やはりSAOでも俺の青春ラブコメはまちがっている。 作:惣名阿万
仕事の都合でしばらくPCに触れることができず、時間が空いてしまいました。
これが最終話の3話目と言いたいところですが、そちらはもう少しお待ちください。
今回はそこに至る前の、文字通り間話ということで。
では、どうぞ。
薄暗いバーのカウンターで一人、グラスを傾ける。
琥珀色の液体がスッと喉に流れ込み、ひりつくような辛さがお腹の中に落ちていく。ここはゲームの中であって、本当にウイスキーが流れていくわけでもないのに、脳に送り込まれる信号はこういう細かいところまで再現可能らしい。
美味しいとは思わない。ただなんとなく飲みたかっただけ。
やり場のない淀みと濁りを誤魔化したいと思っただけ。
現実でお酒を飲んだ時もあんまり美味しいとは思わなかった。
向かいや隣、果ては斜向かいなんかからも飛んでくるマシンガントークを笑顔で躱す時間は、アルバイトをしているときや踊っているときと比べてあまりにも無益で面白味のない時間だった。
わたしは、ただ一人のひとを探していた。
他には何もいらないと思えるただ一人を探して、ついに見つかることのないままこのゲームに手を出した。
はじめは驚いて、どうしようと途方に暮れたけれど、2,3日も経てば落ち着いて、どうせならこの状況を楽しもうと思った。
学校もなければ仕事もない。煩わしいサークルの人たちもいなければ、強引にスカウトしようとしてくる大人もいない。
たくさん踊って、時には戦って。
そうやって楽しんで過ごせる。そう思った。
けれど、そうして諦めていたわたしの前に、あの人が現れた。
最初はただ変わった人だなと思った。コボルトと戦う私を遠巻きに見て、けれど本当に
自慢じゃないけれど、わたしの容姿は世界的な価値観のズレを加味しても美しいと呼ばれる範疇にある。
日本に来てからの反応を見るに、純度百パーセントの日本人から見ても相応の評価をされる容姿ではあるはずだった。
にもかかわらず、彼はわたしを見て態度を変えるどころか、色めき立つ様子もなかった。
試しにスマイルを送ってみると、寧ろ警戒されてしまったくらいだ。
だからこそ、興味を持った。
ステイツにいたときも、日本に来てからも、わたしの容姿を見て近付いてくる人は多かったけれど、わたしの方から近付いてるのに離れていこうとする人は初めてだったから。
一緒にいた女の子との会話も見ていて面白かった。
ふつう彼くらいの男の子が女の子と話すときって、話題に気を遣ったりご機嫌を取ったり、少しでも印象を良くしようとするものでしょう。
なのに彼も彼女もそういうことは一切せず、本音で言葉を交わし合っていた。気を遣っていないわけじゃないのだろうけど、自然体で、飾ることなく会話をしていた。
それがとても面白くて可愛くて、なにより羨ましかった。わたしもこんな風にお話したいと思った。
だから二人と一緒のパーティーに入れてもらって、フレンド登録もしてもらった。
思えばあの時点で、わたしの心は決まっていたのかもしれない。
自分でも気付かないほど無意識に、理想の形を思い描いていたのかもしれない。
そして、あのボスとの戦いの後、私の心は完全に彼に奪われてしまった。
彼の所作の一つ一つ、彼の声の音、彼の瞳に浮かぶ色、すべてが愛おしく思えた。
彼が幸せになるためなら何だってできる、してあげたいと思った。
もし彼を不幸にする人がいたらきっと衝動を抑えられない。そう思っていて、実際にそうなってしまった。
彼の傍を離れてほとんど一年が経ったけれど、熱が冷める気配は全くない。どころか、たまに顔を合わせる度に、益々深みに嵌っていくのがわかる。
SAOを始める前には想像もつかないほど、今のわたしは『恋する乙女』になっているんだと思う。
「こういうところも、遺伝なのかなー」
呟いて、グラスを口につける。
以前3人で飲んだときと同じウイスキーは、けれど前よりも少しだけ甘く感じた。
つい口元が緩んでしまう。心境が変わると味まで変わるなんて、わたしも存外単純だったんだなー。
なんてほくそ笑んでいた、そのとき――。
「嘘じゃないって。確かに聞いたんだ。こう、全身黒尽くめの格好した奴がさ、今日の午後、ボスに挑む予定の攻略レイドを襲うって」
「……本当か? だとしたらその話、早いとこ伝えてやらないと」
「だよな。けど迷宮区って確かメッセージ送れないはずだろ、どうやって伝えるんだよ」
「そりゃあ、誰かが走っていくしかないだろ」
お店の端から聞こえてきたのはそんな会話だった。
一つ息を吐き、もう一度グラスを傾けて、残っていたお酒を一息に飲み下す。
グラスをカウンターへ置き、立ち上がったわたしは、お店を出てすぐに駆け出した。
最終話も可及的速やかに仕上げていきますので、今しばらくお待ちください。