思い付きフォギア   作:diethyl

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 小説版を読んだから衝動で書いてしまった。いやエックスさんも苦労してるんだなって。


イレギュラーハンタービッキー

 “ゼ…ロ……キミ…なら…できる……キミ…な…ら……”

 バイルのこと、ネオアルカディアに残る人々のこと、そして親友のこと、すべて置き去りにしてこの世界から消えてしまうことが気がかりだ。それも、杞憂なのかもしれない。だって、親友がいるのだから。いつだって彼は自分では決められないことをかわりにやってくれた。臆病だった撃てなかった自分のかわりにイレギュラーを撃っていたことも今では遠い昔の話だけど、きっと本質は変わっていないのかもしれない。ああ、また自分は彼に押し付けてしまった。もう涙は流せないけど、きっとレプリロイドだったあのころだったら泣いていたのかもしれない。だけどサイバーエルフどころか、もう意識さえ消えてしまうのに、何もできないのがたまらなく悲しい。

 

 ――――でも、もし、もう一度、エックスとしてではなく、一人の命として生きていけたら。今度はきっと、きっと……

 

 

 

 「またエックスの夢だ」

 

 かくして、(立花響)は目を覚ます。毎日のように同じ人の、人というにはおかしいかもしれないけど確固たる個性を持っていたから“彼”といってもいいのかもしれない。彼の夢は悲しい。いつだって涙を流して戦っていた。かつての同僚、自分を殺すために作られた存在、ウイルスに操られた同族、誤解から発展した戦争、世界滅亡を前にして襲い掛かってくる感染者、死の淵から蘇り対立せざる負えなかったもの、彼らに咎はあったのか、いつだってエックスは泣いていた。レプリロイドと呼ばれた種族である考えるロボット。その中で涙を流しているのはエックスだけだった。誰よりも強かった彼が涙を流すのか、彼の視点だからわかる。 ――人間以上に悩んでいた。人間以上に悲しんでいた。人間以上に――

 

 「夢は夢だよ」

 

 自分に言い聞かせるように考えないようにする。だって私は彼ではないんだから。間違っても彼のように戦うことなんてないんだから。そんな状況を突き付けられても私は――彼のように戦えない。戦うことなく引き金の重さだけは知ってしまった。普通に生きて、普通に暮らして、だからそんなこと関係ないんだって。

 

 

 

 ――だから、きっと、ノイズを壊せるのも夢なんだ。タタカエルナンテウソナンダ。

 

 「嘘……」

 

 右手に見覚えがある武器。エックスバスターと言われていた彼の武器。

 

 「嘘だよね」

 

 体はエックスのアーマーが体のように張り付いていて。

 

 「嘘だって言って」

 

 降り積もった灰。ライブ会場に沸いていたノイズの残骸。

 

 「嘘だあああああ!」

 

 ワタシガタタカッタンダ。エックスニナッテ。

 

 「おい、あんた」

 

 「違う! 私は!」

 

 「何言ってんだ、あんたのおかげでノイズを殲滅できた。ライブの観客もあんたが守ったんだ」

 

 「違う違う違う! 私じゃない! 私が戦うなんておかしい! 私は! ワタシハ! オレハ!」

 

 バスターが取れない。アーマーも取れない。トレナイ。コワシタナカマタチガ、アシモトカラワイテキテトレナイ。

 

 「奏! その子、何かおかしいわ!」

 

 「みりゃあわかる。自分の力に戸惑う感じじゃないみたいだ」

 

 「(おれ)は、エックスじゃない! イレギュラーハンターなんかじゃないしレプリロイドなんかじゃない! 私は人間なんだ!」

 

 「エックス……可能性の名を持つもの……待って、」

 

 「おい! どこに――」

 

 逃げないと、にげないと、ニゲナイト。どこに? 何から? どうして? ワカラナイ。ダッテ、戦いからは逃げられない。

 

エックスは可能性の名前だから。進化の可能性なんだから。いつだって戦いの中心にいたんだから。

 

 私は逃げられない。

 

 

 

 ――LAST∞METEOR――

 

 「くそっ! 数が多すぎる!」

 

 「奏! 無理しないで」

 

 「無理しなきゃファンの皆様を守れないだろ。この場で槍と剣を携えているのは私たちだけなんだから」

 

 「でも、リンカーが」

 

 もう100を超える数をつぶしているはずなのにいまだにいなくなる気配のしないノイズの群れ。時限式の聖遺物を使っている身としてはいい加減終わりが来てほしいところだが、

