カツン カツン カツン   作:モアニン

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これからも恥ずかしい文章を書くんだろうけど見直すとクソ恥ずかしいですね


ばけのかわ

「・・・申し訳ないけど、確約は出来ないわ。でも、用意はある」

 

「・・・お願いします」

 

まるで重いものかの様に唇をゆっくりと上げて彼女は言葉を発した。

レディーを床に寝かせた後は集中のために人を遠ざけて作業を行うとの事で、それは私も例外ではなかった。

遠巻きに最小限だろう多くない道具を詰め込んだリュックサックを傍らに置き、黙考して石のように固まる彼女の前、レディーのスーツに鱗の様な幾何学模様が浮かんだかと思うと一枚一枚が光の粒子になって剥げていった。肩幅が狭まり一回り体躯の小さくなったレディーを見て彼女は驚く。

よし。そう呟いた後、彼女は白く滑らかな肌には浮いて見える青く膨らむ脚を注視して素肌を晒したレディーと会話を始めた。

ぼんやりとレディーの素顔を眺めていると、認識と記()の間に回路が出来上がり、直結した(直感した)

私の顔にそっくりだ・・・

この初めて覚えた感情を持て余していると、こつこつと太股を叩かれた。見下ろすと小さな男の子が此方を見上げていた。

 

「・・・ねぇ、此処にいるとママが怒るよ。こっちに来て」

 

「・・・あ、あぁ」

彼が聞こえないと判断したのか、生物の様子が伺える飼育槽の透けた壁の端の辺りで立ち止まった。

背後にいた私を逐一視界に収めていた彼は私と向き合うと、視線を行き来させ、何度か唇を薄く上げると話し掛けてきた。

 

「・・・おばさん、こわい」

 

「・・・こわい、のか?」

「うん」

 

「・・・」

そうか、恐いのか。生命に極めて危険なxの巣窟と化したこのコロニーを内を誘導するのなら、此方の文言に一々懐疑を持たれては作戦に支障が出る。どうしたら良いのだろう。私の何が恐いのだろう。

答えのでない問題に私が黙っていると男の子が私の遠く背後にいる彼等を指差した。

 

「おばさんも、僕達と同じニンゲンなの?」

 

「・・・そう、だが」

 

「でもニンゲンじゃないみたいだよ?恐いよ」

 

彼の言いたいことが分かってきた。つまり、私もレディーの様にこれ(スーツ)を脱げば良いのだな。

その結論に行き着くと、知識通りにスーツを解除する。

それを見た彼は眼球の形が分かりそうな程に瞼を広げ、血色の良い頬を真っ赤に染めた。

私の手を温かく湿った掌で取った彼は、飼育ケースの出入り口である扉に接近して開けると私をぐんと引っ張った。彼の突然の変化に脳内が忙しなかった私はそれに為されるがままであった。

熱帯を再現した深い緑の中、レディー達の様子が伺えない程に草葉の囲まれた場所に来ると、彼は体を翻して大声を潜めて上げた。

 

「何で裸なの!?」

 

「・・・可笑しな事なのか?」

 

「可笑しいでしょ!?服着てよ!」

そうか、可笑しいのか。そう言えば、殆どの生物は全身の皮膚を外気に晒すが、人間は服を着るものだったか。とは言えど、服なんて物は無いが、スーツの様に着れるのだろうか。でなければ彼の言うことに筋が通らない。

 

「・・・」

 

「・・・」

 

次第に、おもむろに顔を俯けては再び頬を紅潮させた彼が私から背を向けた。

その様を静観しつつも、周りの深い緑から一番に想起されたものが(スーツ)として纏われた。

スーツが現れる際の光に目を細めていた彼は、その落ち着いた後に私を見て疑問を放つ。

 

「お姉さん、軍人なの?」

 

「・・・これも変か?」

 

「・・・ううん。でも意外だなって、髪も短くなってるし」

 

「これはおかしいのか?」

 

「う、ううん。全然可笑しくない・・・」

 

「そうか」

 

「・・・す・・・」

彼の忙しない瞳の動きにやはり何か言いたいことがあるのかと待つも、彼は口を益々固く結んでいくだけで一向に口を開かない。

と思えば、堰を切るかの様に彼は一息に言い切った。

 

