それではどうぞ
三人称side
「何のつもりだ!?」
ブランがおもむろに取り出したのは、そこら辺に落ちていたと思われる『木の枝』だった。何を考えているのか全く分からず、ヴァーリはブランに向かって声を荒げる。
「何って……武器だろ。武器を持って何が悪い?」
「ふざけるな!そんなのは戦いではない!俺を馬鹿にしているのか!?」
「おう、馬鹿にしているぞ。なんだ、ハンデが足りないなら左手の小指1本だけで戦ってやろうか?」
「……ナメるなぁ!!」
その慢心が命取りだと言わんばかりに先制攻撃を仕掛けようと、背中の翼で加速し、ヴァーリはブランに向かって突進する。しかし、ただ突進するだけでなく、背後に回り込んで後ろから殴りかかる。
「フン」
それに反応できないブランではなかった。彼は振り向きざまに木の枝に自身の『気』を纏わせて強度を上げる。そして、突き出された拳を木の枝を横に振るって弾いた。
「ただの木の枝で弾いただと!?」
拳を変なもので弾かれたことに驚きを隠せるはずもなく、ヴァーリは距離を取った瞬間、動きを止めてしまう。そして、それを逃さずブランが自身に接近してきた。
「しまっ……!」
『やられる』
そう確信したヴァーリは咄嗟に両手をクロスしてガードの体勢に入る。そして、ブランはヴァーリの眼前に手をかざして気弾を出す体勢となり、ついに……。
「はぁっ!!」
パンッ!
「……は?」
何が起きたのか。ヴァーリは一瞬理解出来なかった。見てみると、自身の鎧には、よくパーティで使用される『クラッカー』から飛び出る紙テープや紙吹雪が纏わり付いている。
そして、ブランの方へと視線を向ける。彼の掌からはプスプスと煙が上がっている。そう、まさにブランの手からは、あのクラッカーのように中に仕込んだ火薬が発火しパンと音が鳴ったのだった。攻撃ではなく、ただ『音を鳴らしただけ』だ。
「あはははっ!引っかかりやがって!お?どうした?ただクラッカーで脅かしただけだぞ?何をそんなに怒っている?」
「クソが…!ラァァッ!」
彼にとって、これはただの遊びに過ぎなかったのだ。その事に憤慨し、早くも冷静さを欠いたヴァーリは、拳を突き出す。が、それよりも速く、ブランが持つ木の枝が彼の手の甲に置かれていた。そして
「そらっ」
「ぬぁぁっ!?」
そのまま、その枝でヴァーリの手の甲を押し込むと、彼の身体がまるで扇風機のように横回転するのであった。
「ほいよ」
「ガハッ!」
目が回るほどの高速回転を自らの身体で起こすヴァーリは、回転中全く身動きが取れず、代わりにブランが回転の中心である彼の胴体を軽く蹴る。
「ぐっ…こうなったら……!」
ヴァーリは、完全に遊ばれているこの状況を打破しようと、ブランから距離を取り、次なる力を解放する。
『Harf Dimension!』
その音声後、校舎近くの空間が歪み、それが圧縮されるように小さくなっていく。何が起こっているのか分からないブラン。そして、それはイッセーやリアス達も同じことだった。
「な、何だ!?」
「アイツの能力は、相手の力を半減する能力。お前さんとは逆って感じの能力だが、禁手状態でのアイツにはもう一つの能力が付与される。それは、特定の空間の大きさを半減し、それを自分の力へと変換することだ。勿論、物体の大きさを半減することだって可能だ」
「マジかよ……ってことは、その能力で使い方次第では部長のおっぱいも小さくなるってことじゃねぇか!アイツも許せねぇ男だ!!」
「イッセー、貴方って子は……もう」
女性の大きな胸こそ自身の全てであるイッセーの文句に呆れているのか、それとも自分の身体に興味津々で少しだけ嬉しいのか、それはリアス本人にしか分からない。
一方、ブランは一度地上へと降りる。いつまでもニヤリという余裕の笑みを崩さない彼に対し、ヴァーリは、能力で自身に上乗せした力を魔力弾として手のひらに集中させる。かなりの大きさであり、地上に落ちたら、さぞ大きなクレーターが出来上がるだろう。
「覚悟はいいか?」
「覚悟?……おいおい、分かっていないようだな。そんな虚仮威しが俺に通用すると、本気で思っているのか?」
「……くらえっ!」
ヴァーリは巨大な魔力弾を地上にいるブランに向けて放つ。しかし
「……」
臆することもなく、その場にジッと佇むブランは、その魔力弾が自身に当たる直前、手のひらをかざして受け止めた。そして
「ほい」
「なっ……!?」
ちょっと握ることで、その魔力弾をあっという間にかき消したのだった。破壊の力を使ったのではなく、ただ単に『潰した』だけだ。少しは効くと踏んでいたヴァーリは、強化された自身の力が全く通用しないことに戦慄し、動きを止めてしまった。
「終わりか?なんなら今度はこっちからいくぜ」
ピシュン!
