ヒーローの卵として。   作:高任斎

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こういう話、書いてて楽しー。
趣味に合わなかったらごめんなさい。


8:最終種目、ぶつかり合う想い。

『さあ、最終種目の2回戦の始まりだ! 第1試合は!! B組の監物(けんもつ)(のり)!! 規則は守るためにある!! そのためなら、常に全力全壊のヤバイ女ッ!!』

 

『対するは! こいつはヤベェッ!? 18禁ヒーローの系譜を受け継ぐ男が現れた!! 拘束はコミュニケーションだ!! 縄を自在に操り、高速の拘束を実現する男!! 同じくB組の(ばく)喜知(よしとも)!!』

 

 

 うん、どっちもヤバイ。

 テレビ放映される解説で、こんな解説をされる時点で、ヤバイのがよくわかる。

 縛は、絵ヅラがやばい。

 監物さんは、雰囲気がやばい。

 なんか、試合が終わったあとに『殺すつもりはなかったのですけど』なんて、返り血を拭いながら言い出しそうな気がする。

 1回戦で、プルプル震える見敵さんを情け容赦なく連撃でぶちのめした光景は、観客もドン引きしてたからなあ。

 

 長身で、体型はややスレンダー。

 目元がキツめで、温かみを感じさせないところは好みが分かれそうだけど、かなりの美人だ。

 

 そして縛はイケメンだ。

 

 絵になる美男美女のバトルなのに、なぜかモザイクの必要性を感じるところが救いのなさを示している。

 

 

「監物さん、分かり(しばり)あおう」

「汚物は、消毒()ね」

 

 

 

 

「……どっちも負けてくれないかな」

 

 創成のつぶやきに、周囲の人間の心が一つになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦っている人物はともかく、戦いそのものは見ごたえのあるものだった。

 

 縛は、ロープだけじゃなく、自分の身体を使って攻撃することもできる。

 遠距離によるロープ攻撃は、その軌道にいくらかの変化をつけられる分、多彩だ。

 接近戦になると、ロープの両端が相手に襲いかかる……つまり単純に手数が倍になる。

 

 監物さんは、ある意味単純だ。

 分厚い辞書のような塊を両手にセットして、接近戦による嵐のような連撃。

 上、下、横から、ひたすら武器で殴打。

 

 速く、強い、そして相手の攻撃をさばききる技術がうまい。

 

 

『接近戦に移行してから1分が過ぎた!! 監物の連撃をひたすら受けつつ反撃の機をうかがう縛! ヤバい奴らだが、レベルめっちゃ高ぇぞ!!』

『……ある意味我慢比べだな。速度が落ちた瞬間、一気に持っていかれる』

 

 

 そして、十数秒後に相澤先生の分析がそのまま現実となる。

 

「滅べ!」

 

 監物さんが、ロープの間をすり抜けるようにして、縛の顎を殴り上げた。

 ロープの動きが止まる……ということは、失神?

 しかし、彼女は容赦しない。

 ダウンした縛に馬乗りになって……ミッドナイト先生とセメントス先生が飛び込むまで、それは続いた。

 

「放せ!! 今! ここで! トドメを刺す!!」

 

 うん、クール系と思ってたけど、ちょっと違った。

『殺すつもりはなかったのですけど』なんて、言いそうにないね。

 ガチで殺しにかかってた。

 

 結局、最後はミッドナイトに意識を失わされたけど。

 

 

 

 

 

 来年のことを言えば鬼が笑うけどさ。

 私、この試合を勝ち上がったら、次は、『あの』彼女とやるんだよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

『な、なかなかヘヴィな第1試合だったな! 気を取り直して第2試合だ!!』

 

『ヤツが来た! ビッグマウスのヤツが来た! 周囲を翻弄するトリックスターだ、幻夢空ぁッ!! 一つだけ言える! こいつはマントが大好きだ!!』

 

 個性を使って、マントを翻してみせた。

 マントは格好いい、以上。

 

『対するは! B組の良心! かつ委員長!! (たいら) (かず)!! こいつは、ヒーロー科の委員長対決だぜ!!』

 

 

 

 さて、試合前の握手を。

 

「……幻夢のクラスって1人しかいないよな? 委員長って意味あるの?」

 

 ……なあ、B組の委員長って大変だろ?さっきの試合見てるとよく分かるわ。

 

