翌朝、食堂で俺は昨夜箒へ言ったのと同じ事を宣言した。それに対しての反応は様々だったけど、みんな好意的に受け止めてくれた。楯無さんへもちゃんと告げておいた。というか、いつの間にかその場にいたんだよなぁ。多分俺に気付かれないように気配を殺して聞いてたんだと思うけど。そして、それと並行してある実験を試みる事にした。
「……どうだ?」
(ま……一……しい……)
「うん、聞こえない訳じゃないけどほとんど聞き取れない」
それは能力の効果条件。目を閉じると無力化出来るし視線を逸らすだけでもいい。なら、仮面みたいなのを着けて見たらどうだろうと、そう思ってやってみた。結果はさっきの通り。聞こえない訳じゃないけど聞き取りにくい。ここから、俺がしっかり相手と目を合わせる必要があるのが分かった。それと、一瞬や五秒までなら合わせても聞こえないのも。
「ふぅ……ありがとな、簪」
「う、うん。こんな事でも役に立てるなら嬉しい」
(一夏君が着けたお面……大事にしなくちゃ)
「でも、本当にあんたらしいわ一夏。あたし達の気持ちが分かったから、もうその力を無くしたいって」
「ええ、鈴さんのおっしゃる通りです。その力があれば、今後誰と結ばれても有用ですのに」
着けていた何かのキャラのお面を外して簪へ返す。聞こえてきた声に軽く笑みが浮かぶけど、俺はもうその声が聞こえない方が良かった。セシリアの言う通り、もし仮に誰かと夫婦になったとしても、これがあればきっと上手く行くだろう。だけど、俺はそれが怖かった。
「でもさ、それじゃあダメなんだ。この声に頼ってたら、俺は自分の心でみんなの気持ちを感じ取ろうとしなくなる。困ったら目を合わせて無理矢理本音を聞き出そうとしてしまう。そんなんじゃダメなんだ。それじゃ、形が変わっただけで鈍感な俺のままだから」
噛み締めるように告げる。この力のおかげで俺はみんなと向き合えた。ちゃんとみんなの好きに応えるべく悩み始める事が出来た。だからこそ、今の俺にこの力は必要ない。甘えが生まれない内に、依存してしまわない内に、何とかしてこの力を無くさないと。そう思って俺は深呼吸を一つする。
「……一夏君、気持ちは分かるけどそれは根本的な解決にならないわ」
「楯無さん……」
聞こえてきた声に視線を動かす。そこには扇子で顔を隠す事を止めた楯無さんがいた。
(君の気持ちは嬉しいの。私達と真剣に向き合うために本音を聞けるなんて反則を無くしたいって。でも、思い出しなさい。どうしてその力を得たのか。どうやってその力に目覚めてしまったのか)
「……千冬姉に叩かれたから?」
「そうよ。だから対症療法ではなく原因療法を考えなくちゃ」
(でも、危ない事はして欲しくない。もしまた一夏君に何かあったら私……)
「分かってます。俺だって昔みたいな感じで、気軽に千冬姉へ以前と同じ場所を同じ強さで叩いてくれなんて言いません」
俺がそう言うと楯無さんどころかその場の全員が安堵の息を吐いた。……つまり、そうするって思われたんだな。いや、否定はしないさ。確かに以前の俺なら簡単にそう言ってた。でも、それじゃダメだってもう知ってる。俺が危ない事や大変な事を嫌がり、心から心配してくれる人達がいるって分かったから。だから俺はもう軽挙はしない。
「だけど、場所が場所だけに下手な事出来ないんだよなぁ」
「そうだね。一夏の頭を織斑先生が出席簿で叩いただけじゃない。あの時と同じタイミングで一夏が動かないとダメだよ。それぐらい、今の現象は奇跡的なんだから」
「シャルロットの言う通りだ。嫁、ここはさっきの言い方を借りるなら対症療法を試しつつ、原因療法も模索するしかないぞ」
