流血の錬金術師   作:蕎麦饂飩
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ラヴ フォー イシュヴァール

『流血』は公的組織、民間組織問わず、多くの反イシュヴァール組織を立ち上げて運営している。

その資金源は、『流血』のものだけでなく、国家の正規・不正規を問わず流入された資金や、

イシュヴァール人による犯罪被害者遺族からの協賛金等で賄われている。

大口のスポンサーとして有名なのはハンベルガング家だろうか?

一人娘のロザリーと当主の妻が、高級ホテル爆破テロに巻き込まれて死亡して以来、

反イシュヴァール活動に極めて好意的に協力しているそうだ。

 

アメストリスに着実に増えつつある、反イシュヴァール組織。

その中には、イシュヴァールの歴史を調査して、イシュヴァール人に都合の悪い事を暴き出す役目を持った組織があった。

その組織において、最も成果を出している男がいる。

その男の名前は、アイディアナ・ショーンス。言語学者にして考古学者の父親の後を継ぐように、

自身もそれらの分野で若くして大学教授になった、フィールドワークが得意な図書室に籠らない学者である。

 

彼の父は、イシュヴァールの神、イシュヴァラの教えの矛盾や、イシュヴァールの指導者や預言者の意見の食い違いを纏めた。

若しくは、国外において存在したその類の本を翻訳した。

その結果、狂信者のイシュヴァラ信仰原理主義者に殺されてしまった。

 

そして更に、その執筆記録を焼却するために、家に火を付けられて彼の母と年の離れた弟は死んでしまった。

 

 

彼はあらゆる所を調査しながらイシュヴァール人の痕跡のある建物を探し、

中にある資料を解読し続けた。

それらは、全てイシュヴァラとそれを信仰する人々の価値を貶める為だ。

 

 

そして彼はある家で、イシュヴァールの古い言語で書かれた本を手に入れた。

途中で片腕の無い男に襲われかけた事もあったが、逃げに徹した彼は何とか生き延びた。

 

彼は今までの考古学と翻訳の知識と能力をフル活用して、その書物の全てを解読した。

異国の技術を使った国家錬成陣。それがその書物の持つ結論だった。

彼は急いで、『流血』に研究成果を送った。

 

 

彼には、また別の仕事がある。

イシュヴァール人が手紙を出した際、イシュヴァール語やイシュヴァールの風習などで暗喩した、

普通のアメストリス人には解りにくい文章が作られる時がある。

それを解説して盲目の凄腕の錬金術師などが所属している駆除部門に回す。

 

何時もの様にイシュヴァール人の資料を漁っていると、今まで知られていないイシュヴァール人のアジトを示す文があった。

彼が何時もの様に、それを駆除部門に回したが、その時ばかりは失敗だった。

その手紙は囮であり、敵が待ち構えていた。

少なくない被害が出た。イシュヴァール人も少しずつ巧妙になってきているのだ。

 

 

 

 

また、医療研究部門は捕らえた実験用イシュヴァール人を使って、日夜研究に励んでいるという。

例えば、最近の実験動物のトレンドは双子と妊婦だ。

双子は対照実験に使える上に、妊婦は胎児の経過も含めて良い研究になる。

この部門にはイシュヴァールを恨む者だけでなく研究熱意に燃える若人(マッドサイエンティスト)も多く在籍しているという。

 

人間に極めて酷似した、処分すべき実験動物を潤沢な資金の下に、愛護意識無く実験できるのだから実に素晴らしい。

人間がどこまでやったら死ぬか、生き延びるかの境目の実験も、好きなだけやれる機会と場所は他にはそうそう無いからだ。

 

 

医療の実験と言えば、『流血』が力を入れていた所としても、組織内では有名である。

 

・一体生まれてくる赤子を何処から生命体とするか?

・命が発生する時に、何を以って命の定義とするか?

・錬金術と異国の同様の術と、医療などの法則の違いの調査と統合計算式

・禁忌たる人体錬成の定義

・何故、死人や生きた動物からは賢者の石は生成できないか?

・人体錬成の一部成功における、一部部分の活用法

・全身義体に置換した人間と、義体で作った全身への魂の転写の違いは何か?

・極めて酷似した全身生体義体に、魂を転写した場合どうなるか?

・生体義内臓の作成

・生命の核とは何か?

・試験管内で受精卵の成長実験

・生殖細胞の作成シークエンス

・人間の定義

 

これらを中心とした様々な資料が、『流血』のノートに書き込まれていた事も有名であった。

恐れ多くて見ようとする他者は、マッドサイエンティストを含めても、そんなにはなかったと言われているらしいが。

 

 

 

また、歴史研究部の情報を元に、学校組織で在職している者達の中にも、反イシュヴァールの組織構成要因は入り込んでいた。

子供達に小さな頃からイシュヴァール人を恐れさせて、軽蔑させて、嫌悪させるにはそれは有効な手であった。

残念な事に、この教育担当の構成員は極めて少ないのでそれが課題であったが。

ただ、一部の学校の子供達が、悪口を言って、

 

「お前の母ちゃんイシュヴァール」

「母ちゃんはイシュヴァールなんかじゃないやい」

 

と、言われた側もむきになって反論する光景が見られる程度には、前進が見られたと言えるだろう。

 

 

直接殺すだけが、イシュヴァールの殺し方では無い。

その誇り、その歴史、その信念、その過去、その未来、…etc

それら全てを殺して殺して殺しつくす事こそ、彼らの復讐なのだ。それが『流血』に齎された彼らの信仰、

――――『反イシュヴァール』教なのである。

 

 

ある意味において、彼等ほどイシュヴァールに熱心な者はいない。

その憎しみは、極論においては、愛に似ていた。








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