流血の錬金術師   作:蕎麦饂飩
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何の為に生まれて

ロイ・マスタングは己の罪を見た。

罪状は復讐の為に他の心を捨てようとした事。

その罰は最も大切な人を失う事。

愚か者が報いを受ける事は真理の証明。

 

叫びながら駆け寄って止めようとするも、スローモーションに映る視界の中で彼女の指は確りと引かれていった。

何度も何度も慣れた、慣れてしまった動作に淀みは無かった。

 

 

 

…だが、その引き金は引かれたものの、発砲音はしない。

もう一度、更にもう一度引き金を引いたリザ・ホークアイは銃弾が全く撃鉄に覚醒させられない事を知ると、全身が脱力した。

彼女が膝の力が抜けて座り込む前に、彼女が止めようとした青年に抱きしめられてその膝が床で汚れる事は無かったが。

 

「すまない…本当にすまなかった」

 

「良かった…帰ってきてくれて」

 

 

ちょっと大人な空気の中、何となく邪魔になっているだろうなとそれとなく存在感を消そうとする二人の少年。

まあ、内一人は酷く大きな鎧の身体なので存在感を消すのは難しくはあったが。

 

 

そんな、少年でも読むべき空気が読めない大人というものは往々にして存在する。

 

「危ない所でした。やはり怪我をする前に予防できるのならそれが一番です。

人間が傷つくところは見たくありませんからね」

 

 

 

そのまま何処かに去っていれば良いものの、態々姿を現したホークアイの銃の不発の原因が歩いてやってきた。

 

 

 

「…礼を言おう」

 

彼の胸元に涙を拭く様に顔を押し当てている女性に代わってロイは、シルヴィオに礼を言った。

 

「いえ、どういたしまして。人として当然の事をしただけですが」

 

「そうか、只人には当然の様にできた事では無いと思うがな、一体何をした?」

 

 

シルヴィオは得意げでも何でも無いような表情で答えた。

 

「貴方も似たような事をされるでしょう?

ピンポイントで銃弾を湿らせたというだけの事ですよ。

焔も火薬もどちらも湿り気の前では無能な事には変わりありません。

さて、私の前には怪我人がいるので治療をさせて貰いましょうか」

 

 

彼の後ろから無数に伸びた糸の延長上にある針とメスが一斉に、ロイとホークアイに向かって急加速した。

 

 

 

勿論、その行動は手術の為である。

治療用の錬金術、錬丹術、そして第三の要素(・・・・・)をメスや針を通じて行使しながら手術が行われていく。

そして治療が終わった後、彼らは抱き合ったままグルグル巻きにされていた。

 

「その糸は不燃性なので焼き切るのは難しいでしょう。

無理な抵抗はせずに暫く休んでいてください」

 

 

そして治療が終わった患者を放置して、次の患者の所へと歩みを進めていく。

 

「エンヴィー君、重症ですね。

はい、新しい賢者の石ですよ」

 

最近イシュヴァール人で作った新しい賢者の石をエンヴィーに放り投げて食ませるシルヴィオ。

エンヴィーの身体はみるみると普段の人型を取り戻していた。

 

「助かった。コレで元気百倍ってところだ」

 

 

エンヴィーは、シルヴィオと共に先程シルヴィオが来た方向へ去って行こうとして、

残された人々の方へ向いて、嘲笑うようにでは無く、少しばかり真剣に言い放った。

 

 

「認めたく無かった(・・・・)がよ、このエンヴィーは嫉妬していた。ああ、認めてやるよ人間共。

だが、その何が悪い。俺は『嫉妬』のホムンクルスだ。嫉妬して何の問題がある。

上に立つ者を僻む感情、そこに何の問題がある。

このエンヴィーを殺しきれなかった事を後悔し続けるが良い。二度とこの屈辱を味わうつもりは無いからな。

上に立つ者を貶めて引き摺り下ろしてその上に立つ。『嫉妬』の恐ろしさを逆に味あわせてやるよ。

…さて、ラースの所にでも応援に行ってやろうぜ」

 

 

ロイとリザを巻き付けた糸を解除している兄弟達の方に、

そう真面目に言い放っていたが、横の医師に、

 

「あんまり相手をわざわざ怒らせる必要はありませんよ。皆仲良し、仲良しさんでいけば良いでは無いですか」

 

そう窘められていた。

その事が気まずかったのかどうかは知らないが、

 

「悪いな、少し寄る所がある」

 

そう青年に言い捨てた。

 

「何をするにしても無茶はしてはいけませんよ。後、無暗に人を傷つけないでくださいね。勿論貴方自身も含めてです」

 

 

 

 

「…背中が痒く為る様な事を言うなよ」

 

シルヴィオの忠告に顔を背けたまま答えたエンヴィーは、瞬く間に先程まで横にいた青年の遥か先へと駆けて行った。






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