「凄く似合ってる!・・・よ・・・」

 

そうか、なら良かった。そう返そうとして思い止まる。違う、私の言いたいことはこれではない。これよりも良い返答をしたい。しかし、それが見つからない。妙だ、今までとは違う。未知を既知に当て嵌める事がすんなりと出来たこれ迄と比べ、知識と感情が自然と結び付くことがない。

私が回答に窮している一方、彼は段々と縮こまっていく。その有り様が私の頭の車輪を噛み合うのを待たずしてからからと勢いを増し、空転させていく。

 

「・・・すまない」

「・・・」

 

「こう言う時はどう返すのが正しいか分からない」

「・・・?」

呆気に取られて数瞬前の感情がすっぽりと抜け落ちた彼は私に問い質してきた。

 

「分からないの?」

 

「・・・すまない」

 

「・・・そう言う時はね―――」

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

女性は医者ではなく研究者だ。相手をしてきたのは複雑な人間ではなく単純な動物である。彼女がこれからどんな治療を施すか、患者の不安を和らげる義務を負わされる事も負うこともなく、よって彼女は短い問診を終えると治療に即座に取り掛かった。

一つ取ってのついたモニタ付きの拳大の機器を取りだし、レディーの患部の僅か上をバーコードを読み取るようにしてそれを上下乱れなく滑らせ、結果を液晶画面から読み取ると女性は間を置かずに再びリュックを漁って茶色の遮光ビンから二ツのカプセルを取りだし、彼女の口に放り込むことはせず、それをあけると中の粉末を患部にかけてガーゼで塗り込む様に押し当てた。

 

「はいお仕舞い」

 

脂汗を滲ませてレディーが質問した。

 

「・・・何をしたのですか、ドクター」

 

「平たく言うと細胞のライフサイクルと早める薬を使ったの。消化とか悠長なこと言ってられないから患部に出来るだけ近い所から摂取させることにしたわ。細胞膜を通過、そして損壊部にしっかり届いてから作用を及ぼす作りだから心配はないはず」

 

一歩間違えればDNAが損壊して(エラー)細胞大発生なんて事になるから免疫力のある若いうちにしか使えないし、テロメアを尋常じゃない速度で縮めるから、子を残す為のか試薬目的の動物相手にしか使われないんだけどね。でも、今は非常事態だから。

そう、女性は締め括ると辺りを見回した。

 

「何処の異星人かと思えばまさか私達と同じ地球人類とはねぇ・・・あの子何処いったの」

 

女性はサムスの正体(怪物)は知らない。だがレディは彼等が狡猾であることも知っている。

とは言え杞憂が杞憂に終わり、サムスが何ら害を及ぼしていないのであれば、これからの勧告は間接的にサムスに自身の正体を悟らせ、無用な混乱と危険を招くことになる。この親子は怪物の脅威を身に染みて分かっているはずなのだ。だからこそ、今は身動きの取れない私を置いてこの女性を行かせる訳にはいかない。レディは逸りながらもソレを押し殺して女性を引き止める。

「ちょっと行ってくるわ」

 

「同行しましょう」

 

どうして戦場に身を置く人間は強靭な肉体を超える程に精神がタフであるのか。しかし、肉体が訴える痛覚を無視するというのは分水嶺を容易に越えうる危険性がある。ここは大人しくして欲しい。呆れた女性は疲れに気遣う様も見せなかった。

 

「…貴女は私達の蜘蛛の糸。命綱に事切られたら困るのよ」

 

「ですがxの隠密性と侵入経路を選ばない踏破性能は貴女も御存知の筈だ。私なら事が起こったとしても貴女達の盾になれる」

 

「それって使い捨てが注釈につくんじゃ…」

 

「違う!」

 

「…どういうこと」

 

苛立ちを覚えた女性はしかし、この施設内をさ迷い、此処へ辿り着いた彼等の生き抜く術が気になった。たかが片手に付いた砲のみで魔窟を跋扈する魑魅魍魎に対処できるわけがない、生物である以上は誰も生存を許されないここを。だが、女性の目の前で上半身を起こした、怜悧でありながら感情の沸騰する様な熱を宿した目の青いスーツの女性はどうしてか、生きている。真っ直ぐで、法螺を吹けない、嘘の下手糞な奴の目。運動する人間らしく嫉妬する程に綺麗な肌をしているが、見た目から推測される齢にして未だこんな目をする人間は初めてかもしれない。女性は珍生物を目にした心地がした。

