ヒーローの卵として。   作:高任斎

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ひとりぼっちの応援合戦……想像しただけで泣きそう。


7:昼休憩を挟んで、最終種目へ。

「幻夢、お願い」

 

 任せろ。

 

 

 チアリーダーの創成が、勢いよく飛び出す。

 創成のクラスの綺麗どころが、飛ぶ、跳ねる。

 男子連中が、様々な道具を使って盛り上げる。

 

 そして私が、音楽担当だ。

 もちろん、個性を使って、ね。

 

 

 原作では分からなかったが、体育祭の種目は、ある意味ヒーロー科の生徒のためにある。

 なら、普通科、サポート科、経営科の生徒たちはどこで盛り上がるか?

 もちろん、敗退した生徒たちの参加するレクリエーション競技や、クラス対抗応援合戦などだ。

 

 待って!

 ヒーロー科以外の生徒たちのフォークダンスってなんだ!?

 聞けば、私たちが戦闘訓練や災害救助訓練をやってる間に、ほかのクラスの生徒達は、合同練習の時間があったそうだ。

 なんか、これを知ったら、血涙流しそうな原作キャラがいるなあ、おい。

 

 というか、体育祭実行委員なんかも存在するし、このために計画を練り、分担を決め、夜遅くまで居残りして体育祭のための飾りつけを準備するなど……学生生活を満喫しているんだなあと、ほんの少しだけ羨ましく思った。

 

 

 私も含めて、ヒーロー科の生徒は何かを得るかわりに、何かを失っているのだろう。

 差別とは言うまい。

 ヒーローの卵としての、義務と思おう。

 

 

 

 

「ありがとう、幻夢。助かったよ」

「ありがとうございます」

「最終種目でも頑張ってくださいね」

 

 創成のクラスのチアに囲まれる。

 鼻の下が伸びないように、個性発動。

 うん、男は悲しい生き物だ。

 

「幻夢さぁーん」

 

 おっと、見敵か。

 今行く。

 

 見敵のクラスは、応援団風で決めるはずだったらしいが……手違いで衣装の数が足りないらしい。

 任せろ。

 そういうことなら、私の個性は超便利だ。

 

 

 チアの華やかさもいいけど、こういう学ランで揃えた応援団も格好いいよな。

 

 

「ありがとうございます、幻夢さん」

「すまん、助かったよ」

「サンキューな、最終種目頑張れよ」

 

 などと見敵のいる経営科のクラスの連中に囲まれていると、背後から声をかけられた。

 

「すまない、幻夢君。ぶしつけな頼みになるが、手を貸してもらえないか?」

 

 そんな流れで、普通科のクラスのマーチングバンドの演出を手伝ったりもした。

 

 

 

 

 うん、知り合いが増えるって楽しいなあ。

 

 

 

 

 さて、1年A組の応援合戦は……少しだけ悩んだ。

『みんな』を出すか出さないか。

 ただ、傷をえぐるだけになるかもしれない。

 だからこれは、ただの私のエゴだ。

 みんなと、1年A組、全員の、応援合戦だ。

 

 応援の演目には、剣舞を選んだ。

 6人でラインを3つ作り、2人のリーダを中心に、剣を片手に踊りながらすれ違っていく。

 小さい頃からの個性の練習で、こういうのは得意だ。

 

 言葉を少し交わしただけの仲間がいる。

 言葉を交わし、握手を交わしたふたりがいる。

 顔だけしか覚えていない仲間がいる。

 

 ああ、やはりこれはエゴだなと思う。

 私は、どうしようもない自己中だ。

 

 ラスト、みんなが輪になって、高く、剣を掲げる……そう、高くだ。

 

 観客からの拍手を浴びながら、私は半分ほどの後悔と、半分ほどの満足を感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……また、個性の反動か?」

 

 反動というより、自己嫌悪ですね。

 自分のエゴで誰かを傷つけるなら、これはもう、ヒーローの卵以前に、人としてもどうかって話じゃないですか。

 

 トイレの個室。

 相澤先生の声が響く。

 

「連中がみてるとも限らんだろ」

 

 見ますよ。

 ヒーローに憧れた人間が。

 子供の頃から、ヒーローを夢見ていた人間が。

 この体育祭を、見ないなんてことはないです。

 

 ……ヒーローを夢見る人間にとって、雄英にはそれだけの重みがありますから。

 

 憧れとか夢って、ヒーローとして甘いですかね?

