やはりSAOでも俺の青春ラブコメはまちがっている。 作:惣名阿万
臨界ブラキ、ツラ楽しい。
そんな感じで睡眠時間がガリガリ削られる日々です。
というわけで、今話から第4章となります。
お読み頂ければわかるかと思いますが、しばらくは糖分マシマシが続くと思われます。ブラックコーヒーの準備をお勧めします(マッ缶飲みながら)。
第一話:冬は、その始まりを知るとき既に過ぎ去っている
朝。
頭の中に直接鳴り響く音で意識が覚醒した。
もはや見るまでもなく位置のわかる停止タブを押して目覚ましを止める。と、指先がなにやら柔らかいものに触れた。
「っん……」
一拍遅れて艶のある声が降ってくる。
同時に後頭部を押され、顔が枕に押しつけられた。
…………待て。これ、本当に枕か?
状況を確認すべく目を開く。しかし目の前は真っ暗なままで変わらず、顔全体が何やらふかふかしたものに包まれている感触だけが残っていた。イイニオイダナー。
ならばと顔を上げようとするも、首を抑えられていて動けない。っていうかマジで少しも動かせない。ヤワラカイナー。
このまま現実逃避して寝たふりを続けてもいいのだが、そうすると本当にいつまでも解放されないことはここ数日で身に染みて分かっている。
というわけで、首をガチガチに固めている腕をタップする。状況としては、よく学校とかで友人同士首を絞め合って遊んでいるようなアレだ。それが後ろからじゃなくて前からで、相手がモデル並みな美女って点が違うとこだが。
その後も弾力があって柔らかい『枕』から逃れようとモゾモゾゴソゴソ抵抗する。
が、AGI極振りの俺が締め上げられた状態から逃げ出せるわけもなく、結局5分ほど容赦なく堪能させられた末に解放された。
「……プハッ! ハァ、ハァ、ようやく解放されたか」
「おはよ、Darling. 目は覚めた?」
「ハイハイ覚めた覚めた。ったく、毎度とんでもないやり方で起こしてくれやがって、アメリカじゃあ同衾者を締め上げて起こす文化でもあるんですかねぇ」
「んー、そういう話は聞いたことないなー。でも、steadyをkissで起こすのはよくあるよー。明日からは、そうしてみる?」
「やらねぇよ。そんなこと許したら、朝から襲われるだろうが。色んな意味で」
「Exactly! でも悲しいなー。Darlingはワタシとkissしたくないんだー」
オロオロと泣き真似をするパン。
それが演技で、実際には逃げたところでパンの方からしてくるのはわかっている。
けれど――。
「…………したくないとは言ってねぇだろ」
たとえここがソードアート・オンラインというゲームの中だとしても。
たとえそれが彼女を引き留めるための手段だったとしても。
女性から好意を向けられて、それは間違いだと誤魔化すこともできなくて、どんな理由だろうと応えようという想いがあるのなら。
行動で示すことに躊躇いなどあるはずがない。……まあ、恥じらいはあるんだけど。
「Darling!」
「うわっ」
言ったそばからパンが飛びついてきた。首元に抱き着かれ、押し倒され、柔らかい立派なものが薄い服越しに激しく主張してくる。イイニオイダナー。
「ばっ、放せこの……」
引き剥がそうにも、肘や脚で四肢を器用にロックされていて動けない。あれ、マジでこのまま襲われるんじゃね?
