悟空の横で俺は立ってベジータを見る。
ベジータの奴、どうしてそんな風に落ち着いていられるんだと思いながら観戦することにした。
「舐めるなよ、猿風情がぁ!」
爆発させるような勢いで飛び出すフリーザ、なんの技術もないただのパンチだ。
それに対してベジータは身動き一つ取らない。
「フン!」
「なッ!?」
紙一重、その地点になって漸く動く。
鋭い攻撃を片手で押さえ、方向をずらしたのだ。
それによりフリーザの攻撃は頭一つ分ベジータの横にズレた。
さらに、その隙にベジータは腹部へと掌底を見舞う。
「うぐっ、グフッ……」
「フ、フリーザの奴が膝を着いた!?」
悟空が驚く横で、ベジータは当然のように見下していた。
フリーザは、自分がどういう状態か分からないのか混乱している。
「い、一撃だと……この私が、いったい」
「知れたこと、気を細胞内に注ぎ込み、内部から破壊したのだ。今の貴様は内臓からダメージを受けているのだ」
「フフフ、内臓は鍛えようがない。考えましたね、ベジータさん。だからどうした、変身すれば回復力も上昇するのだぁぁぁ!」
フリーザの気が更に高まり、変身する。
頭が伸び、鋭い爪を備えたような化け物の姿だ。
「この変身を見せたのは貴方が初めてですよ!しかし、この姿になった私は受けたダメージを無くすことが出来るのだ!」
「ほぉ、面白い特性だ」
「この姿は戦闘力200万以上!貴様が勝てる確率は万に一つもない!そして、スピードとパワーは倍以上だ!」
そ、そんな……こんな相手に勝てるわけがない。どうやって、倒せば良いんだ。
なお、悟空は大喜びで観戦している。
ばっか、お前もっと危機感持てよ。
まぁ、まだ行けそうって俺は思うけどね。
だが、ベジータの戦闘力は感覚的にムズいと思うんだが冷静すぎる。
「死ねェ!」
「ふぅぅぅぅ」
ベジータが今度は先に動いた。
腕を広げるように動かし、何かを掴むように動作した。
瞬間、フリーザの拳が吸い込まれるようにベジータの腕の中に入り、捕まえられていた。
「馬鹿な、視認出来る速度ではないはずだぞ!」
「な、何だ今の!ベジータの奴、まるで予知したみたいに動いてたぞ……」
「間抜けが、破ァァァァァ!」
ベジータの身体から、爆発するように周囲に影響を与える勢いで気が溢れる。
地面に亀裂が入り、大気が押し出され俺達に襲いかかるくらいだ。
激しい気の爆発とでも言う感じか。
そこから、ベジータが怒涛のラッシュを叩き込む。
「は、離せ!」
「ウォォォォォ!」
「ぐっ、がっ、ぐぉぉぉぉ!」
片腕でフリーザを押さえたまま、ベジータのパンチが叩き込まれる。
逃げようにも、片腕を掴まれていてフリーザは抵抗できない。
その時、フリーザは決断したかのように苦々しい表情を浮かべながら左手にエネルギーを溜めた。
「片腕はくれてやる!」
「ダニィ!?」
フリーザの掴まれていた腕が膨れ上がり、肉片を撒き散らしながら爆発した。
止む無く手を離すベジータ、それをチャンスと見たのかフリーザは更に身体の前にエネルギーを溜めて即席の盾を作る。
「小賢しい真似すんじゃねぇぞ、テメェ!」
「馬鹿な!?」
だが、構わず突っ込むベジータ。
身体中を焼かれながらフリーザにツッコミ、パンチのラッシュを繰り出す。
「オラオラオラオラオラ!」
「ぐ、ぐれーとですよ……ナッパ、驚愕」
「ベジータの奴、性格が可笑しいぞ」
地面に向かって叩きつけ、更に追撃しながら地面にぶつけ続ける。
そのまま、気弾を作ったかと思えば、地面にめり込むフリーザに当て続ける。
アレは、俺がドドリアにやったハメ技ではないか。
「フハハハ、死ね!さぁ、死ねぇ!」
「喰らえ!」
「ぐあぁ!?」
地面から発射される、紫の閃光。
フリーザが指先からビームを飛ばしていたのだ。
それに対して、まんまと当たってしまうベジータ。
「この、舐めやがって貴様ぁ!」
