全身を包む熱。
光は体の奥に染み渡るように溶け込んでいく。
風が草原を撫で、さぁさぁと音を立てながら駆けては体の熱を少し冷ましてくれて…。
まさに昼寝には絶好の天気だった。
空を覆う雲のおかげであまり眩しくない。
このまま昼寝していたいのだが、まぁそういう訳にもいかないのだ。
昔、昼寝しすぎてへリオに『夜まで校内を走り他の石の手伝いをさせられる罰』
を受けてからというもの、私が昼寝しすぎた場合は同じ罰を受けるようになっちゃったし。
なので。
起きようとした…のだが。思いのほか立ち上がるのがだるかった。
ほぼ四つん這いの状態で体を起こそうとしては伏せての繰り返し。
ぼやける頭を手で押さえながらゆっくりと、幽霊のように起き上がる。
「……起きたか。なら帰れ。」
少し離れたところから、ボルツの辛辣な声が聞こえた。
頭を揺らしながら声のする方を向くと、向けられた目は一層鋭くなる。
あまり長い事邪魔をするのも流石に悪いだろうと、ゆらりと立ち上がった。
まだ寝ぼける頭で槍を探して、すぐ近くに刺さるそれを乱雑に引っこ抜く。
空の陽光は微かに橙色に染まり、今日が平和に過ぎた事を教えてくれた。
寝過ぎたという事に今更気付いた私は学校の方へと足を運ぼうとして、
「_おい、馬鹿ムー止まれ。」
「ん?どしたの?」
ボルツに呼び止められ、槍をすぐ横に突き刺した。
その目は変わらず鋭いが敵意がない事だけはわかる。
それを理解した上で少しだけとぼけてみせた。
「ったく、次に手を抜いたら砕くからな。やるなら最後まで、だ。」
「あー……ごめんっ!あの時は糸が切れた感じで…」
が、あまり効果なし。
むしろ視線が鋭くなった気がしたので両手を合わせて素直に謝ることに。
それでもなお無口のままこちらを見続けるボルツ。
凄く…居心地が悪いです…。
「それじゃあ私はここでー……」
「ねぇ待って!」
早くこの場を後にしようとして槍を再び引き抜き、歩き出そうとすると
ダイヤの引き留める声がボルツの後ろから響いた。
そうして声のした方へと振り向いてみる。
ダイヤに何か言われるような事をしただろうかと不安に思っていると、
複雑な面持ちでその口から放たれたのは_
「今日はボルツに付き合ってくれてありがとう。」
_拍子抜けするぐらい簡単で、ダイヤらしい言葉だった。
夕暮れの明かりがダイヤの髪を暖かに包み込む。
煌めく海と沈みゆく太陽を背にするその姿はとても綺麗で。
…そうして一瞬、けれど焼き付くような輝きに何故か喉の辺りが少しだけ苦しかった。
「だってムーが寝てからね?ボルツったら清々しい顔しててね?」
「_別に、僕はそんな事」
「でもあんなに楽しそうにしてる所、久しぶりに見たよ?」
「それは…」
流石のボルツもダイヤには弱い。
淀んだ言葉と伏せた目を誤魔化すように私へと勢い良く向き直る。
あれはあれで多分照れ隠しか誤魔化しのつもりなのだろう。
「ほら!さっさと戻るぞ!」
「もー。終わりの鐘が鳴ってからも待っててあげたくせにー。」
「うるさい!ほら先生が心配してるぞ!」
「はーい♪」
二人の他愛ない会話を横から眺めて、さっきの苦しみにふと気付く。
_きっと、あの時のダイヤが何処かヘリオに似てたからかもしれない。…と。
嫉妬か寂しさか、はたまた虚しさか。…少しだけ足取りが重くなる。
その重さは二人の足取りより遥かに遅く感じられた。
二人に怪しまれないように、重くなった足取りを無理矢理戻して
私たちは学校へと戻っていく。
……そうして初日の仕事は平穏に過ぎ去った。