……ちょっと後悔してます。
え?
第二種目の競技名を聞いた瞬間、かなりの人間が私と同じように反応した。
缶、けり……合戦?
色々と事前に想定はしていた。
想定はしていたが、缶けりじゃなくて、缶けり合戦?
いや、そもそも缶けりという発想そのものがなかった……。
これまで認識していたパターンでは、障害物競走を勝ち上がった40名ほどの人間を、複数の3~4名程度のグループに分けて争わせていた。
最低でも10個のグループを争わせるのに、缶けりは……いや、去年は棒倒しだったな。
あれも、複数のグループで争わせていたから、近い形に……なるのか?
ちなみに、この世界にも缶けりという遊びは存在する。
前世でも比較的有名だった、ドロケイ、もしくはケイドロなんかもある。
各地で呼び名が違うのはお約束だし、ローカルルールが存在するのもお約束。
ちなみに、前世の私の故郷では存在しない遊びだったけどね……大人になって初めて知ったよ。
そもそも、『集団で遊ぶ』って概念がないぐらい田舎だったからなあ。
と、いかんいかん。
想定外過ぎて、少し意識がトリップしていた。
私は頭を振って、集中を取り戻すべく努力した。
『ルールが発表されてから、その把握と4~5名のグループを作るために与えられる時間は15分。なお、3名以下のグループは認めません。グループができなければ、その場で失格とします』
その無慈悲な宣言とともに、ミッドナイトは妖しい笑みを浮かべた。
『強いだけじゃどうにもならないってことがあるのを、教えて、あ・げ・る』
なるほど。
原作でも語られていたように、プロヒーローとしてやっていくには、事務所を開き、『人を使う』ことができなければいけない。
自分の欠点を補う人材を確保する交渉力や、自己分析力が問われる種目ってことか。
うん、そういうことだよね。
1年A組、ぼっち組に対する悪意なんてない……と思いたい。
まあ、その前提で第一種目をああいう戦い方にしたわけだし。
見敵さん、どうしたの?
「缶けりという時点で、たぶん戦力外です、私」
ふむ?
危険を察知できるって、すごい使えそうだけど?
「わかってても捕まえられない、わかってても逃げられない……自分の経験的に、そんな感じです。他人に指示を出すにしても、敵が複数で、一瞬が勝負を分けるとき、私の指示出しはむしろ足を引っ張ります」
ああ、うん……そうなんだ。
でも、グループに入ってください。
創成も、いいか?
「いいよ。どのみち、君が助けてくれなかったら、ここにはいなかったことだし」
と、すると後一人確保すれば、いきなり失格にはならない、と。
『はーい、注目。缶けり合戦のルールを公表するわね。もう一度念を押すけど、グループ結成までの制限時間は15分。その5分後に、競技開始の為の陣地選択と準備。時間は有限、効率的にね』
まず、第一種目の順位に応じたポイントが、各個人に与えられます。
42位を10ポイントとし、10ポイント刻みで1位は420ポイント。
このポイントは、人に半分、『缶』に半分ずつ配分。
つまり、23位200ポイントの生徒は、本人に100ポイント、『缶』に100ポイントが配分されるってことになるわ。
この時点で、周囲がざわめき始めた。
かなりややこしくなりそうなのが、これだけでもわかる。
おそらく、チームとしての『缶』の存在と、捕まえられる『人(捕虜?)』としての存在に、それぞれポイントが分かれるんだろう。
間違いなく、勝敗はポイント制だ。
『はーい、静かに。こうやって突然状況が与えられるなんて、ヒーローじゃなくても、現実社会ではよくあることよ……落ち着け』
ミッドナイトが、びしっと、鞭を振るった。
そしてルール説明が続く。
グループは、それぞれ用意されている陣地を選択し、メンバーの誰かの『缶』を所定の位置にセット。
一度置いた『缶』は、ほかのグループに蹴られる(奪われる)まで、変更不可。
なお、陣地内の物体の移動は可、個性による新たな障害物の設置は認めないが、防御の際に個性を用い、一時的に発生してしまうものは認める。
グループは、それぞれ防御と攻撃に任意で人員を分ける。
なお、ほかのグループの『缶』を一つも蹴る(奪う)ことができなかったグループは失格なので、全員が防御の人員になることは認めない。
