流血の錬金術師   作:蕎麦饂飩

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何処にでもいる人間

リンの質問にシルヴィオが丁寧に質問に答えた直後、変装したホークアイがリンを車で迎えに来た。

リンの要請で、ホークアイはリンの仲間であるランファンを途中で救助したが、

ランファンはブラッドレイの追跡からリンを逃がすために、自身の腕を切り落として囮にしていた。

彼女の容態は控えめに言って重傷だった。

 

ホークアイからその事を聞いたロイは、

昔から親交のあるノックスにその治療を依頼した。

だが、憎まれ口を聞きながらも承諾したノックスだったが、

自身だけでは不安だった。何せ長い間、検死専門医として死体しか相手にしてこなかった。

 

故に、最近彼が知り合った凄腕の医者という人物を連れてくることにした。

ノックスが評価するには、極めて善人で、秘密は守ってくれそうな人物だと言う。

 

ロイはノックスを先に目的の場所に送った後、再度戻り、

その人物が良くいるという所に移動して、

割と早くその人物を発見して、苦虫を噛み潰したような顔になった。

 

「………お前か」

 

 

 

ロイはその医者を連れて、ノックス達が待つ市街から離れた一軒家に向かった。

ランファンの腕を処置していたノックスは、その医者が来ると患者から視線を外さないまま、ぶっきらぼうに挨拶した。

 

「悪いな、手伝って貰えるか?」

 

「ええ、喜んで。ノックス先生」

 

 

「止めろや、先生なんて柄じゃねぇ」

 

「いえ、今こうして患者に向き合っている貴方が先生以外の何だと言うのですか?

浅学の身にて、それを表す言葉を寡聞として知りません」

 

 

ランファンについていたリンは、その医者を見て驚愕した。

 

 

 

 

「シルヴィオ・グラン。どうしてお前が此処にいルッ!?」

 

その医者(シルヴィオ)はいつもの様に丁寧に答えた。

 

「何故なら私も医者だからです。ですよね、ノックス先生?」

 

「…お前ら、だからコイツの邪魔はするなよ?」

 

リンは納得がいかない事ばかりだったが、自分の不甲斐なさで犠牲になったランファンへの最善がそれだと言うのなら、

それを受け入れる事にした。

シルヴィオは、断りを入れた後、食物庫を漁り始めて幾つもの食材を持ってきた。

それを錬金術で組み替えて、人間の腕としか呼べないものと、余った材料に変えた。

 

「拒絶反応が出なければ上手くいった証拠です。

切り口が鋭利だったのが幸いでした。では神経を一本ずつ接続します。少しだけチクッとしますよ」

 

 

 

実際、それは少しチクッとする規模の痛みでは無かっただろう。

意識が朦朧とする中で激痛に耐えきれず、絶叫したのだから。

 

それを為したシルヴィオに掴みかかったリンだったが、

シルヴィオの冷たい目と、卓越した体術に一蹴された。

 

「邪魔をしないでください。私の患者を助ける邪魔は何人にも許しません」

 

その透き通る目に一瞬恐怖したが、その真剣さがランファンに向けられたものだと理解したリンは、

今度こそ大人しく引き下がった。

 

 

その後も神経を一本繋げる度に、絶叫が木霊した。

全ての神経を接続し終えたとき、ランファンは気絶していた。

 

「終わりました。では、私は此処で帰ります。後はノックス先生がいるから大丈夫です。

それでは皆様さようなら」

 

 

そう言って優雅に去っていったシルヴィオを見届けたリンは一人呟いた。

 

 

 

「アイツは…アイツは一体何者なんダ…」

 

もし、シルヴィオが其れを聞いていたら、きっとこう答えたであろう。

 

「全ての人間が大好きな、ただのお医者さんですよ」と。




深刻な若者の人間離れ

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