「Darling、やっぱりこのままkissしていい? いいよね」
「だから朝一でそれはやめろって言ってんぐっ……」
抵抗する口を文字通り塞がれて、為されるがまま蹂躙される。
熱いんだが恥ずかしいんだか苦しいんだかわからないままに好き放題され、いっそ反撃にでも移ってやろうかと考え始めた矢先、突如声が降ってきた。
「起きてくるのが遅いと思って見に来てみれば、朝から何を発情しているのかしら」
極寒の声に思わず震えが走り、それでようやく解放される。
息なんて吸う必要もないのに荒く呼吸をして、ちらっと来訪者へ目を向ける。
「あら、随分と気持ち悪い顔をしているじゃない。やっぱりあなたに初めて会ったとき感じた悪寒は正しかったみたいね。汚らわしい」
いや、自分からは何もしてないからね。確かに美味しい思いをしているのは否定できないけど、どっちかと言えば被害者だからね。
「Good morning, ユッキ! ユッキもする?」
「するわけがないでしょう。彼とそんな、キ、キス、するだなんて、ありえないわ」
そこはユキノに同感である。っていうか、いくらここがゲームの中でシステム的な話だとはいえ、一応俺たちは結婚したことになっているはずだ。だのに、立場上は夫の俺を別の女に差し出すとか、こいつの倫理観はどうなってるのだろうか。
なんとなく納得のいかない心地でまじまじ見ていると、パンはさも楽しげに口元を歪めた。
「んー? ワタシは別にkissとも、ましてや相手がDarlingとも言ってないのに、よくわかったねー」
「なっ……。それは、その、め、目の前であんな光景を見せられたのだからそう予想するのは当然でしょう。決して私自身がそれを望んでいるとかではなくごく一般的な観点から考えればそう予想されるのは必然という話でだから――」
「アハハ、本当にユッキはcuteだねー」
そう言ってパンはユキノに抱き着き、ユキノはそのままもみくちゃにされる。ああはいはい、百合百合しくていいですねー。こっちまで勘違いしただろまったく。
その後も満足するまでユキノを猫可愛がりするパン。
彼女の左手には、あの日送った指輪が青く輝いていた。
× × ×
10日前、《ギルド連合》はアインクラッド第50層に到達した。
50層の主街区は《アルゲード》という名前だった。
第1層の《はじまりの街》に次ぐ広さの街で、西洋風で整った造りの《はじまりの街》に対し、こちらはとにかく雑多で入り組んだ街並みをしている。あちこちへと伸びる路地で迷おうものなら、2,3時間どころか2,3日は出てこられないなんて噂もあるくらいだ。
どことなく中華風の雰囲気の街なんだが、実際、台湾や香港なんかの街並みに似ているらしいというのがアスナの弁だ。所々漢字で書かれた看板もあるし、モチーフとしては間違ってないんだろう。
そんな馴染みのある雰囲気が幸いしてか、《アルゲード》では街開き以降プレイヤーの数が増加の一途を辿っている。
街の広さや作り、加えてNPCレストランの味も色々と評判で、観光として訪れる者も多い。が、それ以上に定住を望むプレイヤーはかつてないほどだった。
理由はいくつかある。商店として使える物件が数多くあって、最前線ということもあり商人プレイヤーが続々と集まっていること。
また街に点在する安宿は、攻略に行くパーティーの拠点として人気が高い。雑魚寝だったり狭かったりと条件はあるものの、最前線に安く泊まれるというのは他に代えがたい利点だ。
そんなこんなで、《アルゲード》はものの数日も経たず《はじまりの街》に次ぐプレイヤー人口となり、10日が経った今じゃあプレイヤーとNPCが入り混じって大賑わいだ。
だが、当然良いことばかりではない。
迷いやすいとか変な店があるとか、そういったマイナスポイントもあるにはあるが、何よりも問題なのはこの50層というフロア自体の構造にある。
アインクラッドの中間点である50層は、街だけじゃなくフロア自体が第1層に次ぐ広さを持っていて、《アルゲード》はそんなフロアの中心に位置している。
これはリアルで測量士の資格を持つプレイヤーが、《アルゲード》で一番高い建物の屋上から見た結果なのでほぼ間違いないだろう。ちなみにこのプレイヤーは《FBI》の一員で、アルゴがスカウトしたらしい。
そんなフロアの中央に位置する《アルゲード》だが、先ほどの測量士プレイヤーが周囲一帯を見渡した際、気付いたことがあった。
フロアのどこにも、迷宮区の塔がないのだ。
