ふむ。
やはりエリアが広いせいか、原作の騎馬戦と違って、観客も大変そうだ。
全員が集う戦いではなく、あちこちに分散しての戦いになると、何処を見ればいいか迷うだろうし、解説も大変だろう……解説か、利用できるかな。
さあ、開始だ。
なめてかかるわけじゃないけど、失格回避だけは早めにしとこうか。
敵陣地のエリア外で、じっと防御の隙をうかがう。
当然、相手もこちらを見る。
個性を仕掛けたと判断されると
『早くも缶が宙に舞った!!スピードスターの登場だぁ!!』
隙あり。
『ビッグマウスは伊達じゃない!!続いて缶を蹴り上げたのはあの男ぉ!!』
うん、やっぱり解説に意識を持っていかれる選手はいるな。
……そして、次の缶をセットするまでは手出し(陣地への侵入)無用、と。
なるほど、なるほど、とルールや感覚を確かめるように、私たちのグループの陣地の周囲をうろついていたら、響から聞いていたB組の要注意人物が絡んできた。
さっき、先制のポイントを奪ったのも彼だろう。
「おい、ぼっち野郎。スピードなら絶対に負けねえぞ」
ああ、響から聞いてるよ。
50メートル1.5秒なんだって。
さすがにそれは勝負にならないな。
……スピード勝負ならね。
「ほう、面白え……だったら、早々と退場させてやらあ」
忠告しておく。
『私たちの陣地を狙うのはやめたほうが良い』
「……速さこそが最強なんだよ。確かに連発はできない個性だが、安全地帯がある時点で、俺に負けはねえ」
彼は、陣地ギリギリでクラウンチングスタートの構えを取った。
50メートルを1.5秒ってことは、スタートしてから20メートル先の缶を蹴るまでわずか0.6秒だ。
その時間で、
まあ、彼と缶を結ぶ直線上に立って、方向転換を強いるぐらいの抵抗は可能だが。
もう一度忠告しておく。
『私たちの陣地を狙うのはやめたほうが良い』
私のそれは挑発と思われたのか、唇を歪め、彼の個性が発動した。
速い。
単純に時速120キロ……野球のボールみたいなもんだ。
創成の脇をすり抜けて缶を蹴り飛ばし……その勢いのまま20メートル以上滑りながらようやく停止して、私に振り返って右手を突き上げる。
うん、だからやめたほうが良いって言ったのに。
得意そうに背を向けている彼を
「ポコペン」
『イレイザー、あれ反則じゃないのか?』
『攻撃の人員が陣地内に戻ることは認められていない。これは、個性に関しても言える……が、陣地の外に個性を発動させるのは問題ないな』
さあ、みんなに分かるように脅しをかけておくか。
私たちのグループの陣地が、ひょいひょいと位置をずらすのを見て……選手が騒ぎ出す。
「「「「「キタネエ!!」」」」」
そして、創成がにっこり笑う。
「そんなに褒められると、ボク、照れるなあ」
うん、隙あり。
よそ見をしていたグループの缶を、蹴り飛ばした。
さっきのスピードスターの彼には及ばなくても、私の50メートル走は個性の力を借りることなく5秒台を叩き出す。
3秒あれば、確実に缶までたどり着くんだ。
集中すれば3秒は長い。
でも、集中してなければ、3秒なんて一瞬さ……こんなふうにね。
その上、私には個性がある。
今、みんなが見てる『私』は、本当に私かな?
気づいたときにはもう遅い。
本当の私じゃないかもと思っても、目を離せない。
相手の心に『もしも』がある限り、騙しは成立するんだ。
『私』が本物だったなら、目を離せばやられるってね。
1対1じゃない、複数による混戦、乱戦の場においてこそ、私の個性は輝きを放つ。
そら。
『私』ではない本体の私が、別のグループの缶を蹴り飛ばす。
蹴り飛ばした瞬間、私は個性を使って新たな『私』を作り出す。
みんなが見ていた『私』を走らせる。
混乱が動揺を呼ぶ。
動揺はさらなる混乱を呼ぶ。
逃さないよ。
さらに別のグループからもう一つ。
陣地から陣地への移動だけはごまかせない。
だからここで一息つこう。
みんなに考える時間を与えよう。
今起こったことを、理解してくれ。
頭の中で考えてくれ。
恐れや、不安は、心に傷を作る。
私の個性は、そんな心の傷に忍び込む。
ヒーローらしくないと思うかな?
でも、人を笑顔にするためにはどうすればいい?
どんな時に人が笑顔を失うかを知るべきだと私は思う。
医者は、人の体の治し方を知っている。
でもそれ以上に、壊し方を知っている……私はそう思う。
ヒーローはなによりも人を知るべきだ。
さてと……これで缶が4個か。
さっきのスピード自慢の彼を捕まえてるから、固定のポイントが5つか。
期待値で言うなら500ポイントぐらいかな。
響を勝ち残らせるためには、グループ4人で分けるから1500ポイントぐらい取れば確実なんだろうけど……?
