第三研究所。かつてラスト達ホムンクルスとロイやエド達との戦いが行われた場所。
この場所にエルリック兄弟と、ロイ・マスタングとその腹心リザ・ホークアイは潜入を開始していた。
そして彼らは再び死闘を繰り広げた扉の前まで辿り着いた。
扉とは、入る事も出来れば、出る事もできる物である。
エド達が開けようとする前に、内側から扉が開き、津波の様な何かが飛び出してきた。
そこには魂を籠められた無数の人形、何処かの医者なら兎も角、普通の感性を持つ人間にとっては、
人の血肉を喰らう理性の無い化け物達が蠢いていた。
とはいえ、この四人が本気を出して敵わない相手と言う訳では無い。所謂面倒な少し強いザコだ。
ゲームにおいても物語後半のザコモンスターは、序盤の感覚で言えば強敵ではあるが、
終盤の主人公たちにとってはそこまで危険な存在では無い。
尚、某仮面のライダー龍騎の悪口は言うべきではない。
先手必勝という言葉がある。
最初に敵に大打撃を加える事で、敵の攻撃能力に大損害を与え、
それにより自己の被害を著しく減少させることで、更なる戦果獲得に興じられるという意味だ。
かつてとある医師から預かった『賢者の石』を、エドは大佐に手渡した。
「…結局、持っていても使わなかったか」
「使えるわけないだろ、他人の命で身体取り戻しても意味がねぇ」
「そうか、だとしても私は使わせて貰おう」
圧倒的な術式の増幅器、錬金術の秘儀――『賢者の石』。
そして四大属性の一つである彼の師が編み出した秘儀――『焔の錬金術』。
それらが此処に結合した。
酸素濃度の限界や、炎との吸着速度などの既存の限定される条件を無視したかのような火力は、
先程の比にならない絶対性のある勝利を承認した。
人形たちが、燃え尽きて朽ちた後、その残った炎の向こうからある人物がやって来た。
「よおロイ、まるで死人を見たような顔じゃねえか」
その男は、マース・ヒューズ准将。
死んだはずのロイ・マスタングの親友である。
焔の様に熱された昂揚感が、氷の様に醒めていくのがロイには自覚できた。
そんなロイに向けて、
「危ない大佐ッ!!」
咄嗟に彼を突き飛ばしたホークアイにより、ロイは転倒した擦り傷以外のものを負う事は無かった。
だが、代償としてホークアイは利き腕を負傷していた。
「…すみません、腕を負傷しました」
クールに答えるホークアイだったが、最早先程まで彼女が見せてくれていた中距離以上の精密射撃という神技は、
これ以降は期待できそうにも無かった。
「…あーあ、残念。ヒューズの野郎は簡単に殺せたけど、お友達の方はそうもいかなかったか」
そう言ってマリア・ロスやヒューズの妻や娘の姿へとコロコロと転じた後、
最終的には普段の姿に変わったエンヴィー。割と悪趣味である。
「世の中の人間が、愛する者に化けただけで反撃のできない無能ばかりならどれだけか楽だったんだけどな。
その点、あのヒューズは合格…いや失格か? あいつ本当に無能だった、マジ無能。無能過ぎて嗤えたよ」
「――黙れ」
昂揚感が逆転して氷点下に突き抜けた復讐の焔に染められていく男がいたが、
得意げなエンヴィーだけはその事実に気が付かない。
「そうそう、イシュヴァール人を煽って何処かの医者を家族ごとぶち殺した時も面白かったよ。
あの時の医者の顔、アイツ誰だったかな? 名前も憶えてないからきっとどうでも良いヤツだ。
家族ぶち殺したら抵抗もせずにそのまま首吊りさせられやがった。
アイツも超無能。すげえ、思い出しただけでも無能過ぎて嗤いが止まらねえ」
「――黙れ」
「後な、お前の養母。従業員を捕らえて人質にしたらな、のこのこと出てきやがった。
お前に関する事は口を開かない立派な態度だったよ。
身を窶しても立派なもんだった。あれがノブレスなんちゃらってヤツか?
首に油が入ったタイヤを被せられて、火を付けられたというのにな。
まあ、身体が脂肪が多いからなぁ、面白いぐらいに燃えたよ。
その時に本物の従業員が出てきて、火を消そうとしてたけど、
油で燃えてるのに水で消える訳ないんだよなぁ。
却って燃え広がるだけだって、炎に詳しいお前だって思うだろ?
ホントあの従業員も無能だったよ、ビックリする位無能。
まあ、ソイツも上半身も顔も大火傷して、
女として駄目になってたからその上で、慈悲として毒薬のビンを目の前に置いてやったからには、
多分この世にもう生きてないだろうけどな?
無能、無能、無能、無能、無能無能無能無能無能無能のオンパレードだっ!!」
「…いい……べるな…」
「うん? 何か言ったか?」
得意げなエンヴィーは自分の話に夢中で、ロイが何か話しているのを聞き逃したことに気が付いた。
だが、最初からロイの方を見ていたホークアイは、そのロイの表情を見て、エド達を他の場所へ移動するように命じた。
その理由は、この後激情に堕ちた大佐がとる行動を見せたくなかったから。
そして――――自分が大佐にとらなければいけない行動を見せたくなかったからだ。