オッス、オラナッパワクワクすっぞ。
遂に主人公である悟空が前に現れた。
モチベーションとして主人公より強くを意識している自分としては試してみたい気持ちが山々だ。
でも、これでも俺ってば部下なんだよね。上司の意見を聞かないといけないから大変だぜ。
「オッス、オラナッパよろしくなカカロット」
「オメェ、何言ってんだ?オラの名前は悟空だ」
「あっ、はい」
華麗に俺の挨拶はスルーされる。
流石主人公、言葉のツッコミまで鋭い。
「お前がカカロット……いや、孫悟空だな」
「そういうお前は、ラディッツの言っていたベジータだな」
「フン、期待外れだ」
ベジータはそう言って、つまらない物を見せやがってと抗議の視線を送ってくる。
いや、アレだから成長力はナンバーワンだから、お前がナンバーワンって言えるからね。
「おい、期待外れってどういうことだよ」
「決まっている。この俺が相手するまでもないということだ」
「へへへっ、試してみっか?」
そう言って悟空が構える。
構えたぁぁぁぁ!これから戦うって感じになったぁぁぁ!
回想シーンでよく見たポーズだぁぁぁぁ!
「やめておけ、下級戦士であるお前と俺には天と地ほどの差があるのだ」
「要するに、お前強ぇんだろ。だったら、戦うしかねぇよなぁ」
「いや、その理屈は可笑しい」
「なるほど、一理ある」
「あるあ……ねーよ!ベジータ、お前も何言ってんだ」
あぁ、サイヤ人あるあるね。
俺ってば中身が違うから分かってなかったわ。
強い奴がいたら逃げるのが野生動物なら、襲うのがサイヤ人だったもんな。
「良いだろう、遊んでやる。ナッパ、露払いは任せたぞ」
ベジータからの指示に、俺はやれやれだぜと言いながら行動に移す。
やれやれ言いながら動くとか、最近のラノベ主人公みたいでワクワクすっぞ。
「く、来るか!」
「遅いぞ、クリリン!」
「な、なんだと!?」
ピュイン、なんて効果音が出そうな速さで俺はクリリンの上に乗っていた。
因みに気のコントロールで重さを感じさせない配慮済みである。
「は、速い!気を付けろ!」
「ピッコロさん!」
「構えろ、悟飯!先程の、サイバイマンの比じゃないぞ!」
俺はハゲ(クリリン)の上で不敵に笑う。
すると、その笑みを浮かべた俺がズレるようにブレていった。
「どこを見ている」
「なっ、今、俺の上にいたのに」
「ば、馬鹿な……アレは、まさか……」
俺の技の前に、異常に気付いた面々がビビっていた。
特に、天津飯らしき三つ目のハゲが信じられない物を見たように口を開けていた。
そう、何故なら奴らの前には人数分に増えた俺の姿があったからだ。
「みんな!何だアイツ、増えやがったぞ!」
「安心しろ、命までは取らんさ。やれ、ナッパ」
複数人に分身した俺が一瞬で全員の目の前に移動した。
フハハハ、どうだスゴイだろう。
「四身の拳、だと!?」
「うわぁぁぁぁ!」
「止せ、クリリン!」
がむしゃらに突っ込むクリリン、その頭皮を優しく撫でる。
ペロン、とクリリンの頭を撫でるとクリリンは頭から地面に倒れるようにして背中から受け身を取った。
離れて見ていた面々からはクリリンが頭を撫でられると同時に前転してぐへぇと変な声を出したように見えただろう。
「い、いったい何が起きたんだ!?身体が、勝手に」
「お父さぁぁぁぁん!」
「天さぁぁぁぁぁん!」
「か、身体がぁぁぁぁ!」
「目がぁぁぁ!額の目がぁぁぁぁ!」
転がされて呆然とするクリリン、その一瞬の間に俺は他の面々も攻撃する。
悟飯と餃子を羽交い締めにし、ピッコロの両手両足を曲がっていけない方向に折り、天津飯は念入りに羽交い締めからの額に向けて砂を掛けるというサービス付きで拘束する。
そして、全てが終わると身体を白い輪っかで拘束された悟空の仲間達の姿があった。
「うぎぎぎぎ、なんだこれ外れねぇ!」
「わぁぁぁぁ、お父さぁぁぁぁん」
「クソ、俺としたことが不覚だったぜ」
ベジータに相対しながら、チラチラと後方を見る悟空。
流石に気が散ったのか、ベジータが教えてやった。
「ナッパが何をしたのか気になるようだな」
「あ、アレは一体」
「アレはお前達で言う所の気を高密度に圧縮維持することで作った拘束具だ。ナッパが解くまで、外れることはないぞ」
「へへっ、つまりお前を倒してあのオッサンも倒せばいいってことだな」
お、オッサンだと……確かに、俺は四十ぐらいにはなるが見た目は二十歳の頃と変わらんのだぞ。
おのれ、悟空の奴、精神攻撃とは卑怯な……。
「オイ、結局お前は何をしたんだ?」
「簡単な事だ。俺自身の気を等分する事で分身体を作り出し、そしてその応用で気を集めた拘束具で捕まえたのだ」
ヤジロベーの質問に対して説明しよう、俺は天津飯の四人になる技を研究し、研究の末に分身の術を習得したのだ。
天津飯が戦闘力が四分の一になると言っていた事から、気を分けることが必要だと考えた。
戦闘力とは即ち気によって変動する数値、ドラゴンボールの世界じゃ気が多ければ戦闘力も高いからな。
戦闘力が低下するってことは、気が消費されるって事だ。
そして、きっちり四分の一になり、それが四人になった時ということから、分けてみたら出来た。
まぁ、維持する事が出来ないとすぐに消えてしまうので精密な操作が必要になってくるがな。
「フッ、俺自身を作るより輪っかを作るほうが楽勝だったがな」
「つまり、俺の気円斬の切れないバージョンってことか」
「ほぉ、そこに気付くとは天才か」
「あっ、出来た」
「嘘だろ!?」
馬鹿な、と思わず声が漏れた。
そんな俺を見て、クリリンはヘヘッと気まずそうに笑いやがった。
これが地球人のポテンシャルとでも言うのか、畜生めぇぇぇぇ!