 

「甘いな」

 

 ですよね。

 

「……ヒーローといっても、ただ感謝されるだけとは限らん。恨みや、罵声を浴びせられることもある。犯罪者の身内にとっては、ヒーローはある意味絶望の使者になることもある」

 

 言葉としては理解できます。

 

「合理的であることを目指すことと、合理的であることは違う……悩むぐらいなら一人でも多く救え。一人でも多くの人を笑顔にしろ。その先に……お前の目指す、ヒーローの姿があるかもな」

 

 ……ありがとうございます。

 

「……遅れるなよ」

 

 相澤先生の言葉に対し、私はもう一度繰り返した。

 

 ありがとうございます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 セメントス先生の個性によって、バトルステージが出来上がっていく。

 

 最終種目は、原作と同じく個性ありのガチバトルだ。

 上位16名。

 ヒーロー科の、A組から、私。

 B組から、響を含めて12人。

 サポート科から、創成。

 経営科から、見敵。

 そして普通科から、1人。

 

 前世の記憶の、高校ラグビーの地方予選におけるシード制についてもめたことを思い出した。

 

 同じ高校生なのにシード校なんて不要、みんな平等にやれ……という意見。

 それは確かに間違ってはいないが、現実が見えていない。

 週に2、3回の練習しかしないチームの選手と、全国大会優勝を目指すチームの選手が、真正面から物理的にぶつかり合ったらどんな大惨事になるか。

 シード制をなくすってことは、1回戦でそういう組み合わせが起こりうるってことになる。

 野球なら、悲惨なスコアになるかもしれないが、ケガ人が出る可能性は少ない。

 同じスポーツでも、接触があるなしで変わってくる。

 

 

 ガチバトルにおいて、ヒーロー科の生徒と、それ以外の生徒が戦うってことは……そういうことを意味する。

 

 ほんの少しだけ、開会式の選手宣誓を後悔した。

 治療担当のリカバリーガールが控えているとはいえ……私の発言は、軽率だったのかもしれない。

 

 

 

 大丈夫か、見敵?

 

「ステージに向かおうとすると、転んじゃいます」

 

 彼女の個性は、『危険を察知する』ことだ。

 つまり、彼女の本能が……試合そのものを危険と認識してるってわけで。

 

 護身完了か。

 

「え?」

 

 敵がこう殴りかかってきたらこう受けるとか、こう反撃するとかは、護身術の達人に言わせると、下の下らしい。

 本当の護身とは、『危険に近づかない』こと。

 危険を察知し、それに近づかない。

 見敵は、護身の高みを極めつつあるんじゃないかと。

 

「か、勝ち残ったということは、負けた人に対して責任を取らなければいけないと思うんです……だから、私は……あの舞台に、立ちます」

 

 プルプルと震えながら、見敵が歩き出す。

 ステージに向かって。

 

 

 なあ、笑うんじゃないぞ。

 彼女は今、ヒーローだ。

 それを、誰にも否定はさせない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、第2試合はB組の生徒同士の戦いか。

 お互いに手の内はわかってる組み合わせなんだろうけど、1人は珍しい個性の持ち主だ。

 数本のロープが身体の周りで回転し続ける。

 

「あいつなあ、『ロープは友達』とか言って、日常生活から身体をロープで……」

 

 おけ。

 それ以上はいけない。

 

 響の解説をストップさせた。

 ある意味、18禁ヒーローの系譜を継ぐ者かも知れない。

 

 いや、強いんだ。

 自分の周囲を守る防御のロープと、蛇のように飛びかかるロープが攻撃。

 攻守を兼ね備えた……兼ね備えてるよね……。

 

 足首をロープで捕まえられた瞬間、女子生徒が即ギブアップ。

 

 うん、賢明な判断だったと思う。

 ただ一言。

 女子生徒にとって、いろんな意味で相手が悪かった。

 

 

 

 

 さて、次は私の出番だ。

 相手は普通科の生徒なんだが……第二種目で、土の塊というか、石のようなもので缶を狙撃してた彼だ。

 回数制限か、射線の問題か。

 

 それとも、『個性を隠しておきたかった』か?

