やはりSAOでも俺の青春ラブコメはまちがっている。   作:惣名阿万

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難産でした……。
8話です。よろしくお願いします。


第八話:されど彼と彼女の間違った始まりは続く。

 槍を振るう。身体を捻る。屈む。右へ跳ぶ。槍を突き出す。のけ反る。石突きを跳ね上げる。左へ跳ぶ。後ろへ跳ぶ。槍ごと一回転する。後ろへ跳ぶ。槍を突き出す。身体を捻る……。

 方々から攻め寄せるダイア―・ウルフへ、そうやって対処していく。

 

 くそ……。わかっちゃいたが、キリがないな。ソードスキルを使う隙もないから大した威力も出ないし、次から次へと押し寄せる爪やら牙やらは一向に減ってくれない。その数、実に十頭。

 今のところは囲まれないように回避することで凌げちゃいるが、これ以上敵の数が増えたら厳しくなってくるな。群れのリーダーは最初以降近付いてこない上に時々吠えやがるし、アホみたいに湧いた狼どもは我先にと押し寄せてくる

 

「あー、くそっ! いい加減にしろよ!」

 

 噛みつきをバックステップで避けながら、右手から回り込もうとする一頭に槍を突き込む。この流れももう何度目になるかわからない。

 

 正直、このままじゃジリ貧だ。今はまだどうにか対処できる数だが、このまま群れの狼を呼ばれ続けたらいつか破綻する。どうにか突破口を開かなきゃならない。

 

 いっそ突進系のソードスキルでぶち抜くのもありか? ……いや、残ったやつに硬直時間を狙われて終わりだ。突進系ソードスキルは射程こそ長いが範囲は広くないのだ。かといって範囲攻撃型のソードスキルでは威力が足りない。こちらもダメだろう。

 

 筋力値を上げて鎧でも着こんでればごり押しも考えられたが、あいにく俺は敏捷値極振りの回避特化型スタイルだ。一発でももらえば少なくないダメージを受けるし、それで動きが止まろうもんなら後はタコ殴りに遭うのがオチ。

 

 いよいよもって逃げるしか手がなさそうだな。幸いこいつらはこの草原から出ないらしいし、一度撤退して戦闘状態が解けるのを待ってからもう一度例の獣道を使えばいいだろう。ユキノを待たせることにはなるが、そこはフレンドメッセージの一つでも飛ばせば……。

 

 と、その瞬間、ボス狼と目が合い、紅い眼が仄かに光った。

 あれは《遠吠え》の予備動作だ。

 

「やっべ!」

 

 慌てて撤退を始める。だがそうはさせまいと狼たちがいち早く駆け出し、最高速になる前の俺を追い越して回り込んできた。左右から前に出た狼を見て、背中に冷たいものが流れる。

 

 追い打ちをかけるようにボスの《遠吠え》が響くと、走る俺の前方に二つの影が飛び出した。新たに現れた二頭のダイア―・ウルフは行く手を阻むように立ち、ついには後ろから追ってきた奴らと一緒になって包囲網が完成してしまった。

 

 あーあ、囲まれちまった……。どうすんだよ、これ。

 足を止め、ぐるっと一回転してみると、十二頭の狼がきれいに並んで俺を囲んでいた。どいつもこいつも「グルル」と唸りを上げて睨みを利かせてくる。

 

 どう見ても絶体絶命のピンチってやつだ。

 逃げるにしても戦うにしてもこいつらをどうにかしなきゃならんし、そもそもそれができるなら悩んだりしない。命が掛かってないタダのゲームなら文句言いながらやり直せばいいだけだが、このSAOでそうはいかない。

 

 

 

 切り抜けるしかない。

 

 

 

 槍を構える。360度どの方向から来てもいいように視線を配り、耳を立て、視覚と聴覚をフルに活用する。少しの間、俺と狼たちは膠着状態になる。

 