 

 

 

 

『何が起こったぁッ!? いきなり試合前に2人がうずくまったぞ! もう闘いが始まっているのかッ!!?』

 

『……触れてやるなよ』

 

 

 

 

 

 試合開始と同時に、思い(怒り)を込めた右ストレート。

 しかしそれは、彼も同じだったようだ。

 

 

 

 

『いきなりのダブルノックダウンだ!! 熱い男の拳が交差した!! 燃える展開だろぉぉ!!』

 

 

 

 跳ね起きた。

 熱くなりすぎた。

 身体は熱く、心はクールに、だ。

 

 は、騙し合いで私に勝てると思うな。

 誘ってるのが見え見えだ。

 

 彼に向かって個性を飛びかからせる。

 

 彼の拳が、幻影を貫いた……その時、私は既に真横、やや斜め後ろにいる。

 私の個性に気づいた人間は、ほとんどが、咄嗟に真後ろを見る。

 そして、『意識しない限り、振り返る回転の向きはほぼ一定』だ。

 

 こっちだよ。

 

 振り返る動き。

 二度目、間違いない。

 

 彼のみぞおちに膝を叩き込んだ。

 

 なので、前方に向かって転がるか、走り出すのを私はおすすめする。

 

 うずくまった彼の背中に乗り、片腕と首を極める。

 普通ならこれで終わるんだけど……。

 

 この世界はそんなに甘くない。

 そして、雄英のヒーロー科の生徒はそんなにやわじゃない。

 

 私の顔面を、彼の拳が捉えた。

 強くはなかったが、驚きが私に距離を取らせた。

 

 

 

 うん、拳だったのはわかる。

 でも、背後にいた私の顔にどうやって?

 

 彼が、みぞおちに手を当てて笑った。

 

「俺の個性は、『ルーズジョイント』だよ。俺の関節に、死角はない!」

 

 彼の足が、曲がる。

 膝が、曲がる。

 山折りではなく、谷折りに。

 

 正直面食らう。

 格闘技ってのは、人間の動きの限界を踏まえたうえの理論で成り立っている。

 その理論が、粉砕される動きだ。

 

 おいおい、脱臼とか大丈夫なのか?

 

「心配してくれて、ありがと、よ!」

 

 パンチが伸びる。

 いや、錯覚だ。

 肘の関節を利用して、拳が追ってくるだけだ。

 

 ああ、面白い。

 この世界は。

 個性は面白い。

 

 彼の関節を押さえる。

 関節の数が増えるわけじゃない。

 関節から先がどう動くか、が問題だ。

 

 慣れてくる。

 それが罠の可能性もある、が。

 

 彼の心に毒を垂らそう。

 

 おい、私の個性のこと……忘れてないか?

 

 

 

 彼の意識が乱れていく。

 集中が拡散していく。

 やがて、観客のざわめきが、彼の耳に届く。

 

 バトルステージの片隅で腕組みをして立っている『私』の姿を見た瞬間、彼の表情が歪んだ。

 

「まさっ……か」

 

 気合のこもらない彼の拳が、『私』の顔をすり抜ける。

 

 それで彼の意識が、完全に『私』に向いた。

 無防備に振り返る。

 私に背を向けて。

 

 

 

 騙し合い(ここ)は、私のフィールドさ。

 

 

 

『委員長対決に決着だ!! エグイ! しかしこれがトリックスターだ!! 本物はどれだったんだ!?』

 

『コーナーのは、途中で現れただけだがな……まあ、動き続ければ酸素が足りなくなって判断力も鈍る。騙しどころをよく理解してるな』

 

 

 

 ふむ、いいのを一発もらったが、次の試合に支障はない、な。

 うん、次の試合、か。

 あの暴風雨にどう対処したものか。

 

 と、次は響の出番だな。

 

 どうした、浮かない顔だな?

 

「……ちょっと、相性が悪いんだ、次の相手は」

 

 ああ、手の内がわかる相手って、大変そうだな。

 じゃあ、響の『手』も見られるのか?

