、経験者の面目を保たないとな。
俺は草を食むフレンジー・ボアから五メートルほど離れて立ち、槍を身体の後ろで横に構える。左手を前に、槍を持った右手を後ろにして、その態勢で動きを止めた。直後、特徴的な音と共に槍が黄色に光りはじめる。
と、ようやくイノシシがこちらに気付いたようだ。カーソルの色が警戒を示すオレンジから赤に変わる。前脚を踏み鳴らして突進の準備をしている。
けど、もう遅いんだよ。
「そらっ!」
声と一緒にソードスキルを解き放ち、本来なら槍の届かないはずの距離を駆け抜ける。最大七メートルもの距離を詰めながら攻撃する突進系ソードスキル、《チャージスラスト》だ。
イノシシの眉間を狙った槍は、どうにか狙い通りの位置に突き刺さった。「ぴぎぃ」と悲鳴を上げて倒れるイノシシ。倒れて四肢をピンと伸ばしたそいつは、そのまま爆発四散して消えた。
「ふー」
大きく息を吐いて振り返る。
するとそこには驚きを隠せず目を丸くしている雪ノ下の姿があった。
槍を肩に担いで近付き、傍までいってから種明かしをする。
「今のが、このソードアート・オンラインにおける主力技、ソードスキルだ。現実じゃ到底できない動きができて、システムが勝手に身体を動かしてくれる。威力についてもご覧の通りだ」
なにせ雪ノ下が十分掛けて倒したイノシシを一撃だ。上手い具合にクリティカル判定のある眉間に当たったのもあって、ソードスキルの有用性を見せることはできたはずだ。
「……なるほど。確かに申し分ない威力ね。遠間から一足に踏み込めるのもそれだけで十分な利点になるし」
驚きを収めた雪ノ下はすぐにあれこれと思案し始めた。ソードスキルを取り入れた戦い方を検討しているんだろう。物覚えの早ささすがの一言だ。
「あと、今のは単発技だが、ソードスキルには連続技もある。現実じゃ慣性があってできない技なんかもあるから、使えるようになったら逐一練習しておくといいぞ」
「これだけのものを実戦でいきなり使うわけにはいかないものね」
「まあな。それにソードスキルには短所もある。便利なのは間違いないんだが、如何せん技の後に動きが止まっちまうから下手に連発できないんだ」
格好良く決めたと思ったら、反撃を受けるなんてことも珍しくない。昨日の俺が途中までそんな感じだったしな。
「有効打を与えられなければこちらが隙を晒してしまうと、そういうことかしら」
「そうだ。だからソードスキルを使うのはそれで相手を倒しきれるときか、或いは反撃を受けないで済む状況にあるときのどっちかだけにしとくのが無難だな」
はい。説明終わり。あー、疲れた。慣れないことはするもんじゃないな。
「よくわかったわ。武術なんかでいう奥義と同じ位置付けということね」
いや、奥義なんてのがどんなもんかとか知らないけどな。
とはいえ、雪ノ下もソードスキルについて納得できたらしい。そこまでわかったら、後は実践あるのみだ。実際のソードスキルの使い方なんかは体で覚えた方が早いしな。
「んじゃ、今度は実際にやってみるか」
「もちろんよ」
心なしか楽しそうにレイピアを抜く雪ノ下。目は爛々と燃え、意気揚々とmobを探し始める。
もしかしたら俺は、とんでもない戦士を生みだしてしまったのかもしれない。狂戦士とならないことを祈りつつ、雪ノ下の後に付いていった。
結局、雪ノ下は三回の試行の後、見事なソードスキルをイノシシの眉間に叩き込んだ。
初めこそ構えの段階で動きを止めることに違和感があったようだが、一度発動できるようになるともう水を得た魚の如し。尋常じゃない威力の単発突き技《リニア―》をこれでもかと打ち込んでいた。
通常攻撃でさえ恐ろしい速さだった雪ノ下のソードスキルは最早目で追えるようなレベルではなく、構えて剣が光ったと思った直後にはもう攻撃し終わってるような有様だった。
頼もしいと思う反面、こいつとだけは絶対に対人戦したくないなと思いましたまる。
× × ×
夜。
狩りを終え、前日とは違うNPCレストランで食事をした俺たちは、宿へと帰るべく路地を歩いていた。
買い物から始まり、午後一杯を戦闘訓練ならぬmob狩りに費やしたためか、身体にはそれなりに疲労感がある。精神的ショックのデカかった昨日に比べればまだマシだが、ここからの延長戦は堪忍してつかーさい。
「比企谷くん」
宿の前まで来たところで呼び止められる。
何事かと振り返ると、雪ノ下は恥ずかしそうに顔を逸らしていた。
「今日は付き合ってもらって、その……ありがとう」
…………は? え、今なんて? 雪ノ下が俺に礼だと?
