限定的読心術   作:拙作製造機

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ただ鈍感な彼にちゃんとヒロイン達と向き合って欲しかった。それだけです。


もしかして、俺ってもててる?

「……ここは」

「気が付いたようだな」

 

 聞こえてきた声に顔を動かせば、そこにいるのは千冬姉。ああ、そうか。俺、いつものように注意されて、千冬姉の攻撃を下手に避けたら妙な感じで当たったんだっけ。

 

「まったく、お前と言う奴は。下手に動くからこうなるんだ」

(すまんな一夏。でも、お前がいけないんだ。授業中に小娘と他事をしたりするから)

 

 ……気のせいか。何だが千冬姉の声が二つ聞こえた気がする。しかも、片方は頭の中に直接響く感じで。調子が悪いのかと首を傾げると、千冬姉が表情一つ変えずこちらを見ていた。

 

「どうした。まだどこか痛むのか?」

(いかんな。やはり出席簿とはいえ、頭部への衝撃だ。念のために精密検査をさせるべきか?)

「し、心配いらないって。精密検査とか心配性だな、千冬姉は」

「っ!? そうか。ならいい。では、私はもう行くが、しばらく安静にしておけ」

(無意識に思った事が口に出ていたか? まぁ、いい。さて)

 

 こちらに背を向けた瞬間、頭に聞こえていた千冬姉の声が途切れる。うん、やっぱり何か変だ。にしても、頭に聞こえる千冬姉の声は優しかったなぁ。何となくだけど、俺が小さい頃に近い気がする。とにかく、しばらく横になってるか。と、千冬姉がいなくなって十分としない内に保健室へ現れる箒達。見舞いに来てくれたのは嬉しいけど、やっぱり時折あの頭に響く声が聞こえるんだよなぁ。

 

「それにしても、まさか意識を失うとはな」

(千冬さんにも困ったものだ。前々から思っていたが、少し体罰が過ぎるのではないか? 一夏に何かあればあの人だって耐えられないだろうに)

「俺が下手に動いたからだろうな。じゃなかったらいつものように、蹲って終わりだったさ」

 

 箒って、千冬姉にそんな事思ってたのか。でも、千冬姉だってって事は箒もって事だよな? 俺の事、なんだかんだで思ってくれてるんだ。やばい、ちょっと嬉しいぞ。

 

「だとしても凄い音でしたわ。私、一夏さんが死んでしまったのではないかと」

(ああ、良かったですわ。一夏さんがご無事で。顔色も良いですし、一安心……ですわね)

「心配させてごめんな。でも、この通り大丈夫だから」

 

 セシリアは可愛いなぁ。てか、口からの声と響く声がほとんど同じだ。こんな事もあるんだな。

 

「ま、あんたの事だからそんな事じゃないかと思ってたわよ。みんな大げさなんだから」

(本当に一夏に何もなくて良かったぁ。でも、やっぱり素直に言えないわね。ううっ、シャルロットやラウラが羨ましい……)

「ま、一応頭だったしな。万が一って事も考えちまったんだろ」

 

 鈴の奴はまったく違うな。千冬姉に近いものがある。でも、シャルやラウラが羨ましいってどうしてだ? ああ、思ったままを口から出せるからか。

 

「そうだよ一夏。僕ら本気で心配したんだからね」

(こうやって大勢で押しかけるのはどうかと思ったけど、さすがに一人ずつだとね。で、出来る事なら二人っきりが良かったけどなぁ)

「悪い悪い。ホント、来てくれて嬉しいぜ」

 

 シャルはさすがの配慮。しかし、二人っきりが良かったって……どういう事だ? 普通に考えたらそれって……恋人とかそういう大事な人扱いだよな。まさか、俺をそういう風に見てる……?