上の層へと続く迷宮区の塔。それがどこにも見当たらず、そんなわけがないと《連合》の情報部が丸3日探してもついに発見できなかった。
一時は「このゲームはここまでで、これ以上攻略不可能なのではないか」、「茅場は俺たちを騙していて、実際はログアウトさせる気なんかないんじゃないか」などの憶測が飛び交い、混乱しかけたこともあった。
だがその後の調査で、何らかの条件を満たせば迷宮区は出現するという情報がもたらされ、混乱はそれほど大きくなる前に沈静化した。
実際、この50層でゲームが事実上のクリア不可になったと仮定した場合、これまで茅場がお膳立ててきた状況はすべてが無駄になる。
こんな大それた事件を引き起こしてまでSAOなんてモノを作り出した茅場が、ここへ来てそんな無意味な真似をするとも思えない。
となれば、迷宮区は何らかの理由やギミックで隠されていると考えるのが妥当だろう。
ユキノやパンも同じ考えに至ったようで、ならばできることから始めようということになったのが先週のこと。以降は地道に攻略を進め、フロアのマッピングも一週間で8割方終わっていた。
そうして迎えた12月20日。
俺とパン、ユキノの三人は《アルゲード》の一角にある建物の前に立っていた。
三階建ての石造りで、シックな木目の扉と、脇には黒猫の描かれた看板が置かれている。
ユキノが扉を押し開くと、カランコロンとベルが鳴った。
音に反応して顔を上げたプレイヤーが、手を止めてこちらへ振り返る。
「こんにちは。サチさん」
「ユキノさん! いらっしゃいませ。パンさんとハチもいらっしゃい」
「ハロー」
「うす」
出迎えたサチへめいめいに挨拶を返すと、サチは普段と変わらぬ笑顔で応えた。
初めはパンの経歴を聞いてびくびくしていたサチも、こうして何度か顔を合わせる内に打ち解けることができたようだ。
まあ、パンはコミュニケーション能力の化け物だから、上手いこと懐柔されたとも言える。
そんなこんなで、今日訪れたのは《月夜の黒猫団》の新たなギルドホームだ。
元は《タフト》の宿を拠点としていた彼らもレベルが上がり、今じゃあ《連合》の攻略班に食い込むほどの実力を得た。
さすがにフロアボス戦ともなると全員が参加するのは厳しいが、ダンジョンのマッピングやフィールドボス討伐のレイドなんかには、ギルドの5人ないし6人で挑んでいるらしい。
念願叶って攻略集団の仲間入りをした《月夜の黒猫団》。彼らは50層到達を機に拠点を移すことに決めた。
長らく11層の《タフト》で節約生活をしていたお陰で資金にも余裕があったらしく、せっかくだからとここ《アルゲード》に拠点を持つことにしたんだとか。
そうして購入したギルドホームがここだ。
市場や転移門のある街の中央からは少し外れた立地ではあるものの、広さと設備、値段が好条件でまとまった優良物件だ。
人が集まって取り合いになる前にと、先週の街開き後、早々に購入したらしい。
一階はダイニング兼応接スペースで、キッチンもそれなりの設備が整っている。広さも3パーティーくらいは余裕で入れるので、これまで二度お邪魔してくつろがせてもらった。
二階から上はメンバー用のリビングと寝室、浴室などがあって、部屋数にもまだ余裕があるんだとか。その段階でキリトから勧誘を受けたが、丁重にお断りしておいた。
そんな黒猫団のホームだが、引っ越しから十日間、なにかと顔見知りが集まる機会が多かった。
理由は大きく二つある。
最前線の《アルゲード》にあり、道が入り組んでいるために場所の特定もし辛いことが一つ。
黒猫団にはキリトがいることに加え、ここならアスナやエギル、クラインにアルゴといった顔馴染みを呼んで集まっても無用な注目を集める心配がないのだ。
もう一つは設備の良さだ。ユキノとアスナの高い《料理》スキルに耐え得る設備が揃っているのが何より大きい。
普段使うサチも《料理》スキルを持っていることもあり、知り合いが勢揃いした初日なんかは高級レストランも顔負けなご馳走が並んでいた。
そういうわけで、ここ一週間は攻略に関する情報交換の場としても利用させてもらっているのである。美味いラーメン屋には週3で通うのと同じ原理だ。なりたけとか。あー、考えてたらラーメン食いたくなってきた。もう一年以上たべてないんだよなぁ……。
少しずつ小物の増えてきた室内を見渡して、ふと誰もいないことに首を捻った。
「まだ誰も来てないのか? キリトやクラインはともかく、アスナとエギルが遅いのは珍しいな」
