流血の錬金術師   作:蕎麦饂飩
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こんなこともあろうかと、ってロマンですよね


戦いの裏で

シルヴィオとスカーが争いを始めた時、ホムンクルス達は一切手を出さなかった。
それは、人柱候補であるシルヴィオの性能を試験する為だった。

他者による綺麗事の言葉には何の価値も無い。
そんな当たり前の事実を今更あらためて思い知った事で脱力感を感じていたエドだったが、
このまま何もしないでいようとも思わなかった。

そしてエド以上に何かをしようと考えていたのは、リンだった。
リンの目的であるホムンクルス、そしてそれらを産み出したであろう存在が今、まさに目の前にいる。
ここで何もしないのでは遥々砂漠を超えて、アメストリスにまで来た意味が無かった。

だが、動こうとした瞬間リンはその動きを止められた。
首元に添えられたのは鋭利な爪。
ラストの『最強の矛』だった。

「邪魔はさせないわ」

それは誰の邪魔なのか、何の邪魔なのかは判らなかったが、リンは体の良い人質の様になっていた。
だが、人質とは、本来圧倒的な強者の戦略では無い。相手に何かされては咄嗟に対応する手段が無いから、
行動させたくないものの選択だ。
ラストやラースにとっては人質と言うやり方は重要性を持つが、
『お父様』にとってはそうでもない。
人質など取る意味が無いのだ。故に――――


「そのまま殺していいぞ。ソイツでは邪魔すらできん」

『お父様』はそう冷酷に宣言した。リンを人間とは思っていないような口振りだった。
やはり、諸悪の根源(ホムンクルス達の親玉)だと、エドはそれを聞いて認識した。
お父様の許可と言う名前の命令故に、
ラストは首に添えた爪を滑らせようとして、アルの錬金術による攻撃に弾かれるように飛び退いた。
リンの首元には浅く朱い筋が入っただけで終わった。

エドもその流れに乗って、アルを援護しようとしたが、
そこでイシュヴァール人達の乱入があり、一度流れが止まった。
そして止まった流れの中、スカーが師父と呼んだ男がシルヴィオに促された通りに口を開いた瞬間、その頭部を落としたのを見た。

イシュヴァール人を見るシルヴィオの表情は『お父様』にどこか似ている。
エドは心の片隅でそう思った。
少なくとも、対等の生命という扱いはしていない。それだけは確実に同じだった。


シルヴィオはイシュヴァール人に対しては何の容赦も無くその命を絶つ。
では、『お父様』は何に対してそうあるのか?
エドは気になった。

「何故、リンを殺そうとした」

その怒りを込めた声は、ラストと『お父様』に向けられていた。



「知れた事だ。私にとって必要のない人間だからだ。それ以外に何の理由がある?」


そう答えた『お父様』にエドが錬金術を仕掛けようとして――――


「試験は終了にしよう。合格だ」

シルヴィオの方を向いて『お父様』がそう言って、軽く足を踏み込んだ。
それと同時に、理解不能の衝撃が奔り、エドの錬成は不発に終わった。


エドが能力不足で錬金術を失敗する事は無い。彼は天才の類であった。
それは彼を知る者が口を揃えて保証する。

エドは再度錬金術を行使しようとしたが、またも不発。

その隙を狙ったかのように、エンヴィーが本来の身体でエドをその尾で叩こうとした。




だが、それも失敗に終わった。
エドは自分よりも背が高い青年に空中で抱きかかえられていた。

「エンヴィーくん、喧嘩はいけません。今のはエド君が大怪我をしてしまいますよ」

そう言いながら、なるべくエドに衝撃が掛からないように膝のクッションを利かせて着地したシルヴィオは、
優しくエドを下ろした。


「ああ、それとリンさんでしたか?
首の傷を治しておきましょうか」

そう言って左手にはスカーの師父の頭部を掴んだままリンの下にやって来た。
そしてリンの首筋に手を当てて治癒錬成術を行使するも――不発。

そこでシルヴィオはある事を思い出した。


「そう言えば、エド君、まだあの石を持っていますか?
治療に使うので、少し貸して下さい」

例の石の正体と、この医師の正体を知ってしまってからは使うに使えなかった賢者の石。
それを再び、石の制作者に渡すと、
リンに対する生体錬成は滞りなく終わった。

「はい、ありがとうございます。お返ししますね」

何時もの様に丁寧な態度で、錬金術の秘宝をシルヴィオはエドに返した。



「ああ、そう言えば――」

シルヴィオは逃げ遅れたのか、足が竦んで逃げられなかったのかその場に残ったメイにゆっくりと歩みを進めた。

「先程はイシュヴァール人を呼んでいただきありがとうございます。
もう一度呼んでいただけますか? できなければ彼らの居場所を教えて下さい」

その余りにも平然とした姿に恐慌状態に陥ったメイは、錬丹術を行使。


『お父様』やホムンクルス達の予想に反してそれは完全に起動した。
その標的はシルヴィオ。

メイは錬丹術を発動した瞬間やり過ぎたと思った。
今行使した威力は、防御手段を持たない人間であればそのまま死んでしまう。


だと言うのに、シルヴィオは驚愕の表情も恐怖の表情をも見せず、冷静にメイを見つめていた。
そして、音を立てる様に手を叩いた。

シルヴィオの足元からちょっとした壁が生成されて、メイが生み出した錬丹術を完全に防いだ。

「なるほど、あのイシュヴァール人やあなたの技術はこの状況下でも使えるのですね。
もしもの時の為に、複数の手段を持っておくのは大切な事だと改めて思いますね」


錬丹術を少なくとも実用段階にまで引き上げた錬金術師。
イシュヴァール人の老僧に対して、一切の慈悲なくその首を切り落とした死神。
そして今、イシュヴァール人を殺した時と同じ表情、同じ口調、同じ雰囲気のままで、
極めて親切そうで丁寧に話しかける物語の王子様の様に麗しい青年を見て、
メイは、心の何処かを凍りつかされるような恐怖を感じて逃亡した。

リンもそれに便乗して逃げようとしたが、
結局、ラースの足払いにより転倒してしまった。
ラースが止めを刺そうとしたところで、またしてもシルヴィオが錬丹術を発動させてそれを防ぎ、
リンもその隙をついて逃げ出した。



「何をした」

そう問いかける『お父様』に対してシルヴィオは、
ルールが変われば、禁止事項や免許事項も変わるのではないでしょうか?
と丁寧に返した。

天才。そんな言葉では片付かない存在だとエドたちはその様を見て認識した。

『お父様』も只者では無いと理解したのか、またしてもシルヴィオにこう問いかけた。



「何だ、お前は」

その答えは決まっている。

「ごく普通の医者で、――――――ごく普通の復讐者です」



ごく普通の一般人でも、
『静観決めこもうゆう奴も 肉親殺とられたら銃をとる』というのは良くある話だと、
牧師様が言っておりました。







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