 

 「危ない! 右上から飛んできてる!」

 

 「!?」

 

 声に従い目視して飛行型ノイズを振り落とす。振り返るとワンピースを着た少女が無防備に立っていた。間違いなくライブに来ていた一般人だ。

 

 「何してんだ! 駈け出せ!」

 

 「大丈夫です! ですから、あなたも無茶して戦わないでください!」

 

 「わかったから早く!」

 

 逃げろという前に体が重くなっていく。リンカーが切れてきた。このままではこの子を守れない。戦うことすらできなくなっている。

 

 「ちっ! 時限式だと――――」

 

 「奏!」

 

 「しまっ!? 逃げろ!」

 

 適合係数低下によりギアの実体が保てなくなっている。このままではと思う間もなくガングニールのアームドギアが割れる。破片が飛び散り近くにいる彼女に――――

 

 「え?」

 

 呆けた声は誰のものだったのか。結論から言えば破片は刺さらず彼女の青の装甲に弾かれた。

 

 「嘘……」

 

 その装甲を見て彼女は信じられないようなものを見るような目で自分の手を握ったかと思うとカメラアイのようなものがついた膨らみに変わっていた。

 

 「私……」

 

 「呆けるな! 早く……」

 

 「――戦わないと」

 

 「え?」

 

 明らかに雰囲気が変わった。先ほどまで足をくじいていた人間とは思えないほど彼女が俊足で飛び出したのは見えた。

 

 「守らないと」

 

 ――LAST∞METEOR――

 

 「奏の技を!?」

 

 「物まねされるほど芸歴を積んだつもりはないんだけどな」

 

 全身に青い聖遺物を纏い、明らかに私の技を使ってノイズたちを殲滅する。的確にノイズたちを撃ちぬいていく。動きからして間違いなく翼より戦いなれている。

 

 「イレギュラーは、倒さないと」

 

 だというのに彼女には危うさしか見えない。腕から出しているエネルギー弾は無駄がなく、狙いが正確なのにどこにも余裕がない。

 

 ――逆羅刹――

 

 「わ、私の技まで! 何のつもりなの!?」

 

 「ただのファンって感じじゃなさそうだな」

 

 本格的に物まねが好きらしい。今度は翼の技にまで手を出してきた。的確にノイズたちを撃ちぬいて戦える彼女がなぜ人の技をパクる必要があるのか。そんなことは後で聞き出せばいいことだが彼女はそんな余裕はなさそうだ。

 

 ――――ああ、危うさの正体がやっとわかった。彼女は泣いている。泣きながら戦っているのだ。

 

 すべてのノイズが一掃されても彼女は炭化したノイズにずっと泣きながら撃ち続けていた。戦いは終わったというのにずっと戦場にいるかのような、帰る家をなくしたかのような、そんなありさまだった。

 

 「おい、もう終わったんだ」

 

 「ノイズの反応はもうないわ。それよりもあなたには」

 

 「あ……」

 

 ようやく状況が飲み込めたように腰を抜かす少女。さっきまでの勇敢さは一切なく、自分におびえるような形で解除されないアームドギアを見つめる。

 

 「……そ……そ……よね……そ……って……て……嘘だああああ!」

 

 信じられないように叫びをあげる。彼女は自分のしたことを拒絶するように叫んだ。

 

 「おい、あんた!」

 

 「違う! 私は!」

 

 何か悪いことをしているみたいなことを言う。むしろ誰にもできないことだ。

 

 「何言ってんだ、あんたのおかげでノイズを殲滅できた」

 

 そしてこれだけは譲ってはならない。

 

 「ライブの観客もあんたが守ったんだ」

 

 「違う違う違う! 私じゃない! 私が戦うなんておかしい!」

 

 だっていうのに彼女はびくりと肩がはねて拒絶するように叫ぶ。

 

 「私は! ワタシハ! オレハ!」

 

 彼女の叫びは懺悔のように聞こえた。

 

 「奏! その子、何かおかしいわ!」

 

 それは同感。

 

 「みりゃあわかる。自分の力に戸惑う感じじゃないみたいだ」

 

 例えるなら自分ではない何かにおびえている感じだ。

 

 「(おれ)は、エックスじゃない! イレギュラーハンターなんかじゃないしレプリロイドなんかじゃない! 私は人間なんだ!」

 

 錯乱しているがいくつか重要な言葉は拾えた。後は一つずつ聞き出せればいいんだけど……

 

