流血の錬金術師   作:蕎麦饂飩
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造られし者達

正門という正面から堂々と突破した、いや帰還したこの軍事国家の王、キング・ブラッドレイ。

彼は一切の有象無象を蹴散らして、当然の様に執務室(玉座)へと帰って来た。

そこまでの道のりに紅いカーペットをひきながら。

 

執務室に呼びつけた将官達は、彼の帰還に戸惑うばかり、あるいは無責任に賛辞するばかりであった。

ブラッドレイは溜息を吐くとその内の一人であるレイブン中将にこう言った。

 

「喉が渇いた。紅茶はまだかね」

 

 

今も尚、敵対者達は城に帰ったブラッドレイを攻めるべく、攻守が逆転したものの戦闘を繰り広げている。

だというのに、最も命を狙われているはずのブラッドレイは一切気に留めた様子も無かった。

精々、背後の窓越しに狙撃されないように、金属製の屏風を設置するように命じた程度である。

 

レイブンが茶を淹れ終わり、それを飲むブラッドレイ。

その時、扉をノックする音が聞こえた。

敵兵かも知れないとビクビクして警戒する人々を視界の端に、大総統はただ一言、

 

「入れ」

 

と許可を出した。

その扉の向こうから現れたのは黒いドレスの美女。その全身は返り血に染まっていた。

 

「無事の様ね。流石だわ」

 

「君も大したものだ」

 

 

「少々危なかったけど、王子様が助けに来てくれたもの」

 

「そうか、所でその王子様は今何処に?」

 

 

「私が先程までいた場所で、敵味方問わず治療しているわ」

 

「…彼らしいな」

 

 

「でしょう? ところで、彼の部下がお妃様を連れて来てくれたそうよ。

のんびり紅茶を啜る暇が在ったら身だしなみでも整えた方が良いんじゃないかしら?

襟が変に折れているわ、髪も整ってもいないし、全然駄目ね。

まだ覚えているかしら? 異性交遊の鉄則その8、長く付き合った相手にも常にときめきを与える事を怠るべからず。

昔そう教えたわよね、王様」

 

 

そう黒いドレスの美女が告げた後、彼女の後ろからブラッドレイ夫人。

つまり彼が唯一己の意志で手に入れた宝物がやってきた。

ウロボロスの眼など無くても見間違える筈も無い女性が。

 

ブラッドレイは、姉の後ろから歩いてきた女性に手を振った。

 

 

「やあ、ただいま」

「あなた、おかえり」

 

 

やはり、やはりとブラッドレイは思う。

やはりこうでなくては、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

~~◎●◎~~

 

また別の場所では、二人のホムンクルスが相対していた。

一人はエンヴィー。

そしてもう一人は、最初の『お父様』の子、プライド。

 

 

「『お父様』にスロウスとグラトニーが吸収されたそうだ。

用事が済んだから、また別の役目を持たせて造り直すらしいね」

 

「知ってましたよ。ただ『怠惰』と『暴食』が還っただけでしょう?」

 

 

 

「コンセプトを変える為に記憶も何もかも全部ゼロにするそうだ」

 

「ええ、その方が都合がいいでしょうからね」

 

 

 

「それで良いのか。随分と冷たい事を言うね、お兄ちゃん(・・・・・)

 

「余計な事は考えない方が良いですよ」

 

 

 

「プライドは、『お父様』と今の『母親』どちらにつく?

『お父様』の計画が遂行されればその結果はどうなるか解って無い訳じゃ無いだろ?」

 

「………ええ、例外は存在しませんからね」

 

 

 

「今の答えるまでの間、どう説明する?

なあ、プライド。『傲慢』ってのは全て上から俯瞰するから『傲慢』じゃあないのか?」

 

「何が言いたいんですか?」

 

小憎たらしい弟に少々大人げなく本性を覗かせ始める兄、プライド。

最も『お父様』に近いと言われる彼は、その父に似たホムンクルスの本体を滲ませていた。

 

 

「常にNo2の『傲慢』って何だろうなって思っただけさ。特に意味は無い…訳じゃないか。

まあ、実は昔から思ってたんだけどさ、どうしてこのエンヴィーは『嫉妬』なんだろうって。

どうして他者を上から見下ろす完成品(傲慢)じゃなくて、下から妬む立ち位置なんだろうって。

妬んだ。羨んだ。そして未だに『嫉妬』し続けてる」

 

「『強欲』の様に逆らうつもりですか?

反逆者なら処分しなければいけませんね。」

 

 

プライドの殺気の濃度が増していく。

いや、プライド自身が殺気であるかのようにエンヴィーには感じられた。

 

 

「余裕がなくなって来たんじゃないの?

今感じている感情は本当に『傲慢』だけな訳?

『憤怒』では無いと言い切れる?

……こうしよう。勝った方のいう事を聞く。敗者は従う。簡単だろ?」

 

「『強欲』に引き続き、『嫉妬』も失敗作でしたか。

『お父様』に従わぬ反逆者は此処で処分しましょう」

 

 

文字通り空間が歪むほどの悍ましい殺意を被せられて、

尚も何処かの医師の様に冷静なままで、エンヴィーは言葉を止める事は無かった。

 

「処分だとか、そんな恐ろしい言葉は使わないで欲しいな。もっと的確な表現があると思うけど?」

 

「…何だ、言ってみなさい。遺言として聞いてあげましょう、エンヴィー」

 

 

 

 

 

「なあお兄ちゃん、兄弟喧嘩(・・・・)してみない?

――――究極の未完成(嫉妬)、舐めるなよ」








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