敵のグループの陣地に侵入して缶を蹴る(奪う)ことができるのは、攻撃の人員のみ。
同じく、陣地内に侵入してきた敵の攻撃の人員を捕まえられるのは、防御の人員のみ。
奪った缶、捕まえた敵は、それぞれのポイントが『グループ』で配分される。
なお、防御の人員は、自分たちの陣地の外に出ることは認めない。
また、攻撃の人員は、自分たちの陣地内に戻ることを認めない。
陣地に侵入してきた攻撃の人員を捕まえる方法は、指差しによる
指差しの
なお、指差しさえすれば、何人でも
防御の人員は、誰かを指定するまで、セットした缶から一定距離内には近づけない。
一旦
なお、誰かを
つまり、集団による四方八方からの襲撃に対し、指差し状態のままでくるりと一回転してから缶を踏めば、全員捕まったと審判が判定することもあり得る。
うわあ。
鬼の処理能力を飽和させる作戦は全否定ってことね。
『そういうこと。あくまでもこれは駆け引きの勝負』
一度蹴られた(奪われた)缶は取り戻せないし、奪ったグループが使用することも認めない。
最初に保持していた缶をすべて蹴られた(奪われた)グループは、最後の缶を蹴ったグループの流動捕虜になる。
流動捕虜のいるグループの最後の缶をける(奪う)と、グループの人間だけでなく、流動捕虜も手に入れられる。
なお、さっきも言ったけど、ほかのグループの缶をひとつもける(奪う)ことができなかったグループは失格。
捕らえた捕虜によるポイントはもちろん、持ちポイントも全て無効となる。
無効になったポイントが、元の持ち主に戻されることはない。
『……はい、今から15分。グループが作れなくて失格しましたなんてならないように』
ミッドナイトの宣言とともに、掲示板に残り時間が表示された。
……なんだろう、妙に時間がないことを強調してるな。
それより、ルールを把握して、戦略をねらないと、仲間集めもへったくれもない。
というか、なんなの、このえげつないルール。
まず、攻撃に優秀な人間を配置しないと、失格決定。
というか、序盤で缶を奪うことなく攻撃がいなくなると、そのチームは失格決定で、いくら捕虜を捕まえても意味がない。
奪った缶と、捕まえた捕虜は、固定ポイント。
そして、グループを潰したことによる捕虜は、総取り方式。
重要なのは、攻撃の人間は、敵チームの陣地に侵入しない限り、捕まえられないってとこだ。
つまり、攻撃の人間は、堂々とほかのチームの攻撃の人間と話し合いができるってことじゃないか。
序盤は壮絶な様子見合戦になって、複数グループが結託して、特定のグループを潰しにかかるって展開かな。
ん?
んんんん?
奪った缶と捕まえた敵のポイントは、『グループで』配分?
それって、『グループ全体が勝ち上がる』方式じゃないってことになるな。
じゃあ、グループの人間の間でも、順位の上下が発生するってことで……それはつまり、持ちポイント……。
待て。
そもそも、色々と穴が多くないか?
陣地に侵入って、空中ならどうなる?
個性を使った地中からの侵入は?
そういや、原作では1位は10万ポイントとかやってなかったか?
1位が集中攻撃されないルールなんて……。
まずい!
見敵、創成、誰か一人でいい、グループに勧誘してきてくれ。
冗談抜きで、誰でもいい。
早くしないと詰む。
未確認だが、このルール、上位殺しの罠だ。
「上位殺し?」
「罠って……あ、わかりました、いってきます」
見敵が、創成の手を引いて歩き出す。
理由は分からずとも、危険を察知したのか。
さて。
ルールについて質問があります、ミッドナイト。
「質問は認めるけど、貴重な時間は失われるわ?それでいいの?」
ええ、構いません。
というか、こっちのほうが重要だと思います。
私がそう言うと、ミッドナイトが、それはもう、『いい笑顔』を浮かべた。
ああ、そのあたりも計算づくなんだ。
「なら、質問はもっと小さな声で」
と、いうと?
「貴重な時間を消費して得た情報を、無償で他人に渡すことはないわ……今年はヒーロー科の人数が少ないから、いつもとは違う、駆け引きという知的バトルの要素を取り入れてみたの」
うわあ、えげつない……そんな場合じゃないな。
失格者多数の時は、どうやって順位を付けますか?
