南方司令部付近の喫茶店に仮面を付けずに来ていたシルヴィオは、アームストロング少佐と出遭った。
シルヴィオは、実家が名家である故に、同じく名家のアームストロング家との婚姻の話が出ていたこともあった。
向こうに、「このようなナヨナヨした男は性に合わん」と言われたが、
謎の、シルヴィオの父による、うちの息子は格闘術バリバリアピールにより、
お見合いと言う名前の決闘がアームストロング家の女性に仕組まれた事もあった。
結果は、防御に徹して、攻撃を全て寸止めで終わらせるシルヴィオに対して、相手方のお嬢様が切れて破談。
尚、破談の時の相手の言葉は、
「筋は良い。挑戦は何時でも受ける。もし私に勝てたなら嫁になってやろう」
とのこと。強烈なラリアットと共にお断りされた。
因みに、シルヴィオの心中は、今はホムンクルスの美女にぞっこんなので、次の
また、アームストロング少佐とシルヴィオの父、バスク・グラン准将は特に仲が良かった。
恐らく戦友という事だけでなく、筋肉と頭部の薄さの関係もあるだろう。
基本、筋肉質に悪人が少ないのがこの世界の常である。(但し、スカーは除く)
『鋼』ことエドワードに最初に、国家錬金術師には濃い奴しかいないと思わせたのは何を隠そう彼らだった。
「お父上の事は、本当に残念でした」
「アレックスさんのその友情に、父に代わって御礼申し上げます。
…ところでアレックスさんは、父を殺したイシュヴァール人に遇ったらどうされますか」
少し、雰囲気の変わったシルヴィオにアレックス・ルイ・アームストロングは一瞬驚いた。
「…いえ、気になさらないで下さい。
それより、あの戦争を父と共に体験されたでは無いですか。
その体験談をお話願えませんか?」
アームストロングはシルヴィオが、純粋に父親と自分がイシュヴァール戦役で活躍した武勇伝を聞きたいのだろうと思った。
だが、あの戦争は彼にとってトラウマ以外の何物でもなかった。
「語る様な美しいものは何も無かった。何もだ。あそこは地獄だった。
人が人を殺す、悪魔の描いた地図が広がっていた」
アームストロングはそう話した。
だが、シルヴィオにとってはイシュヴァール人と言うのは人間では無く、憎しみを受けるべき悪魔であり害虫だ。
それらが過去に駆除された話を聞きたいと言う感情もあった。
単純に、父親の話を聞きたかったことと、軍人さんは武勇伝が好きだから会話の糸口にでもと言う事もあったが。
それらは同等にシルヴィオの中で同居していた。
いつか『流血』として共にイシュヴァール人を駆逐したかった。
アームストロングの地形改変能力は極めて集団戦に有効な手段であることも拍車をかけていた。
ある意味、最もイシュヴァール人を苦しめた男がアームストロングであると言えなくも無いのだから。
「それより、グラン家の後を継いだようだな」
「ええ、まあ見ての通り道楽息子なもので、医者として生きて行こうと思っていますが」
「なら、そろそろ妻を迎え入れるべきではないか?」
「お姉様の家庭内暴力が絶え無さそうな所以外は好みではあるのですが、今は心に決めた人がいるので」
「それは残念、…いや、吾輩はその恋を全力で祝福しようっ!!」
「ありがとうございます」
やたら熱いアームストロングに、その筋肉の着いた二つ名に相応しい剛腕で、しっかりとがっつりと強烈な握手とハグを受けた。
エドはこういう時に嫌がるだろうが、アームストロングとシルヴィオは昔からの知り合いであるのと、
シルヴィオが照れ屋とは程遠い所にいる為に、嫌がっている様子は無かった。
暫くして二人が別れた後、シルヴィオはフードを被った物乞いのような格好の男を視界に収めた。
「もしかして、鼻を骨折していませんか?」
「…ヒューッ、見ただけで、解るのか。でも見ての通りだ、あんたに払える金は無え」
「…あなたの怪我が治る事が私への報酬ですよ」
シルヴィオはそう言うと、怪我人ビドーを患者とすることにした。
「びっくりするほどお人よしだな、あんた。
そんなんじゃいつか騙されて素寒貧になっちゃうぜ?」
「家族が幸せに生きて行ける分だけ残して貰えるなら大丈夫ですよ。
それでは、少しだけ頭部に触れますね」
シルヴィオは振動により骨の構造を確認するために、ビドーの顔に手を触れた。
人体の構造骨格は理解していたつもりなのだが、少しバランスが違う。
というか、人間に蜥蜴を組み合わせたような骨格になっていた。
「キメラ、ですか」
「ああ、いかにもキメラさ。化け物さ。あんたの善意に免じて、恐ければ会わなかった事にしてもいいぜ?」
「馬鹿にしないで下さい。キメラを診た事はありませんが、
知り合いの獣医の下で勉強した事はあります。
それと、自分自身を卑下するのは止めて下さい。
人も、キメラも、ホムンクルスも、みんなみんな人間ですから」
ビドーは『ホムンクルス』の名前が出た所で、大きく反応した。
「動かないで下さいね。今から骨と神経を動かしますから」
そう言って治療を終えた後、大人しくしていたビドーは口を開いた。
「ありがてえ。全然痛くなくなった。
それよりもさ、…なあ、あんた今『ホムンクルス』って言ったか?」
「ええ、言いましたよ。彼女達もこの星に生きる人間に変わりはありません」
お人よしそうな医者は、お人よしを超えてお花畑だったとビドーは確信した。
「もし…、その、『ホムンクルス』に遇えるっていったらどうする?」
「ラストさんにですか?
そうですね、それなら先に床屋に行かないと…、いえ、靴を磨くのが先でしょうか?
それとも、今流行のファッションを…
いえいえ、それよりもビドーさん、此処の付近でオシャレだけれど静かな食事をする場所はありますか?」
「うん?
なんか勘違いしてそうだけど、グリードさんは男だぞ」
次回、お医者さん、グリードに少しキレる。