大総統キング・ブラッドレイは国家錬金術師の試験会場で逸材を見た。
『鋼』といい、最近の若者は良い収穫が出る。この国の為に
記述試験は満点。更に例題の問題点まで指摘して修正点と改良点まで付け加えていた。
精神鑑定は
そして実技試験では、精神鑑定をすり抜けた異常性を自らいかんなく発揮した。
仮面を付けた青年は、自分の実力を披露する場でこう言ったのだ。
「死んでも良いイシュヴァール人を5人用意してください
――ああ。イシュヴァール人ならどれでも同じ条件でしたね」
怖気がするような冷めた声で。
キング・ブラッドレイはその時こう思っていたのだ。
(いや、仮面付けて受験しにくる時点で精神鑑定×だろう。常識的に考えて)
だが、そんな余裕があったのは強者である一部だけだった。
間もなくイシュヴァール人の死刑囚5名が連れてこられた。
「無実だっ!!」
「冤罪だっ!!」
「俺達がイシュヴァールの民だからかっ!?」
「裁判を受けさせろ」
「助けてくれ」
その様な意味の事を口々に言っていた。
国家錬金術師試験を受けにきた仮面の青年はその言葉に対してこう答えた。
「イシュヴァール人として生を受けた事そのものが、どうしようもなく然りとした有罪なのですが、
そうですね、皆さんがどうしても生き残りたいと言うのなら、私が此処の偉い人たちに条件付きで助命を願いましょう。
私は優しいと有名なので。」
未だ試験を合格していない、身元不明の者がこう言いだしたので軍部の者たちは何を言ってるんだと思い、
救いの光が見えた囚人たちはその条件を今か今かと聞きわびた。
「条件は私の殺害。何、異教徒を殺す事に抵抗の無いあなた達なら簡単でしょう?
さあ、Hurry up!!」
そう言って仮面の青年が手を交差するように叩いて音を出すと、
囚人たちの前にモーニングスターなどの幾つもの武具が転がっていた。
「強度は保証します。私の実家の自慢の錬成ですから」
囚人たちは状況の理解が追い付かなかったが、ある事だけは理解できた。
目の前の青年は強い。だが、その青年は1人。その青年を殺す事が出来れば家族の下に帰れる…かもしれないと。
5人がそれぞれ武器を持ったと同時に青年は口を開いた。
「それでは試験の開始という事で宜しいでしょうか?
あなた達の神様があなた達をお救いになるのかどうか、審判の時と行きましょうか。
――――――願い、祈り、命乞い、その全てが無駄だと知るがいいでしょう」
仮面の青年は自身の指をナイフで傷つけると、囚人の1人に向けて振るった。
青年の血はナイフの様に囚人に飛び、そして突き刺さった。
真紅のナイフが突き刺さった囚人は動かなくなり、仲間が其れを心配した直後、
囚人の身体の中身――『血』が胎児を出産するように腹を突き破って人型のままで飛び出し、
また別の囚人に抱きつくように飛び掛かった。
血でできた人型に抱きつかれた囚人もまた、血を吹き出して、その血液が他の囚人に飛び掛かって喰らい、
中の血を吹き出させた。
そうして囚人たちは全滅し、血でできた人型は弾け飛んで、模様を描く様に綺麗に、
いや、綺麗に血文字の錬成陣を描いた。
「家畜に神はいないそうですよ」
そう残酷に言い捨てる青年に、観客は何も言葉を紡げなかった。
「あ」や「え」等の意味が無い言葉しか誰も紡げない。中には吐いている者も居た。
ただその光景を見て、一人だけ口が動いた者がいた。
「合格。
キング・ブラッドレイ。この国の最高決定権者だ。
「閣下ッ!?」
その場の者達は、この異常な青年を国家錬金術師とは認めがたく不服を申し入れようとしたが、
それもキング・ブラッドレイの一睨みで沈黙した。
「錬金術師として十分な能力があり、国家への忠誠を誓うのなら問題は無い」
蛮行を黙認するどころか、国家錬金術師としての資格まで授与された青年は、
膝をついて、
「在り難き恩情にございます」
「励めよ、『流血』」
「はっ!!」
その栄誉を受け入れた。
(お父様の二つ名と被せて来たのは偶然では無いのでしょうね。
流石は大総統。片目でも見る
彼は不発の血文字の錬成陣で描かれた意味が、(イシュヴァールの民の)神の否定という所まで大総統が理解して尚、
自分を受け入れたと看破して、仮面の下で麗しく微笑んだ。
お医者様「暴力を振るって良い相手はイシュヴァール人共だけです」