流血の錬金術師   作:蕎麦饂飩
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森の中にあっても目立つ木

ラストの最強の鉾により、ジャン・ハボックの動かなくなった下半身に対する絶望に激を入れたロイ。
彼が病室を出てから暫く廊下を歩いていると、そこにはあの地下室でハボックの足を奪った者(ラスト)を逃がした医者がいた。

「御機嫌ようロイさん」

「何の様だ」


「医者が病院にいておかしな事は無いでしょう?
まあ、私は自前の診療所が職場ですが。
…ところで、下半身不随の治療が可能な勤務医がこの病院にはいないようですね」

「貴様ッ」

ハボックの事を揶揄されたと認識したロイの目が鋭くなる。
ホークアイとブレダも、同じく眼前の白衣の男を睨みつけた。

「誤解しないで下さい。私はジャンさんの様子を見に来ただけです。
絶対の保証は出来ませんが、私なら治せるかもしれない。
そう思って此処に来ただけですから」

そう言えば、結果としてラストを逃がすのに加担したが、
基本的にはこの医者は、お花畑の世間知らずで、救えるものを救いたいだけの底抜けの善人であったことを思い出した。

「ただし――あの女性の身体データの件は無しという事でよいですね?」

無論、善人だからと言って、ロイ達に都合が良いだけの存在でも無かったが。
ロイ達が言葉に詰まっている内に、シルヴィオはそのまま言葉を紡ぐ。


「まあ、情報を教えろと言われても教えるつもりもありませんし、
ジャンさんを助けなくていいと言われても勝手に助けさせていただきますよ。それでは」

白衣を靡かせながら医者はロイ達が先程いた部屋に向かっていった。




~◆◆~




ハボックの病室からロイ達が出て行ってから暫くして、東部で少しだけ会話した事のある白衣の真面目面の医者がやって来た。

「こんにちわ。私はシルヴィオ・グラン。私の事を覚えていますか? ジャン・ハボックさんさん」

「ああ。確か中尉の知り合いで大佐に嫌われてる――」



「その覚えられ方は少しショックですね。
因みに一つ聞きますが、下半身が動かないのは人体錬成をした代償だとか、昔からそういう障害があったとかでは無いですよね?」

その質問に否定を返したハボックに、シルヴィオは表情を変えないまま安堵を示した。

「では、治せるかもしれません。この私なら。
手元に治療道具(・・・・)が無いので今すぐは無理ですから、今日は診察だけですけれどね。
たった今、この瞬間から――――――貴方は私の患者です」



~◆◆~



「…信用できると思うか?」

ハボックの部屋に医者が向かった事が気になっていたロイは、立ち止まってホークアイにその事を質問した。
そして彼女の答えはこうだった。


「それは、彼の腕でしょうか、それとも本心でしょうか?」

「どちらもだ」


「それでしたら、私の知る限りでは大丈夫でしょう。
腕前は大佐の火傷痕を治療した事でご自身で理解されたでしょうし、
性格は悪い女に騙されて身ぐるみ剥がされそうな類の善人です」


ホークアイの全面的な信頼に、ロイの機嫌が却って悪くなったために会話が止まったが、
その流れを再び進めたのは、ハイマンス・ブレダ少尉だった。

「凄腕だってのは認めますよ。
でも、普通の医者(・・・・・)が下半身不随を治せるって断言できるのはおかしくないですか?」

再び会話が止まった。
次に会話を再開させたのはロイだった。

「待て。中尉、確かあの医者の父親は――」

「グラン准将ですか?」


何の研究所の責任者だった(・・・・・・・・・・・・)?」

「――――賢者の石です」


「ああ、その通りだ」

だが、ホークアイにはある疑問が残った。

「ですが、だとすれば未だ息のあったヒューズ准将を救えなかったのは不可思議です」

「それもその通りだ。敢えて救わなかったという線は考えないとしよう。
だが、その時偶々持っていなかっただけ、若しくは材料さえあればいつでも造れるとしたら?」

それこそホークアイの疑問だった。

「それが私には解かりません。彼が人間を材料にする性格とはとても思えませんから」


ホークアイのその発言の直後に、再びロイは黙り込んだ。何故なら――

「……黙り込むほどとは、随分と嫉妬されていますね。
ですが、彼女が私に向ける信頼と、貴方に向ける信頼は違うものだと、
もっと自信を持てば良いじゃないですか。この色男さん」


――何故なら、ロイ達の背後から、彼らを抜き去って歩いていく、例の医者がいたからだ。



まあ、ラストさんは悪いか悪くないかと言えば、結構悪い女だと思います。







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