 やがて痺れを切らした一頭が飛びかかってきた。真後ろから迫るそいつを振り返りながら槍の穂先で叩き落し、続いて跳んでくる一頭へ槍を返して弾き返す。今度は左右から同時に来たので前転して避け、そのまま目の前の一頭を薙ぐ。

 

 襲ってくる狼たちをちぎっては投げちぎっては投げ、どうにかやり過ごしていく。完全に避け続けるなど不可能で、なんとか掠り傷だけに留めるもののHPは徐々に減っていく。

 一方で狼の側もその数は二頭減り、十頭となっていた。通常攻撃だけしか使っていないためになかなか倒れないが、このままならどうにか対処できる。

 

 そう。このままなら……。

 

 相変わらず一、二頭ずつしか攻撃してこないダイア―・ウルフを捌く中、耳に聞き飽きた《遠吠え》の声が届いた。せっかく二頭減らしたのに、また新しいのが追加されちまったわけだ。

 

 いっそまとめて来てくれりゃあソードスキルで一掃できるんだけどな。ボスがいることでこいつらも連携してるってことか? 

 

 一向に減らない敵。見つからない突破口。

 段々と焦りが滲んできて、反応がほんのわずかに遅れ始める。

 

 そしてとうとう、背後から飛びかかってきた狼への反応が完全に遅れた。

 

 振り向いたときには遅く、槍が間に合わない距離に牙を剥いた狼がいた。

 

「っ……」

 

 かろうじて悲鳴を飲み込んだ。そのとき――。

 

「う……おおッ!」

 

 雄叫びと共に飛び込んできた剣が、寸でのところで狼を斬り裂いた。狼はそのまま破砕音を立てて消える。

 

「次、来るぞ!」

 

 ライトブルーに光る剣を振り抜いて言い放ったそいつは、無骨な片手剣を別の狼へ向けてそう言った。

 

 

 

 黒髪に黒目の、少し幼い印象の少年。

 

 SAOがスタートした日、俺がその後を追いかけた、あのキリトだった。

 

 

 

「こっちは俺が受け持つから、そっちは頼む」

「お、おう……」

 

 え、なにこいつ。マジでかっこいいんですけど。俺が女子ならもう惚れてるよ。そんで告白してフラれるまである。……フラれちゃうのかよ。

 

 残った十一頭のダイア―・ウルフはキリトの登場に狼狽えた様子を見せたが、すぐにそれまでと同じように飛びかかってきた。

 

 これで俺一人ならまたジリ貧になるだけだ。だがさっきまでとは違い、キリトがいる。

 別々の方向から襲ってくる狼を一頭ずつ迎撃できるので当然余裕が生まれる。余裕ができれば一撃をより強力にすることができるし、キリトに至ってはその全てをソードスキルで跳ね返し、一撃で倒してしまっていた。

 

 なんだこいつデタラメ過ぎんだろ。毎回違う角度からくる狼にソードスキル合わせるとか、どんな反射神経してんだよ。

 

 キリトの驚くべき戦闘力のお蔭で、さっきまで大苦戦していた狼の群れはあっという間にその数を減らしていく。なんせ跳んでくる度に一頭ずつ減るんだからな。ボスの《遠吠え》も連続発動はできないようで、追加の狼が来る頃にはその倍以上が倒れていた。

 

「よし、これなら……。今のうちに、ボスを!」

「わかった。こっち頼む」

 

 キリトの言に従い、群れの狼は彼に任せてボスへと駆けだした。直後、後ろで二つガラスの割れる音が鳴る。

 おいおい、さっきまではセーブしてたってことかよ。とんでもないな。

 

 少し離れた位置にいたボスのHPは、俺が減らした2割に加えて更に4割以上が削られていた。最初は緑だったHPバーは黄色に変わっており、もう少しダメージを与えれば赤に変わるだろうというあたりだ。

 大方、これもキリトがやったのだろう。村からこちらへ駆けてきたのであれば、途中でこいつの脇を通ることになるのだから。素通りではなく一撃入れてから来たのかもしれない。

 

「だとすれば、現状俺の倍以上の攻撃力を持ってるってことか……」

 