「舐めてんのはテメェだろうが、死ね!」
「何の真似だ、ッ!?」
なんとか立ち上がったフリーザの身体中が突如、爆発する。
連続して体表面が爆発し続け、フリーザが悶え苦しんでいた。
「ふむふむ、なるほど」
「何が起きてるのか分かるのか、ナッパ」
「アレは波紋抜き、浸透させた気を遅行爆発させる技だ」
恐らく、あのラッシュの中でフリーザの奴に仕込んでいたのだろう。
まさか、俺が使っていた技をパクっていたとは……。
ということは、先程のアレは体内の気をリミッター解除した状態で運用するあの技か。
「初め、ベジータは体内に向けて気を凝縮させ内側で動かしていた。内功と呼ばれる物だ。アレにより、思考はクリアとなり、動きはキレを増し、そして動体視力などの体内の機能が向上する」
「何言ってるんだお前」
「つまり、冷静に素早く動けるのだ」
「なるほど」
本当はもっと色々あるんだよ。
気に関して感覚が鋭敏になって、行動の先読みがし易いとかな。
「でも、そんな感じじゃなかった。もっと、激しいって言うか、オラの感じたのはもっと凄みがあったぞ」
「流石だな、直感で気付いたか。後半、ベジータは気の運用を切り替えた。動の気だ」
「動の気?」
「逆に身体の外側へ細胞から捻り出すように気を爆発、発散させる。その際、心から身体のリミッター全てを解除する事で絶大なパワーを得ることが出来る。界王拳に近いと言えるだろう、アレは生命エネルギーを捻り出してるからな」
「そうか、それでベジータの奴は凶暴に……」
「そうだ、アレは荒々しくなるデメリットがある。まぁ、サイヤ人向けではあるがな」
開放しすぎて目が白目になって筋肉ムキムキになって星とか破壊しちゃうけど、仕方ない。
大猿が理性を手放してるみたいな、まぁ自分じゃコントロール出来ないのと同じだ。
「もう許さんぞ、フルパワーだ!」
「な、何してるんだベジータ!」
力むフリーザを前に、ベジータは腕を組んだまま見下ろしている。
傷は既に回復しているが、動こうとしない。
「真の勝利とは精神の屈服、故に理由など与えない。変身したフリーザを倒してこそ、俺こそが真の帝王と言える。それに、奴の本気と戦ってみたいからな」
「馬鹿な考えは止せ!」
「ナッパ、オラも気持ちは分かる。ここはベジータの考えに従おう」
お前は何を言ってるんだ。
変身中に攻撃するのは当たり前だろ、馬鹿なの!?
「それに、変身中に攻撃するとかナンセンスだろ」
「悟空がナンセンスなんて難しい言葉使ってる」
「ひでぇな、お前馬鹿にしてんのか?」
いや、だって、えっ?えっ?俺が可笑しいのか?
そうこうしているウチに、フリーザがツルツルになっていた。
よく見るフリーザだ(小並感)
「褒めてやろう、この姿にさせた事をな!」
「ッ!?」
流石に戦闘力は桁外れになっていた。
そのせいで、俺も正直ダメかもしれない。
あれ、なんか想定より強そうなんだけど。
「ベジータ、三人掛かりでやるぞ」
「来るな、ナッパ!」
「なんだと、勝てるわけ無いだろ。戦闘力、6000万はくだらねぇぞ!」
「フフフ、その通り。そしてこれが、フルパワーだ!」
更に倍に膨れ上がる、あっ無理そう。
やっべ、これやっべぇ、どうする、中ボスだからって油断してた。
セルより弱いと思ってたけど、フリーザが弱いんじゃなくてセルが強すぎるんだわ。
「勝てぬから自ら決めたルールを曲げるだと、巫山戯るな!俺は逃げぬ、媚びぬ、省みぬ!」
「サウザームーブは死亡フラグだから、やめろぉ!」
一瞬の浮遊感、フリーザの姿が見えると同時に俺に衝撃が走る。
「ナ、ナッパ!?」
「えっ、俺?俺、物理的に衝撃走ってる!?」
「タダでは殺さぬ、自らの愚かさを自覚してもらいましょうか」
う、動けぬ。しかも、なんか身体が浮いてる。
やめて、この流れはハゲルートじゃん。
クリリンルートじゃん、つまり爆発オチって事じゃ――
目の前が真っ暗になった。