「!?」
瞬間、ヴァーリの背後に一瞬で回り込んだブラン。攻撃はせず、ジッとヴァーリの背中を見る。背後を見てやっとブランの位置に気づいたヴァーリは慌てて距離を取った。
なお、驚いたのはヴァーリだけでなく、三大勢力のトップ達も同様であった。
「何だ!?今、奴は何をした!?」
「消えたり、木の枝を強化したり……一体どんな能力か見当がつかない……!!」
(馬鹿ね、木の枝を強化ってのはあくまで鍛えれば誰でも出来る『気のコントロール』の応用。コイツらは大抵、『強者には特異な能力がある』という考えが頭に染み付いているから、師匠が特に変な能力を使ってないってことが分かっていない)
(消えて見えるのは、ただ単に白龍皇の背後にししょーが高速で移動しただけ。我とティアマットのように気を扱えない者、みんな理解力が乏しい)
ティアマットとオーフィスは特に驚きもせず、ブランがやっていることを冷静に分析し終わっていた。歴代最強の白龍皇といっても、彼女達はブランが負けるはずがないということは最初から分かっているのであった。
「おらよ」
「がぼっ!?」
バキンッ!
(ば、馬鹿な……!木の枝で殴られただけで鎧が壊された!?見かけはただの枝だぞ!?一体何をしたこの男!?ば、化け物め……!!)
距離を取ったヴァーリの行動は無意味に終わった。すぐさま近づいたブランが振るう木の枝が銀色の兜に炸裂すると、音を立てて割れる。そして
「ほらよ」
「ぐぁぁぁぁぁぁっ!!」
追撃として今度は顎に一発木の枝を当てる。体が仰け反って上へと飛ばされるヴァーリ。軽く振るっただけなのに、何故このようなダメージを食らうのか、彼には納得ができず、とりあえず一発仕返しをしなければ気が済まなくなるほど冷静さはなくなっていた。
「ッァァアッ!!」
ヴァーリは仰け反りから立ち直ると、すぐさまブランに拳を突き出す。イッセー達がやっと目で追いつけるほどの高速の連打。禁手を纏っている彼の拳の威力は、堕天使総督のアザゼルでさえ脅威に思う程だろう。
しかし、それではブランには通用しない。彼は身体を横に逸らすくらいの最小限の動きで躱し続ける。目で追っているわけでは無い。ただ、相手の気の流れを感じ、動きを読んでいるだけである。
一方、ヴァーリにそんな技術はない。ヴァーリも相手の気を読むことは多少出来るが、戦闘時にその力を応用することは出来ていない。たとえ、ブランの神の気が読めたとしてもだ。
「はぁ、はぁ……!」
避けるブランに息切れが見えず、代わりにヴァーリに疲れが顕著に現れる。動きを止めたヴァーリに対し、距離を取ったブランはクルクルと木の枝を自分の掌で回しながら口を開く。
「もっと本気でやって欲しいな。それとも、本気でやってそのザマだったかな?だとしたら悪かったな。謝るよ」
「キ、キサマ……!!」
フフッ、と煽るような嘲笑がヴァーリの神経を逆撫でる。
「しかし、このままではつまらないな」
元より期待はしていなかったが、これではお遊びにもならないと愚痴るブラン。すると
「クソ……神器の力さえ通用すれば……!!」