なお、自分の作った輪っかをそのままポイとするクリリンにぐぬぬと思うのだった。
その後、みんなを一箇所に集めて観戦である。
「油断してるのも今のうちだぞ。構えろよ、ベジータ」
悟空が此方を警戒しながらそんなことを言ってきた。
しかし、ベジータは聞く耳を持たず、腕を組んで目を瞑った。
「構える必要など、どこにもない。これは余興、貴様ごときでは俺の敵にはならんからな」
「その余裕がいつまで……」
悟空は言葉を発するのをやめ、冷や汗を掻きながらベジータの前に立った。
そして、悟空とベジータの間に沈黙が訪れる。
構えたまま何も言わなくなった悟空に、周囲は戸惑っていた。
「悟空の奴、どうしちゃったんだよ」
「分からん、だが様子が可笑しいぞ」
「ふっ、地球人共は分からんようだな」
「知ってるのかナッパ」
暇だから解説してやろうと思ったら、ノリの良いヤジロベーがナイスアシストしてくれた。
説明しよう、みたいなこと言ってみたかったんだよね。
「おい、お前悟空に何をした!」
「俺は何もしてねぇぜ、ベジータの方はどうか知らんがな」
「どういう事だ、悟空の奴にいったい何が……」
クリリンが激昂し、ピッコロが恐れ戦いていた。
いや、やってることは簡単な事なんだけどな。
「どうした、来ないのか」
「うぎぎぎ、うあぁぁぁぁ!」
爆音と同時に悟空の全身が赤いオーラを纏う。
アレは、界王拳だ!スゴイ、これが本物の界王拳!
爆発力を生み出す気を纏いながら、悟空がベジータに突っ込んだ。
それに感嘆の声を上げるが、それだけで構えを解くベジータではなかった。
「界王拳だぁぁぁ!」
「フン!」
ズドンと地面が揺れ地響きが響く。
瞬間、ベジータによって悟空が捻じ伏せられた。
悟空はベジータの目の前で頭を垂れるように地面に倒れたのだ。
見ようによってはヤムチャの再来である。
「悟空!?」
「分からんかクリリン、お前があの時俺に転がされた応用だ」
「なんだって!?」
「俺はあの時、気に指向性を持たせてお前の重心を回転させるという方法で転がした。お前の体表の回りを回転するように気を展開していたんだ」
「そうか、俺は気の流れに乗って転がされたのか。じゃあ、アレは」
「察しが良いな、そうベジータは気を操り、悟空にだけ大量の圧力を与えていたのだ!」
「「「な、なんだってー!?」」」
ベジータと対峙して悟空は大量の気を浴びせられた。
それは例えるなら、大量の激流だ。
普通なら倒れる所を悟空は耐えた。
耐えられたが、動くことすら出来なかった。
それを界王拳で抵抗してみせたんだろう。
だが、ベジータも動けることは想定してなかったのか驚いた拍子に手加減をやめてしまった。
結果、ドゴンと上から下に圧力が掛かり、悟空が地面に叩きつけられたようだった。
「やべぇ、昔教えた覇気モドキがこんな事になろうとは」
つーか、これ勝てなくね?
やめて!悟空に仙豆を食わせたらサイヤ人の特殊能力で強くなっちゃう、十倍界王拳を使われたら、ベジータの技を見て気を一点集中する方法を学んだ悟空に一矢報いられる!
お願い、死なないでベジータ!あんたが今ここで倒れたら、サイヤ人の復興やフリーザを倒す俺との約束はどうなっちゃうの? 気はまだ残ってる。ここを耐えれば、悟空に勝てるんだから!
次回、「ベジータ、死す」
デュエルスタンバイ!