「そう、だね。い、一夏君の気持ちにも私達の気持ちにも納得出来るように」
三人の気遣う言葉に嬉しさが込み上げてくる。ホント、俺は良い女に恵まれ過ぎだぜ。と、そんな時、何か思いついたのか箒が手を打った。
「お面で効果があるなら、サングラスやカラーコンタクトなどはどうだ?」
「……そっか。一夏の視線にフィルターを掛ける方向ね」
「それは名案ですわ。第一、それならば危険はありませんし手軽ですもの」
「簡単に効果が出そうなのはサングラスだな。だが、許可などを考えるとコンタクトの方が良いか」
「なら、眼鏡も候補に入れようよ。度を入れると問題だけど、伊達ならいけるかも」
「じゃ、じゃあ普通のコンタクトも試したらどうかな? 眼鏡で効果があればそっちもいけるし」
「あらあら、一気に盛り上がってきたわね。なら、ついでにちょっとしたイベントにしましょうか?」
俺の囲んで盛り上がる箒達。それを眺め、俺は正直幸せを噛み締めていた。だって、こんな美少女達が俺のために色々手を尽くそうとしてくれるんだ。これで喜ばないで何で喜ぶってんだよ。……でも、いつか俺はこれを壊してしまうかもしれない。こんな風に笑い合って、時にいがみ合って、そんな風に仲を深め合ったみんなを。
「イベント、ですか。俺を着せ替え人形にでもするつもりですか?」
「おや? 一夏君にしてはノリが良いわね。そんな一夏君、お姉さん、嫌いじゃないわよ」
(本当に優しくて気が利くのね。私達のために出来る事は何でもやってくれるの?)
「ええ、それでみんなが笑顔になってくれるならやります。今までの分、少しでも返していきたいんで」
明るくそう言い切る。すると、みんながこちらを見て呆気に取られたように黙った。そんなに変な事言ったのかなと、そう思って首を傾げるけど次の瞬間全員して俺から距離を取って集まる。……また何かの会議か。昨日の食堂でもあったもので、これで俺が見るのは二度目。でも、どうやら見てないところで一度やったらしいので開催は三回目だ。聞いたら不味いと思って目を閉じて耳を塞ぐ。女の子の内緒話に聞き耳立てたらダメだしな。
「ね、一つお姉さんからいいかしら?」
「どうぞ」
「今の一夏君、男前度上がってない?」
「ですよね。僕もそう思います」
「多分ですけど、私達の想いと向き合おうと決意なさったからでは?」
「以外に考えられんぞ。正直言う。私は朝の宣言を昨夜面と向かって言われたのだ」
「は? ちょっと箒、それどういう」
「頬にキスしたお前が文句を言うな」
「なっ……何でラウラが知ってるのよ?」
「嫁から聞いた。私に隠し事はしたくないらしい」
「私も見ていたぞ。ま、まぁそれは置いておくとして」
「いーえ、聞き捨てなりませんわ」
「僕も。鈴、それはちょっとずるくない?」
「ま、待ちなさいよ。たしかにそうかもしれないけど、あたしだって葛藤してほっぺたにしたんだから」
「ま、まさか凰さん……口に?」
「ギルティ、かしら?」
「……なら、あんた達は目を閉じてこっちに無防備な顔を向ける一夏へ何もしないのね」
「なぁ、まだ終わらないか? 終わったら俺の肩を叩いてくれ」
さすがにそろそろ退屈だ。何も聞こえないようにしてるせいで余計時間を長く感じるし。と、その時大勢の気配がこちらへ向かって動き出した。どうやら終わったみたいだけど、肩を叩かれない内は待っておこう。下手な行動をして今までみんなへ迷惑をかけてる訳だしな。そんな事を考えていると、何故かみんなの気配が俺の正面へ移動する。何かあったのだろうか?
