-月の宝石-   作:テディア

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想いを馳せる

 

日が沈み、夜が来ては日が昇る。…あれから数年が経った。

他の石の所を回っては見張りの仕事を共にする。

ヘリオ以外とは組みたくないが為のやり方だったが、案外行けるものだった。

危険が付きまとう中で、太陽が沈んでいくのを眺めて。

そうして今日も夜が来て、月が昇る。

そうして今日も__

 

 

…ふと目を覚ました私は布団を捲り、起き上がる。

服はそのままに壁に掛けた槍を手に取り、音を立てぬようゆっくりと扉を開く。

静かに沈む月明かりの中で、小さく足音が響く。

ほとんどの石は寝ている頃かな。…時々夜更かししてる石もいるけれど。

 

学校から一歩踏み出すと、見慣れた夜の景色が眼前に映る。

昼と比べると体は重いが、不思議と動きは鈍らない。

月の光は微かな量のはずが、太陽の光よりも軽やかにこの体へと染み渡る。

もう今となっては慣れた感覚ではあるけどね。

いっつも眠気に悩まされるけど、別に私にとっては昼も夜も同じことだし。

…さ、早く行こう。月が沈んでしまう前に。

_________________________________

月が空高く昇り、傾き始める頃。

静かにそよぐ風と薄く白む月光の中、私は迷いない足取りで歩いている。

見えてきたのは空へと傾き伸びている崖、そして日中は最も危険な場所。

最愛のヘリオが連れ去られていった__虚の岬。

その岬の一部は黒く変色していて、普段とは違った様子を見せていた。

 

…あの日の夜からずっと、私はここで月を眺めるようになった。

もしも私が戦えていたら。

あの時私が武器を振るえていたのなら。

せめて。…せめて、一緒に月へ連れて行ってくれたなら。

 

今更何を願っても変わらない。

変わらない、はずなのに。

どうしても諦められないから、今日も月を眺めるの。

 

「…シンシャ?」

 

ふと、左から月明かりよりも強めの明かりが漏れてくる。

そこから慣れた気配を感じた私はその明かりへ声を投げてみた。

半透明のシンシャが現れてから、次第に本当のシンシャが現れる。

しかしその腕は手首の辺りで見事に折れていた。

 

「やっぱりお前か。今日は早かったな。」

「うん、私。…腕どうしたの?」

 

普段通りのつんけんとした態度で返してくるシンシャ。

いつからか、私たちは月が傾いてから沈むまでの間だけ

最近の事なんかを話したり一緒に月を眺めたりするような仲になった。

とはいえ近づくのは流石に危険なのでその時は一定の距離を置いているが。

 

「……ここで昼に月人の矢を受けた。」

「嘘。何年一緒に喋ってると思ってるの。」

 

一瞬視線を逸らしたシンシャの少し陰った表情を見て即座にその答えを否定する。

見開かれた目をじっと見ていると仕方ないとばかりに近くに座り、ゆっくりと喋り始めた。

 

「フォスは知ってるだろ。

 …あいつが黄昏時にここに来た。その直後に月人が来た。

 仕方ないから嫌々霧散させたんだが…

 なんだ、その後でフォスも落ちそうになったから服を少し引っ張った。

 この腕はその時に折れた。…これでいいだろ。 」

 

複雑な顔で話すシンシャを見ながら、言葉に詰まった部分に含まれた何かを探る。

彼の事だから自分を粗末にしたとか、そういう私に言いにくい事だろうね。

シンシャは誰よりも自分を嫌う節があるから。

 

「うん、大体わかった。」

 

会話が終わり、少し間をおいて二人で月を見上げる。

月が次第に水平線の向こうへと沈んでゆくのを見ながら、ヘリオの事や最近の事を思い返す。

そうして時々、思いだしたかのように月を見上げたまま言葉を投げかける。

 

…月が水平線に沈む頃。

もうそろそろ戻らないと。

そう思った矢先、隣のシンシャが立ち上がり口を開いた。

 

「…俺はもう戻る。」

「そっか、うん。私も戻るよ。」

 

振り返りもせず、一人戻っていく彼の姿をしばしの間眺めて見送る。

そのまま夜の暗さに掻き消えるシンシャを見送ってから、私も帰路へ着く。

常に苛まれる眠気に頭を押さえる中、いつもとは様子の違うシンシャを心配するのだった。

 




宝石の国9巻まで揃えました。
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