 加えてあの尋常じゃない反射神経だ。恐ろしいやら頼もしいやら。

 

 狼のボスは俺の接近を見て唸りを漏らしていた。いつでも飛びかからんばかりに後ろ足を曲げて溜めている。通常のダイア―・ウルフより二回り大きいだけあって、迫力も段違いだ。

 

 けど、お前一頭だけならどうとでもなるんだよ。

 

 走りながら槍を後ろ手に構えてソードスキルを発動、間合いに入った瞬間に《チャージスラスト》をボス狼へ突き込む。眉間を狙った一撃はしかし、直前で回避行動をとったボスの前脚の付け根に命中し、HPを一割削った。

 

 痛みにのけ反ったボスの反撃を躱し、二度三度と通常攻撃で削る。HPバーが赤に変わり、怒りの声を上げるボスの噛みつきや爪を避け、掻い潜り、左側面に回り込んだ。

 

 絶好のチャンス。これで終わらせる。

 

 槍を構える。左手が前、右手が後ろ。半身になって穂先を斜め下に。右肘を畳んで脇を締め、突き出す直前の体勢で止める。槍が紫色に発行し始めた。

 

「せ……らぁ!」

 

 水平二連突き《ツインスラスト》。現在俺が使えるソードスキルの最後の一つだ。踏み込みもなく目の前にいる敵しか攻撃できないこいつは攻撃範囲も射程範囲も狭いが威力だけは高い。

 横っ腹に攻撃してボスの残りHPを削り切ろうと思ったら、使えるのはこいつしかない。

 

 刃が過たず狼の身体を捉え、赤かったHPがゼロになる。最期に小さく鳴いた後、狼のリーダーは青いポリゴンの欠片となって飛び散った。

 

 直後、目の前にシステムウィンドウが表示される。

 

【You got the Last Attack!!】

 

 なんだこれ。ラストアタック? どういうことだ? 今までイノシシやら虫やら蜂やらを倒したときはこんなの出たことなかったんだが……。

 と、余計なこと考えてる場合じゃないな。ボスは倒したが、他の狼どもはまだ残ってるかもしれない。

 

 だが振り返った先では、丁度キリトが剣を背中の鞘に納めているところだった。彼はふーっと一息吐くと、こちらへ振り返る。

 

「お疲れ。ナイスファイトだった」

「お、おう……。いや、こっちこそ危ないとこ助けてもらった。ありがとな」

「いや、こういうのはお互い様だよ。特にこのSAOなんて尚更だ」

 

 すげーなこいつ。顔も性格もイケメンだわ。

 

「だとしてもだよ。ほんと助かった。お前がいなかったら、マジで死んでたかもしれん」

「そっか……。なら、どういたしまして、かな」

 

 そう言って、キリトが右手を差し出してくる。

 いかにボッチな俺とて、意味するところはすぐわかった。

 

「キリトだ。よろしくな」

 

 ああ、知ってるよ。とは言えず、キリトの手を握る。

 

「俺はハチ。見ての通りのビギナーだ」

 

 

 

 瞬間、キリトの目の奥が揺れ、握った手がわずかに強張る。

 

 

 

 なんだ? 今、なにか変なこと言ったか?

 

 疑問に思ったのも束の間、手を放したキリトはすぐに表情を苦笑いに変えた。

 

「そ、そうか。ビギナーなのにこんなに早くホルンカへ来れるなんてすごいなハチは」

「……いや、まあ、ちょっと情報屋に縁があってな。ここまでの情報は買ってあったんだよ」

「情報屋……。へぇ、なるほど。だからこんなに早く……」

 

 ぶつぶつと何かを呟くキリト。

 なんかえらく動揺しているようだが、なにがそんなに気になってるんだ? 