 

「では、そろそろ私達は行く。嫁、また明日会おう」

(くっ……気の利いた事の一つも言えないとは。やはりクラリッサに助言を求めておくべきだったか……)

「おう、分かった。ラウラ、また明日な」

 

 クラリッサって誰だ? 今度ラウラに聞いてみよう。にしても、気の利いた事、言いたかったのかラウラ。やっぱ可愛いとこあるよなぁ。

 

 こうしてみんなが出て行った後、俺は自室へ戻っていいと言われ、保険医の先生へ感謝を伝えて廊下へ出た。そして気付いた。あの響く声は目を合わせてないと聞こえない事に。あと、目を合わせていても聞こえない時もあるようだ。まだ詳しい事は分からないけれど、多分俺の事を考えてる時だけあの声が聞こえるみたいだな。試しに途中で見かけたクラスの女子と話してるのほほんさんへ目を合わせてみたら、最初は何も聞こえなかったけど段々声が聞こえてきたし。ただ、俺がのほほんさんへ気があるかもって誤解させたので悪い事したなとは思う。でも、何となくあの声で聞いた事は口に出さない方がいい気がしたので、申し訳ないけど訂正せずその場を後にした。

 

「これ、俗に言う読心術みたいなもんだよな」

 

 一人部屋でベッドに寝転がりながら呟く。よくあるやつと違って、色々制限はあるけれど相手の心の声が聞こえるのは同じだ。でも、今日聞いた箒達の声から考えると、あいつらって俺の事凄い意識してくれてるんだなって分かる。勘違いじゃない、と思う。……明日から少し確かめてみるか。

 

「よっ、おはようみんな」

 

 こうして迎えた翌日。朝飯を食べるために食堂へ行くと、もう五人が揃っていた。そして、簪の姿もある。と、目が合った。

 

(おはよう一夏君。もう大丈夫?)

「お、おはよう織斑君。もう大丈夫なんだ?」

「ああ、おはよう簪。この通り何の問題もないぞ」

 

 どうやら簪は心の中で一度思い浮かべてから喋るみたいだな。でも、俺の呼び方や喋り方が若干違う。親しい感じだ。そっか。簪はそうなりたいんだな。……親しく、か。

 

「気持ちは分かるがあまりはしゃぐなよ。お前が倒れたのは頭部へのダメージなんだ」

「そうだな。箒の言う通りだ。しばらくは大人しくしてるよ」

「それならいい」

(ふふっ、今日は幸先がいい。一夏の笑顔を向けられるとはな)

 

 うん、俺の笑顔が見れただけで喜ぶのか。箒って意外と単純というか何というか。でも、可愛いなと素直に思う。なら、もう少しぐらいサービスしてやるか。

 

「箒」

「ん?」

「いつもそうやって心配してくれてサンキュな」

「っ! べ、別に感謝されるような事では……」

(な、何だ!? 一夏の奴が改まって感謝を言ってきただと? ううっ、嬉しいがそんな事正直に言えるかぁ!)

 

 やばい。滅茶苦茶可愛い。何だよ、箒ってこんな風にいつも思ってたのか。暴力的な奴と思ってたけど、それも照れ隠しの延長だったんだな。これからはそうされないように気を付けよう。

 

「一夏、いつも心配してるのは箒だけじゃないんだよ?」

「そうだな。悪い。シャルも感謝してる」

「うん、よろしい」

(えへへ、こういうとこは一夏も察しがいいんだけどなぁ。肝心な時は本気で鈍いんだから)

 

 シャルの言う肝心な時という言葉で、俺は今までの事を思い出す。……うん、成程。あれらはそういう意味だったのか。そう思う事が山のように出てくる。そっか。俺の事、意識してるなんて思ってなかったから気付かなかったけど、あれらってかなりだよな。何で気付かなかったんだろ、俺。

 

「どうしたのよ一夏。急に凹んだりして」

「その、改めて考えると、俺ってみんなに迷惑かけてきたんだなぁってさ」

「今更過ぎるわね。でも、反省するのはいい事よ。今後は同じ過ちをしないように気を付けなさい」

(落ち込んだ顔も嫌いじゃないなぁ。でも、やっぱり一夏はいつもの一夏でいて欲しいもの。あたしが力になれる事なら手を貸してあげればいいしね)

「……鈴、本当にありがとうな。俺、お前と出会えて良かったよ」

「なぁっ!?」

(何よ!? 今の、告白みたいじゃない! あ、あたしも出会えて良かったよ? ……い、言えない)

 

 これは不味い。鈴さえここまでとか。箒と鈴は幼馴染だから面倒を見てくれてるんだと、そう思ってきたけど違ったんだ。二人は俺を異性として意識してるから世話を焼いてくれてる。どうする? これ、みんなから好意寄せられてるって事だよな?