「正直とても助かったわ。あなたにレクチャーしてもらわなければ……。いいえ、そもそも昨日あなたに会えていなければ、私は今頃どうしたらいいかわからなかったでしょうね」
「…………んなことねーだろ。お前なら自力でもこれぐらいはできてたんじゃねえの」
そう答えると、雪ノ下はフッと笑みを浮かべた。
「仮にそうだとしても、それはずっと後のことになっていたはずよ。すぐに戦おうと――抗おうとは思えていなかった。現実に帰るための努力を始められてはいなかった」
「んなもん、それこそわかんねえだろ。仮定の話なんざなんの当てにもならないからな。もしも、とかが言えるんなら、俺だって宿に引きこもってた可能性の方が高いね」
「私はそうは思わないけれど……。いえ、確かに仮定の話をしても仕方がないわね」
なにやら勝手に納得したようで雪ノ下は一つ頷いた。
それから少し考えるように腕を組み、やがて若干質の違う笑みを浮かべる。
「比企谷くん、あなた、友達が欲しくないかしら?」
…………は?
「オイ待ていきなり何を言ってやがる」
すると雪ノ下がクスクスと笑いを漏らし始めた。
「ああ、ごめんなさい。間違えたわ。フレンド登録、というものをしてみないかしら」
「言い間違えに悪意があり過ぎだろ。なにお前、俺を煽るのが趣味なの?」
まったく。いきなり何言いだしてんだよ。……危うく勘違いしちゃうとこだったじゃねえか。
「それで、どうなの? 確か、フレンド登録というものをしておくと、いつでも連絡が取れるのよね? 私とあなたは部長と部員という立場でもあるのだから、連絡の取れる体制は作っておくべきだと思うのだけれど」
「いや、別にそりゃ構わねえけどよ。なんか随分ノリノリだな」
「そんなことはないわ。フレンドリストの一番最初があなたの名前で埋まってしまうというのは甚だ遺憾ではあるのだけれど、私にも監督責任というものがあるからやむを得ない状況でもあるの。平塚先生や小町さんに心労を掛けるわけにもいかないし、それに……」
「あー、わかったわかった。フレンド登録させてくださいお願いします。これでいいか?」
「わかればいいのよ」
くそ、そんないい笑顔されたら文句も言えねーじゃねえか。
雪ノ下がついついとメニューを操作する。直後、俺の前にウィンドウが現れた。
【《Yukino》からフレンド申請されました。受諾しますか? Yes / No】
Yesの方にタッチしつつ、《Yukino》と表示された部分を見てハッとする。
「……しまった。これを忘れてた」
「どうかしたの?」
無事にフレンド登録は完了したものの、一つ大事なことに気が付いていたのだ。
それは――。
「雪ノ下、お前のキャラネームは『ユキノ』で間違いないか?」
「キャラネーム……? ああ、このアバターの名前のことね。ええ、間違いないわ」
ハァ……。リアルネームでプレイしちゃうとか、勘弁してくれよ。
「私のキャラクターネームがユキノだと、何か不都合があるのかしら」
わからないか。そりゃそうだ。雪ノ下はこの手のゲームなぞやったことがないのだから。
「……お前も、ネットリテラシーって言葉は知ってるだろ」
「ええ。もちろんよ。それがどうかしたの?」
「SAOは一見現実と変わらないように見えるから忘れがちだが、ここは紛れもなく不特定多数のいるネットゲームの中だ。つまり、ネットリテラシーが適用されるよな」
「……そうね。言われてみればその通りだわ」
「だろ。なら、本名で呼び合うのはマズい。もし俺やお前が他のプレイヤーとパーティーを組んだとしたら、第三者に本名がバレちまうんだよ。パーティーメンバーには互いのキャラネームが目で見えるからな」
そこまで説明すると、雪ノ下も事の重要性がわかったようで頭を抱えた。
「私たちもキャラクターネームで呼び合うのがベターというわけね」
「そういうことだ」
別に気にせず本名で呼び合い続けることもできるが、それだと現実に戻ったとき身元がバレるかもしれない。俺はバレたところで別に害もないだろうが、雪ノ下は話が別だ。こいつの実家は社会に対して小さくない影響力を持っているのだから。
「わかったわ。では今この瞬間から、お互いにキャラクターネームで呼ぶことにしましょう。あなたのこれは――ハチくん、でいいのかしら」
俺のキャラネームは《Hachi》なので、間違っちゃいない。が――。
「…………なんだこれ、すげー恥ずかしいな。その分ユキノは本名だからまだマシなのか?」
すると雪ノ下改めユキノも恥ずかし気に目を逸らした。
「あなたに呼び捨てにされるのは妙な気分だけれど、こればかりは慣れるしかなさそうね」
こうして、SAOでの二日目は微妙な雰囲気のまま更けていった。
「ユッキーにハー坊か……。なかなか面白そうだナ!」
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