流血の錬金術師   作:蕎麦饂飩
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憎しみの加熱

アメストリス軍の爆薬を使って、裕福な層を中心とした国民に著しい被害と恐怖を与え、

反現政府組織や、イシュヴァール人過激派にも少なからず影響を与え、

治安の悪化につながる事が予見できるとして、

アメストリス軍では、スカー抹殺の為の会議が行われていた。

 

その会議に呼ばれた『流血』は、イシュヴァール人の暴走を止められなかった異民族管理官としての不手際を謝罪した上で、

このテロ行動には、一人では成し遂げられない可能性が高く、

表に出てこないイシュヴァール人達のスラムがバックアップになっている。

全てのイシュヴァール人が犯罪者候補だと主張。

 

 

個人の能力に、恐ろしく大きな振れ幅があるこの世界では、それを為し得る人々はいない訳ではないが、

それを説明するよりは、複数犯の方が遥かに人々には想像しやすかった事もあった。

 

また、これだけ大規模のテロ行為が、特定の人々(国家錬金術師)だけを狙ったとは善良な市民には想定しにくく、

無差別テロだと思われるのも無理は無かった。

 

別の世界の話になるが、ある航空会社の123便に乗った僅か17名を抹殺するために、

他の乗客の命の価値を無視して撃墜させられたという事象に近いものが在る。

 

 

アメストリス軍人の中にも、家族・親戚や友人が被害を受けたりした者も少なくはなく、

国民だけでなく、軍の内部にも確実に反イシュヴァールの機運が醸成されつつあった。

 

 

そしてそれこそが、本当にイシュヴァールとアメストリスを分断して、

テロの報復と、それに対する更なる苛烈な報復の連鎖により、より多くの血が流れる事になる。

 

 

 

だが、アメストリス人の被害を最小限に抑える方法がある。

最短時間で全てのイシュヴァール人を塵一つ逃がす事無く殲滅すれば、もうその恐怖におびえる必要はないという、

シンプルで難しい方法だった。

 

 

 

 

 

それらを考察している内に、『流血』に中央に来るように、大総統直属の命令が下った。

大総統、ブラッドレイに人気のない部屋に案内された『流血』は、ブラッドレイに仮面を取るように言われ、その仮面を取った。

 

そのタイミングで、その部屋にラストが入って来た。

 

 

「お逢い出来て望外の喜びです」

 

名家らしい完全な礼だった。

そしてそれをブラッドレイに、大総統に会った時以上に丁寧な礼をするのだなと、冗談交じりに咎められ、シルヴィオは謝罪した。

 

 

 

「ところで、ラストさんのお知り合いという事は大総統もお仲間ですか?」

 

そのシルヴィオの特に含む色も見えない質問に、大総統は真顔になり答えた。

 

「私がホムンクルスだとして、

何か、問題でも?」

 

 

シルヴィオは其処に含まれた威圧感を丁寧に無視した。

 

「いえ、別に問題はありませんよ。

ところで、後学の為にお聞きしたいのですが、奥さまはホムンクルスでは無いのですよね?」

 

「妻は普通の人間だ。ただのアメストリスの王配に過ぎん」

 

 

空気が、一瞬止まった。

それは緊張に似た何かであったと、この瞬間だけはブラッドレイこと、『憤怒』のラースは認識していた。

 

「では、愛があればホムンクルスとそうで無いものでも、子供が作れるのですね。

ああ、安心しました。そうですね、基本構造は同じですからね。

ええ、1から2が生まれないのが錬金術とは言われますが、

親から子供が増える様に、医学的な法則からは特に問題はありませんからね。

ええ、ええ、そうでしょう。これで問題もありませんよね」

 

 

真面目くさった表情の中にも、

少しテンションが上がった様に見えるシルヴィオ。

大総統の息子セリムも『傲慢』のホムンクルスだという、都合の悪い真実はこの際置いておいて、

何に問題が無いのか何となく理解したホムンクルス組は、

ラストは視線を外す様に顔を背けて、ブラッドレイはニヤニヤしながらも、

 

(この男、大総統を前にして、大総統自体にはあんまり興味が無いようだな)

 

と若干だけ呆れていた。

 

 

ちょっとおちゃめな所もあるブラッドレイは、年の離れた姉をからかおうと、

ちょっとした爆弾発言を投げてみた。

 

「私もかなりいい歳だが、私の姉が未だ嫁ぎ遅れているようで心配している。

どうだ? 年上の女性は嫌いかね?」

 

言葉のテロリズムだった。

 

 

「誰がババァですって!?」

 

誰も言ってない。但しエンヴィーは除く。

 

誘発装置は『憤怒』で、火薬は『色欲』だった。

何だか普通は逆だと思われるが、このホムンクルス達にとってはそう不自然な事では無かった。

 

 

「…ホムンクルスは見た目と年齢が違うものなのですね」

 

 

シルヴィオの発言に空気が再び凍った。

ラストも口を開いたまま動かないし、ラースは女性に対して流石に言い過ぎだと、自分を棚に上げて思った。

 

 

 

「えっ、まあ、それは…」

 

何か言い訳するように、そう言い淀むラストに、

 

「ですが、ラストさんのように美しい相手であれば是非にと世の男性なら誰もが思うでしょう。

唯一の恐怖は、老いない相手に釣り合える様に、

男性側が責めて美しく置いていかなければならない努力の大変さでしょうが。

ラストさんの為なら、私ならその努力は苦労とは思いませんよ」

 

 

見た目は女性的なシルヴィオだが、今回ばかりは男前だった。

相手がホムンクルスだと知っても気にしない。

年増だと知っても気にしない。

アメストリスにはそういう男は殆どお前くらいだろう。

そう考えながら、ラースはある事に気が付いた。

 

 

 

あれ?これってプロポーズではないか?

 

 

ふと姉の方を見ると、余裕ありげに怪しく笑っているがプルプルと震えている。

明らかに余裕が無いが、恋は盲目とは言ったもので、

それを言った当の本人は全くそれに気が付いていなかった。

 

 

「…ラース、彼は信用できそうな男でしょう?

『お父様』の所に連れていってはどうかしら?」

 

 

シルヴィオから逸らす様に視線と共に言葉を投げかけられた末の弟は、姉の発言にこう思った。

 

 

あれ? これって親御さんに紹介って奴ではないか? と。








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