訊ねると、サチは「えっとね」と首を傾げた。
「キリトはさっきまでいたんだけど、アルゴさんに呼ばれて行っちゃったの。ケイタたちは買い出しで、エギルさんとクラインさんは《連合》の用事が終わってから来るって。アスナさんはギルドの方で少し調整することがあるから遅くなるみたい」
ほーん、なるほどな。まあ明確な時間を決めてたわけでもないし、こんなもんか。
などと納得していたところに、横から飛んでくる声があった。
「理由もなく遅刻する人はいないでしょう。あなたと違って」
「俺が訳もなく遅刻してるみたいな言い方はやめようね。ちゃんとあるから、理由」
「そうかしら。色々と難癖をつけて遅刻して、あわよくばサボろうとするのがあなたの常套手段なのでしょう?」
おいなんで知ってるんだよ。ボッチ検定2級ないとわからないはずだぞ。ああ、そういえばこいつも元はボッチだったなるほどね了解了解。
反論できずに苦い顔をしていると、今度は反対側から別の声が弾んだ。
「That’s wrongだよ、ユッキ。 Darlingが遅れちゃうのはね――」
言って、パンが左腕に抱き着いてくる。ぎゅっと包むように腕を抱かれ、思わず半歩身を引いてしまった。そうして空いた距離を、パンはすぐに詰めて顔を寄せてくる。
呆気にとられるユキノとサチ。
パンはそんな二人をちらちらっと見ると、ナパーム弾もかくやの爆弾を投下した。
「ワタシとvery hot な夜を過ごしてるから、ね♡」
着弾、爆発。その瞬間、あらゆる音声が消失した。
ところで爆弾というからには相応の熱量がもたらされるはずだ。にもかかわらず、空気が一瞬で凍り付くのはおかしくないか。熱力学さん、仕事、しよ♡
などと現実逃避を試みたところで状況が改善されるはずもなく。
「呆れた。そんな理由でここ最近遅刻を繰り返していたのなら、あなたたちの処遇についてもう一度考え直す必要があるわね。一応は《連合》の一員であり、監督責任は私にあるのだから。パーティーリーダーとして、部屋割りを変える権限があることを忘れないように」
「ア、ハハ……。ほんと、仲良いんだね」
ユキノからは諫言、サチに至ってはドン引きしていた。
「待て待て誤解だ。俺は悪くない」
左手に熊猫を引っ付けたまま言うのもどうかとは思うが、とりあえず弁解はしておく。
すると相変わらずの冷たい目で睨んでくるものの、ユキノは小さくため息を吐いた。
「……一応、弁明を聞こうかしら」
発言の御許しが出たところで、パンを引き剥がそうと頭に手を置く。
そのまま押して剥がそうとするが、あろうことか気持ちよさそうに頬擦りをし始めた。
おいおいなんだよこの可愛い生き物。ゲーム内とはいえこんなのが俺の嫁さんなわけ? 最高かよ。こっちは離れろって意味で頭押してんのに、撫でられてると勘違いしちゃうとか懐き度高すぎでしょ。これがイーブイならあっという間にニンフィアに進化してるレベル。けど鳴き声はイーブイのときが一番可愛いんだよなぁ。小町にそっくりだし。
そこまで考えたところでふと我に返ると、二対のジトーッとした眼差しがこちらを射抜いていた。
もう手遅れだと諫める心の声を無視して、仕切り直しに一つ咳払いをする。
「いいか。そもそも遅刻が悪いという風潮がおかしいんだ。重役出勤って言葉があるだろ。重役、つまりエリートなら遅くなっても許される。なら逆説的に考えて遅れてくるのはエリート、意識が高いということだ。攻略に対して高い意識を持つことは悪いことじゃないだろ」
「そう。なら、とても高い意識を持っているハチくんには、今後しっかりと働いてもらうわね」
「今は疲れを癒してくれる奥さんもいるんだし、どれだけ働いても大丈夫だよね」
おやおやー、二人のヘイトがとてつもなく高いですね。かー、ヘイト管理もまともにできないとか、やっぱタンクは向いてねぇなと思いましたまる。
その後、参加者が揃うまでの間、俺は会場設営のために右へ左へとこき使われた。
ユキノとサチが作った軽食をテーブルに並べ、罵倒と嫌味を受けながら食器なんかを準備し、挙句サチからも重いテーブルやイスの移動を
ちなみにこの間、元凶のはずのパンは何故か女子3人でのお喋りに興じていただけだった。解せぬ。
とまれこうまれ――。
波乱と緊張と後悔に塗れたSAOでの日々において、かつてないほど賑やかな一時が始まろうとしていた。
以上、第1話でした。
次回はちゃんと他の男性プレイヤーも登場しますので、ご安心ください(?)