 だとすれば、かなりクレバーな性格だ。

 威力もあの通りとは限らない。

 

 油断はしない。

 

 

 

 

 低く、構えた。

 私は、これといった得意の構えを持たない。

 選択肢を広げるために、いろんなことができるように鍛えてきたつもりだ。

 個性を使う戦いが目立つこの世界、レスリングスタイルはほぼ見かけない。

 射撃の的を小さくするという意味と、相手の戸惑い、そして相手の個性の発動条件を探るためなど、いろんな意味がある。

 ゆっくりと圧力をかけていくと、相手が、左へ、回り始めた。

 まだ、個性を使ってこない。

 一歩、また一歩。

 相手の移動範囲を削っていく。

 

 コーナーに追い詰めた。

 油断はしない。

 コーナーに追い詰められたのは私も同じだ。

 相手に対して回り込むことができない。

 つまり、まっすぐ向かっていくしかない、この瞬間か!

 

 身体を右に傾けた私の頬を、何かが2つ掠めていった。

 

 構わず踏み込み、左腕を叩きつける。

 傾いだ相手の身体に、右手を下から突きあげた。

 浮いた身体を、そのまま場外へと投げ出す。

 

 

 

 

「また、渋い勝ち方してんな」

 

 手の内はあまり晒すつもりがないからな、響のように。

 

「カカカ、違いねえ!」

 

 

 

 第6試合で、響が登場した。

 相手はB組の生徒だが……うん、響が勝つな。

 相手の表情に覇気が見えない。

 

 試合開始前から、響が大きく息を吸う。

 開始と同時に、相手が耳を塞いで突進して蹴りを放つ。

 腕の振りが使えない分、腰が入ってない。

 あれでは、響にダメージは与えられないだろう。

 淡々と、響は蹴りをさばき、いなし、1分ほど経過したところで、ついにそれが炸裂した。

 

「ッ!!!!!!!!!!!!!!」

 

 相手の身体が揺れた。

 足がふらつく。

 膝が落ちる。

 耳の塞ぎが甘かったか、三半規管にダイレクトだ。

 

 組み合わせの問題かな。

 私の対戦相手があの場にいたら、耳を塞ぎながらでも遠距離から個性を放って時間を稼げただろう。

 そうすれば、状況が変わったかもしれない。

 

 

 1回戦最後の第8試合。

 創成の登場だ。

 もちろん相手はB組の生徒。

 アドバイスを求められたので、わかる範囲で答えたんだが……。

 

 いい笑顔だった。

 

 番狂わせというと創成に失礼か。

 観客のほとんどが思っているであろう、『ヒーロー科の生徒が勝つ』という幻想をぶち壊してくれるかも知れない。

 

 バトルステージの上に、直径50センチほどの柱が突き上げる。

 第二種目では使い勝手が悪そうな個性だったが、これは強烈だ。

 響が言うには、『車ぐらいなら普通に持ち上げる』らしいからな。

 しかも、出現した柱が消えない。

 器用に逃げ回る創成だが、スペースを、進路を、塞がれていく。

 

 うん、下から、下からと。

 やはりあれは誘いだな。

 

『柱は下からしか出現しない』と認識させたところで……だろう。

 

 創成が、道具を使って柱から柱へと逃げ回る。

 そろそろだ、気をつけろよ。

 

 うまい。

 ワイヤーを柱に引っ掛けて、忘れた頃にそれを引っ張る。

 倒れた相手に創成が迫ったその時。

 

 柱から真横に突き出た柱が創成をとらえた。

 

 創成の身体が吹っ飛んでいく。

 

 避けられなかったのか……。

 

 

 いや。

 

 相手の身体が宙吊りになっている。

 創成のやつ、吹っ飛ばされた勢いを使って、相手を釣り上げやがった。

 ああ、それでもダメージはあるのか、咳き込んでる。

 

 あああああ、いい笑顔だ。

 あいつ、Sなんじゃないのか?

 

 ぐるぐる巻きに……今、相手がギブアップって言いかけてなかったか?