「第一種目の順位上位者から選ぶわ」
缶を奪われた人間の持ちポイントは……。
「もちろん、減るわよ。誰の缶からセットするか、楽しい話し合いになるわねえ、ふふふ」
全滅すれば関係ないですけどね。
あと、陣地の侵入は、空中と地中はどう判定しますか?
「言ったでしょ。各陣地に配置される、審判の判定によるって」
ひでえ。
ガバガバじゃないですか、このルール。
というか、俺の個性の幻覚を指差しても、審判が
ミッドナイトがニッコリと笑って、小声で囁いた。
「だって、あなたの個性って、缶をけることもできるわよね?何か問題でも?」
……ないです。
それは私以外の個性にも言えることですし、『審判だけを騙せば良い』ってことですよね?
そう言って私が笑うと、ミッドナイトもまた笑う。
たぶん、悪の秘密結社みたいになってる。
とはいえ、これはちょっと、な。
自分だけルールを把握して、勝っても私には意味がない。
その勝ち方では、熱が足りない。
提案します。
今、私に説明した補足を、この場の全員に知らせてください。
「……へぇ?」
これが、ヴィランとの戦いならば、いくらでも泥をかぶる覚悟はあります。
しかし、今日は体育祭です。
私も、子供の頃からテレビでずっと見てきました。
ヒーローに憧れる子供たちに対し、胸を張れる戦い方をしたいと思います。
ヒーローを信じる皆さんに、楽しんでもらえる戦い方をしたいと思います。
私の家族に、友に、そして仲間に対し、誇れる自分でありたいと思います。
「そういう青臭い話はさァ……好み!!!」
あ、はい。
「と、いうか……さっきまでのやりとり、全部カメラに収められてるから。良くも悪くも、雄英の生徒は注目されるからね、油断したらダメよ」
……いや、気づいてましたけど?
当然気づいてましたって。
私の個性は、人を騙す個性。
いわばトリックスターですから。
あ、なんですかその生暖かい笑顔は。
ルール補足。
個性も本人のうちに含まれる。
個性による陣地内の新たな障害物の設置は認めない……地中からの陣地侵入は認めない。
同ポイントの場合、第一種目順位によって上下を決める。
審判の判定について、ビデオジャッジを併用。
さて。
残り5分……なんだけど。
「第一種目の1~3位がそろってるから、集中的に狙われるって敬遠されてます」
「それと、さっき言ってた上位殺しの罠ってどういう意味だい?」
獲得可能な、総ポイントを計算してみろ。
グループだから無理だが、全部で9030ポイントになる。
最終種目に進出する上位16位に残るためのポイントの最大値は幾らになる?
「……約565ポイント、ですね」
まあ、単純計算するとそうなるな。
俺たち3人は、缶を奪われず、失格にならないため一つ缶を奪えば、全員400ポイント以上確保できて、ほぼ上位16位までに入る。
しかし、残りのメンバーはどうだ?
同じグループなのに、『生き残り』と『そうじゃない』メンツに分裂しやすいんだ、このルール。
様子見から始まるかなと思ったけど、最初っから壮絶なつぶしあいになる。
そして、高ポイントで、固定ポイントになる俺たちの缶は、集中的に狙われる。
「……あぁ」
「そういう意味でも、1~3位が集まってますもんね、ここ」
その上、俺たちのグループが潰れたあとも、潰したグループが狙われる。
でも、そうやって順々に潰されるなんてことにはならず、強者と弱者に分かれる。
持ち点なしの失格者が増えたら、第一種目の順位で順位が決まる。
つまり、私たちは……競技に参加させず、ここで失格にさせたほうが都合の良い連中が多い。
「……詰んでる?」
「いえ、こういう時は、必ず余り者が出てくるはずです」
ふむ。
少しアピールしてみるか。
個性を使って。
ただ歩く。
1人が2人。
2人が4人。
同じ動きの4人の『私』が、それぞれ別の行動をとり始める。
1人は踊る。
1人は歌う。
残るふたりは、組手。
パン、と手を打つと、その場に残るは私1人。
さあ、私と戦いたいか?
私とともに戦いたいか?
今日はお祭りだ。
戦う前から逃げるなんて野暮な真似はやめてくれよ。
次の種目のために、私をよく知るという選択肢もありだと思うが?