「ん?」
ヴァーリが憎々しげに呟いた言葉に、気になったのか、興味を示す。そして、同じようにその言葉を聞いていたのか、地上にいるレムギットが彼に助言する。
「ブラン様〜。その方の神器の力は、相手の力を半減し、その半減した力を自分に上乗せ出来るのですよ〜!でも、あなたの纏う神の気がそれを邪魔して効果が発揮できないとのことです〜!」
「……ほう」
ブランは驚きというよりも、どちらかというと喜びが見られる反応をする。それはつまり、自分にハンデを課せられるだけでなく、その分相手が強くなるということを意味し、それはブランのサイヤ人としての本能を騒ぎ出すトリガーとなった。
「よし、良いこと考えた。おい、よく聞け。俺は今から、一度俺自身が纏う神の気を解くことにした。そんで神性が無くなったところに、お前の神器とやらで俺の力を吸い取ってみろ」
「何……!?それがどういう意味か知っていて言っているのか……!?」
ヴァーリは、自ら力を解くブランの意図は理解出来ず、完全に弄ばれているのを理解。一方、その慢心を逆にチャンスだと感じたのはアザゼルだった。神器を研究していた彼は、ヴァーリの力でこの戦況を逆転できる可能性を感じたのだ。
「随分と舐めきっているが、それは悪手だぜ破壊神様よ。ヴァーリに力を吸い取られれば、大抵な戦況は揺らぐ。しかも、余分な力は逃すこともできる。もし、本当に力を奪うことが可能となったなら、既にヴァーリに触れられた時点でチェックメイトだ」
「じ、じゃあ自分の力は増して相手は弱体化するってことじゃねぇか!そんな馬鹿強いのが俺のライバルだったのかよ!」
アザゼルの解説にイッセーだけでなく、リアスやサーゼクス達も驚きを隠せない。だが……
「フッ」
「……何がおかしい?」
ブランは笑う。それが余裕か、慢心か、はたまた虚勢なのか、ヴァーリにはどれか分からない。
「いや、相手の力を奪わなければまともに戦えないなんて…………赤ん坊みたいな奴なのかと思ってな。所詮借り物の力である道具にしか頼ることのできない可哀想なお前に、せめての慈悲を与えてやっている破壊神の俺は優しいもんだと自賛してるだけさ」
「ッ……!!」
口を開けば煽りや侮蔑の言葉しか出てこない。ヴァーリは、いい加減ブランの顔面に一発拳を食らわせたい気持ちが溢れそうになるが、なんとか堪えて踏みとどまる。
(落ち着け……相手のペースに惑わされるな。半減してしまえばこっちのもの……奴の油断や慢心が勝敗を決するということを悟られてはならない。たとえ相手が強大な力を持っていたとしても、その余分な力を瞬時に逃せばいいだけだ。そして、後は奴の力をどんどん低下させていけば……!!)
単純なことだ。自分の力で敵を弱体化させればいい。ただそれだけだ。いつもやっていることだ。何を躊躇する必要がある?と――――――
そんな自問自答を繰り返し、ついにその力を発動する。
『Divide!』
(よし!成功だ!)
神器は反応した。このまま、ブランの力を吸い取れると内心ほくそ笑むヴァーリ。しかし
ブチィッ!