 

 ひとしきり考えてからキリトは思い出したように顔を上げ、また苦笑いを浮かべた。

 

「っと、そういえばホルンカでハチの連れっぽい人に会ったんだ。黒髪のきれいな女の人だったんだけど……」

「あー、そいつなら多分連れだな」

 

 この近辺にいる黒髪のきれいな女といったら高確率でユキノのことだろう。見た目はマジで整ってるんだからな。性格はキツいなんてレベルじゃねえけど。

 

「なんか随分青ざめた顔で連れを助けてくれーって歩き回っててさ。話を聞いてみたらプレイヤーが一人でフィールドボスと戦ってるって言うから、様子を見に来たんだ」

「ハハハ……。いやほんと助かったわ」

 

 再度キリトに感謝しながら、連れ立って例の村――ホルンカへ移動する。

 

 もうなにもいなくなった草原を歩いて木立の手前に立てられた柵の間を抜けると、視界に【INNER AREA】と表示された。これで俺のHPは保護されて、これ以上減ることはなくなったわけだ。

 

 そのまま道と呼べなくもない道を進むと、やがて木々が開けて村らしい景色となった。

 

 と、そこでキリトが村の方を指差す。

 

「ほら、あの人だろ」

 

 キリトの指し示した先にあったのは、紛れもなく雪ノ下雪乃の姿だった。

 木の幹に背中を預けて、右手で左手の肘部分を握って俯いている。

 

「よっぽど心配だったんだろうな」

「…………かもな」

 

 やれやれ、あの部長様が俺の心配をねー。まあ全くないこともないかもしれんが、にしたってそれは罵る相手がいなくなるとかそんな理由だろうな。

 

 なんてことを考えていたら、ユキノがバッと顔を上げてこちらに気付いた。すぐに幹から離れてこちらへ走ってくる。

 

「ひ……ハチくん」

「あー、その……なんだ、遅くなって悪い」

「…………」

 

 あれー? なんか間違ったかね。ユキノの目が射殺さんばかりに鋭くなったんですけど。

 

 駆け寄ってきたユキノはそのまましばらく睨んでくる。

 そしてキリトがオロオロと居たたまれない感じになってきたところでようやく口を開いた。

 

「あなた、言ったわよね。無理はしないと。だというのに、これはどういうことかしら?」

 

 ユキノが俺の右上――ユキノから見た左上を指差す。そこにあるのは彼女のHPバーと、あとはパーティーメンバーである俺のHPバーだろう。

 

 現在、俺のHPは半分をわずかに下回って黄色くなっていた。

 

「いや待て……俺は悪くない。このゲームが悪い」

「そんな当たり前の前提は聞いていないわ。私が言いたいのは、どうしてこの状態になるまで対策を講じなかったのかよ。あなた、お得意の逃げ足はどうしたのかしら」

「逃げらんなかったんだよ。……囲まれちまってな」

「呆れた。あれだけ大見得を切っておきながら……」

 

 頭を抱えてヤレヤレと首を振るユキノ。

 そこまでならいつもの雪ノ下らしい行動なのだが、その後でユキノは見たことのない表情を浮かべた。

 

「……ごめんなさい。こんなことを言うつもりではなかったのよ。私は、あなたに助けられたのだから。お礼を言いこそすれ、糾弾する権利なんてないわね」

 

 …………こいつ、本当にあの雪ノ下雪乃か? 他人の空似じゃないのか?

 そう思ってしまうほど、普段のこいつからは想像もできない弱々しい雰囲気だった。

 

「キリトくん、だったかしら。あなたにもお礼を言わなくてはいけないわね。ありがとう」

 

 ユキノはそんな覇気のない雰囲気のまま、キリトに頭を下げた。

 

「い、いや、俺は別に大したことは……」

「いいえ。私の話を聞いて、彼を助けに行ってくれたのはあなただけよ。命が掛かったこのゲームで他人を助けるために危険を冒せるなんて、そんな人はほとんどいないでしょうから」

 

 ありがとう、ともう一度頭を下げるユキノに、キリトはどうしていいかわからないといった風に頬を掻いた。こちらへ視線を送ってくるものの、正直こんなユキノは俺も見たことがないのでどうしたもんかわからない。