 「エックス……可能性の名を持つもの……」

 

 翼が拾った単語に心当たりがあるのはいいが少し首を傾げた瞬間彼女はギアの出力で走り飛んでいく。

 

 「待って、」

 

 「おい! どこに――」

 

 目を離すや否や彼女は遠くに逃げていった。

 

 

 

 

 

 「はっ、はっ、はっ」

 

 ライブのあった日から私は部屋から出れなくなった。

 

 「うえぇ……」

 

 胃の中は空っぽなのに吐き気が止まらない。食欲は無いのか、食欲が消えていくのか、食事を取らなくなってしまったらきっと。私は――

 

 ――大丈夫、レプリロイドだってサイバーエルフだってエネルゲン水晶が必要じゃないか。食事が人間と違うだけでレプリロイドだって食事をする。私はまだ人間だ。

 

 だから、あのライブでの出来事はウソなんだ。

 

 右手は右手だしアーマーだってつけていない。お風呂で何度も確かめた。

 

 なのに、なんで、涙をながすのだろう。

 

 「私は――」

 

 “あんたが守ったんだ”

 

 「違う!」

 

 エックスはそうして守って、護って、戦った、闘った、タタカッタ、そして平和は訪れたの? みんな幸せになったの?

 

 「結局戦いの人生だったじゃない」

 

 その結果が、あの結末だった。イレギュラーを(ころ)し続けて、心が擦り切れて、築き上げた理想郷は乗っ取られて、戦いを誰かに押し付けて、迷って、悩んで、悲しんで、泣いていた。

 

 「そんなの、悲しすぎるよ」

 

 そんな彼にはなれない。そんな彼のように戦えない。そんな彼のように――なんで私は泣いているんだろう。

 

 「響、入るよ、大丈夫?」

 

 「…………未来」

 

 親友の声さえ今の私には遠い。この友情さえ作り物だとしたら、きっと私は――

 

 「大丈夫よ、ここには響をいじめるものなんて何一つ無いわ」

 

 「私、」

 

 「今はゆっくり休んで。きっとまた笑えるようになるからね」

 

 「ごめん……」

 

 「悪いことばかり考えないで。響が生きているだけでみんな嬉しいんだから」

 

 未来の体温がなかったらきっとどうにかしていた。未来がいるから私はまだ生きていける。私はまだここにいるってわかるんだって。未来は陽だまりだから。

 

 「響? 寝ちゃったの? ……そっか……」

 

 意識が遠ざかっていく。しばらく夢を見るのが怖かったから寝てなかった気がする。そっか、私未来の前で寝ちゃうんだ。ちょっと恥ずかしいな。

 

 「私が守ってあげるからね。だから何も心配する必要はないのよ」

 

 意識が遠くなっていき、すべてが遠くなっていく。ああ、私が普通の女の子だったら、未来に迷惑かけなくて済むのかな?

 

 

 

 

 

 「それで、会場でノイズを一掃した青い聖遺物の少女は特定できたか?」

 

 「はい、奏さんと翼さんの証言からおそらく彼女だろうと思われます」

 

 「そうか、ご苦労だった」

 

 「ただ彼女の状況は芳しくないようです。自宅から閉じこもったままで外に出られない日々が続いています。関係者の証言によると食事もろくにとらず時に錯乱を起こしているらしいです。これも二人の証言から割り出した装者のメンタル状況と一致する情報です」

 

 「そうか、無理強いはさせたくないが上も二課(うち)以外で聖遺物を扱う存在を知ってしまっているから接触は時間の問題でしかないな」

 

 「はい。できるだけ調査中でごまかしていますが下手を打てば強硬手段を用いる部署も出てくるでしょう」

 

 「相手を刺激せず秘密裏に保護する必要があるな。できる限り穏便に」

 

 「彼女のメンタルケアも必需でしょう。二度と戦えないばかりか最悪自ら命を絶つことになりかねません」

 

 「そうなると彼女と接触できる人員は限られてくるな」

 

 「ええ、でもゼロでなかったのは幸いです」

 

 「そうなると彼女だな」

 

 「ええ、そうなりますね」

 

 「……できることなら、少女が再び戦うようなことが起きなければいいんだが……」

 

 「はい、聖遺物の譲渡で済むのならそれに越したことはありませんからね」

 

 

 

 

 

 新たな戦いは、すぐそこに迫ってきていた。




続きなんてないんだから///
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