「どうよ?」
「……うん、よく我慢出来たね鈴。僕ならちょっと無理かも」
「一夏君、どうして目を閉じてるんだろ?」
「念のためじゃないかしら? ほら、何の拍子で事故が起きるか分からないし」
「今まで起こしてきた人間が言うな」
「ラウラさん、気持ちは分かりますが相手は上級生ですので」
「い、一夏の奴、こんな顔をお前へ向けたのか」
「そう。しかも、これで軽く下を向いてね」
「……な、なぁ、何かあったのか? どうしてみんなして俺の正面側に集まってるんだよ。目と耳を塞いでるから妙に不気味なんだけど……」
情けないがこっちの気持ちを伝える。すると、ようやく肩が叩かれた。許しが出たと思って耳から手をどけ目を開ける。そこにはみんなが揃っていた。でも、何故だろうか。妙に顔が赤い。何か恥ずかしい話でもしたのか? 聞きたいけれど、それはダメだろうと思って我慢する。……前までなら聞いてたかもしれないなぁ。
「えっと、話し合いは終わったって事でいいんだよな?」
「あ、ああ。問題なくな」
(好きだ好きだ好きだ好きだ)
「っ?! ほ、箒!?」
目を合わせた瞬間、顔を赤くした箒から強めの声が聞こえてきた。何となくだけど、今のは意図して流した声だと思う。昨日の楯無さんに近い感じがしたからだ。なのでちょっと視線を外す。怖いと感じてしまったのだ。
「どうした一夏?」
「……そのな、力対策なんだろうがちょっと怖いぞ、それ」
「何? 何やったのよ?」
「そ、その……ただ強く好きだと念じただけだ」
その答えに俺以外の全員が納得するような声を出す。もしかして、これは今後そうされる流れか? 正直勘弁して欲しいんだけどなぁ。
「ないと思うけど、みんなも止めてくれよ? その、妙な迫力と圧力が凄いんだ。これやられたら少し嫌いになりそうなぐらい」
「ま、そうでしょうね。熱烈と暗示は違うもの」
「あの一夏でさえこれか。箒、有効だけど別の意味では無意味みたいだよ? というか、下手したら」
「分かっている! す、すまない一夏。さっき本音を聞かれると不味いと思ってな」
「いや、いいんだ。それに、さっきは嫌いになりそうって言ったけど、本気じゃないからさ。心配するなよ、箒」
そう、今の俺は分かってる。箒が俺をどう思ってるのかを。さっきのは照れ隠しみたいなもんだと思えば、むしろ嬉しいぐらいだ。意識してるからこそ隠したい。そう思えるから。でも、やっぱりこの力は早く無くしたい。だけどどうすればいいか分からないな。とりあえず、今はみんなの提案にのって眼鏡やコンタクトを試してみるか。そして、その週の休日に俺はみんなと共に寮の自室にいた。
「で、これは一体?」
俺の目の前には、眼鏡やサングラスなどの小物が置かれたベッドがある。でも、鼻眼鏡とかは違うよな。まさかこれって。
「ご推測の通り、イベント用よ?」
「いや、普通の眼鏡とかでいいじゃないですか。何でパーティーグッズまで……」
「い、一夏ごめんね? みんな、一夏と一緒に遊ぶって言われて止められなくて」
(それに、僕も色んなアイテムで一夏を飾ってみたくて。ほら、一夏ってあまりそういうのしないしさ)
申し訳なさそうなシャルだけど、響いてくる声はウキウキしてる。おそらく箒達も似たようなもんだろう。正直面倒だけど、みんなが望んでるなら仕方ない。ここは素直に受け止めよう。そう思って俺はとりあえずサングラスを手にした。
「……どうだ?」
似合わないかなと思いながらだったが、思った以上の反応が返ってきた。それは無言。これだけだと受けが悪いみたいに思われそうだが、全員がどこか惚けたような顔をしているので上々みたいだ。なので少し調子に乗って映画スターみたいにサングラスを取ってみる。瞬間上がる様々な声。……ヤバイな、これ。色んな意味で楽しい。あと、地味に本音が聞こえなかったな。
「い、一夏君っ! 今度は眼鏡をクイッってやって! クイッって!」
「いや、こっちのモノクルだよ! で、不敵な感じで笑って!」
「何を言ってますのっ! もう一度サングラスです! それで、少しニヒルな笑みを……」
興奮して迫ってくるのは簪にシャル、そしてセシリア。箒と鈴は二人して何か相談しているし、ラウラはまだ惚けてる。それと、楯無さんは俺の方を見て苦笑していた。
(どう? 声は聞こえた?)
その問いかけに頷き返す。すると楯無さんは成程とばかりに頷き、眼鏡を手にして近付いてきた。
「はい、みんなそこまで。楽しむのはいいけど、目的忘れちゃダメよ? 一夏君、次はこれね」
目を閉じて眼鏡をかけてもらう。さて、これはどうだ?
