流血の錬金術師   作:蕎麦饂飩
<< 前の話 次の話 >>

42 / 52
ダーティーペア

あるイシュヴァールの隠れ里。

その周囲を同じ銃器を持った様々な服を身に着けた、様々な年齢の人々が囲んでいる。

性別も年齢も職業も違う彼ら彼女らの共通点は一つ。イシュヴァール人に強い恨みを持つ事である。

勿論、イシュヴァール人には何をやっても良い(・・・・・・・・)事を目的として、

イシュヴァール人を犯し、殺し、奪う事を目的とする者も居る。

まあ、そういう者がいたとして、お気に入りのイシュヴァール人女を連れて帰ろうとしても、

彼らの仲間は親切な者ばかりなので、彼がイシュヴァール人を生かして逃がそうと言う行動を起こして、

護るべき秩序を壊す事が無いように、速やかにそのイシュヴァール人の女を殺してその罪を見逃してくれる。

 

特殊な戦闘訓練を受けていない者は、集落の外で待機して逃げ惑う害虫を駆除する準備をしている。

また、錬金術師や軍隊などでの経験がある者達は、その包囲網の中に入っては次々とイシュヴァールを駆除していく。

 

ある女性が髪を振り乱しながら、家から飛び出して『流血』の配下に襲い掛かった。

とはいえ、彼女は本来なら非戦闘員。彼女が立ち向かった相手である戦闘の心得を持つ者には到底及ばない。

だがら当然の様に、その手にある包丁は空を切り、降り注ぐ銃弾でハチの巣になった。

だが、それで良かったのだ。彼女が敵の目を惹き付けた事で、裏口から彼女の子供が逃げる事が出来た。

 

だが、そのまま逃げ切る事が出来た訳では無い。

母の犠牲を代償に裏口から逃げた少年は、その足首を打ち抜かれて転倒した。

犠牲となった母親の唯一の救いは、その少年が逃げ切れる妄想の中で死ねた事だ。

 

少年が倒れ込んだ場所は、偶然にも彼らが普段、信仰を奉げる高台に向かう広場へ向かう階段の麓だった。

逆光で少年には良く見えないが、何者かがゆっくりと階段を降りて来ていた。

その者の進行経路の階段には、白い鳥が所狭しととまっており、

その者が一歩を踏み出す度に羽ばたいて彼の後ろへと舞い降りて行っていた。

 

見る人が見れば、その様は階段を下るその者に白き翼を与えているようにも見えた。

少年にも最初はそう感じられた。その者の首から上を見るまでは。

その者の首から上についている装飾品は、今、イシュヴァールでは一番有名な物であった。

やがて、階段を降りてきた天使に見間違うばかりの神聖さを備えた者は、

撫でる様に、倒れて動けなくなった少年の頭に触れた。

 

 

そして、少年の頭が爆ぜた。

階段を降りてきた仮面の青年の行動に、彼の部下達は勢いづき、更に虐殺の速度を速めて行った。

 

そして、イシュヴァールの民たちの戦う気力をへし折ってから、包囲網を形成している人々も狩人の側に回った。

民間人が民間人を撃ち殺していく悪夢の光景がそこに在った。

家族の仇だと銃を乱射する者、口に銃を咥えさせて撃ち抜く者。穴という穴に自身と銃口を交互に突き入れて尊厳を奪う者。

動けない者にしつこく鈍器を叩き付ける者。

助かりたければ自分の赤子の首を絞めろと脅迫して、それが出来なかった母親から赤子を奪って代わりにその首を絞める者。

イシュヴァール人のせいで臓器移植が必要な身体になった息子の為に、イシュヴァール人を殺しはするなと言いながら、

その臓器以外の部分は容赦無く斬り飛ばす者など、様々な者がいた。

 

アメストリス軍に喧嘩を売ったイシュヴァール人のテロリストには何をしても良いという風潮は、特に軍に広まっていた。

そして、『流血』の手の者にはイシュヴァール人は生まれただけで漏れなくテロリストも類であった。

 

今回興味本位で追随する事にしたキンブリーは、

『流血』個人の、そして先導者としてのイシュヴァール撃破の武勇と華麗さには一目置いていた。

どれだけ返り血を浴びても、全身に撥水加工が掛かったが如く、イシュヴァール人の血が触れるのを拒絶するが如く、

その返り血が剥がれては槍となって、別のイシュヴァール人を刺し抜いていた。

 

「仕事熱心ですねえ」

 

仕事に真摯な同僚が横にいる。ならば自分もそれなりに良いところを見せないといけませんねと、

彼は無数のイシュヴァール人を塵へと変えた。

 

その際に、砂煙や血飛沫でスーツが汚れてしまったと不平を漏らすや否や、

ご丁寧にも、それらが拭き取られるかのようにキンブリーの汚れが目立ちやすい白いスーツから剥がれて、

先程同様に、槍となって弾き飛び、イシュヴァール人を貫いた。

 

「これはこれは、後でクリーニングのお礼も言わなくてはいけませんね」

 

 

ますますご機嫌になったキンブリーは、やる気を見せた。

 

 

二人が共同戦線を張るのは初めてだったにも拘らず、古くからの戦友の様に完全な連携を見せた。

『紅蓮』が爆発で弾き飛ばした血肉を『流血』が武器と変えて、

『流血』が射出して突き立てた血肉を『紅蓮』が爆発させて新たな地肉を産み出していた。

 

そして防御と回復を『流血』が周囲を含めてカバーするが故に、『紅蓮』は純粋に攻撃を愉しめたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それだけの虐殺があったにもかかわらず、実は動けなくなったり、降伏したイシュヴァール人達はそれほどは殺されていなかった。

だが、それらのイシュヴァール人達は、それ以上の苦痛を味わう事になった。

 

閉じ込められたイシュヴァールの民たちに、救いの声が掛けられる。

イシュヴァラ神は悪魔だと認めて、イシュヴァールの全てを吐き捨てるのならば赦しがあるかもしれない、と。

 

そこでも厳しい絶対の戒律がある為、周囲の目が気になって手を上げられる者はいなかった。

答えた直後に仲間に信仰への裏切りだと殺されては、結局意味も無いからだ。

だから、一人ずつ集団から引き離して、残りのイシュヴァール人を閉じ込めた檻の前で安全を確保した上で同じ質問をした。

そうしたところ、少なくはあるが、幾人かのイシュヴァール人が命乞いの余り、イシュヴァラ信仰を棄てると言い出した。

 

仲間達から裏切り者と罵られるそれらの者を一か所に集めて安全を確保した。

最初は仲間の憎悪に怯えていた裏切り者のイシュヴァール人達だったが、

自分達と残されたイシュヴァール人達の間には強靭な柵があり、

その柵の内側の者達は全員死ぬ事が告げられると内心ではホッとしていた。

 

そしてその後、殺される柵の内側のイシュヴァール人達と裏切った者達に、最後に触れ合いの時間を作ってやろうという、

『流血』の恩赦で、嫌がる裏切り者たちは無理矢理イシュヴァール人達の檻の中に戻された。

 

裏切り者のイシュヴァール人達は、全員同族達に袋叩きにされて死亡した。

 

その様を仮面をつけた青年は、「全く野蛮ですね」と周囲の者と話した。

周囲の者も、裏切った者と裏切られた者のその浅ましさを嗤っていた。

 

そしてその後、裏切り者を殺したイシュヴァール人達も、その人間としての生命活動を終えた。






※この小説はログインせずに感想を書き込むことが可能です。ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に
感想を投稿する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。