「全く、響ってばこんなに遅くまで何処行ってるんだろ」
午後5時を回っても未だに帰らないルームメイトの親友を心配する小日向未来は高校に入学したばかりの女子高生。この間まで中学生だった人間からすると寮暮らしというのはハードルが高いもの。
「まさかCD買えなかったからってまだ探してたりして」
ありうると思ってしまうのが幼馴染の立花響の行動力の凄さである。猫が木の上から降りられなくなっていたら救出し、道端で老人が迷っていれば一緒に迷いながら目的地まで案内する子である。ちなみに小日向未来が正しい道を案内する羽目になったことは一度や二度ではない。
「人助けに時間がかかったくらいならいいけど…………」
何しろ最近物騒な世の中である。ノイズが出現したりしていた日には気が気でない。
「テレビつけよう」
少しは気が紛れるだろうと思いリモコンを寄せ電源を入れる。親友と違いきちんと姿勢を正す淑女な彼女は寝っ転がりながらテレビを見るといった真似はしない。そう、立花響とは違うのだ。
しかし、小日向未来は何一つ予測などしていなかった。今やっている番組がどんなものなのか。
『Ulala's swingin' report Show!』
「あれ? この時間帯ってニュースやってたんじゃ…………」
あからさまに怪しいタイトルロゴが出てくる。少なくともニュースだと思えない。バラエティと勘違いしてもおかしくないくらい。と言うか該当する番組ジャンルが思い浮かばない。
『皆さんこんばんは、今日はノイズ発生地点近くにやってきました』
「なんで!? っていうかここ近くだよね!」
ギャラクチックなレトロ衣装のディスコティックなリポーターが何故か見覚えのある場所を中継していた。それだけでなく何故か特定指定災害ノイズの中継をわざわざする意味がわからない。
『ウララ、注意しろよ』
『了解』
「注意って…………そんなんでどうにかなると思えないんだけど…………」
しかし、特異災害ノイズは容赦なく生えてくる。どこか愛嬌のある姿だが、人間を炭にする能力のせいで人間の天敵としてよく知られている。小日向未来も授業で習った。親友も被害にあった。
『あ、ノイズがやってきました。激しい気配がギュンギュンします』
「ギュンギュンって何!? どう考えても言語のセンスが昔すぎるでしょ!」
のんきなことをいっているどこかとぼけているレポーターの発言にいちいち突っ込んでしまう。
『ウララ、早速だけどレポートしてくれ』
『了解。それでは、踊ってみたいと思います』
「いやいや、それおかしいから! 踊ってみたいと思いますじゃないから!」
事態は視聴者の意見など無視して進行していく。ノイズがリポーターを見つけると鳴き声を出しながら膨張と縮小を繰り返した。やけに空気が読めるノイズ達である。
『アップ、アップ、アップ』
基本形のアップ三連続。裏拍なしの表三回。まずはここから始まる、基本中の基本。
「と言うか踊り? なんでノイズから始めてるの!?」
『アップ! アップ! アップ!』
「しかも律儀に繰り返してるし! ダンスってこんな感じなの?」
ゲーム的メタに突っ込む女、小日向未来。きっと彼女は戦場をせんじょうと読む系常識人だ。
しかし事態は視聴者を置いてきぼりにして進んでいく。シチョーリツは無常に上がっていき、最後まで踊りきることでノイズも次々と瓦解していった。
『すごい勢いでやっつけましたー』
「ノイズってこんなに簡単にやっつけられるものだっけ?」
『いいぞウララ! その調子だ』
「え? そういうノリなの? というか何で躍りながら歩いてるの?」
現場から踊りながら移動しているときに突然ノイズが立ちはだかるのもお約束じみている。
ゲーム的演出に律儀に突っ込む系女子である小日向未来は真顔で見ている。
『ウララ、指示に合わせてAボタンビームだ!』
「Aボタンビーム?」
『了解! チューに合わせてAボタンビームですね』
「それさっき聞いた」
くだらない番組でもすることがないなら惰性で見てしまう日本人じみた行動をしてしまう小日向未来。なんだかんだ言って最後まで見るタイプだ。
『チュー! チュー! チュー!』
『行きまーす! チュー! チュー! チュー!』
「あ、なんか癖になりそうなフレーズだ」
この間まで中学生だったにもかかわらず女子高生特有の個性的な感性が突き刺さってる。ドライな感想を持ってしまうのも常識人だからだろう。どう反応すればいいかわからないともいう。