「ぐぉぉぉぉぉぉっ!?」
「は?」
なんと、力を吸い取った瞬間、彼の右腕と左足が身体から噴射するようにもげてしまった。禁手の鎧も解け、ヴァーリはフラフラとなりながら地上へと落下する。
「ごぼっ!?がはっ…はっ……ガァァ……!!」
千切れた部分からは鮮血が噴き出し、更には吐血までしてもがき苦しむ。突如起きた異様な事態に皆が驚愕し、その正体に気づいたのは、彼が小さい頃から一緒にいたアザゼルだった。
「まさか、間に合わなかったとでもいうのか!?」
「どういうことだ、アザゼル?」
「あの破壊神の力が強大すぎて、ヴァーリがその力を逃すのが間に合わなくなって暴走した……つまりオーバーフローを起こしたってことだ……!」
この場合、完全にヴァーリやその他の者達の考えが甘かったのだ。神器が通用すれば、破壊神の弟子ならば、まだ勝機はあると。しかし、そんな浅はかな彼らの常識は、破壊神である彼に通用しないのだった。
「何だ?お前の言う、力を吸い取る能力は四肢のどれかがもげる能力なのか?芸だとしても面白くねぇぞ」
ブランは心底がっかりし、それと同時に納得してしまう。先程は、相手の力を吸い取る白龍皇ならば、もしかしたら自分と同等の力を手に入れるかもしれないと思っていた。しかし、よくよく考えてみれば、自分の力がヴァーリのキャパシティに収まるわけがないと納得したのだ。我に返ってみると、自分が思っていたのはただのぬか喜びにすぎず、一気に彼自身のやる気も下がってきた。
「お前、本当に俺に勝つ気あんの?」
「……何が言いたい」
「俺が当ててやろうか?お前、殺されそうになったら逃げ帰るつもりだろ?最初っから俺の力を試し、自身との差を確かめたかっただけに過ぎない。不利になればいつでも逃げられるよう、切り札でも残してんだろ?」
「逃げる?…ふっ、戦略的撤退と言ってもらおうか。俺もまだまだ強くなる……今、勝てなくても、いつか必ずお前を倒せるくらいに強くなる…!それに、お前が言うように俺にはまだ切り札がある……俺は、このままでは終わらんぞ!!」
(右腕と左足がないくせに、よく吠える奴だ……)
「ん?」
その瞬間、ブランは何か違和感を感じた。キョロキョロ辺りを見回すことはせず、目を瞑ってその気配を察知する事に集中をする。すると
ヒュン!
数秒毎に何処からか気弾が飛んできた。風を切る音が聞こえ、動きを察知したブランは四方八方から次々と放たれるそれを避ける。敵は複数いるかと思われたが、感じる限り、人の気配は『1人』だけで、放たれる気弾の種類も同じもの。
つまり、導き出される答えは一つだった。
(なるほど、転移か知らんがチョロチョロ移動して四方八方から撃ってるように見せかけてるだけか)
ブランは納得すると、視線と身体は前に向けたまま、右手の親指を除外した4本の指を立てると左脇腹の横からのぞかせるように後ろ斜め下へと向ける。そして
「フッ!」
「ガハッ!」
右手から伸びたエネルギーの刃。ブランが形成した気の剣が何者かの腹部を貫き、ブランはそのまま持ち上げて自分の前へと持ってきた。
「ッ!美猴!」
「ガッ……クッソ……!!」
漢服を着た男が、腹部に貫通しているブランの気の剣によって痛みに悶えており、どうやらヴァーリの仲間のようだ。
「誰だアイツ……?」
「アイツは、開戦勝仏の末裔……簡単に言えば、かの有名なクソ猿、孫悟空だ。まさか、奴も禍の団に入ってたとはな」
イッセーの問いにアザゼルが答える。その声はブランにも届いており、先程の美猴のまどろっこしいやり方にうんざりしている様子だった。
「コソコソ隠れやがって……気の消し方が甘いんだよ。……つっても、今のは仲間がやられて、ついでしゃばりたくなったのが原因か?まっ、悪くはねぇが雑魚に変わりはねぇな」
「ヴァーリ……さっさと、逃げ、ろ……!」