 

 そんな顔するなよ。

 マジシャンのようによく手入れされた手のひらだよな。

 

「カカカ、かなわねえなあ、お前には。まあ、見せることになるだろうが、それでも分が悪い。正直なところ、な」

 

 

 

 

 

『続いて第3試合の始まりだ! 生命は海から生まれた! 水がなければ生きられない! 生命を生かす水の個性で敵を絶つ!! B組の、海原(うなばら)水石(すいし)!! 水も滴るイケメンだぁ!! イケメン多いな、チクショウ!!』

 

『対するは! 心はイケメン!! 『音』の個性を用いて、天国から地獄まで好きな場所へとご案内!! 同じくB組の、(ひびき) (わたる)!!』

 

『おい、『心は』ってなんだ?クレーム来るぞ』

 

 

 

 

 なるほど。

 響にとって、相性が悪そうだ。

 まず、2人の速度が違う。

 そして、海原の使う……水の個性による防御。

 耳の部分に、薄い水の膜が……見えるだけで4枚。

 響の『声』というか『音』に関しては、初見殺しの部分があるからな。

 本人にもわかっているんだろうけど、近づかせてもらえない。

 

 しかし、あの水。

 海原の腰のペットボトル数本の量だけじゃない気がするんだが……まさか、空気中の水分もある程度操作できるとか言わないよな?

 仮にそうだとすると、ステージの上の空気はものすごく乾燥して……。

 

 喉を痛める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 最悪の相性じゃないか。

 

 

 ぱん。

 

 響が、手を叩く。

 強く。

 弱く。

 大きく。

 小さく。

 

 おいおい、これは……『私の領分』じゃないか?

『音』は『振動』によって伝わっていく。

 人の鼓膜は『振動』を拾って『音』を知る。

 

 でも、人の『肌』だって『振動』を『刺激』として感じることはできるんだ。

 

 短調なリズムの『刺激』の繰り返し。

 ああ、これに『音』が加わって本領を発揮するのか。

 じゃあ、海原には、おそらく届かない。

 どうするつもりだ?

 

 響が、息を吸う。

 手を叩きながら息を吸う。

 海原の牽制的な攻撃をいなしながら、息を吸う。

 

 

 

「ッ!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 自らの叫びに、両手のひらを重ね……。

 

 海原の右耳付近の水の膜が吹っ飛ばされた。

 振動の収束か!?

 ここで追撃を入れられれば……。

 

 

 

 響が、審判に手を振ってギブアップを宣言していた。

 

 

 

 ステージから降りてきた響の口から、少量だが血がこぼれた。

 

(のどを、痛めた……戦えねえ)

 

 私の肩を叩いて、そのまま去っていく。

 

 

 

 

 

 

 個性は絶対じゃない。

 相性にも左右される。

 そう考えると、ヒーローの能力は秘匿したほうがいいように思える。

 もちろん、そうした情報の浸透を一蹴する強力なヒーローもまた存在するが。

 おなじみのオールマイトなんかはいい例だ。

 

 前世で言うところの、『物理最強』って感じがするね。

 

 まあ、与えられた材料で、この手に持てるモノだけで、戦うしかない。

 それは、誰だってそうだろう。

 

 私だって十分に恵まれているさ。

 競争率300倍の難関を突破できる程度に。

 

 ああ、だからこそ雄英の『プルスウルトラ』か。

 目指すのは、既存のヒーローじゃない。

 いつだって目指すのは明日の自分だ。

 

 

 

 

 

『2回戦最後の試合だ! 盛り上げていくぜ!!』

 

『涙は心の汗だ! ならば、己の想いは炎となって燃え上がれ! B組の燃える闘魂! 熱苦しい想いがすべてを焼き尽くす!! 俺の炎を消せるものなら消してみろ!! (ヤツ)の名は、炎上(えんじょう)(かい)!!』

 

『この最終種目2回戦に咲いた一輪の華!! カワイイは正義!! 男だなんて認めねえぞ、チクショウ!! サポート科のポニーテールがステージの上で道具とともに舞う!! 創成(もとなり)(あゆむ)!!』

 

『マジでクレームくるからやめろ……ヤツは男だ』

 

 

 

 

 

 プレゼントマイクが、美人の監物さんを『華』と認めてない件。

 まあ、華は華でも、血の華って感じはするけど。

 

 

 

 

 試合が始まった。

 正直、創成には厳しいな。

 基本的にバトルステージの上には障害物が何もない。

 1回戦において、創成の立体的な動きを可能にしたのは、相手の個性が生み出した柱のおかげだった。

 ワイヤーを使う創成の道具が優秀でも、地面に引っ掛けるわけにはいかない。

 