『チャンネルは、そのまま』
「あ、一応番組の体制とってるんだ。今のうちにお洗濯たたも」
CMが入っている間に洗濯物を取り込み番組を見ながらたたむ準備をする。すでに主婦のすることだが、これも修行のうちらしい。ちなみにお相手は今のところ親友以外にいない。
ーーーーーーーーーーーーーー Space channel 5 ーーーーーーーーーーーーーー
『工場にやってきました。ほかに人はいなさそうです』
「誰もいなさそうなのになんで来てるの?」
『大変だウララ、前方にジョシコーセー反応だ』
「ジョシコーセー反応って何!? そんなの発している人いるの!?」
あんまりなパワーワードにテンション上げて突っ込んでしまう小日向未来は親友がそんなもの発しているなんてかけらも思わない。
『了解、キューシツに向かいます。この先にいる気配がギュンギュンします』
「わかるの!?」
きっとわけのわからない超技術だろう。小日向未来は考えるのをやめた。しかしすぐに件のジョシコーセーが発見されることとなる。
『あー! セーフクを着たジョシコーセーとショーガクセーがノイズに囲まれています』
『生きるのをあきらめないで!』
「あれ?」
見覚えのある特徴的な髪色、毎日見ている見覚えのある――
「ひ……びき」
それは幼馴染で未だ部屋に帰らない――親友の――
「響!?」
間違いなく立花響だった。
『ウララ! 急いであの子達を助けるんだ』
『了解! Let’s dance!』
「いやいや! danceじゃないから! 助けるのにdanceじゃないから!」
冷めてみていた小日向未来だが、親友が危機となれば冷静でいられない。小日向未来は常識人なのだ。親友の危機につい取り乱すほどには。
『救出するにはBボタンビームだ!』
『了解』
「いいから早く助けて!!」
空気の読めるノイズはすべてリポーターに視線を向けていた。
ーーーーーーーーーーーーーー Space channel 5 ーーーーーーーーーーーーーー
ノイズの数が減ってきたとき変化は起こる。
『Balwisyall Nescell gungnir tron』
その呪文のような言葉で空気が変わる。リポーターのウララを見ていたノイズが響に向きを向けるくらい空気を読んでいる。
「響が外国語を使ってる!? いや、大事なのはそんなことじゃない! なんか光ってる!? 何が起きてるの!? え? え? え?」
『ご覧ください、ジョシコーセーがすごい力を発しています』
「そんなふわっとした説明じゃなくて! いいからどいて! 響に何が起きてるの!?」
セルフ突っ込みとともに全力で叫びをあげる小日向未来。常識人の格好を脱ぎ捨てるくらい衝撃の事態だ。
「って響が変身した!? なんで!?」
『エエエェェ!? どうなってるの!? なんで!? あたし、どうなっちゃてるの!?』
「ほんとにどうなってんの!?」
小日向未来は親友が変身したり、体からすごい工業的な部品がはみ出したり入ったりするのを目撃してうろたえないほど一般人力は高くない。
『とにかく踊って見ればいいと思います』
『よ、よくわからないけどやってみます!』
「いやいや流されちゃダメだから!」
立花響は将来は何かしらの詐欺に引っかかりそうなノリであっさりと踊りに加わる。何かキレが良い。小日向未来の知る限りダンスは初めてだ。
ーーーーーーーーーーーーーー Space channel 5 ーーーーーーーーーーーーーー
『全部やっつけましたー』
『かっこよかったぞウララ』
『うへっ!? 私もやっつけたの?』
『うわー、お姉ちゃんたちかっこいいー』
「いやいや、かっこいい?」
無駄にディスコなキレのいいダンスだがかっこいいといわれると何か違う。
『チャーチャラッ、チャラチャ』
『FOOOO!』
「ノリがいいね。後響、脇出てるから」
全国放送なのか地方放送なのかで響の乙女生活が変わってくる。なお、一日足らずで拡散される予定である。響の脇ちらは散々ないわれようとともにネットの海に転がることとなるだろう。
しかし空気は突然壊れる。
『ウララ、気を付けろ! 空から巨大な物体が猛スピードでこっちに向かってくるぞ!』
『えー!』
前触れも無く飛んできた巨大な剣が轟音とともに目の前を立ちふさぐ。
『えっ!? 壁?』
『剣だ!』