「……簪、どうだ?」
(似合ってる。すごい似合ってるよ。お、お揃いにしたいな……)
「う、うん。似合ってるよ。知的な感じ」
「そ、そっか。あ、それとお揃いでもいいぞ」
「っ!?」
「あら、眼鏡はダメみたいね」
俺の言葉ですぐに理解してくれる楯無さんである。そう、一応この集まりの理由は俺の力対策。原因療法ではなく対症療法ではあるが、こちらも出来る事はしておくべきだ。と、そこでやっとラウラが我に返ったようで、周囲をキョロキョロと見回していた。
「どうしたラウラ。何かあったのか?」
「よ、嫁……か。眼鏡も似合うな。だが、私としてはアイパッチを勧める」
(だがサングラスも捨てがたい。そうだ。ならば普段はサングラスで二人きりはアイパッチに)
「お揃いになるからでしょ。ホントに抜け目ないんだから」
「鈴、そう言うな。誰しも似た事は思うものだ」
ふてくされる鈴と苦笑する箒。何というか、俺がこうなってからこの二人は前より仲良くなった気がする。おそらく、俺絡みで共感するものが多かったんだろう。何せ二人共に幼馴染だ。俺の鈍感っぷりを嫌と言う程味わったはず。……もう一回謝っておこうかな?
「一夏君、コンタクトはどうする?」
「眼鏡がダメなら普通の物じゃダメでしょうね。でも、カラコンとなると……」
「織斑先生が頷かない、か。となると対症療法も手詰まりね」
(もしくは織斑先生にも本音駄々漏れを分からせて、例外的に認めさせるって方法も)
うわ、楯無さんがとんでもない事を考えてる。けれど、それが最後の手段かもしれない。そうなったら、公私混同になりそうで千冬姉が凄く悶々としそうだけど。この後、モノクル、アイパッチと試したがやはりダメだった。片目でもしっかり捉えていると聞こえてくるらしい。サングラスはやはりフィルターとしての効果が高いからだろうと結論付けた。こうして俺の読心術対策は終わり、後はみんなで会話に興じた。とはいえ、話題は俺の昔話。箒と鈴が主体となってのそれは、俺にとっては懐かしくもあり恥ずかしくもあるものだった。その合間合間に俺しか知らない話を求められ、どこまで話すか迷いはしたけども、みんなの本音を聞いた以上俺も出来るだけ隠し事はしたくない。なので結構ギリギリまで話した。途中昼を食べるためにみんなで食堂へ行き、箒や鈴などの料理出来る人間が厨房で動き、俺はセシリアや簪と飲み物の用意をしていた。どうもそれぞれで一品作るとしたらしく、並べられた皿は軽い世界旅行みたいな光景だった。
勿論そんな風に過ごしていたら、あっという間に時間は過ぎていくもので……。
「あらら、もうこんな時間ね」
楯無さんの言葉でみんな窓の外へ目を向けた。夕日が沈み始めていて、ゆっくり空に黒が混じり出している。それを眺めるみんなの横顔がとても寂しそうに見えた。俺もそうだ。祭りの後は酷く寂しいと言うけど、それに近いものがある。だからだろうか。こんな事を言い出してしまったのは。
―――何なら今日は、ここでみんな夜明かしでもするか?