 

「あーっと、ほら、俺なんかでよければまた力になるしさ。そう畏まらないでくれないか」

 

 焦るキリトに、顔を上げたユキノはふっと笑みを浮かべた。

 

「ええ、ありがとう」

 

 ここまで毒のないユキノも珍しいが、まあ初対面のキリトにはこの方がいいかもな。俺には最初っからどくどくしか撃ってこなかったけど。

 ともあれ、これでだいぶ和やかな雰囲気になった。まあ多少ギクシャクしてる感はあるが、初対面にしちゃ上等だろう。そうボッチならね!

 

「それにしても、キリトくんはとても強いのね」

 

 だがそんな空気は、ユキノのこの一言で僅かに、だが確実に変わった。

 

 キリトの表情が強張り、笑みが消えたのだ。だがユキノはそれに気付かず言葉を続ける。

 

「私たちよりも早く、その上一人でここまで来たのでしょう? 彼を助けに行ってくれたのにHPもほとんど減っていないし……」

「っと、ごめん!」

 

 ついにキリトがユキノの言葉を遮った。大袈裟に頭を下げていて、表情は見えない。

 

「……悪い。実はこの後やることがあったんだ。そろそろ行かないと。ごめんな、二人とも」

 

 どうやら地雷を踏んだらしい。どんな地雷かはわからないが、とりあえずこのまま話し続けるのは辛いようだ。

 

「いや、構わねえよ」

「え、ええ。こちらこそ、引き留めてしまってごめんなさい」

 

 そういえば俺が「自分がビギナーだ」と言ったときも似たような反応をしてたな。もしかしたらキリトは『強さ』とかそういう部分に抱えるものがあるのかもしれない。

 

 まあ、ユキノにも悪気があったわけではないし、下手に拗れることはないだろう。ただ彼女はお世辞にも空気を読むのが上手い方ではなく、それ故にキリトの変化に気付けていなかっただけだしな。

 

 キリトは俺たちの反応を見て、ばつが悪そうに苦笑いを浮かべた。

 

「気にしないでくれ。……それじゃあ、俺はこれで」

 

 そう言って立ち去ろうとするキリト。

 

 その背を見て、ハタと思い出す。

 

 

 

 そうだ。俺はこいつに言わなくちゃならないことがある。

 

 

 

「キリト」

 

 呼びかけると、キリトは足を止めて振り返った。

 

 その顔は、何かを怖がっているかのように歪んでいる。

 

「いや、そんな怖がんなよ。傷ついちゃうだろーが」

「うっ……ごめん」

 

 今度はシュンとしてしまう。

 そんな顔させたくて呼び止めたわけじゃねえんだけどな。

 

 一つ息を吐く。

 

 どうやらこのキリト少年は、中学時代の俺並に純粋で人付き合いが苦手なやつみたいだ。

 思わずこっちも苦笑いになっちまう。けど、ちゃんと言うこと言わないとな。

 

「ありがとな。んで、あとは色々、すまんかった」

「ハチ……?」

 

 そうだよな。わからないだろう。礼ならまだしも、謝られる理由はキリトにはわからないはずだ。今はまだとても言えないが、いつかちゃんと言えたらいいと思う。

 

「いや、なんでもない。世話になった。ありがとよ。……またな」

「……ああ。じゃあ、また」

 

 柄にもないこと言っちまったが、その甲斐あってかキリトの表情は幾分かマシになった。

 

 再び背を向けたキリトは森の方へ歩いていき、やがて木々の間に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「比企谷くん」

 

 ふと、ユキノからお呼びが掛かる。

 

「いや、だから本名出すなって」

 

 そんなツッコミを返すと、ユキノは妙な――泣きそうな顔で頷いた。

 

「そう……だったわね。……ごめんなさい」

 

 ユキノの表情は痛々しくて、物悲しくて――。

 

 どういうわけか、見ていられなかった。

 

 




次回更新は明日のつもりです。できなかったらごめんなさい。
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