ラストの話題を中心ながらも、他愛も無い日常的な会話を楽しむシルヴィオとエンヴィー。
皮肉が皮肉として通じないお花畑相手には、流石の皮肉屋も皮肉を続けてはいけないようで、
エドたちと会話する時よりも、幾分素直なエンヴィーが見られた。
敢えて言うなら、少し面倒くさそうだったが。
エドたちも、一瞬其の空気が当たり前の日常だと思いかけていたが、頭を振ってコイツはホムンクルスで人類の敵だと考え直した。
――丁度その時だった。
黒い影が高速でエンヴィーに接近した。
黒い影、リンは白く光る東洋の刀を振るい、エンヴィーの首元に刃を奔らせ――――
その寸前で止められた。
「喧嘩はいけませんよ。どなたか存じませんが。これではエンヴィー君が死んでしまうではないですか」
その刃を絡めるように、シルヴィオの足元に集められたスカーの赤い血から構築された、
数十本の鉄のワイヤーがリンの持つ刀を巻き付けるように封じていた。
「ソイツは
刀を封じられたまま、その場に立ちすくむのは危険と考えたリンは距離を取って、シルヴィオに忠告した。
だが、シルヴィオは――
「知っていますよ」
そう平然としていた。それに対して今度はエンヴィーがリンに皮肉を言った。
「まあ、意味なんてなかったさ。一度くらい死んでも問題ないからね」
「一度だろうが、二度だろうが私の前で死なないでください。
命は大切にしてください」
…そしてシルヴィオにお説教される羽目になったが。
「お前は
リンが懐からナイフを取り出してシルヴィオに向けた。
だが、シルヴィオの表情には何ら変わりは無い。いつもの真面目くさった表情のままだった。
「ええ、ホムンクルスの味方ですよ。そしてホムンクルスでない人々の味方でもあります。
私は、全人類の味方です。皆さん、もっと仲良く幸せに生きて行きましょうよ」
勿論、本心からの言葉であるが、先程からの光景を見ていたウィンリィ達にはどこまでも白々しい光景だった。
シルヴィオはエンヴィーに、此処にはエンヴィーに敵意を向ける人物が多いから去ると言われて、
少し残念そうにさようならと言った。
去り際にリンが爆弾をエンヴィーに投げつけたが、何時の間にかシルヴィオは爆弾の進路に移動していた。
爆弾にさらりとその指が触れた瞬間、その爆弾は大きなビンに変わった。
そして、空気中から生成した水分を凍らせて花を作り、そこに挿してエンヴィーへと手渡した。
「ラストさんへ、よろしくお願い致しますね」
「…凄いシンプルだよなあ、アンタ」
そして今度こそ去っていく、エンヴィー。
エンヴィーに手を振って見送って、己に背を向けているシルヴィオに、リンは問いかけた。
「お前は何者ダ?」
シルヴィオは丁寧に向きなおって答えた。
「私はシルヴィオ・グラン。親をイシュヴァール人に殺されただけの一般人ですよ」
その瞳は今日も澄んでいた。