離別の果てで、今一度。   作:シー

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 これはきっと、まだ話すべきじゃない事柄なのだろう。
 あるいはいずれ予見し得る裏側とでも言うべきか。
 もっと言えば、既に予見した事象を裏付ける証拠か。
 それでも現状、彼等には話せなくても君は言っておくべきかな?
 一応、君は僕のマスターであるわけだし。
 人は死の間際に夢を見るか、なんて聞かれても困るけどね。
 けれどこれは、彼らが実際に見聞きした悪夢なのだろう。
 まぁ、僕はそれをちょっと覗いて聴いただけなのだけれどもね!


覗聴・肉色の集会場

 

 血腥い悲鳴が聞こえる。

 情け容赦ない殺戮の音が聞こえる。

 命乞いの声が、命が潰れる音が、命を差し出す声が、命を奪う音が、聞こえる。

 溢れる赤色は黒く濁るけれども、絶え間なく流れるならば、その赤は厚みを増して彼女の周囲を惨たらしく彩るのだろう。磨り潰された肉片は、脳漿や臓腑に紛れて白も桃色も一緒くたに巻き込んで赤色のペーストに変わる。

 そこに命は無い。尊厳も無い。そして意義もないのだろう。

 彼女は幾千万の命のペーストを肥やしと称し、神殿の素材と称した。故にこそ意味はあるのだろう。逆に言えばその程度の意味と使い道しかないという事なのだが。

 

 見上げる程に巨大な彼女が己が蛇体で粗方命を蹂躙すると、そこに新たに二つの人影が生まれる。

 赤色の惨劇、咽せかえり、吐き気を催す程の臓物の臭いに満ちたそこに、けれど人影は動じない。

 呆れかえるような言葉、諫めるように聞こえるもののそう聞こえるだけの言葉に、今しがた磨り下ろされた命を憐れむ色は無い。

 交わされる言葉の応酬は気安い。だが、その内容は殺伐としていて、ある種の喜悦に満ちてさえいた。

 命の価値、とりわけ彼女たちが足下に踏みつけている赤色が持っていた価値などあって無きが如しなのだろう。皆等しく下等だと巨大な彼女は断じる。

 

 ふと、そこに少年の若々しい声が響く。

 これまでも人影の、張りのある女の美声が三つほど響いていたのだが、そこに新たに混じった声はどこか皮肉気な色を纏って安堵の言葉を紡いだ。

 その声色に蛇体の女は母親として少年に声を掛け、少年も息子として母の声に応じる。

 少年は母親が他の二つの人影……他の女神と単独で会う事が気にくわないらしい。蛇体の女神、異邦の女神、土着の女神と三柱の女神が集い、同盟を結んだこの時勢であっても、母親を殺せるだけの力を持つ彼女たちの存在は少年にとっては不安要素以外の何物でもないのだろう。

 けれど、そんな少年の懸念を他の女神は一蹴する。神の契約はそれほど安いものでは無い――因果応報、他の女神への攻撃は天罰として己に帰るのだと言うが、少年は皮肉さを隠そうともしないままその言葉を鼻で笑う。

 

「ええ、これはそういうゲームです。ウルク王が隠し持つ聖杯。これを手にした女神が、人理焼却後の世界を支配する。それが聖杯をこの地に送ったモノ――魔術王が示した、ただ一つの契約です」

 

 少年はさらに言葉を繋げる。各々の女神が取る、聖杯争奪戦の手段、過程を朗々と語り、最後にちっぽけな脅威の予感を、歯牙にもかけないままに口にした。

 そして嘲弄で彩られた言葉を吐いた口で、今度は遅すぎる邪魔者の存在を言葉にした時とは打って変わった声色と笑みで言葉を紡ぐ。

 

「けれど目下の脅威は彼でしょう。僕らにとっては願ったり叶ったりですが、貴女達にとっては違う。彼はちっぽけな人間で、許し難い裏切者ですが……人でなくなった彼ならば、目的を達した暁には存在を許してやっても構わない。そうでしょう? 母上」

 

「腹立たしくはあるがな。奴は都合が良い。聖杯を手に入れるのが先か、それとも我らが家族を取り戻すのが先か……いずれにしろ、奴が事を成せば聖杯は手に入ったも同然よ」

 

 くすくすと母子が笑う。家族を取り戻すのが待ち遠しいと、楽しみだと、くすくすと笑い、他の女神を嗤う。

 異邦の女神はその様に眉根を寄せ、土着の女神は心底嫌そうに唇を歪めた。

 けれど彼女たちの額には一筋の冷や汗が流れる。家族、と母子が呼ぶ存在と、彼と呼ばれる脅威を知る彼女たちは、聖杯探索と並行して成さねばならない仕事があった。

 すなわち、『彼』の捜索及びこれの無力化。殺害は悪手以外の何物でもない。彼は生きても死んでも『彼女』の呼び水として優秀過ぎる。特に、彼の死によって顕現した彼女は、きっと最悪以外の何物でもない。確実にこの世界は滅ぶだろう。それでは折角の景品(せかい)が台無し……いや、それ以前に自らの命が無に還される。

 

「僕らとしては、彼の生死はどうでもいい。彼の後に続く彼女こそ――何物にも、何事にも、それこそ貴女達が恐れる契約ですら縛れない女神、歌い奏でる千剣、()()()()()()()()()()()こそ、僕らの勝利を確定させる重要な存在なのですから」

 

 美しい緑髪をさらりと揺らして、少年はそれこそ歌うようにして、愛しい()の名を口にした。

 

 





 まぁそんな訳で、彼の参戦は確定だね。
 自軍に引き込めたら有利だけど……うん、今は手出し無用が最善だ。
 彼はそもそも彼女以外眼中に無いしね。例外はあの女神くらいのものか。
 だったら今のところは害獣駆除に精を出していて貰おう。
 いずれは相対しなきゃだけど、それまでは、うん、触らぬ神になんとやらだ!
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