きっとこの申し出自体は前の方が平気で出来た。だけど、今の俺にとっては平気ではない。いくら大勢いるとはいえ、女の子を男の部屋に誘い更には泊まらないかと言っているのだ。だが、言われたみんなは驚いた顔をそれぞれしたものの、俺の赤くなっているだろう顔を見て優しい微笑みを浮かべて頷いた。こうしてみんなは準備をすると言ってそれぞれ一旦部屋へ戻って行った。残された俺は言い出した事を若干後悔しつつ、どこかでその後の事を考えて緊張と期待が高まる一方だった。
「……いやいや、見れてもパジャマ姿だ。そこまで凄い光景って訳でも……」
そこで思い出すのはみんなの水着姿。簪は見た事ないが、それ以外は見た事があるんだよな、俺。これも今考えればそういう対象としての扱いだったんだと分かる。本当に鈍感だよな、俺って。年頃の女の子が好きでもない男に肌を見せる事なんてしない。
「どうしてそんな簡単な事に気付かなかったんだ。いや、違うな。みんなは俺を仲間やクラスメイトとして大事に思ってるからだって、そう思って気にしなかったんだ」
そうだ。俺はみんなをいい奴だって、そう考えて片付けてた。よく考えれば分かりそうな事も、男女じゃなく仲間って方向で考えて。そう思ってやや凹みそうな俺に、大勢の人の気配と声が感じられたのはそんな時だった。
「お待たせ一夏」
「翌日の着替えなどを用意するのに手間取った」
まずシャルとラウラが現れる。どこかで見た事のある動物みたいなパジャマだ。可愛いな、やっぱ。
「荷物はどこに置けばよろしいでしょうか?」
「あ、そうだな。こっちの隅でもいいか?」
「はい」
(や、やはり少々地味でしたわね。ですが普段のものでは恥ずかしいですし)
セシリアの持ってるバッグを受け取る。セシリアは彼女にしては地味な感じの青いパジャマ。きっと本来はこういうものではないんだろうな。そう思うも口には出せない。……ネグリジェだったりするんだろうか。
「ほ~ら、覚悟決めなさい簪ちゃん」
「お、お姉ちゃん押さないで」
次に現れたのは楯無さんと簪の姉妹。二人は星や月の柄が入ったパジャマだった。本当に仲良し姉妹って感じを受けるチョイスだ。心の中で喜んだ。もうこの二人は前のような関係にはならないだろうと、心から実感出来て。
「むっ、どうやら私達が最後のようだ」
「そうみたいね。ま、いいんじゃない? 競争してる訳じゃないんだし」
最後に登場の箒と鈴は、二人らしい格好だった。箒は赤い椿の刺繍が入った浴衣で、鈴はチャイナドレス。ある意味破壊力は一番高い。と、どうやらそう思ったのは俺だけではなかったようだ。
「ちょ、ちょっと二人共! その恰好って」
「何? 問題ある?」
「大有りです! ずるいですわ!」
「いや、そう言われてもな」
「指定はなかったじゃない。だから私と箒はそれぞれ選んだ寝間着に着替えてきたのよ」
どこか困惑する二人だが、俺には見えた。一瞬ではあるが二人して小さく笑みを浮かべたのを。このままだと少し揉めるな。そう判断し俺は一度大きく手を叩いた。それだけで全員がこっちを見てくれる。
「そこまでにしてくれ。たしかに箒と鈴がやったのは悪い事じゃない。でも、二人もそれをされたらって考えてみて欲しい。俺を喜ばせるためってのは分かるし嬉しいけど、それでみんなが揉めるぐらいなら俺は普通のパジャマとかがいい」
「……一夏君も言うようになったわねぇ」
しゅんとする二人と気まずそうなセシリア達。ただ楯無さんだけは楽しそうに笑っている。俺はそれに構わず、この場の空気を変えるために動く事にした。具体的には本音を言うだけなんだけど。
―――で、でだな。もし出来るなら二人以外もそういうアピール出来る格好をしてくれると嬉しい。誰か一人でも無理なら箒と鈴に無難な格好へ着替えてもらうからさ。
その発言をした途端、まずラウラが動き出した。それに触発されたようにセシリアが、シャルが、簪さえも出て行った。最後に意味ありげな微笑を浮かべて楯無さんも出て行った。残された俺と箒に鈴は妙な気まずさの中、顔を見合わせる。
「どうすんのよ一夏」
(せっかくセクシーに決めたのに! セシリア辺りにそこをもってかれるじゃない!)
「す、すまん。でも、俺だって嬉しかったんだよ。だから……」
「それで残りの者達を煽ったのか」
(くっ、一夏が男として私達に興味を持ってくれたのは嬉しいが、これでは今までより大変ではないかっ!)