 

「今日の嫁はどこかおかしいな。というか、今のは何だ。そういう事は私に言え」

「いいじゃない。あたしが言われたって。そもそもあたしは幼馴染なの。だからあんたとは積み上げてきた時間が違うのよ」

「何だと?」

「まぁまぁ。でも、本当にどうしたの一夏。箒や鈴に対していつも以上に優しい気がするんだけど?」

 

 全員の目がこちらへ向く。俺はどうしようかと思ったけど、耐え切れそうにないと思って白状した。ま、反応は大体同じ。絶句のち絶叫。特に箒と鈴が凄かった。簪は真っ赤な顔でフリーズするし、シャルとセシリアは黙り込んだ。ラウラは赤面したけどそこまで尾を引かなかった。多分、思っていた事と似たような事を言ってきたからだと思う。

 

「じゃ、じゃあ一夏さんと目を合わさなければ大丈夫ですのね?」

「あ、ああ。それと、俺の事を考えてない時は聞こえないから安心してくれ」

「安心出来るか! 逆に言うとあんたに関連させると筒抜けって事でしょうが!」

「お、落ち着いて鈴。そういう時は視線を外せばいいんだよ。もしくはずらす」

「対処法があるなら問題ない。それに、私は嫁に聞かれて不味い事などないからな」

 

 胸を張るラウラだけど、その顔は赤いし視線は僅かに逸らされているのが分かる。何せ俺が視線を合わせようとすると目が動くから。

 

「で、でもこれって……ある意味チャンスだよね?」

「簪?」

「だって、こっちの織斑君への気持ちが全部聞こえるなら、いつもは言えない事やデートの約束も二人だけの秘密に出来るし」

「簪さんの言う通りですわ。一夏さんと目を合わせていれば、一方通行のテレパシーが可能だと思えば」

「授業中や衆人観衆の中でも告白やデートなどの提案が可能と言う事か」

 

 みんなが話し合う中、俺は珍しく誰とも目を合わせてもらえないという珍事を経験していた。まぁ、飯を食べないといけなかったからいいんだけども、少し寂しいと思ったのはここだけの話。そして、こんな風に箒達が話をしていれば当然現れる人がいる訳で。

 

「おやおや、珍しく一夏君が蚊帳の外」

「おはようございます、楯無さん」

「うん、おはよう一夏君。で、これはどうしたの?」

(あらあら、一夏君が寂しそうなんて珍しいわね。レア顔ゲット、なんて言ってる場合じゃないか)

 

 あー、やっぱりこの人もか。もしかしたらと思っていたけど、実際そうなると嬉しさと申し訳なさが半々だ。でも、楯無さんへは結構反応を返してたし、そこまで気にしなくていいか。

 

「あの、楯無さん」

「何?」

(おや? 一夏君の様子もおかしいわね。いつも以上に目力が凄いわ。お姉さん、ときめきそう)

「ときめいてくれていいですよ?」

「……急にどうしたの? 悪い物でも食べた?」

(やだ。口に出したはずないんだけど……)

「その、やっと楯無さんの行動の裏に気付けたと言いますか」

「何言ってるの。あれはお姉さんなりのからかいよ?」

(えっ? えっ? 嘘……鈍感な一夏君が私の気持ちに気付いてくれるはずは……)

 

 結構な言われようだが、実際そうだったので何も言えない。申し訳なさも込めて楯無さんへも話した。すると、扇子で顔を完全に隠してしまった。……これ、もしかしなくても照れてるよな。まさかこの人のこんなところが見れるなんて。

 

「よ~く分かったわ。かなり限定的な読心術だけど、能力は本物みたいね」

「はい。それと楯無さん」

「何?」

「その、そうやってると、俺に聞かれたら恥ずかしい事考えてるって言ってるようなもんです」

「…………悪い?」

 

 ぐっ、可愛い。こちらをチラっとだけ見てまた扇子で顔を隠す楯無さん。一瞬だけだったけど、顔が真っ赤だった。どうやら一瞬だけ目を合わせても聞こえないらしい。本当、これからどうなるんだ? あと、俺はどうしたらいいんだ?

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