 

 

 

 まあ、細かいことはおいておこう。

 お見事。

 

「いやあ、ヒーロー科になんとか一泡吹かせられたよ」

 

 そんな創成に、響も苦笑を浮かべる。

 考えてみれば、不思議な集団だよな。

 

「見敵さんは?」

 

 まだ医務室だと思う。

 手を抜くのは失礼かもしれないが、あそこまでやる必要はなかったような気もするけどね。

 

「……あの監物って女、美人だが性格がキツくてな」

「そうなの?」

「こう、六法全書で武装するって感じの」

 

 ああ、それはイメージしやすい。

 

 ……おい、2回戦で『ロープは友達』のアレと戦うって大丈夫なのか?

 

「……犬猿の仲と言っていいな。いや、一方的に女のほうが毛嫌いしてるが、まあ気持ちはわかる」

「うわぁ」

 

 と、噂をすれば影、か。

 

 うん、間近に見ると一層キツイな。

 漫画だとギャグですむけど、リアルでこれは……うん、『変態だ!』とか叫びたくなる。

 

 ロープを体中に巻きつけて、『ロープは友達』の彼が創成に向かってロープを差し出した。

 

「創成さん、君と私は、仲良くなれると思うんだ」

「ごめんなさい」

 

 うん、マジでその気持ちはわかる。

 せめて名乗れ。

 

「おい、(ばく)。前から言ってるが、お前のコミュニケーションはおかしい」

「響君、言葉はあまりにも不自由だよ……拘束の前に言葉は不要なのに、みんなわかってくれない」

 

 

 ……色々と突っ込みたい。

 世界平和の道のりは理解しあうことなんて言葉があるが、この方向の理解は世界平和につながっているのかどうか疑問に思う。

 ちなみに、かなりのイケメンなんだぜ、こいつ。

 普通の服装で街で歩けば、10人中6、7人は振り返りそうな感じの。

 

 まあ、身体にロープを何本も巻きつけたまま歩けば、全員が目を背けるだろうが。

 ある意味、『みんなが(別方向に)振り返る』イケメンといえなくもないか。

 でも、ヒーローの本質が捕縛にあるとしたら、こいつは優秀なヒーロー候補なのか……?

 

 うごごご、ヒーローの定義が乱れる……。

 

 私が頭を抱えているうちに、創成はどこかに逃げ出したらしい。

 うん、ここは響に任せて、見敵さんの様子でも見に行こう。

 そうしよう。

 

 

 

 

 

 医務室。

 見敵は治療を終えて、クラスに戻ったそうだ。

 しかし、創成がいた。

 

肋骨(アバラ)が折れてた」

 

 おい。

 

 リカバリーガールを見る。

 

「アンタはサポート科だ。無理をして試合に挑む意味があるのかい?」

 

 創成が、リカバリーガールではなく、私を見て言った。

 

「ボクにはないかな。でも、相手や、試合を見る誰かには意味があるかもしれない」

 

 創成が腕を伸ばす。

 手を握り、開く……と、そこにコインが生まれた。

 コインを親指で弾く。

 1枚、2枚、3枚。

 落ちてくるコインを受け止めるのではなく、そのまま親指で正確に弾き上げる。

 

「ボクの個性は、モノを作ることに向いている。そしてモノを作ることが好きだ」

 

 3枚のコインを手のひらで受け止め、握り、開く……コインが消えた。

 

「それでもさ、ヒーローに憧れなかったわけじゃないし、ヒーローを目指さなかったわけじゃない……その気持ちが、手品みたいにぱっと消えたりはしない」

 

 創成の目が、リカバリーガールに向いた。

 

「ヒーローであり続けることはできなくても、今日1日、この瞬間だけの、ヒーローでありたいと思ってはいけませんか?」

 

 誰も言葉を発しない。

 

 やがて、リカバリーガールが大きくため息を吐いた。

 

「可愛い顔をしても、男の子だねえ……」

「可愛いは正義です。つまり、可愛いはヒーロー」

 

 創成が、柔らかく微笑んだ。

 これもまた、良い笑顔だった。 

  

 




地味っ!!
バトルが圧倒的地味っ!!
2回戦は、全員ネームドのキャラになります、さすがに。
個性も用いて、それなりのものを。

ベスト8同士の戦いが一番面白いといいますし。(笑)
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