「そうなっちまったけど、その……」
「何?」
「何だ?」
俺が俯いて頬を掻くと、二人はやや棘のある声で問いかける。うん、言うか。これぐらいはいいだろう。幼馴染特典みたいなもんだ。
「二人だけに聞いて欲しくてさ。嬉しかったぜ、その恰好。箒も鈴もすっげえ可愛い」
「「っ!?」」
顔を上げてしっかりした声で告げる。今まで言ってきた可愛いとかじゃない。俺が男として二人を女と意識しての可愛いだ。それが伝わったのか二人は顔を赤くしてそれぞれ背ける。本当に、俺ってとんでもない事をするところだったんだな。こんな可愛い二人の幼馴染の初恋相手になったのに、それに気付かず生きてたとかなんて。どうなるかまだ俺も決めてないけど、二人が報われない恋をしないで済むように出来ただけでも良かった。
「ば、バカじゃないの? そ、そのためにあんな事提案するとか」
「ま、俺も男だしな。あれも本音だ」
「お前という奴は……まったく」
声にはちゃんと聞くと照れや嬉しさが込められていた。これもきっと前は分からなかったんだよな。本気で俺は今幸せだ。抱き寄せたいけど出来ずに傍にいるしかない。そこまでやったら他のみんなに悪いから。その後、しばらくして着替えに行ったみんなが戻ってきた。詳しい描写は避けるけど、セシリアと楯無さんが凄かった。そりゃもう、鈴の心配通りチャイナの衝撃が消し飛ぶぐらいに。シャルと簪は控えめだけどチラリズムが素晴らしかったし、ラウラはとにかく可愛かった。でも、箒と鈴が負けた訳じゃないので俺としては忘れられない一夜となった。本当に翌日が日曜なのをいい事に、深夜遅くまで他愛のない事で盛り上がった。
―――はい、罰ゲームだよ一夏君。
―――よ~し、ぬーげ! ぬーげっ!
―――楯無さん、本当に見たいですか?
―――私は構わんぞ嫁よ。
―――ばかっ! 裸になるって事よ!?
―――い、一夏さん! それはさすがに……。
―――ちょっと待ってよ! 何でもう脱ぐ方向になってるのさ!
―――一夏っ! 脱ぐなよ!
そんな感じでバカみたいな会話もした。そして、気付けば眠りに落ちていて、目を覚ました時は一瞬目を疑うような光景が広がっていた。二つあるベッドにみんなが寝てたんだが、一つはラウラにシャル、簪と楯無さんが。残る一つに箒に鈴、セシリアがそれぞれちょっとエロイ感じで寝ていたから。おかげで生理現象が余計酷くなったので、こそこそと出来るだけ音を立てないようにトイレへ向かって動き出した―――ところで誰かの荷物に足を引っかけてバランスを崩し、ベッドの側面で頭を打った。薄れゆく意識の中、みんなが起き出した声を聞いた気がする。それが俺の覚えている最後の出来事だった……。
そして次に目を覚ましたのは見慣れた天井を見上げる場所。つまり俺のベッドである。視線を感じて顔を動かせばそこには千冬姉の姿があった。
「気が付いたようだな」
「千冬姉……?」
こちらを見て安堵の息を吐く千冬姉だが、何かがおかしい。いや、正確にはおかしくない事がおかしい。
「まったく、お前らという奴らは。まぁ、今回はそれが功を奏したからあまり強く咎めないが、今度はないぞ」
それだけ告げると千冬姉は部屋を出て行った。去り際に廊下側へ何か言っていたから、多分みんながそこにいるんだろうと思って、ある事に気付いて飛び起きる。
「……俺、見られてなかったよな?」
気掛かりなのはそこ。いや、言い訳は出来る。朝の生理現象だって。でも、そうだから見られても平気って訳じゃない。とにかく、それだけを確かめなきゃ。そう思うのと同時にみんなが部屋へ入ってきた。当然だけど、その恰好は記憶にある最後のものではなかった。みんな一様に複雑な顔をしている。その理由はよく分かりたくないが、まずこれを伝えないといけない。
「あー、そのな。実はみんなに教えたい事があるんだ……」
その後の事は、まぁ言うまでもない。一言で言うなら大騒ぎ。喜びと悲しみの複合だった。俺としては嬉しさしかなかったけど、それでも寂しさがない訳じゃない。でも、それでいいんだ。あんな反則は限定的で。ここからは自分の力でみんなと向き合っていく。また悲しませる事もあるだろう。泣かせる事だってあるかもしれない。だけど、もう俺は目を逸らさないし逸らさせない。そう決意を新たにして、俺は一人一人と目を合わせる。
「箒、セシリア、鈴、シャル、ラウラ、楯無さん、簪。俺、改めて誓うよ。絶対答えを出すから。みんなに好きになってもらった男として恥ずかしくない答えを」
俺達の学園生活はここからだ!