流血の錬金術師   作:蕎麦饂飩
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絆は見せつけていくスタンス

高速で敵対者を切り刻む、伸縮自在の『最強の矛』を構えるラスト。
その伸縮自在と言う上方に向けられた片腕の爪は、天上を易々と貫いていた。

「いつか決着をつけてやろうと思っていたが、こうなるとはな」

戦闘態勢をとったラストに対して、オリヴィエが好戦的に微笑む。

「決着? 何か勘違いしていないかしら。
決着はもうついているわ。最初から貴方に勝ち目なんか無かったのよ」

そう言って、爪を伸ばしていない方の腕でシルヴィオの肩にしな垂れる様に撫でた。
その次の瞬間、オリヴィエは直感で真横に飛び抜いた。

ラストのもう片方の腕は下へと向いており、
オリヴィエがいた位置は、断層が切断されたが如く、周囲の天井や床ごと真っ二つになっていた。


「此処にはもうすぐ貴方の大親友だと言う男が来るそうだから、エンヴィーの所にでも行ってあげたらどうかしら」

ラストは隣に立つ愛しい男にそう告げた。

「でも、貴女が…」

「大丈夫よ、今度(・・)があるまで死ぬつもりは無いわ」


そう言ってラストがシルヴィオの唇に指を当てると、シルヴィオは決心が出来たのかその場を去った。

残った、ラストに剣を向けたオリヴィエが問う。


「見せつけてくれるな。だが、一人で私達に勝てるつもりか?」

「こういう時は心が繋がっているから寂しくないとでも言えばいいのかしら?
見せつけるのに必要な相方がいない貴女が不憫で仕方ないわ?」

互いが先程いた場所に土煙だけを残し駆け跳んだ二人の、
絶対の高度を誇る爪と、家伝の宝刀が激突した。


超高速の斬撃の応酬。一撃が強いオリヴィエと手数が多いラスト。
その実力は拮抗しているように見えた。

「ハネムーンはブリッグズの廃城(・・)を考えているのだけれど、どうかしら?」
「ほざけ、棺桶に入れて送ってやろうっ」


刹那を切り裂く殺陣を舞いながら、互いの高すぎる技量故の千日手。

地面ごと細切れにするラストに対して、崩れた足場から避けながらの破片を蹴る事での行動阻害までこなすオリヴィエ。
先程までのハボック達の部隊と『流血』の部隊の戦いとは破壊力が違い過ぎた。

極めて鋭くて凶悪な地形破壊をこなす千日手とはいったいなんだろうかと思われるが、その実例がまさにそこに在った。

だが、その千日手もハボック達の援護射撃により徐々に傾き始めていた。
ラストが切り裂こうとする瞬間にその肩を銃撃が掠める。避けようとする瞬間に足元を撃ち抜かれる。
それは、オリヴィエと言う人物を相手にするには致命的すぎる隙だった。

「良いぞ、この戦いが終わったら私の部下にしてやろうか?
それとも婿候補の席も空白だぞ」

軽口で随分と恐ろしい事を言うオリヴィエ。無論、軽口ではあるが嘘を言ったつもりは無い。
と、その時ハボックは爆風に吹き飛ばされた。
周囲の射撃支援組の部下は文字通りの意味でバラバラにされてしまっていた。

「私は『流血』の心の友ゾルフ・J・キンブリー。
巷では『紅蓮』と呼ばれております。皆様ぜひお見知りおきを。
――――良い冥途の土産になるでしょう」

知らぬ間に心の友と言う扱いにされていたシルヴィオ。
人間に差別や好き嫌いをしない彼の事なので、拒絶や否定をする事は無いだろうが、
もし聞いていたら、いきなりの大親友の扱いにさぞ驚いたことだろう。


そこで、二対一の圧倒的な蹂躙が始まったが、それもまた新たなる乱入者によって流れが変わった。
乱入者は、筋肉ダルマ二人と、主婦だった。

戦局は一気にオリヴィエ側に傾いた。

「このままだとジリ貧ですね。私はホムンクルスと違って一回しか死ねませんから」

この状況でもそんな皮肉を吐くキンブリーに対して、

「私も死ぬとしても貴方とは一緒に死ねないわ。その相手は既に決めてあるもの」

この頃随分と鍛えられた余裕を見せつける演技で戦闘を継続するラスト。


彼女達は圧倒的に不利な状況で、腕一本失う事も無く二十分も戦い抜いた。
これ以上は先程から集中的に狙われている『紅蓮』が持たない。
しかもかなり有能な回復役が、よりにもよって今此処にはいなかった。

そして、運命の時が漸く来た。






「大丈夫だ、私が来た」

幾つかの隊に別れた北部軍や、北部軍に偽装した東部軍によって多くのフロアが制圧されていく中、
正門にあの男が帰って来た。


大総統――――キング・ブラッドレイ。

「何故来た、もはやもう遅いぞ」

既に北部のブリッグズ兵によって占拠され、
様々な兵器で固められた門に平然と歩いてきたブラッドレイに、怯えながらも彼等は警告した。


「そうだな、寄り道が長かったせいかだいぶ遅くなってしまった。
旦那が妻を迎えに行くには、遅すぎる程だ。
ところで、妻は丁重に扱ってくれたか?」

その日常会話の様な質問に一切答えない敵に対して、ブラッドレイは『憤怒』の本懐を見せた。
正門までの彼を塞ぐあらゆる敵対者(障害物)は一掃されて、彼は自らの家の扉を潜り抜けた。

「誰か、『おかえりなさい』を言ってはくれないものかね?」

背後に崩れゆく死体と金属の塊を気にすることなく、ラースはそう告げた。







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