「それに、孫悟空だと?……アイツと同じ名前を持ってるくせにその程度か。これぞ雲泥の差って奴だな……さっさと失せろ」
「ガッ……」
貫通した気の剣を上へと一気に振り上げ、心臓が真っ二つどころか胴体が真っ二つになったことで美猴は呆気なく絶命した。ボトボトと、ヴァーリの目の前に彼の死体が落ち、彼の死を嘆くかのように怒号を上げた。
「び、美猴!!き、貴様ぁ……!!貴様だけは、貴様だけは必ず俺が殺す!!」
「フン、急に仲間思いな一面を見せてきたか。が、最初から逃げ道を確保し、あまつさえ勝つ気がない腰抜けのお前に次なんてあるわけがない。今ここで逝け」
ブランは終わりにしようと木の枝を親指と人差し指で持ち、まるでダーツで的を射るかのように狙いを定める。しかし
『ま、待ってくれ!!』
「あ?」
「アルビオン……?」
突然、何処からか声が聞こえた。気を感じないが、耳をすますとどうやらヴァーリの体から聞こえるのだと理解したブランは溜息を吐く。
「なんだ、その神器とやらの魂か。言っとくが、コイツを見逃してくれなんて願いは聞き入れないぞ。ジジイに喧嘩売った以上、情けで逃すなんてこちらの面子ってものが丸潰れだからな。恨むなら安易な気持ちで俺に挑んだコイツを恨みな」
聞き入れる様子はなく、ブランは気を取り直して再び木の枝を構える。しかし、アルビオンの口から出たのは、ヴァーリの助け舟ではなく、ブランの虚を突く願いなのであった。
『私を……私を助けてくれ!!』
「「「「「!?」」」」」
懇願するように放たれた言葉は、まさしく『命乞い』だった。アーシアの神器が完全に消え去ったことを聞いて、余程同じ目にあいたくなかったのか、声が若干震えている様子だった。
一方、ブランはその言葉に驚きはしたが、その願いを突っぱねることはしなかった。寧ろ、その願いに対して受け入れたのだった。
「ほう、この地では伝説と謳われるドラゴンが神に命乞いをするとはな。ふっ、しかしなんら不思議なことじゃない。宇宙に生きる者は、何より自分の命を大切にしたいと思う。自分の身の危機を感じ、逃げ出すことに珍しさも無い。寧ろ誇るといい……お前は最適な判断をし、自らの命を救ったんだ。この俺相手にな」
『か、感謝する……!』
「なっ、アルビオンお前…裏切るのか!?」
『フン、裏切るだと?勘違いするな。私はお前に力を貸してやっているだけで仲間と思っているわけじゃない。所詮、私という他者の力を使って粋がっているだけにすぎないお前をいずれ捨てるのは容易に想像出来るだろう。……それに、それになぁ……私はこんなところで死にたくないんだよ!!二天龍の宿命?そんなのどうでもいいよもう!!また一瞬でボコボコにされて消滅させられるくらいならひっそりと生きていた方がまだマシなんだよ!!バーカバーカ!!』
「ア、アルビオン……貴様ァァァァァァッ!!」
何とも哀れな姿だろうか。神器の中では所有者に従うしかないアルビオンに裏切られ、見捨てられたヴァーリに対しブランは淡白とした表情で彼を見下ろす。
「あらら、見捨てられちゃった。さて、どうする?このまま死ぬか?それとも、地の果てまで逃げ切ってみせるか?まっ、せめて宇宙に飛び出さない限り逃げ切るのは無理だがな」
「くっ……貴様は……ごほっ……」
右腕、左足がもげ、出血も酷く、ヴァーリは、何とか逃げ出そうと身体を何とか起こすことしか出来なかった。
「もはや虫の息か……まぁいい、お前、さっさと殺すけどいいよな?」
「待て!ヴァーリを殺すな!そいつの処分は俺が下す!!」
ブランがヴァーリにトドメを刺そうとした瞬間、アザゼルがヴァーリの危機を感じて飛び出す。右腕を落とされた彼だが、それでもヴァーリは自身が育ててきた息子のような存在だ。いくら禍の団に入ったからといって、黙って殺されるわけにはいかなかった。しかし
グサッ!