「カカカカ!」
奇妙な笑い声を上げながら近づいてきた少年が、ニヤリと笑う。
「よう、それはつまり……俺を勝ち残らせるぐらい、ポイントを稼ぐつもりってことでいいのか?」
ああ、実はこっそりとパーフェクトゲームを狙っているのさ。
難しいだけにやりがいがあると思ってね。
「いいね。実は、この手の競技は苦手でな、どうしようかと悩んでた。よろしく頼まぁ」
差し出された手を握る。
ゴツゴツとした……見た目は骨ばっているのに、手のひらは柔かい?
私は幻夢だ、幻夢空。
「おう、俺は響、
なんでもできる必要はないさ。
いろんな人間がいるから作戦を立てる意味がある。
その上で、出来ることを確実にやる。
それで負けたら、作戦を立てた奴のせいにすればいい。
「カカカ、助かるぜ。同じB組の奴らはよ、この種目じゃ、俺は役に立たないと判断しちまってんだ……そんな俺を、活躍させてくれるのかい?」
全力を尽くそう。
じゃあ、ほかの仲間を紹介しようか。
「ほう、俺の個性について確認しないのか?」
ああ、見たからね。
湿地帯で、『声』を使ってルートを探していただろう?
もちろん、ほかの使い道もありそうだが、紹介が先だ。
それから説明してくれれば一度ですむ。
さあ、メンバーは揃った。
ようやく作戦が立てられる上に、B組の生徒の情報も得られる。
悪くはない。
陣地は、半径20メートルほどの円。
そんな陣地を10個抱えるフィールドだから、かなり広い。
5人のグループが2つ、4人のグループが8つ、全部で10のグループだ。
ちなみに、グループが組めなくての失格者は出なかった……みんな、コミュスキル高いな。
響がいうには、B組の人間はほぼB組だけで集まったようだ……まあ、私のグループみたいに、全員ばらばらのほうが珍しいんだろうけど。
おっと、そして陣地の中央に、半径5メートルほどの円があって、その中央に缶をセットする。
つまり、防御の人間は
発見および、
陣地内には、いくつかのドラム缶や木箱が積まれていて……それを障害物として侵入ルートを狭くしたりするのもありなんだろうが、私たちは死角を作らないことを重視した。
私たちのグループにはただでさえ、危険レーダーの見敵がいる。
むしろ、安心感は余計だろう。
最初に言っておく、あくまでも、『死角がないように見える』スタイルだ。
そして響の個性。
声、というか振動だ。
その影響か、とても耳がいい……敵の話し合いを、こっそり聞けるのはでかい。
正直、B組の人間は、見る目がない。
響の個性を使えば、相手の平衡感覚を狂わせることだってできるだろうに。
耳をふさぐ?
1対1の戦いなら、それも有効かもしれないけどね。
攻撃は私1人。
残りの3人は防御。
言ってはなんだが、この種目……私に向いている。
ああ、最初にセットするのは私の缶でよろしく。
「いいんですか?」
そのぐらいのリスクは負わないとね。
「別のグループと共闘できたら、防御も楽なのに」
というと?
「わざと、共闘グループの攻撃人員の一人に、陣地内に少しだけ入ってもらうんだよ。そして、それを
……その発想はなかった。
すごいな、創成。
「……誰でも考えると思うよ?」
創成は、参謀に向いていると思う。
見敵の危険察知は言うまでもなく、響の声の個性も曲者だ。
敵の存在を察知するという意味では、トップクラスのグループだろう。
問題は、速度によるゴリ押しでこられた場合。
侵入者を察知。
指定。
缶までの5メートルを移動、踏む。
この間に、侵入者が20メートル移動できる速度を持っていたら、対応できないことになる。
それを告げたら、創成は恐ろしいことを口にした。
そうか、その手があったか。
うん、やはり美人の笑顔は恐ろしい。
今、私は本気で安心している。
創成を敵に回さなくてよかったと。
ルールって、文字にすると結構な量になりますね。(実感)
大学生の頃、仲間と缶けりをしたらものすごく白熱した思い出があります。
子供の遊びのルールは、大人の身体能力が考慮されてないのがよくわかりました。
あれは、ひどい。
誤字報告感謝です。