まあ、さすがにこの先は、そんなに上手くはいかないだろう。
「創成さん、『ポコペン』ってなんですか?」
「え?缶けりの鬼の、掛け声だよ?」
「あ?『ケント』じゃねえの?」
「わ、私の地元では単純に『アウト』でしたけど」
『ちなみに俺は、『ダーン』だったぜ、イレイザーは?』
『無駄口たたいてないで、解説しろ』
『こいつはシヴィー!!』
さて困った。
なぜかというと、ほかのグループの攻撃人員に、囲まれているからだ。
攻撃人員を2名以上出しているグループが結託して、私を封じ込めにかかった。
私の周りに4人。
ご丁寧に手をつないで囲んでくれている。
脅しが効きすぎたかもしれない。
ただ、選手間の妨害は認める(個性含む)が、攻撃(大きな怪我をさせるような行為)は認められていない……というか、反則じゃないのか、これ?
ミッドナイト先生は、いい笑顔で、親指を立てるだけ。
まあ、子供の遊びではこういうことはざらにあったけどなあ。
どうしよう?
もちろん、自分たちの陣地の防御というか目くらましには何の問題もないのだけれど。
状況が動くまで、少しお休みかな。
しかし、この缶けりのルール……なかなか面白い。
競技が開始されてから出来た駆け引きとしてはこんなものがある。
防御の人員は、
攻撃の人員が陣地内に一歩踏み込んだ瞬間、防御側が
これによって、
うん、単純に見物に回ると、この攻撃側と防御側の駆け引きが面白い。
当然防御側も対応に回って、別の人間がそれに対処する。
すると、防御側に偏りが発生して、隙を窺っていたハイエナが缶を蹴りあげるのだ。
これを発展させると、1人か2人がおとりになって、
もちろん、攻撃側が複数のグループと手を組めれば……だけどね。
この作戦には穴がある。
缶をけるのは一人だけ。
つまり、作戦に参加したグループで、利益が得られるのは1つのグループだけになる。
共闘が容易く成立するとは思えない。
うん、そう思ってたんだが。
さっき、私のグループの、私の缶が蹴り飛ばされた。
私たちのグループを潰すという『利益』が一致したのかもしれない。
いや、個性を発動していなかったわけじゃない。
つまり、毒ガスに対するカナリア作戦をやられた。
誰かが、じりじりと陣地の方向へと近づいていき、ほかの人間が別の方向から同じように近づく。
私の個性は、陣地内には使えない。
陣地内に侵入すると、私の個性からは解放されるということだ。
私の個性じゃなく、防御の動きを逆手に取られた。
それに気づいた選手がひたすら反復横跳びを開始、創成の動きを確認してから、残りの人間が全員でバンザイアタックさ。
そのうち2人が、運良く缶のある方向に向かってダッシュできた。
1人は、響が個性を使って転ばせたが……創成も、見敵も、最後の一人に対応できなかったという感じだ。
一応説明しておくと、私の個性で『不特定多数の人間に同じ幻を見せる』のはそんなに難しくない。
ただし、『対象者それぞれに別の幻を見せる』のは、ちょっと私の処理速度がおぼつかなくなる。
つまり、私たちの陣地に近づく人間に、それぞれ別の騙し方をしていたぶん、甘くなったかもしれない。
ここまで広範囲に手を組まれると、さすがに厳しいな。
ああ、創成が『素敵な』笑みを浮かべている。
響も、いい笑顔だ。
うん、見敵がちょっとおろおろしてるのを見ると、和むな。
響の笑顔もそうだが、創成が怖いから、私もこの4人をどうにかしよう。
前後左右、ジャンプやしゃがむ動きを繰り返したあと、いきなり動きを止めて腕組みして仁王立ち。
「へへ、逃がさねえぞ」
「頭を使って、仲間と手を組めって、自分で言ったことだよな」
「……許せ」
「……?」
『ついに包囲網から抜け出したその勢いで、缶をゲットだ!!1年A組、幻夢空!!』
「え?」
「っ!?」
「……?」
「はぁ?」
「やられた!こいつは幻覚だ!」
疑心暗鬼が人を殺す。
『5人目』の声で、4人の包囲網が崩れた。
もう遅い。
4人の『私』がフィールドを駆けてゆく。
ああ、カメラロボに一言残しておこう。
悪いな、そいつは『幻聴』だ。
『なんか知らんが利用されまくってる気がするぜ! イレイザー、担任としてどうなんだよ、アレ!?』
『ルール上、問題はないな』
さあ、特に狙いを決めず、ただ走り回る。
それだけで、混乱が広がる。
混乱は私の武器で、味方だ。
おっと、さっき振り切った1人が、『私』を追いかけている。
いいのか?
周りを見ないと……。
「ポコペン」
陣地のそばを走り抜けながら、『私』は、缶を踏んだ創成に、そして『私の声を拾った』響に対して親指を立てて見せた。
距離の限界があるとは言え、攻撃の人員と防御の人員の間で連絡が取り合えるのは大きい。
さあ、包囲網は崩れたぞ。
私は動きを止めて、フィールド内に言葉を撒き散らす。
残り時間はそんなにないぞ?