 創成の運動神経は悪くない。

 むしろ、一般的に見て良いほうだろう。

 ただ、ヒーロー科の生徒の中に入ると、はっきりと劣る。

 個性に応じて人は成長するからだろう。

 ヒーロー科の生徒の個性は、戦闘向きのモノが多い。

 それはつまり、身体もそれに応じて戦闘向きに成長していく。

 

 炎上の攻撃を、その正確無比な動作と『読み』でなんとかいなす創成。

 

 直撃はしなくとも、熱は肌をひりつかせ、呼吸を阻害するだろう。

 試合を見ているのが少し切ない。

 なあ、創成。

 腹の痛みは平気か?

 

 体力か。

 集中力か。

 その両方か。

 

 かろうじての均衡が一気に崩れた。

 

 衝撃で場外へと投げ出された創成のポニーテールが、宙にぱっと開く。

 場外へと落ちていく創成の身体を受け止めた私に、ミッドナイトやセメントスからのお叱りの言葉はない。

 

 勝ち名乗りを受けた炎上から声がかけられた。

 

「大丈夫か?」

 

 ああ、気を失ってるだけだ。

 私が言うのもなんだが、気を使ってくれてありがとう。

 

「ケガをさせないように気を使ったのは確かだが、手加減したわけじゃない……そう言っておいてくれ」

 

 炎上は、いい(ヤツ)だった……そう言っとくよ。

 

 

 

 

『2回戦はこれで終了だ! インターバルをはさんで、準決勝が始まるぜ!! トイレはすませろ! 飲み物は用意したか!? もたもたしてる時間はないだろぉぉ!!』

 

 

 プレゼントマイクのアナウンスを聞きながら、私は創成の身体を抱えて医務室へと向かった。

 

 

 

 

 

 医務室には響がいた。

 もう普通に喋ることができるようだ。

 喉の粘膜が切れただけ……それは軽いのか?

 冬の朝に走ったりすると、喉が切れて血が出るようなもんか。

 

 見敵がきた。

 

「創成さんは、大丈夫ですか?」

 

 ああ、気を失ってるだけだよ。

 ケガそのものは、見敵の方がずっとひどかった。

 

「……気が付いたら医務室でしたので」

 

 そう言って頭をかく……が、恐怖心は隠せてない。

 

 

 そして創成が目を覚ます。

 

「負けちゃった……かぁ」

 

 まあ、屋内ステージとかなら話は別だろう。

 あの何もないバトルステージじゃ、創成の強みは活かしにくい。

 あと、炎上が心配してたよ、いいやつだな。

 

「まあ、クラスじゃまともな方だな」

 

 おい、響。

 まともな奴が少ないように聞こえるぞ、それ。

 

「……実際、少ないと思う」

 

 お、おう。

 

 妙な空気になってしまった。

 そんな空気を入れ換えようとしたのか、見敵が質問を発した。

 

「そ、そういえば幻夢さんのクラスは、なぜお一人なんですか?」

 

 ……私以外、全員退学処分になった。

 

「……」「え?」「……マジだったのか?」

 

 先生の言い分もわかる。

 でも、そうじゃないって思う自分もいる。

 

 ただ1つだけはっきりしてるのは……雄英を退学になったからって、ヒーローになれないなんてことはないってことだけだ。

 ここは、目的じゃなく手段の場所だ。

 そして、ここは通過地点だ。

 

「幻夢はさ、負けたら格好悪いとか思わないの?」

 

 思わないな。

 もちろん、格好悪い負け方はある。

 格好悪い勝ち方もある。

 格好いいふたりが戦って、負けた方はいきなり格好悪くなるなんてことはないだろ。

 それと同じさ。

 

 震えながらでも、ステージに向かう見敵は格好よかったよ。

 状況を判断して負けを認めた響だって格好良かったさ。

 最後まで戦い続けた創成の姿には心が震えたよ。

 

 だったら、次は私の番だ。

 

 正直、彼女相手には分が悪いと思っている。

 だからこそ、格好のつけ所だろ、ここは。

 

 

 




(ばく) 喜知(よしとも)

このキャラを思いついた瞬間、ふきました。

縛る喜びを知る。
縛られる喜びを知る。

解釈はお好みで。
ちなみに、装備しているロープは4本。
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