 

「私のスーツにはxの天敵であるとある生物の遺伝子が組み込まれています。擬態を解いた彼等をこの体に取り込み養分として捕食が可能なのです」

 

「…その生物の名前は?」

 

「…」

 

恐らくは機密だと彼女は察した。この救護者は幸いなことに意思は強いが固くはなく、強靭である筈だ。官僚制に染まった連中特有の硬度しかない冷えきった金属の様な精神性でないのなら、口八丁手八丁で情報を引き出せる可能性はある。積み重ねた経験から直感した女性はレディに説得を試みる。

 

「ここはね、xとその天敵を除けば地獄と相違ないわ。宇宙を航行出来る肉体か手段を手に入れでもしたらあらゆる文明社会と生物が汚染される。地獄があまねく星々に展開されるの。貴女の事については知らないけど私はこの恐慌と脅威の恐ろしさを味わった当事者の一人。だからこそ思う。こんなのは絶対に広めちゃならないの」

 

「…」

 

渋る。レディは渋っていた(・・・・・)。頑として否と一方的に宣言する対応でないのなら、その防壁を崩せる方法は、余地はある。此処は相手の感情と思考を刺激する方向から攻める為に相手の職から推察され、最も統計的に効果的であろう話題を女性は選び出した。

 

「貴女、大事な人を亡くした事はある?」

 

「…」

 

「殺されるわよ、皆。大袈裟じゃなく私はその可能性は十分に有り得ると考えてる」

 

「だがアレは人間の手に負えるほど御しやすく…安全でもない」

 

女性の職場にはそういった生物は幾らでもいる。確かに、機密と称されるのだから並大抵の危険性ではないのだろう。それ故に彼女は反駁する。

 

「だから、だからこそとことん知る必要があるの。火や核分裂反応については知ってる?」

 

「…あ、ああ」

 

「遥か昔から火は多くの人間を死に至らしめ、核分裂反応は大地を焦土に出来る程のエネルギーを有していたの。でもそれ以上に多くの人々の生活を何世紀もの間支えていた」

 

レディーは自身のパワードスーツにスキャンをかける。発信器の類いは当然あるが、盗聴機の類いは見つからないことを確認すると、抵抗はあるものの彼女は自身の考えを主張した(対話に応じた)

 

「…あなたが言う通り、知識や技術は正しく使えば人々の生活を豊かに出来るだろう。しかし、私は膿を出し切ったとしても未だ銀河連邦が信用ならない」

 

「貴女の懸念は最も。知識や技術は用いる人間次第で凶器になるわ。それに完全に善良な人なんて存在しない。聖人だって時代と価値観の変遷に伴って差別主義者呼ばわりされる。でも貴女や私の考えなんて露知らず、誰かは研究を続けるでしょうね」

 

歯痒いものを感じながらも確かにそうだとレディーは奥底で同意した。その理由は銀河連邦に対する負の信頼だけではない。どんな人間にも善悪両方の心があり、どちらの側につき、どう振る舞うか、それがある人間を善良と呼ぶか悪辣と呼ぶかの境目になる。そうである以上善が悪に、悪が善に転向する事はあるだろう。そしてどちらにせよ、彼等が皆一人一人レディーの意見を聞き入れてくれただろうか。自問すると記憶が瞬時に甦る。そんな都合の良いことは今まで起こり得なかった事を改めて彼女は理解した(答えを得た)。今まで理想(・・)までしかを考えてこなかったレディーは、女性の一歩現実へと進んだ考えを内心の感嘆と共に受け入れる。

 

「…」

 

「だからこそカウンターとなる手段が、策が、そして実験が必要なの。火を消すために有効なものとして二酸化炭素があるでしょ?水や土砂はまだしも、それは数多くの検証無くしては判明し得なかった手段の一つであり、そもそもが膨大な積み重ねの上にある知識よ」

 

「…」

 

「だから、教えて。私は知らなくちゃならないの、私と残った大事な人の命を守るために」

 