手を組んで私たちを潰している間に、失格にならないといいな。
混戦から、乱戦に。
いい感じだ。
こういう状況になるほど、私の個性は生きる。
視界の片隅で缶が飛ぶ。
あれは、『個性』か?
土の塊、もしくは石のようなもので、缶を射撃。
審判の判定は……問題なしか。
いや、むしろなぜ今まで目立った活躍がなかった?
回数制限か?
もしくは、射線が確保できないとダメ、か?
陣地内に侵入すると、普通は正面に防御が位置取るからな。
別の『私』を見ていたグループの缶を蹴り飛ばした。
『ここで脇谷グループがすべての缶を失ったァ!!幻夢グループが、捕虜による大量ポイントゲット!!』
しまった。
あのグループの最後の缶だったのか。
また集中攻撃されかねないか。
『イレイザー!!あれ、反則じゃねえのかよ!?』
『あれは、個性じゃなく、道具だろ』
解説の声に、ふと予感を覚えてそちらを見た。
いい笑顔をした創成と響が、そこにいた。
そして、ワイヤーかなんかで足首をくくられて宙吊りになっている生贄が2人。
ああ、うん。
ドラム缶とか木箱の位置とか変わってるね。
見敵さんが、すごく遠い目をしているなあ。
どこを見てるんだろう。
混戦から乱戦、その時期は終わりつつあった。
強者による蹂躙の時間。
結局私は、3つのグループにとどめを刺した。
そして私のグループは、一発逆転を狙った連中に集中攻撃を浴び、数人の生贄が新たに宙吊りにされたものの、創成の缶を奪われてしまった。
しかし、グループが潰れていくことで攻撃の人員が減少し、そうした集中攻撃そのものが崩壊したので、生き残ることができた。
グループを潰したことによる捕虜ポイントはそのまま有効になるし、奪った缶と、撃退した捕虜のポイントは当然加算される。
奪った缶が10個。(私と創成が、缶を失っている)
捕まえた捕虜が6人。
グループ潰しの捕虜が10人……これは、攻撃の人員として、グループが潰される前によそのグループに捕まったメンバーがいるからだ。
まあ、最後まで生き残ったグループが私たちを含めて3つだ。
上位16名に入るのは間違いない。
ただ、そうなると……。
こうなる。
『第二種目トップは!! 三つ編みがノスタルジー!! 経営科の見敵知子ぉぉぉ!!!』
「まあ、幻夢とボクは、缶を奪われちゃったからね……グループの得点は、公平配分だし」
「カカカ、感謝するぜ。ヒーロー科の人間としては、やっぱり決勝種目まで残ってアピールしたいからなあ」
ちなみに、創成が2位で私が3位だ。
響は7位。
私と響のポイント差が、200ポイントほどなので、生き残ったグループはわりと混戦だったのがわかるだろう。
ほら、見敵。
オロオロしてないで、田舎のお婆ちゃんに元気な姿を見せてやりな。
「あ、あ、は、はい!」
見敵さんが、周囲のカメラロボに向かって手を振る。
うーん、癒し枠だなあ。
ただ、さすがに見敵の身体能力で最終種目は辛いだろうな。
なんだかんだ言っても、B組の生徒の勝ち上がりが多い。
順当といえば順当と言えるんだろうけど。
私は、創成を見た。
「なに?ボクの顔に見とれちゃった?」
いや、美人であることは間違いないし、見とれても不思議はないけどね。
今のはそうじゃない。
さっきの種目、創成が敵に回っていたらもっと苦戦しただろうなと思ってさ。
「うーん、幻夢に対抗するには……やはり連合かな。あの封じ込めそのものは悪くない戦略だったと思うけど、最後まで手をとりあえたかというと疑問だね」
創成はサポート科だが、戦略に関してはかなり上位の立場の気がする。
相手の持ち味を殺し、自分の優位を有効に使う。
さっきの缶けり合戦だって、やりようによっては、普通科も、サポート科も、経営科も、勝負には持ち込めたと思うんだよなあ。
おそらく、個性を有効活用できなかった生徒もいるんじゃないかな。
そういう意味では『個性を使う訓練をする』ヒーロー科の人間にアドヴァンテージがあるってことなのか。
私も、子供の頃からバレない範囲で個性とか使いまくってたからなあ。
まあ、何はともあれ、最後の舞台に立つ資格を得た。
ふむ、私の個性の欠点がどうでるか……。
最終競技まで時間があるから、また少し考えるか。
「ところでさ、幻夢の……1年A組の応援合戦とか、どうするの?」
……え?
そういえば、あったなあ、そんなの。
あんまりルールの意味がなかった……。
「創成さん、『ポコペン』ってなんですか?」
「え?缶けりの鬼の、掛け声だよ?」
「あ?『ケント』じゃねえの?」
「わ、私の地元では単純に『アウト』でしたけど」
ここのセリフ、名前はともかく、大学時代のそれをそのまんま使ってます。(笑)