カツン カツン カツン   作:モアニン

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天に向かって唾を吐け

サムスを先頭に護衛対象の二人を挟んでレディを殿におく。情報共有の上、堅牢にして立ち塞がるものは尽く粉砕できる移動人型要塞であるサムスが露払いとして相応しいと全会一致した故の配置であるが、これは真意を理解できた者にとっては当然ながら建前であることは察していた。レディー、サムス、白衣の女性が立ち上がろうとすると少年ラハットが声をあげた。

 

「ママ、エテコーンとダチョラは?」

 

「あら、見てないの」

 

「さっきまで一緒にいたと思うんだけど・・・」

 

どうして姿を見せないのだろうか。不安がる我が子の様子に女性はこれ程なく自然に、肉親として少年を宥めにかかる。膝を下ろす彼女にレディーが待ったをかける。

 

「待ってくれ、エテコーンとダチョラがいるのか」

 

狼狽する様子に疑問符を浮かべた女性を他所に、少年が間髪いれずに答えた。

 

「そうだよ?お姉さんも知ってるの」

 

「・・・非常に理知的で心優しい動物だったと記憶している。彼等も、ここに?」

 

少年に言葉の全ての意味はわからずとも、レディーの険のとれた語調から偶然に同好の士を見つけた事を感じ、嘗て無いほどに興奮した彼は彼等に関する事柄を矢継ぎ早に喋り始めた。何時話に割って入り止めるべきか閉口していたレディーをみかねた女性が少年の名前を呼ばんとした時――

 

「――でね、あいつ等は危険が分かるんだ。さっきだってそうだった」

 

「待ってくれ、さっきというのは」

 

「ふわふわしたゼリーに可笑しくなっちゃった職員さんに動物さんも他の皆も慌てて何処か行っちゃったんだ。恐かったから、遊んでたエテコーンとダチョラに付いて行ったんだ」

 

「この子を探すときに当たりを付けて此処まで来たけど、酷いもんね。正にパニックホラーだった」

 

息子に続いた女性とレディは何故彼等が姿を見せないか改めて思考する。二人の視線がサムスに向かい、両者の視線がその現象を捉えた。二人の視線が噛み合うとサムスが疑問調に言葉を発した。

 

「彼等は動物の本能としての危機察知力が高いのか?」

 

「恐らく。推測が交じるけど彼等はsr-388の原生生物。何故今まで猛威を振るわなかったか不思議なxもsr-388の原生生物である可能性が多からずはある。エテコーンとダチョラは頑強でも殺傷力の高い武器をその体に備えている訳ではないから、遺伝的要因から凡そあらゆる生物にとって天敵足り得た脅威を知覚するに必要な器官が発達してるんじゃないかしら」

 

レディーが「私が思うに正しい」彼女の論に賛同し、強い語調に軽く驚く女性のソレを補強するために言葉を続けた。

 

「sr-388にいたメトロイドはいわば外来種。星の開拓者達にとって妨げであり十二分に命の脅威足り得たxを駆除するために彼等はメトロイドをその星に放ったんだ」

 

「はぁぁ。xを見なかったのはそういうこと」驚嘆と納得に心地よい溜め息を付いた彼女はふ、と湧いて出た感想ついでに疑問をこぼした。

 

「xの生態は餌に出来る生物の幅を考えると類を見ない程に捕食者として優れているわ。良くもまぁ都合よくメトロイドなんてドンピシャな生物が見つかったわね。それにその開拓者らしい存在も知識にないし・・・」

 

「・・・」

 

気まずげに黙りを決め込むレディーに内心首を傾げた女性は水色に透けたバイザーから覗くことの出来るレディーの視線から理解した。サムスに向いているソレからこれ以上の情報は擬態元(・・・)の経験や記憶に深く根付いている可能性を直感したのだ。

そんな二人の話を傍聴していたサムスとラハットは話題に入って行く気概があろうとなかろうと、完全なるおいてけぼりにあった。サムスが2周も3周も遅れて理解に努めていた所に、彼女の手をラハットが引いた。母親の心情や如何に。彼女の体内に汗腺があれば冷や汗で浸水していただろう。

 

「何言ってるかわかる?」

 

「・・・いや」

 

それを聞くや否や彼は退屈を逃れる為の口実半分、早く脱出する空気を醸していた筈の大人に対する不満半分を理由に喜びを顔一杯に表現してサムスに提案した。

 

「じゃあ僕ら二人(・・)であいつらを探しにいこう?」

 

「・・・エテコーンとダチョラか?」

 

「うん」

 

話に追い付く努力を試みていた彼女は拒む理由はなく、寧ろ展開を進めることの優先度を再認識して了承すると、追い打ちをかけられたラハットの母親が変調の表に出ないことを祈りながら引き留めた。

 

「まって。ママもいく」

 

「もう。急いでよね」

 

自覚はあるからこそのバツの悪い笑みを浮かべて謝罪を口にする母親と息子の気安げでいて、しかし浅くは思えぬ関係性。サムスは具体的にそれを言語化することも、漠と対象が何であるかも理解はしていなかったが、胸に鋭く訪れるじんとした痛み(飢え) を感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

サムスが口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラハット、早く探しに行こう」

 

少年の掌越しから伝わる、仄かで冷ややかでさえあった体温がぎゅっと暖かみを帯びる。あわや心臓が肋骨に頭をぶつけんといったところの少年は、手を強く握ってきた女性への直視が避けられて首を動かすと、彼の母親が到底信じられざる事実に見開いた目をそぼめているのが視界一杯に広がった。彼は羞恥の余り、今や赤く主張する頬を俯いて隠すしかなかった。

一方でサムスとレディーはこの場が妙な空気に包まれている事に気付く。それは親子二人の不可解な反応が出所となっていた。レディーとサムスは互いの表情から現状について不理解なままであることを見て取る。

 

「・・・どういうことだ」

 

「・・・どういうことでしょう」

 

「どういうこともへちまもないわ。とっととエテコーンとダチョラを探しに行く!」

 

白衣の女性が一喝すると、彼女の剣幕におされて一同は疑似熱帯湿潤気候下の森林に足を踏み入れた。

 

「あとアンタらは手を放す!」

 

「は、はいっ」

 

「ぁあぉっ」




恋話は良い、のろけ話も馴れ初めを話すのも一向に構わん。しかし目の前でいちゃつくのだけは止めろ。

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