流血の錬金術師   作:蕎麦饂飩

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前回のあらすじ、
ウィンリィがスカーに銃を構えた後、4回も発砲音がしました。


そこに一切の慈悲は無く、そこには合切の慈悲が有り

四度の発砲音と共に、スカーは弾かれるように血を吹き出して倒れた。

 

「ウィンリィィィッッ!!!!」

 

絶叫するエドに対して、拳銃を取り落とし、

私じゃない、私じゃないと声にならない声で口をパクパクさせるウィンリィ。

 

すると再度三発の発砲音。

スカーの腹部と足を打ち抜いた銃弾が、血の飛沫を上げる。

 

 

その発砲した銃の持ち主はウィンリィでは無かった。

その者は、エド達の後ろから白衣を棚引かせながら優雅に歩みを進め、

ウィンリィの傍に来ると、彼女が落とした拳銃を拾い、スカーの両腕に

二発ずつ発砲した。

 

その発砲した者はエドの予想の外の人物だった。

 

 

「――――せん…せい?」

 

「はい、エド君。こんにちは」

 

 

そう言いながら、更に二発、スカーの頬を挟むように発砲。

 

 

「先生、なんで、なんでアンタがこんな事をっ!!」

 

「――――理由なら、先程このイシュヴァール人が説明していましたよね。

家族を殺されたものには復讐する権利があると。

殺す覚悟をするなら、殺される覚悟も必要だと、癪に障りますがその通りだと同意しましょう。

私も父親を殺されたんですよ。

肉親とられたら銃をとる、良くあるお話です」

 

 

そう言いながら、更にスカーの胴に二発発砲。

 

 

「ああ、確かこうも言っていましたよね?

――――どちらかが滅ぶまで、憎しみの連鎖は止められない」

 

 

その瞬間、どこにそんな力があったのかスカーは起き上がり、シルヴィオに襲い掛かった。

シルヴィオは、さらりと躱すとスカーは勢い余って地面に倒れ込んだ。

そしてその背中を三発撃ち抜かれたが、また立ち上がった。

 

 

「しつこいですね。まるで害虫のよう…、いえ、病原菌をバラ撒く害虫そのものでしたね。

私の患者が待っているのです。速く諦めなさい」

 

 

スカーは諦める素振りを見せず、雄たけびを上げながら医者に襲い掛かった。

が、その破壊の腕は宙を切り、その手に沿えるようにシルヴィオの左手が添えられた。

 

 

「爆ぜなさい」

 

 

スカーの腕が霧散した。

かつてスカーが幾度も国家錬金術師を死に追いやった様に。

その破壊の錬丹術の刻まれた腕は完膚なきまでに破壊された。

 

 

 

「逃げても良いのですよ。貴方のお仲間の所へ」

 

口ぶりは子供に言い聞かせる様な優しげな口調だったが、

 

 

 

また、逃げ場所を教えてくれるのですか?

仲間を売ってくれるのですか?

 

シルヴィオがそう言う意味を含んでいるのはスカーには解った。

此処ではどうやっても勝てないが、イシュヴァールのスラムには逃げ込めない。

そもそも逃がしてくれるのかも分からない。

 

 

一切変わらない真面目くさった表情のまま、

シルヴィオは左手にあるスカーの返り血で描かれた破壊の錬丹術の紋章をこれ見よがしに見せながら、

スカーの顔にゆっくりと近づけた。

 

 

 

スカーは、今まで散々人を殺してきたが、ここで死にたくないと強く思った。

そして、自分で言った殺される覚悟が出来ていない事に気が付いて自嘲した。

 

だが、彼には彼の神が祝福したようだ。

 

 

 

異国風の背の小さな娘がシルヴィオに跳び蹴りを仕掛けてきた。

シルヴィオは丁寧にそれを止めながら、勢いを回転で流しつつ、

横抱きする様に受け止めて、丁寧に地面に下ろした。

 

 

彼我の圧倒的な実力差を悟った少女、メイは地面に下ろされるや否や高速で飛びのいた。

そして再度構えを取る。

 

そこでシルヴィオは対処しようかと一瞬考えて、スカーの方を見た。

シルヴィオの予想通り、スカーはその隙に逃亡していた。

仕方無さそうに、メイに対話を試みた。

ごく自然にスカーに発砲しながら。

 

 

 

 

スカーが足を撃ち抜かれた衝撃で倒れ込んだのを確認したメイは、

シルヴィオに意識を逸らす作戦は無意味と判断し、

周囲の物を爆破させて砂煙でシルヴィオの視界を塞いだ。

 

 

シルヴィオはそれでもまるで見えているかのように射撃を続けたが、

数発撃つと、銃は両方とも弾切れを起こしていた。

 

 

メイはその隙に自身も逃亡したが、その寸前に聞いた、シルヴィオの酷く自然な声が耳に残った。

 

 

「残念です。また次回頑張りましょう。

ああ、お嬢さん、もし怪我をすることがあればおいで下さい。いつでも治療いたしますよ。

私は、全ての人間の味方ですから」




発砲した犯人が解っていた人は手を上げて下さい。

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