その剣の上に立っているのは、
『えっ!? 翼さん!?』
『なんですってー!』
「ちょっと、理解が追い付かないんだけど、何事?」
いきなり天の上のアイドルも変身していた。仮面を被ったくらいで正体をごまかすつもりだとしたらあまりにお粗末である。もちろん小日向未来には正体がまるわかりである。
『報道関係者に告ぐ、ここから先は国家特別機密のため一切の撮影を禁止する!』
「だいぶ手遅れです、翼さん」
『えっと、翼さん…………ですよね』
『私は風鳴翼ではない、えーっと…………そう、ウインドブラストウィングだ』
「翼さん、隠す気あるんですか?」
思わず素の口調で言ってしまう小日向未来。アイドル相手でもあれなことをする相手には容赦なし。変な子には慣れているのだ。
『ともかく、ふざけた気持ちで戦場に出てくるなら容赦しない!』
「あ、いくさばって読むんですね、それ」
『私が踊りで負けるものか!』
「さっきからダンス、判定勝ちで乗り越えてるよね」
特撮で変身シーン中に攻撃を仕掛けるくらいお約束を守らない系女子、小日向未来。響が絡まないならこんなものである。
『Let’s dance!』
「あ、翼さんも踊りに乗った」
『アップ、ライト、レフト、ダウン、チュー、チュー、チュー』
「チューって流行ってんの?」
裏拍なしのストレート、風鳴翼…………もとい、ウインドブラストウィングらしいストレートなダンス。
『アップ、ーーーーーーー、レフト、ーーーーーーーチュー、チュー、チュー』
「あ、いきなりミスしてる」
キレがないのはきっと
ーーーーーーーーーーーーーー Space channel 5 ーーーーーーーーーーーーーー
『くっ、やるじゃない、足手まといにはならないみたいね』
『とりあえず勝ちました』
「あれ? 翼さんの負けなんだ、今の」
『よくやったなウララ』
勝負が終わっても危機は脱出していない。空気を読まず突然空間が歪む。
『ウララ。そこに大型ノイズが出現するぞ、気を付けろ』
『了解、なんとかします』
『その必要はないわ、そこで見ていなさい』
大ボスっぽいノイズも現れたとたんあっという間に塵に返すあたりチョー強い感じがする女、風鳴翼、もといウインドは一流の剣なのだ。
『うわぁ、翼さんさすがだなー。強そうなノイズが出たと思ったらあっという間にやっつけちゃった』
『さすがウィンドブラストウィングです。強そうなノイズが一撃です』
「あ、まだその名前で通すつもりなんだ」
なお、響はそのまま隠すつもりはない模様。
『これが防人の力よ』
『以上、現場からはウララがお送りしました!』
『え? これ生放送なの!? 全国放送なの!? えっ!? 私変な子だと思われちゃうの!? えっ!? 未来も見てるの!? え!? 何を言えばいいかわかりませんが、お疲れ様でした!』
「見てるよ! 変な子そのものだよ! 何も言う必要ないよ! 何やってんの!?」
親友に対してだけまじめに突っ込む。
『すまないが、あなたたちをここから帰すわけにはいかない。もう手遅れな気がするが、国家特別機密事項に該当するため……』
『Space channel 5!』
「最後までマイペースだ! っていうか響は! 響はどうなるの!?」
画面先では風鳴翼の憤慨している場面で途切れる。続きが気になるところで終わってしまったが、響が今日中に帰ってこれるかどうか気になるところだ。
「……お夕飯つくろ」
こうして怪しげな番組に出ていた親友が帰ってくるまで今日は起きていようと気合を入れるのだった。夕食には徹夜でも問題ない位重たいもの、つまりはカツ丼を用意しようと気合を入れていた。取調べする気満々である。
ーーーーーーーーーーーーーー Space channel 5 ーーーーーーーーーーーーーー
「未来、ただいまー」
「おかえり響、今日は遅かったね、すごく疲れてるみたい」
「あはは、ちょっと疲れることがあって……」
「まるでノイズに追いかけられて変身して戦って踊っていたみたいね」
「ウェッ!? なんで知って……じゃなくてええっと……」
「全部話して」
「守秘義務ってやつで…………」
「全部見てたんだからね。隠し事しないで」
「その、あの、えっと……」
「お夕飯はカツ丼だよ。話、長くなりそうだからね」
「わ~ん! 私って呪われてる!」
つまりはそういうことだ。
ところでスペースチャンネル5の無印の移植はまだですか?