震える指もそのままに礫と砂利を慎重に掻き分ける。
硬質、無機質で透徹に響き渡り、近付いてくるカウントダウンに私の指先と心の臓から全身に伝播するように血管中に霜が生えていく。
やがて深くひび割れた素肌を覗かせた床が顔を出した。
都合良く穏やかに、とは行かないらしい。
この窮地を脱け出す為の手段、その選択の先の数秒後、脳裏に掠める最悪の未来に機構を変形させたアームキャノンを構えたまま虚空を見詰める。
聳える断崖から突き落とされるならば着水する態勢を整え、少しでも生還率を上げる為に自ら飛び降りるしかない。
意識を引き戻した足音に、私は脳内の引き金にかけた指を滑らした。
今までが嘘のように滑らかに一連の動作を終えて暗がりに着地した私は直ぐ様走る。
その腹積もりだった。
経験とそれに裏打ちされた直感、野に生きる獣以上の鋭敏な感覚が私の足を固く地に縫い付けてしまった、せざるを得なかったのだ。
カツン
カツン
カツン
思考が逃げようと試みる前に体を弾いて忍び足で走らせる。
突破口となるようなものはないのか。
目を走らせる。
余りにも無情な間だった。
この一本路の終着を目の前にして無意識が足にストップをかける。
止まった理由は理解している、なんたって私は――――
自然と俯いて下がった視線の先
足下から貫通してクリアに届く音
ここは例えるなら屋根裏だ。
大量の荷物を置くには不安を覚える――――ソレに、私は躊躇う余裕もなく今出せる最高火力を叩き込む。
床が抜けて落下する。
下の空間は屋根裏と同じくここが行き止まりだった。
ソレを利用する。
空中で壁と垂直になる様体勢を整えた私は壁を蹴り、ブーストを最大出力で瞬間噴かして初速をつける。
痛いほどの静寂に満ちたこの空間に、爆破に加えて砕けた金属片の地に落ちた音は相手をさぞや刺激したことだろう。
当然のことながらこちらを向いてはいるが…この暗闇と距離では何であるかを認識できていない。
速度を殺さず前転するように受け身を取り、そのまま突っ走る。
暗闇に光輝が生まれる。
こちらを認めたのだろう、だがまだだ。
宇宙で輝く青色巨星を中点に、光芒が走る。
光芒一線。
瞬間、私は背中のブーストを再度噴かして海豚の様に跳び、天井と光線の合間を通り抜けた。
掠めるだけで端まで凍り付く。
見るのも飽く程に用いた私だからこそ範囲を見切って真正面からかわせたのだろう。
この時に覚えた緊張感はパラライザー、ハンドガン一丁を携えてスペースパイレーツのシップに単独潜入した時以上のものだった。
緊張の余り修羅場を潜る前に心臓が爆発して果ててしまいそうだ。
続いて回転しながら体を折り畳み、バネの様に縮めた私は両足を揃える。
引き絞られた大腿四頭筋と腓腹筋が擬音の実在を錯覚する程にハッキリと形を変えて隆起する。
天井にほぼ平行の放物線を描いて次弾を砲塔の口から耀かせた敵よりも速く、相手を足裏で撃ち抜いた。
鳥人族の生物としての特徴、遺伝子を組み込まれ、戦士としての訓練を甘受し、一切合切が取り払われ靭やかなゼロスーツと殆ど変わりない今だからこそ出来る蹴撃。
体に沿って強制的に発動したバリアに相手のソレが干渉し、生まれた反発、斥力を障子紙の如く穿つ弩弓。
相手の金属質なスーツが幾重も波が寄せる様に変形し重厚な悲鳴を上げて敵は吹き飛んだ。
反動で空中を漂う間にハッチを二度撃てば、空いた先の空間へと敵は投げ出された。
後を追えば道は続いておらず、相手はこの上下に貫かれた円筒状の空間を落ちていったと推測できた。
私のスーツを着ているのだと弁えていないのなら目を背けるだろう、小さくなっていく音が幾度かした。
切れた緊張の糸を撚り直すのは難しく、もう一つの脅威を思い出した私は足の、障る訴えを無視し、その場を一目散に離脱した。
―――――――――――――――
ナビゲーションルームに着いた私は漸くとばかりに腰を下ろした。
程無くして無愛想な司令が映る。
「行儀が悪いな、レディー?」
「ふん、冗句の下手なヤツめ。知人にウマいのがいるから今度紹介してやる」
「……先の会敵か」
「…そうだ、足がイった」
「…………」
「…………」
「レディー」
「…」
「痛むか」
「当然だ………?」
「……撤退は許可できない」
「…!………そうか」
「何故なら今こちらは襲撃を受けているのだ。電子上で、だがな」
「……!!」
「しかし敵がいれば援軍もいた、存命のスタッフがいるのだ。
君には彼らのいる場所、メインデッキの動物保護区に急行し、治療を受けた然る後、彼らをシップへ護送しろ。」
「だが……」
「昇降機は私と彼らで復旧に当たっている。勿論治療の為の施設もある。保護する動物、彼らと関わる職員の為にだ。危険な生物を管理することもある都合上、設備は整っているそうだ」
「そうか…」
「そして現場へ向かう君の護衛だが……」
「?……まさか!」
「そうだ。彼女を使う、入れ」