流血の錬金術師   作:蕎麦饂飩
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実は感想で、タッカーさんが思わず例のセリフを呟きそうな、
勘の良い読者の方々が結構おられたので、驚きました。


今回は無意味なくらいにやり過ぎな描写があるのでご注意ください。
所謂『流血』表現注意です。(タイトル的にも今更かもしれませんが)


イシュヴァール人の家

シルヴィオによって重傷を負わされた傷の男(スカ―)は逃走していた。

次の闘争に備える為に、次の報復に備える為に。

そして、偶然にも逃亡先で出会ったイシュヴァール人の少年の手引きにより、

アメストリスに住まうイシュヴァール人達のスラムに逃げ込んだ時、

自分を心配する同族たちに安堵したのか、そこで彼は意識を手放した。

 

 

スカーは其処の者達に丁寧な看護を受けた。

イシュヴァールにおいては、錬金術を伴わない医術についてはそれなりに進んだ技術が発達しており、

熱心な医療者と、医療にはスキルが無い故に直接かかわれないものの、

食事を作って運んでくれる温かな人々の優しさがスカーの身体を癒していった。

 

 

 

 

 

…それは偶然だった。

偶々、そう、偶々ある程度回復が進んだのでリハビリがてらに少し離れた町中にスカーが移動していた時だった。

 

 

 

 

女性と聞き間違うばかりの美しい声を持った、身なりの良い服装の、仮面をつけた青年が現れた。

 

「始めましてと言えばいいでしょうか。

私は流血。

アメストリスの人々の為に、防疫として害虫駆除をしているものです。

顔に傷があるイシュヴァール人(の血)に導いて貰い此処までやってまいりました。

ですがどうやらここにはいないようですね」

 

 

「お前はっ、『流血』ッ!!」

 

 

仮面の錬金術師『流血』を識る人々はその名前を叫んで立ち上がると、

直ぐに男衆は何かあった時に戦える体制に、女子供老人は退避行動をとり始めた。

イシュヴァール人のコミュニティで今、一番噂になっているのがイシュヴァール人殺しの『流血』の話題であった故に、

彼ら彼女らの行動は極めて早かった。

だが――――――――

 

 

「直ぐに動ける怪我にしたつもりはありませんでしたが、

…きっと医療に長けた者がいたのでしょうね。イシュヴァール人であることが残念でなりません。

どうですか?スカー。貴方(の血液)が彼らの駆除に貢献したのですよ。

そして貴方の腕の入れ墨の技術が、ここで彼らを殺すのです。

つまり…、――これで、貴方にとって、自分を助けてくれた存在を殺すのは、三回目になるのでしょうね?」

 

そう呟いた『流血』が瞬く間に近隣の老人の頭を掴むと、スカーが今までアメストリス人にそうしてきたように、

老人の頭が爆散した。

そしてその中に在った全ての血が上空に吹き出した後、それぞれ(やじり)の形になって、

一斉に周囲の人々に襲い掛かった。

 

そして刺し抜かれた人々の身体からは異常な程の血飛沫が上がり、

その血飛沫をまき散らして干からびた人々の上空には再び、赤黒い鏃が次の標的に差し向けられていた。

 

文字通り血の雨が降るスラムの中を歩きながら、鏃の届かない家屋の中へと迷う事無く『流血』は歩いていった。

 

「昔から、命の気配には敏感な方でしたが、今では特にイシュヴァール人の気配だけは隠れても判る様になりましたよ」

 

そう言いながら、大きな(かめ)の蓋を開ける。

 

「ひぃぃっ」

「助け、助けて…」

 

そこには小さな女の子と男の子を抱きしめる母親らしきイシュヴァール人がいた。

 

 

『流血』はそれを見て、何事も無かったように蓋を閉じた。

『流血』がその家を出た後、甕の底に空いた小さな穴からは、断末魔の悲鳴と共に血と肉と油が混じったような液体が流れていた。

 

 

 

逃がさず殺し、逃がしては見つけて殺し、隠れているものはその遮蔽物越しに殺して回った。

 

『流血』の主観では目の前にいる一匹のイシュヴァール人を除いては、もう既に『流血』の手を逃れた者はいないようだった。

少なくとも、『流血』の主観においては。

 

 

「ところで、顔に傷がある男の居場所は判りますか?」

 

『流血』が何時もの様に丁寧な口調でそう質問したが、その質問を受けた男は、

 

 

 

「仲間を売る様なイシュヴァール人なんか居る訳が無いっ!!」

 

そう叫んで、次の瞬間周囲に忍び寄っていた血の海に包まれた。

 

 

 

「さて、ここの者達は何処へ持っていきましょうか?

…ああ、良い場所がありましたね。

メッセージを置いてそこに出かけましょう」

 

 

血を抜き切った人々の身体に再び血を流入させ、その血液を操る事でハーメルンの笛吹きの様に『流血』は23名(・・・)の人々を連れ去った。

その中には血液に動かされる死体だけでなく、血液の鎖に引き摺られる人々も大勢いた。

()イシュヴァール人の小規模のスラムには、血痕一滴も残らず、ただ冷たい風だけが吹いていた。

 

 

 

 

 

 

 

スカーがスラムに戻ると、そこには誰もいなかった。

 

「誰か、誰かいないのかっ!?」

 

 

そう叫びながらスカーは周囲を探して回ったが、そこには誰もいなかった。

スカーは嫌な予感がして探し回った後、ある家屋の中に入った。

 

そこには手紙を持った少女と少年がいた。

 

二人は手紙を差し出す姿勢で固まったまま動かない。

スカーの読んだその手紙にはこう書いてあった。

 

 

『お手柄ですね、スカ―。

貴方が誘導してくれたおかげで、多くのイシュヴァール人を発見できました。

ひ、ふみ、よ…と数えると25体(・・・)でした。

ご褒美です、在り難く受け取りなさい』

 

丁度スカ―の一歩前の位置に、アメストリス金貨が1枚投げ捨てられていた。

 

 

「金貨1枚…、たった1枚の金貨の為に俺達を裏切ったのか…っ」

 

少年が怨嗟の声を向けた。

 

「…違う」

 

 

 

そして少女にも言葉の石を投げつけられる。

 

 

「お母さんがあなたの医療の主体になってたのにっ」

 

「それは『流血』が――――」

 

 

スカーがそう言いかけた時、少年と少女が突如苦しそうに倒れ込んだ。

このままでは助からないのは解っていたが、スカーには助ける事は出来なかった。

助ける方法が解らなかった。

その結果、少年と少女は息絶えた。

 

 

スカーは金貨を拾い上げて砕き、両腕を空に仰ぐようにして呟いた。

 

「己れには、壊す事しかできない。己れには、復讐しかできない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スカーがそう呟いている頃、

あの建物の中で『流血』は、そろそろスカーがあのスラムであった場所に戻っただろうかと想像しながら昏く笑った。

 

 

 

「私は医者ですから、人体の治し方を良く知っています。

治し方をよく知っているという事は、壊し方も良く知っているという事です。

それと、壊したまま生かすやり方も――――ですね」








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