彼女が子供の頃に故郷は滅ぼされた。その時に両親は、良くしてくれた鳥人族は余さず殺された。その彼女を親と慕った存在は彼女の命を文字通り救い、置き土産を残してその命を散らした。彼女の同僚は彼一人を例外に今や生存の確認出来る者はおらず、彼女が絶対の親愛を寄せていたアダムも彼女の命を繋ぐためにその命を犠牲にした。

長い空白の時間を費やし、震えと涙腺を昇る熱を努めて体の内側に閉じ込め、その震えが口腔を通って空気中に漏れ出さない事を確認、確信した彼女は告げた。

 

「――メトロイドだ」

 

「…アダム・マルコビッチ著のレポートにあった生物のこと?」

 

「あ、ああ。そうだが」

 

意を決した告白をあっさりと既知のものとして受け入れた女性にレディーは驚いた。女性はその分野のエキスパートであり、それを生業としている。電子ライブラリから僅かな設置期間の後に焚書されようと、常に網を能動的に張って論文やらの情報を漁る女性にしてみれば引っ掛かるのは何ら不思議ではなかった。ましてやそれはデータである。複製出来れば銀河連邦から独立した彼女のデータバンクに保存が出来た。

 

「…最近吹き飛んだボトルシップは関係してる?」

 

レディはー戦場に身を置いてきた。分野の全く異なる人間の生態を知らず、想像の欠片もしてこなかった彼女は戦慄する。まさかたった一片の情報から此処まで、と。彼女は内心の焦りと共に又も自問した。情報を渡しすぎたのではないか、と。

「…その通りだが、どうして」

 

「前の職場の同僚が私の異動先と一緒に綺麗さっぱりいなくなったの。研究対象が生物である以上、意思の介在による事故は付いて回る。それに物事を疑い、考える脳味噌が無かったら私は一端の学者にもなれなかった。疑わない、考えないというのは無理なハナシ。呼吸と同じなんだから」

 

女性は幸運であった。銀河連邦上層の首が幾つもすげ変わる未曾有の事態への対処があり、余りにも偏った情報統制と思想操作は宗教の如く発展の弊害を招くと訴えた一派の行動によって彼女個人の特定や追及が免れ得たのだから。更に彼女の身の回りで起きたことが同時期に重なれば関連付けて想像するのは自然だった。

 

「そうか、道理だな…」

 

「これでも論理的思考力には自信があるの。感情(偏見)だけで私を判断してきた男共を席に着かせる為に大分苦労してきたからね」

 

「ふふ…それで、お子さんは良いのか?」

 

女性からのこれ以上の追究を逸らし、事態の確認を急がんと、表面上はそれをやはり隠してレディーは問うた。

 

「そうだった。ラハット、どこー?」

 

「ここだよママ」

衣擦れだけでなく葉の擦れあう音と共に少年とサムスが現れた。未熟の絶頂を他者に晒していた頃の自身の姿、生気を伴う表情を見せる彼女にレディーは驚きの余り言葉を失い、目を剥いた。

 

「・・・綺麗なお姉さんを茂みに連れて何してたの?」

 

何も知らない(・・・・・・)お姉さんに色々教えてたの」

 

意地悪を企む風な口調で質問した女性は隠すべき疚しいことは何もないと胸を張って答えた少年に対し、その場で屈み込んでは彼を抱き止めるように両手を広げて待ち構えた。顔を輝かせて駆け込んできた我が子を彼女は掬い上げた。

 

「偉いわね!流石私の坊や」

 

―――――――――――――――

 

 

我が子の突進の衝撃を逃がすためにくるりと女性が回る。

私は安堵していた。

この様子だと私の姿に化けた妖怪が本性を曝したのでもないらしい、と。

そうして親子愛を鑑賞していた所に、若かりし私に勢いのまま背を向ける女性と私の目が合う。

喜色一杯の声とは裏腹に女性の目に感情は一切宿っていなかった。

その落差と、何を映しているのか理解し得ない瞳に思考の纏まらなかった私の意識は急速に覚醒していった。

同時に、乾きつつある汗に肌寒さを感じていた体は心筋が縮こまる様な冷たさを訴えていた。

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