「なっ……!!」
「答えは聞かねぇよ」
構わずブランは、ヴァーリの心臓を木の枝で射抜く。しかもそれだけでなく、木の枝に刺さった心臓が枝ごとヴァーリの身体を貫通し、地面へボトリと落ち、彼の命はここで尽きたのであった。
「…ふむ、本当に心臓……というか魂と直結してやがるのか。俺には『分離』なんて技術はないしな。おいレム、これ、腐らないよう保存しとけ。コイツには後で聞きたいことも出来た」
飛び出た心臓を手に取り、その中にアルビオンの力を感じ取るブラン。彼は抜き取った心臓をレムギットに預け、彼女が持つ杖の中にしまう。
そして一方、今の一連の流れを見ていた内の一人、イッセーはアルビオンにこれでもかと軽蔑の視線と言葉を出す。
「なんてひでぇドラゴンだよ……一緒に戦ってきて、自分の命が助かりたいからって宿主を簡単に見捨てやがるなんて!そんなのあんまりだろ!なぁドライグ!!」
『えっ!?あ、あぁ……そうだな……』
歯切れの悪い返事をするドライグ。自身に力を貸してくれるドライグは、そんなことはしないはずだと、イッセーはそう信じていたのだった。一方、ヴァーリを殺したことに憤慨するアザゼルはブランに詰め寄る。
「何でヴァーリを殺した!?アイツの処分は俺が下すと言っただろ!!」
「はぁ?何故、敵対関係の俺がお前の命令を聞かなければならない。寧ろこっちはお前のところから出たテロリストを排除してやったんだぞ?なのになんなんだその態度は。ええ?」
「ッ……クソッ!!」
堕天使の総督としては、この場ではお礼を言うべき場面であろう。自分の組織から出した不穏分子を始末してくれたのだから。ブランは、今までアザゼルたち堕天使が神器狩りをしてきて、今度は自身の身内が死んで悔しそうに顔を歪めるアザゼルを見れたことに、してやったりという表情をして彼から完全に興味が消えたのか、視線を外す。
今回の件で、ブランは大いに健闘を称えられることになるだろう。なにせ、ヴァーリという存在はそもそも先代の魔王ルシファーの血を引く、人間と悪魔のハーフであり、堕天使総督であるアザゼルの元から離反した者である。世界を脅かすドラゴン……二天龍の片割れ、「白龍皇」アルビオン・グウィバーの魂を宿す彼を討伐したとなれば尚更のことだ。
「……ひとまず、この件は終わりとしよう。アザゼル、ミカエル、私達は三大勢力として和平を結ぶ。そして、この機に他神話勢にも協力を要請し、禍の団に立ち向かうとし―――」
サーゼクスがそう言った瞬間、セラフォルーが空を見上げ、ある物を指差した。
「み、見て……アレ……」
セラフォルーに導かれた皆の視線の先には、信じ難きものがあった。なにゆえ、それは世間では都市伝説程度にしか語られていないものであったのだから。
「う、宇宙船……!?」
「ほう、やっときたか」
ブランが待ちわびたかのような顔をしていた。オーフィスとティアマットですらよく分からない事が起きそうで頭に疑問符を浮かべていた。
その宇宙船は駒王学園で静かに着陸する。そして、その出入り口から武装をした多数の異星人らしき者達がサーゼクス達の前へと現れ、サーゼクスはその者達に問う。
「なんだ、君達は?」
サーゼクスの問いに、代表者と思われる者が警察手帳らしき代物を提示し、自身の身分を紹介するのであった。
「えー、夜分遅くに申し訳無い。我々は、宇宙の法を取り締まる、『銀河パトロール』であります。この場に、宇宙でも重罪として扱われている『時間のコントロール』を犯す者がいると報告があり、この地にやってきました」
新たな来訪者に、イッセー達は再び警戒をするのであった。
正直さ、神器抜いたら所有者が死ぬって設定いるか?って時々思う。ただただ人間側にデメリットしかなくて必要性皆無でしょうよ。はぐれ悪魔やら神器狩りやら人体実験やら、どれだけ人間からのヘイト集めたいんだこれ。
美猴、ヴァーリ死亡。美猴の死因はヴァーリと一緒にいたから。ファンの方、すまん。