流血の錬金術師   作:蕎麦饂飩
<< 前の話 次の話 >>

49 / 52
『人間』の反撃

キング・ブラッドレイ。
彼は複数の意味で『造られた人間』だ。

『造られた』ということ。
それには彼が後天的にホムンクルス『憤怒』になった事も含まれる。
それには彼がその為の人材として育てられてきた事も含まれる。
それには彼がホムンクルスになってからも、『父』のレールに従ってきた事も含まれる。

だが、彼の『人間』という点について説明するなら、
年を取る事や、再生能力や復活が無い事などよりも、
彼自身が一人の女性を愛した事こそその証明になるだろう。
その出会いや人選が仕組まれたものであったとしても、彼が人間の意志として選び抜いたことこそが、何よりの証明である。


ところで、彼が造られたというのなら彼の親は誰になるのか?
その答えの一つは、本来の両親であろうし、
その答えの一つは『お父様』だ。
そして、『お父様』の下についてブラッドレイを育て上げた人間、金歯の医者もまた、『憤怒』の親だと言えよう。
さしずめその医者の役割は『母親』とでも言うべきなのかもしれない。



恐るべき叡智を持つ、人類でも最高峰の錬金術の知識を持つ者、
それが彼、金歯の医者である。この老人は、来たるべき鬨の為に用意していた錬成陣を起動して、
アメストリスの『人柱』を召喚した。


一人はこの時の為にエンヴィーに捕らえさせて、村を人質に『扉』を開かせて、
人々を救う為の両腕を失った義手の医師、マルコー。
彼はその後、村の人々で作られた『賢者の石』を渡されたが、その石を使って腕を復活させる事は無かった。

一人は国家では無く、一つの名家に身を奉げた盲目の錬金術師ジュドウ。
その瞳は、敬愛する主家の一人娘を蘇らせるために失った。

一人は自分自身の肉体からは一切の代償を払う事無く『扉』を通った医師。
彼は最愛の父親を失い、そして正常な善性をも失ってしまった。

後の二人は言うまでも無くエルリック兄弟。




彼らを柱として、今此処にアメストリスを代償とした最大の錬成陣が成り立とうとしていた。
だが、それを阻む者がいた。
その名は、ヴァン・ホーエンハイム。
トリシャ・エルリックの配偶者。つまり――――エルリック兄弟の実の父親である。


最強の力()を取り込もうとする無防備なフラスコの中の小人(お父様)を攻撃。
その攻撃は見事に届くかと思われた。
だが、その『お父様』の受けた直撃はホーエンハイムを欺くためのフェイク。
ホーエンハイムを最も警戒していた『お父様』が、この土壇場での乱入を予知していないわけが無かった。

人柱達を捕らえていた6本目の影で出来た触手を、ホーエンハイムを騙すために本体に見せかけていた。
よって、ホーエンハイムの攻撃はその触手を破壊した代わりに、『お父様』本体のカウンターを許す事になった。

だが、その攻撃は無駄では無く、触手という一部から、フラスコの中の小人に仇為す方向性を持った魂を注入した。
毒は心臓に打ち込まなくても、手足に打ち込んでさえ最後には心臓に回る。
これが本当の逆転の一手。…そのはずだった。

永き刻を過ごしたホムンクルスは遂に、フラスコの外側に出た。
先程まで自分を包んでいた皮を食い破って、卵から生まれたばかりの鳥の雛が最初に殻を食べる様に、その皮を吸い込んだ。
フラスコの外に出たホムンクルスは残念だったなとホーエンハイムを嗤いながら、ホーエンハイムをも新たな人柱とした。


そして『お父様』は天上に大穴を開けた。
解放された空には、太陽を月が隠す日食が進みつつあり、その時(・・・)が迫ってくるのが誰の目にも解った。


だが、ホーエンハイムも手詰まりと言う訳では無かった。
必要な点は5つ。
つまり、人柱で無い囚われの者がこの中に一人存在する。


己のせいで犠牲になった村の人々と、それを実行した存在に怨嗟のを持ちながらも諦観するマルコ―。
こんなやり方は許されるものでは無い。そう抗議しても無駄だと理解しつつも抵抗は行うジュドウ。
そして表情が変えずに、「人類とホムンクルスは共存できるはずです」と『お父様』に話しかけるシルヴィオ。

ホーエンハイムの見立てではこの中の誰かがフェイクだった。
囚われているだけで、人柱には指定されていないと断定した。
己の息子たちは指定されているのは間違いなかった。
誰に似たのか持ち前の正義感に溢れているし、その身自体がホーエンハイムの良い人質になったからだ。


シルヴィオは、真剣にお父様の善性に訴える様な言葉を吐き続ける。
だが、その善性が通用する相手では無かった。相手が悪すぎた。

シルヴィオは、断腸の思いで小さく告げた。
「私は、これから『人間』を己の意志で殺します」

いよいよ、術式が発動するとなった時、シルヴィオはその身を影から解放された。
地に転げ落ちながらも受け身を取って起き上がった。
その傍らには青年の首元にしな垂れかかる『お父様』の娘がいた。


フェイクはシルヴィオでは無かった。
恐らくマルコーかジュドウだったのだろう。よって人柱は五人から四人となり術式は途切れた。
それでも、フェイクを本命に代えれば良いだけの話。

だが、それよりも、今は問いただすべき事が『お父様』にはあった。


「何の積りだ『色欲』(ラスト)

「いやですわお父様。『色欲』に狂って父親よりも一人の男に溺れた。
言葉にすればただそれだけの事なのですから」


『お父様』の娘、ラストは余裕に満ちた顔でそう答えた。







※この小説はログインせずに感想を書き込むことが可能です。ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に
感想を投稿する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。